3月8日は、蜜蜂の日 – 世界を救う偉大な昆虫
かのアインシュタインが残したこんな予言をご存じでしょうか。
「もし蜜蜂が地球から消え去ってしまったら、人類は4年後に滅亡するだろう」
蜜蜂は単にハチミツを作る昆虫と思われていますが、実はその役割が非常に注目されています。今日は、蜜蜂の歴史や生態、そして彼らが人類にもたらす恩恵について紹介していきます。
蜜蜂の謎に満ちた不思議な生態
徹底した役割分担
蜜蜂は女王蜂、働き蜂、そしてオス蜂の3種類の徹底的な役割分担のもとコロニーを形成しています。女王蜂は卵を産み、新しい蜜蜂を生み出す唯一の個体であり、働き蜂は巣の掃除や給餌、幼虫の世話、巣の修理、そして蜜蜂や花粉の採取などの重要な役割を担っています。一方、雄蜂は女王蜂との交尾のみを目的として生まれ、巣の中では働き蜂に餌をもらう以外特に何もしません。
働き蜂はみんなメス
働き蜂は、すべてメスです。現代の人間社会に生きる私たちにはちょっと納得がいかない話ですが、蜂は特殊な生殖をおこなう昆虫です。その性別決定の仕組みは単純で、受精卵からはメスが、未受精卵からはオスが生まれます。
女王蜂は子孫を残すことに専念、オスは遺伝子を残すことに専念、働き蜂はそれを支えることに専念し、一つの巣全体で命をつなぐ社会的昆虫なのです。
女王蜂になれる条件
実は、すべての働き蜂が女王蜂になる可能性を持っていることをご存知でしょうか。女王蜂になるために必要なのは、ロイヤルゼリーを与えられて育つことだけ。
女王蜂の餌となるロイヤルゼリーは、働き蜂から分泌された蜂乳です。ロイヤルゼリーの生産量は非常に少なく、乳白色でねっとりとした液体で、健康食品としても利用されています。普通の蜂が食べるだけで生殖機能を持つ女王蜂になれるなんて、これだけでもロイヤルゼリーのすごさが分かります。
記憶をもち、“うつ”にもなる感情的な昆虫
近年、蜜蜂が情緒的な生きものだということが研究によって明らかになっています。蜜蜂は花から花を飛び回って蜜を集めますが、その際運が悪いと蜘蛛が仕掛けた蜘蛛の巣につかまってしまうことがあります。
研究によると、一度蜘蛛の巣にかかった蜂はいわゆるうつ状態になり、その後数日は花を怖がって近づくことを拒むようになったのだそう。この行動から、蜜蜂は今まで分かっていたよりも情緒的な性質と、長期記憶を持つことが証明されました。
蜜蜂の贈り物 神聖な食べ物ハチミツの秘密
もっとも古い食物のひとつ「ハチミツ」
ハチミツは、人類が最も古くから口にしてきた食品の一つです。
スペイン北部のアルタミラ洞窟に描かれたはちみつの採取風景から、前1万8000年から前1万5000年頃には既に人々がハチミツを利用していたことが分かっています。この時代は、狩猟や採集が主な生活手段であり、ハチミツは貴重であり、人々の生活にとって重要な食品であったとされています。
ハチミツの栄養
ハチミツは、果糖やブドウ糖、オリゴ糖などの糖分が主成分であり、すばやく体内に吸収されるため、疲労回復に役立ちます。また、オリゴ糖には善玉菌を増やし、悪玉菌の繁殖を抑えることで腸内環境を整える働きがあり、便秘や下痢を解消する効果があります。さらに、ハチミツにはグルコン酸や鉄、亜鉛、銅などのミネラルが含まれており、健康に良い成分が豊富に含まれています。
神を養い、死体を守る神聖な食べもの ハチミツ
ハチミツは、古代から神聖な食品とされてきました。
古代ギリシャでは、ゼウス神はハチミツによって育てられたとされ、インドでも双子の神によってはちみつが授けられたという伝承があります。
また、古代ギリシャやスパルタでは、王が死ぬと防腐剤としてはちみつを塗る風習があり、古代エジプトのミイラの防腐剤としても使われていたことが分かっています。
旧約聖書におけるシンボリズム ハチミツと「約束の地」
旧約聖書における「約束の地」や「天国」を表現する言葉として、「乳と蜜の流れる地」というものがあります。これは、乳(羊の乳)と蜜(ハチミツ)が古代から豊饒のシンボルとされていたことに由来します。キリスト教的価値観においてもハチミツが非常に重要なシンボルだということが分かります。
仏教における「蜜」は甘い誘惑
一方、日本を含む東アジアではハチミツを神聖視する文化はあまりありません。それは仏教の考え方の中で、「蜜」が「一時的な快楽によって真の悟りを妨げるもの」の比喩として使われることからもわかり、この文化の違いにはとても興味深いものがあります。
最古の酒もハチミツから ハネムーン誕生秘話
ハチミツを薄めて発酵させると簡単にアルコール飲料ができることから、最初のお酒はハチミツからつくられたのではないかと言われています。
ゲルマン民族には、結婚後一定期間、ハチミツで作った酒を飲むという習慣がありました。ここから、新婚夫婦の結婚したすぐの時期や旅行を指す「ハネムーン」という言葉が生まれたと言われています。
世界を背負う 小さくも偉大な昆虫
蜜蜂が絶滅すると人間も絶滅する理由
蜜蜂は、花の受粉に重要な役割を果たしています。花から蜜を集める際、花粉が蜜蜂の体に付着します。この花粉を次の花に運ぶことで、受粉が効率的に行われるのです。
蜜蜂が運ぶ花粉の量は驚くほどに多く、1匹の蜜蜂は1日に数百から数千の花を訪れるともいわれています。蜜蜂のおかげで、私たちの食料である野菜や果物の生産量や品質が保たれており、食物連鎖の中で重要な役割を果たしています。
「ゼロ」の概念を理解する蜜蜂の能力とAI技術の未来
最新の研究により、蜜蜂が数を理解し、ゼロの概念も理解していることが分かりました。ゼロの概念を理解するのは、人間の子供でも難しいことですが、蜜蜂は簡単な実験でその概念を理解することができたといいます。
研究者は、蜜蜂に三角や四角のマークが描かれたカードを見せ、少ないマークが描かれたカードを選ぶと餌を与えるように訓練したそうです。実験の中で、マークが1つのものと、何も描かれていないカード(つまりゼロ)を並べたところ、蜜蜂は即座に白紙のカードを選ぶようになりました。つまり、蜜蜂は「何もない」ということが1よりも少ない=ゼロの概念を理解しているということになります。
この結果はAI研究への転用できるのではと期待されています。例えば自動運転技術などで「危険なものはゼロ」と判断する仕組みなどに利用できるのではといわれています。
蜜蜂が鳴らす警鐘
蜜蜂が絶滅すると、人類も絶滅する。実は現在、その予言が現実になりつつあります。2006年頃より世界的な蜜蜂の減少が問題になっているのです。減少の原因は農薬や気候変動とも言われていますが、詳しいことはわかっていません。
蜜蜂の減少がもたらす影響は非常に深刻であり、私たち人間にとっても大きな問題となっています。もしかしたら、「今」が環境のことを真剣に考え、人類の絶滅を回避できる最後のタイミングなのかもしれません。
(※1)Maarten van Heemskerck, Public domain, via Wikimedia Commons
(※2)See page for author, Public domain, via Wikimedia Commons
- Director : Takashi Okuno
- Writer : Kuuki Asano
- Edit : Ryota Tsushima