Kalevalaの工場で見た、フィンランドの価値観を受け継ぐものづくり
1937年創業のフィンランドを代表するジュエリーブランド。北欧の自然や神話、文化遺産を着想源とし、彫刻のように美しいデザインと確かな職人技によるジュエリーを生み出している。すべての製品はヘルシンキの自社工房で製作され、サステナビリティや社会貢献をブランドの重要な価値として受け継いでいる。時代を超えて愛されるデザインと、身に着ける人に力を与えるストーリーを届けている。
90年近く続くフィンランド生産が意味するもの
本社兼工場には約80名のスタッフが勤務している。2年前に現在の場所へ移転したという建物の外観は驚くほどシンプルで、北欧らしいミニマルな印象を受けるが、工場の中に入ると、その印象は大きく変わる。
鋳造、研磨、仕上げ、検品。各工程で職人たちが黙々と作業を続けていた。
見学を通して印象的だったのは、大量生産とは対極にあるようなものづくりだ。<Kalevala>のジュエリーは現在もヘルシンキの自社工場で生産されており、一つの製品が完成するまでに平均して約10人の職人が関わるという。
もちろん工場には最新設備も導入されているが、最終的な品質を支えているのは職人たちの技術と経験だ。

工場内を歩いていると、長年培われてきた技術を守り続けようとする姿勢が随所から伝わってくる。約90年にわたり国内生産を続けてきた背景には、製品だけでなく職人技術そのものを守るという考え方もあるのだろう。
サステナビリティは“仕組み”として存在している

今回の見学で特に興味深かったのが、サステナビリティへの取り組みだった。
ファッション業界では環境への配慮が語られる機会も増えているが、<Kalevala>の場合、商品のストーリーとして語られる前に、生産の仕組みとして存在していた。
工場で使用する電力は風力発電と屋上のソーラーパネルによって賄われている。また製造工程で使用した水は工場内で浄化され、一部は再び生産工程へ戻される。

さらに使用する素材も徹底している。ゴールドは100%、シルバーは99%以上がリサイクル素材。研磨工程で発生する微細な金属粉も回収され、再び原料として活用されているという。
実際に工場を訪れて感じたのは、サステナビリティという言葉がマーケティングのために存在しているのではなく、長い時間をかけて構築された生産体制の中に組み込まれているということだった。
ジュエリーとともに育む「長く使う」という価値観

工場見学を通じてもう一つ印象に残ったのが、「長く使うこと」への考え方だ。<Kalevala>のジュエリーは流行を追うためではなく、何十年も使い続けられることを前提に作られている。
その象徴的な取り組みが「Kalevala Preloved」である。顧客から買い取った<Kalevala>のジュエリーを工場内で修復し、新たな持ち主へとつないでいくプログラムだ。
実際に工場では、年代物のジュエリーを一点ずつメンテナンスする職人たちの姿を見ることができた。新しいものを作り続けるだけではなく、すでに存在する価値を循環させる。その考え方はフィンランドらしいサステナビリティの実践ともいえる。
またフィンランドでは、<Kalevala>のジュエリーを親から子へ受け継ぐ文化も根付いているという。
工場を見学していると、ここで作られているのはジュエリーだけではなく、長く使い続けるという価値観なのではないかと思えてきた。
クリエイティブディレクターに聞く、Kalevalaの現在地
<Kalevala>クリエイティブディレクター アイノ・アールネース氏
工場見学を終えた後、<Kalevala>のクリエイティブディレクターであるアイノ・アールネース氏に話を聞いた。
創業90年を迎えようとしているブランドが、なぜ今も「Fashion in Helsinki」のような新しいファッションシーンと積極的に関わり続けるのか。そして、伝統と現代性をどのように両立させているのかについて聞いた。
——「Fashion in Helsinki」には多くの若いデザイナーが参加しています。2027年には創業90周年を迎える<Kalevala>が参加する意義についてどのように考えていますか。
アイノ:<Kalevala>は2027年に創業90周年を迎えます。そのため私たちのデザインの遺産は、タイムレスでありながら大胆に未来へと向かう姿勢とのバランスの上に成り立っています。若いデザイナーとの対話やコラボレーションは私たちにとって非常に重要であり、ヘリテージブランドが現代においても存在感を持ち続けるための本質的な要素です。
コペンハーゲンファッションウィーク2025年春夏コレクションにて発表した<Rolf Ekroth>とのコラボレーションコレクション『Rakas(ラカス)』
——実際にはどのような取り組みを行っているのでしょうか。
アイノ:近年では、若手ジュエリーデザイナーIldar Wafinとの『Kalevala Männyt』コレクションや、<Rolf Ekroth(ロルフ エクロス)>とのコペンハーゲン・ファッションウィークでの挑戦的なコレクション制作などを行ってきました。そこには、多機能ジュエリー『Rakas』やリサイクル素材を用いたコンセプト作品なども含まれます。

