アオイヤマダ – 踊る。語る。伝えるために
博打かもしれないけど、負けたくなかった
― 『First Love 初恋』はストーリーも映像も壮大な作品でした。参加してみていかがでしたか?
長編の大きな作品に出演させていただくのは初めてだったので、まず、撮影にこんなに多くの人が関わっていることに驚きました。そして脚本を読みながら自分の頭の中でブロックを組み立てるようにできあがっていった世界が、他の人の手によってどんどん壮大になっていくことが面白かったです。
― 完成した作品をご覧になった感想を教えてください。
まず素直に感動しました。監督をはじめ、皆さんが細部までこだわっていた部分が立体的に描かれていて。
あとは色がすごく好きでした。水色を中心に使っているシーンがあったり、いきなりそれが黄色に変わったり。不自然なぐらい作られた世界なのに、全編を通して観ると自然に感じられる。その世界観を作った監督、スタッフ、役者の皆さんに対してすごいなと思いました。
― そんな人たちとのお芝居だと緊張することも?
私が入ったことで皆さんが作った世界が壊れていないか、もうヒヤヒヤで……。今回私は古森詩(うた)という16歳のダンサーの役を演じたんですけど、『詩ちゃんが魅力的に映ってました!』と感想をいただけたのは、皆さんのおかげです。
― 古森詩には、会った途端に魅了されるような存在感がありました。話をするときは等身大な感じも素敵で。役とはどう向き合っていきましたか?
踊っている女の子というところは私と一緒なんですけど、発する言葉や服装などは自分とはかけ離れていました。半分は自分なのに、もう半分は全く別の子という感じで。監督からは「アオイヤマダの世界ではないので、古森詩を演じきってほしい」と言われました。
― 寒竹ゆり監督とのお話で、印象的な言葉って覚えてますか?
最初に言われた「アオイは博打だから」という一言ですね(笑)。博打らしいです、私(笑)。……でもわかっているんです。本当に初心者だったので、実際にそうだなと。博打かもしれないけど、こんなに素晴らしい役に選んでいただいて、負けたくないと思いましたし、監督も「あなたなら出来る」っておっしゃってくれていたので、やってやろう!という気持ちで挑みました。
― 演じてみて、古森詩のどんなところが魅力的だと思いましたか?
行動力の高さやフットワークの軽さですね。自分もこういう風に生きられればいいのになって思いました。
私はよく自由な表現をしているように見られるけど、私生活はわりと殻に閉じこもっていたいタイプなんです。彼女のように日常でも自由にのびのびと生活できたら面白いだろうなって。羨ましさも抱えながら演じていました。
お芝居は、本物の感情から始まっていい
― 本作に参加したことで、気付いたことはありましたか?
これまでお芝居で参加させていただいた作品は、自分自身のままで出演することが多かったんです。脚本は無く、設定だけ決まっていて、あとは自由に料理をしていくみたいな。ここまでセリフ、雰囲気、衣装などがカッチリ決まった作品は初めてだったので、そうなった途端、動いたり遊んだりできない自分がいてびっくりしました。身体が固まってしまうと不自然なくらい動けなくなってしまうので、普段の踊る前よりもいっぱいストレッチをしました。
― ダンスでも、自分ではない誰かになって表現することもあるのでは?
自分から生まれる感情というよりは、音だったり衣装だったり、周りに反応して動くというのが私のダンスのスタイル。ポンと動いたらポンと動くみたいな反応に近いんですよね。その空間にどう自分が存在するのか、どうしたらお客さんに楽しんでもらえるかということを考えながら。
― 今回のようなお芝居では、どんな違いがありましたか?
