セレクトショップの次なる視線|see you later 柴田基裕
トレンドをとらえたブランド、趣味や嗜好性が表れた服、目利きがキャッチした 新世代のデザイナーなど、コンセプトが明確なショップであるほど、 ファッションに対する美意識は店内の品揃えからも一目瞭然だ。そんなショップを訪れるファッションフリークが気にしているのは、 常に新しい刺激を提案してくれるオーナーやバイヤーの次なる動向や関心。
今回は「感情を揺さぶるような服」の発掘に力を注ぐ「see you later(シーユーレイター)」の柴田基裕さんにお話を伺った。
愛知県岡崎市出身。大学卒業後、百貨店、セレクトショップ、ファストファッション企業を経て、2019年に独立。2020年に「see you later」の前身「s.you.l」を立ち上げる。
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@seeyoulater_store
人との触れ合いを感じられるお店にしたい
—「see you later」はまだ新しいショップですがオープンはいつですか。
柴田:現在は清澄白河ですが、最初は西荻窪でした。「see you later」の始まりは2019年からポップアップを中心にはじまり、店舗を構えたのは少し後で、最初はポップアップ形式だったんです。
— ポップアップ形式で始められたのはなにか理由があったのでしょうか。
柴田:僕の前職はファストファッションの会社でした。働いていた時からショップの準備を始めていて2019年の夏頃に会社も辞めたのですが、ちょうどコロナが猛威を振い始めたことで「事業を立ち上げるのはリスクが高すぎる」と周囲の反対意見が多かったんです。それでも服はすでに仕入れていたので店舗のオープンは延期して、レンタルスペースなどで服を販売していたんです。
— Instagramに「いろいろな場所に出店しています」とありましたが、あれはポップアップでやっていた頃の紹介文だったんですね。
柴田:西荻窪に店舗をオープンしたのは2020年の春でしたがその前の1年間はポップアップ形式で、あらためて清澄白河にオープンする前の2年間もポップアップだったんです。
—「see you later」という店名は「また後で会いましょう」と再会を約束している感じが素敵だと思いました。
柴田:<adidas(アディダス)>の「シーユーレイター」というスニーカーが好きだったこともありますし、ショップとしてお客さんにまた来店してほしいので「いつでもお店に遊びに来てね」という想いを込めて店名にしました。
— コロナ禍にオープンさせたのなら、あの当時は「誰かに会う」や「リアルな交流」というのが特別なことでしたよね。
柴田:そういう時代背景もあったので人との触れ合いを感じられるお店にしたいという想いは強かったですね。
— こちらの清澄白河のお店のオープンはいつですか。
柴田:2025年の3月です。
— 清澄白河という場所を選んだのは理由はありますか。
柴田:もともと現代美術館が好きで年に何度も足を運んでいたエリアなので多少の馴染みはありました。僕は東京に住んで20年以上経ちますけど、上京当時と比べたら清澄白河はかなりおしゃれになっていて、でも裏通りには下町の風情が残っている、そういう共存におもしろさを感じました。
— 確かに街としては洗練されている印象がありますが、ファッションのセレクトショップのイメージはあまりないです。
柴田:それも理由のひとつです。ファッションが密集しているエリアよりも、そこから少し離れたところでマイペースでやってみたいと思ったんです。現代美術館の後に「see you later」に寄ってくれるお客さんも多いですよ。
— どういうお客さんが多いですか。
柴田:SNSなどで「see you later」を知って、わざわざ足を運んでくれるという方はやはりファッションへの熱量は高いです。その一方でご近所付き合いも残る地域なので、全くファッションには関心のないお隣さんがフラッと立ち寄ったり。「see you later」を覗いたことでファッションに目覚めたというご近所の方もいます。
— ご近所と交流があるのは清澄白河ならではかもしれないですね。
柴田:店内に飾っているベストは隣に住むおばあちゃんが若い頃に着ていたものなんです。あまりに素敵だったので譲ってもらいました。売ってほしいと言われても手放すつもりはありません。
想いを汲み取るために展示会では話し込む
— 柴田さんがファッションに携わる仕事をしようと思ったきっかけはなんだったんですか。
柴田:母親が趣味で洋裁をしていて、中学生の頃から僕のコーディネートを母親が考えてくれることもありました。それを友達が褒めてくれることもあって、どちらかといえば自分に自信を持てないタイプだったんですが、服装だけでこんなにも注目されることもあるんだって思ったんです。それがファッションへの目覚めですね。
— セレクトショップをやることは最初から決めていたんですか。
柴田:最初は販売員をやりたいと思っていたんです。それにも理由があって大学時代に自分を支えてくれたショップのスタッフさんがいて、販売員というのは接客というコミュニケーションによって人を勇気づけることができる、できれば自分もそういう存在になりたいと思いました。最終的には仕入れから販売、接客まで全てを行うセレクトショップのオーナーに辿り着いた感じです。
—「see you later」のオーナー兼バイヤーとしてセレクトの基準で大切にしていることはありますか。
柴田:トレンドというのはあまり意識はしていないです。「see you later」は「感情を揺さぶるような服」をコンセプトにしていて、感情を揺さぶる対象はお客さんだけではなく僕自身も含みます。なのでモノづくりの背景やデザイナーの想いの強さなどを重視してアイテムをセレクトしています。
—「背景」や「想い」というのは具体的には。
柴田:縫製など、作り込みがとにかく丁寧だったり、デザインのアプローチが攻めていたり、そういったところです。「背景」や「想い」を汲み取るために展示会ではいつもデザイナーと話し込みます。そこで知り得た情報はお客さんにもきちんと伝えるようにしています。
— 服に込めたメッセージがお客さんにまできちんと伝わっているならデザイナーもうれしいでしょうね。
