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RAINMAKER 2026秋冬コレクション、陰翳をまとう造形物としての衣服

Jan 17, 2026
<RAINMAKER(レインメーカー)>が2025年12月8日(月)、ブランドの拠点である京都で初のショーを開催した。会場は京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ。
今期のテーマは「陰翳礼讃(いんえいらいさん)× Caravaggio(カラヴァッジョ)」。
日本の文豪・谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』とバロック絵画の巨匠・カラヴァッジョの明暗法という、日本と西欧のそれぞれの美意識を出発点に<RAINMAKER>は、「光と闇の交差に宿る美」に迫るコレクションを発表した。

RAINMAKER 2026秋冬コレクション、陰翳をまとう造形物としての衣服

Jan 17, 2026 - FASHION
<RAINMAKER(レインメーカー)>が2025年12月8日(月)、ブランドの拠点である京都で初のショーを開催した。会場は京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ。
今期のテーマは「陰翳礼讃(いんえいらいさん)× Caravaggio(カラヴァッジョ)」。
日本の文豪・谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』とバロック絵画の巨匠・カラヴァッジョの明暗法という、日本と西欧のそれぞれの美意識を出発点に<RAINMAKER>は、「光と闇の交差に宿る美」に迫るコレクションを発表した。

「陰翳」への二人の眼差し


まずは、作家と画家の“陰翳”に対する美学を紐解く。
谷崎は『陰翳礼讃』の文中で、日本家屋の薄暗がり、障子越しに差し込む光、漆器に沈む鈍い輝きといった、“直接照らされないものに宿る美”を讃えている。彼にとって闇とは、光を際立たせるための背景ではなく、美を包み、沈殿させるための空間だった。当時、西洋の美に代表される明るさを“良し”とする近代的合理主義への警鐘と共に、見えすぎないこと、語りすぎないことに日本独自の品格と精神性を見出した。

一方、カラヴァッジョの美学は、また別のところにある。
彼にとって闇とは、沈黙の象徴ではなく、光を際立たせ、真実を浮かび上がらせるための舞台装置であった。画面の多くを暗く覆い、その中に射し込む一条の光によって、人間の感情や神の啓示といった“劇的瞬間”を暴き出す。闇に沈ませるのではなく、闇を使って語らせる。
共に「闇」に向けられた視線でありながら、谷崎が「見えないところに宿る美」を描いたのに対し、カラヴァッジョは「浮かび上がる美」を描いた。

<RAINMAKER>が描く、沈黙と劇性の交差点

作家と画家の対照的な「光と闇」の捉え方を衣服の造形に落とし込んだのが、<RAINMAKER>の2026年秋冬コレクションだ。
たとえば透過素材の重なりから生まれる“奥行きのある影”や、生地の分量感に宿る“余白”は谷崎的であり、光沢素材とマット素材が生む陰影の“劇性”は、カラヴァッジョ的な感性に通じる。光を反射するサテンやレザーといった素材と光を吸収するウールやモールスキンといった素材が対比されており、二人の対照的な思想がそれぞれのルックへ落とし込まれていた。

またカラーパレットは、黒、グレー、深緑、茶といった落ち着いた色調をベースに、紫をキーカラーとして採用。紫はカラヴァッジョの劇的な色彩感覚に呼応すると同時に、日本では高貴な色ともされており、ブランドにとって地元である京都という都市の文化的文脈に根ざした<RAINMAKER>らしい“華”を添える。


今期のコレクションの“陰翳”というテーマを最も体現していたのが、着用時に揺らぎ、影を生み出すドレープの表現である。上質な素材と大胆なパターンから生まれる揺らぎが、服に陰翳を生み出し、その質感を一層引き立てている。今季もモールスキンやメルトンのような重厚な素材を贅沢に使用したコートやワイドパンツは、動くことで陰影の美しさが現れていた。プリーツやギャザーは、布に「影を刻む」造形として詩的に機能していた点が印象的だった。



そこにあるのは“完成された美”ではなく、着ることで初めて“立ち上がる美”。
布が落ち、揺れる。その一連の動きは、まさに和装のような「流れ」と「余白」の現代的表現であり、着る人の内面に目を向けるきっかけとなる。

この思想は、ショーのフィナーレ演出でも顕著だった。全モデルがノースリーブに深いタックの入ったパンツという同一ルックで登場し、体型や性別の違いを超えて衣服が“中立的な構造”として機能していた。まるで誰でも袖を通せる着物のように、<RAINMAKER>の服は“個の存在を受け入れるためのフォーマット”とも言える。

ネイビーのセットアップは、特に印象的でダブルのスーツをボタンではなく、リボンを用いて着崩すあたり、<RAINMAKER>らしい和の要素を感じさせる。
襟を立てたところから生まれるドレープが歩くたびに柔らかな光を発し、対照的に左腕のゴールドのアクセサリーが強烈な光を発する。今回のコレクションにおいて、谷崎とカラヴァッジョの思想の融合を最も象徴したルックではないだろうか。

また、構築的なシルエットを持つコートにも目が留まった。ウレタンボンディングが用いられ、衣服が建築物のような“質量”を感じさせ、<RAINMAKER>が得意とするドレープが生み出す柔らかな反射とは違い、コート自体が浮かび上がるように光が反射する。その佇まいはカラヴァッジョ的な感性を強く感じさせた。


多くの人が<RAINMAKER>の洋服に和の要素を感じることだろう。それは単なる意匠としての和ではなく、身体と空間との関係性、余白の捉え方、沈黙を尊ぶ感性といった“構造としての和”の継承に他ならない。だからこそ、谷崎的な“沈静の美”と、カラヴァッジョ的な“劇場的な陰影”が、絶妙に均衡を保っていた。<RAINMAKER>というブランドは、単なる和洋折衷ではなく、深い文化的融合を試みていることを改めて証明してみせた。

<RAINMAKER>が提案する服は、見る者に語りかけるのではなく、着る者の内面に語りかける。装いによって自分を飾るのではなく、装いを通して自分自身と向き合うための衣服である。

RAINMAKER 秋冬コレクションはこちら

  • Potograph : Shuhei Kojima、Akira Kawashima
  • Text & Edit : Yusuke Seojima(QUI)

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