相手とのやり取りだけならよかったのですが、そのやり取りを何アングルものカメラが撮っているじゃないですか。(満島)ひかりさんとか役者の皆さんは、普通に芝居をしているんだけど、右から撮られているから何となく意識は右にあって。撮られる方向が左に変わっても、やり取り自体は変わらなくてすごいですよね。モデルのお仕事で洋服や身体をカメラに見せることは得意なんですけど、お芝居だとまた違いました。どこに意識を持っていくか、かつ同じことを繰り返すというところが難しかったけど面白かったです。
― お芝居を通して新しい経験ができたんですね。
そうですね。たとえばセリフをセリフとして覚えるだけだと、相手の言葉が入ってこないこととか。「これ食べる?」という言葉もセリフで言うのと、本当に相手に聞くのでは、相手の答えやすさが違ってくるんだと気付きました。自分のことでいっぱいいっぱいになってしまうと、会話が止まってしまうんですよね。
この作品が始まる前に、ひかりさんが、(荒木)飛羽くん、(八木)莉可子ちゃん、(木戸)大聖くん、私にワークショップをしてくださったんです。発声練習とかするのかなってドキドキして向かったんですけど、ひかりさんはまず「股間にバラが咲いていると思って挨拶し合おう」って(笑)。股間にバラが咲くことをイメージすると、いろいろな感情がわくじゃないですか。お芝居というのは技術ではなく、本物の感情から始まっていいんだ、ということを教えてくださったんです。その時間があったから、安心してお芝居に取り組むことができました。
― 満島さんの存在は大きかったですね。
実は高校生の頃、ひかりさんが通っていたお料理教室の先生の所に居候していた時期があって。それがこの作品に関わるきっかけになったんです。
― すごいご縁…!
ひかりさんがそのお料理教室の先生に「踊れる女の子を探している」という話をしたときに、「今、家に住んでるよ」という話になって。先生から電話があったので家に帰ったらひかりさんがいて、「お芝居興味ある?」って聞かれたんです。本当に奇跡のようで……。このドラマに入る前から、ずっとドラマのような時間でした。
― 本作は「初恋」をテーマに、人が人を想う気持ちを丁寧に描いています。アオイさんの初恋の記憶はどのようなものでしょうか?
初恋の感情って、だんだん薄れてくるしわからなくなってくるけど、すごく良いものですよね。自分の経験で置き換えると、この前障害者の方にダンスのワークショップをしたんですけど、ある自閉症の子に、その子のお母さんが驚くくらいポジティブな変化があって。そうやって誰かの人生の何かのきっかけになるということが、自分にとっての初恋の感覚に近いんです。
― 誰かのきっかけになるって素敵なことですよね。では最後にアオイさんがお仕事で大切にしていることを教えてください。
「相手に伝えること」です。伝わらないと相手もお芝居ができないし、ダンスも表現もそうなんだろうなと思っています。そして、意識の変え方次第で相手に伝わるものも変わってくる。
もともと自分がダンスを始めたのも、言葉へのトラウマがあったからなんです。しばらく言葉を切り離してダンスをやっていたんだけど、やっぱりそれだけではダメで。ちゃんと言葉とも向き合わなければいけないのだと気付きました。なのでこれからもしっかりと伝えるということを大切にしていきたいと思っています。
Profile _ アオイヤマダ
2000年6月24日生まれ、長野県出身。ダムタイプ『2020』や『星の王子さま』などの舞台に出演する他、ハイブランドのファッションモデル、MVに起用される。東京オリンピック閉会式でソロパフォーマンスを披露。出身地の長野県松本市から文化奨励賞を授与。ひびのこづえ×小野龍一×アオイヤマダによる作品『ROOT:根』を各地で公演。GUCCI short film『KAGUYA by GUCCI』に翁役、Netflixドラマ『First Love』に古森詩役で出演中。Instagramに #野菜ダンス 発信中。舞台『星の王子さま〜サン=テグジュペリからの手紙〜』は2023年1月21日よりKAAT神奈川芸術劇場をはじめ、ツアー公演がはじまる。
Instagram Twitter Homepage
Information
Netflixシリーズ『First Love 初恋』
出演:満島ひかり、佐藤健、八木莉可子、木戸大聖、夏帆、美波、中尾明慶、荒木飛羽、アオイヤマダ、濱田岳、向井理、井浦新、小泉今日子
監督・脚本:寒竹ゆり
原案・企画・製作:Netflix
Inspired by songs written and composed by Hikaru Utada / 宇多田ヒカル
- Photography : Kizen
- Styling : Leh
- Hair&Make-up : Noboru Tomizawa
- Art Director : Kazuaki Hayashi(QUI)
- Text : Sayaka Yabe
- Edit : Yusuke Takayama(QUI)