柴田:「柴田さんはデザイナーの意図を汲んでセレクトしてくれる」と言われたことはあります。そういう言葉をもらえるのはやはりうれしいです。
— ブランドもアイテムもさまざまですが「see you later」のラインナップはすごく統一感があるように思います。
柴田:僕は岡潔という数学者の「学問とは情緒を起点としている」という言葉に大きな影響を受けているんです。数学の方程式などは情緒を廃したようなものですが、問題が解けたときの達成感、満足度こそが学問の最大のモチベーションという考え方なんです。それはファッションにも通じるはずで、僕自身が惹かれた服についてロジカルに説明もできますが、理屈を超えた「感情を揺さぶるような服」が「see you later」に自然と集まってきているんだと思います。
— 柴田さんが感じる「今っぽい服」が集まっているんですね。
柴田:僕は世の中はおもしろいことに満ちあふれているけれど、多くの人がそれに気づけていないだけだと思っています。誰もが見落としがちなことにも気づける感受性が豊かなデザイナーやブランドが僕の今の好みかもしれません。
— ショップの2階では服に限らずさまざまなポップアップイベントも開催されていますが、それもお客さんへの「世の中はおもしろいことに満ちあふれている」というメッセージですか。
柴田:コーヒーの試飲会もやりましたし、アート展のようなことも開催しました。今後は書籍のイベントも考えています。服を選ぶことだけが目的ではなく、「see you later」に行ってみたいと多くの人に思ってもらえるようになりたい。ヒトとモノやコト、ヒトとヒトの出会いの場のようにしたいです。
魅力を埋もれさせないために挑戦したいこと
— こちらのショップはもともと民家だったと思いますが、梁などむき出しでそれも味わいがありますね。
柴田:単純に改装まで費用が回らなかったというのもありますが(笑)。でも、ありのままの雰囲気は大切にしていて、店内に置いてあるベンチも自分が10年以上も使っていたもので、それなりに朽ち果てているのですがあえて修理などはしていないです。お客さんの反応を見ていると、物件のポテンシャルも含めて「see you later」をおもしろがってくれてるような気がします。
— 清澄白河からは動くことはないですか。またポップアップ形式に戻したりなど。
柴田:自分がやりたかったお店というものに近づけている実感もあるので、清澄白河のこの場所でずっとやっていくつもりです。理想に近づけているのもトライ&エラーがあったからこそで、それだけ僕がたくさんの失敗をしてきたというのもあります(笑)。
— これからのショップの展望や将来像みたいなものはありますか。
柴田:展示会ってあらゆるショップのバイヤーが訪れますけど、あるアイテムをオーダーしたのは「see you later」だけだったということがよくあります。それは意図していることではないのですが、結果的にそのシーズンにそのアイテムを取り扱っているのはうちだけだったみたいな。ブランドとしては1点でもオーダーが付けば生産を回さないといけないので本心では苦笑いかもしれませんが「「see you later」が選んでくれたなら大丈夫」と思われるぐらい頑張らないといけないと思っています。
— バイヤーとしての目利き力を鍛えていくということですね。
柴田:これは妄想のようなことなんですけど、「1ヶ月に1型だけを売る」といった実験的なことをやってみたいとずっと思っています。僕が「今月はこれで間違いない」と厳選に厳選を重ねてピックアップした渾身の一着だけを販売する。
— かなりの挑戦だと思いますが、どうしてそういうことをやってみたいんですか。
柴田:「see you later」で取り扱っているブランドやアイテムは全てが魅力的だと僕は自信を持っています。それでも物量が増えると個々の魅力が埋もれてしまうこともあります。見せ方、ディスプレイ、取り上げ方を変えれば魅力が埋もれることなく浮き上がってきて、必ずお客さんの目に留まるはずです。自分が惚れ込んで選んだアイテムだからこそ光を当てたいんです。現段階では本当に妄想のような話ですけどね(笑)。
柴田基裕がレコメンドする3ブランド
<lea boberg (リア ボバーグ)>
「see you later」で唯一のインポートで、イギリスのブランドです。サンドイッチカラーと呼ばれる立体的な衿のシャツがシグネチャーで。テーラードの技術を駆使しているかっこよさに惹かれました。きちっとフィットするのに着るとゆるめのニュアンスが漂うのが魅力です。
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@leaboberg
<Muran(ムラン)>
京都出身のデザイナーが手がけているブランドで、全国で取り扱いは「see you later」だけです。品・風格・優しさ・調和を洋服に落とし込みたいというデザイナーの考えに共感しました。服作りの全工程がワンオペなので完成したら入荷しているような状況です。
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@muran_official_jp
<A MACHINE(エーマシーン)>
プライスタグが石だったり、ブランドタグに指紋がついていたり、とにかく毎シーズン趣向を凝らしたアイデアで楽しませてくれるブランドです。自分たちの服をショップとお客さんのコミュニケーションツールにしてほしいというデザイナーの考えがすごく好きです。
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@a_machine
see you later
2020年に前身の店舗である「s.you.l」をスタート。2023年に西荻窪の店舗を閉店し、2年ほどオンラインストアの業態を経て、2025年に現在の清澄白河の土地に店舗をオープン。
〒135-0021
東京都江東区白河3丁目6-10 B棟
11:00-20:00
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- Photograph : Kaito Chiba
- Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
- Edit : Miwa Sato(QUI)