——今回工場を見学して、<Kalevala>にとってものづくりそのものがブランドの核にあると感じました。
アイノ:フィンランドにおけるクラフツマンシップと責任ある生産は、私たちにとって最も重要な価値のひとつであり、これまでも、そしてこれからも守り続けていくものです。<Kalevala>のジュエリーは完成するまでに平均して約10組の手を経て、多くの工程を必要とします。
——工場を持ち続けることは、デザインの面でも大きな意味を持つのでしょうか。
アイノ:デザインの観点から特に魅力的なのは、私たちの工場が非常に多様で技術的にも高度な作品を生み出すことを可能にしている点です。私たちのジュエリーは、小さな“身につける彫刻”のような存在でもあります。
——工場見学では、リサイクル素材の活用や再生可能エネルギーの導入も印象的でした。
アイノ:サステナビリティは製造プロセスだけでなく、タイムレスなデザイン哲学の中心にもあります。私たちは高品質なリサイクルシルバーやゴールドをほぼ100%使用し、工場は再生可能エネルギーで稼働し、自社で排水処理も行っています。
——環境面だけでなく、社会的な責任もブランドの重要なテーマだそうですね。
アイノ:社会的責任も私たちのアイデンティティの一部です。1937年の創業以来、特に女性や子どもを支援するという強い価値観を持ち続けています。現在も年間利益の3分の1を慈善活動や従業員の福利厚生に充てています。
——デザインの話に移りますが、<Kalevala>は長い歴史を持つブランドでありながら、デザインは非常に現代的です。伝統的なクラフトと現代的なデザインをどのように両立しているのでしょうか。
アイノ:私たちにとって、伝統的な技術と現代的なデザインは切り離せるものではなく、常に共存しています。
——その考え方を象徴するような作品はありますか。
アイノ:現代版“未来のクラシック”を生み出し、また『スター・ウォーズ』にも登場したことで知られる象徴的なネックレス『Planetaariset Laaksot ネックレス』です。このような作品を作り続けるためには、高度な技術を持つゴールドスミス(職人)の存在が不可欠です。
——工場見学でも職人たちが技術を受け継いでいる様子が印象的でした。
アイノ:金細工の技術を次世代へと継承していくことにも大きな価値を感じています。工場では経験豊かな職人が若い職人を育成し、知識と技術を継承しています。
——日本のクラフト文化についてはどのような印象を持っていますか。
アイノ:日本とフィンランドのものの見方には、どこか共通する美意識があると感じています。どちらも静かな美しさ、細部へのこだわり、そして思慮深く質の高いデザインを大切にしています。また自然も両文化にとって重要なインスピレーションの源です。
——そうした共通点は、デザインにも通じる部分がありそうですね。
アイノ:個人的にも日本のデザインをとても尊敬しており、その職人技の高さや、洗練され丁寧に設計された体験の質に強く惹かれています。

——最後に、創業100年に向けて、目指したい姿について教えてください。
アイノ:私たちにとって重要なのは、新しい発想とタイムレスな価値が共存することです。最終的に、私たちのジュエリーは一時的なトレンドのためのものではなく、何十年も身につけられ、世代を超えて受け継がれていく存在であることを目指しています。
守りながら受け継ぐことも、未来をつくる方法

「Fashion in Helsinki」で<Kalevala>が見せたは、受け継ぐことによって未来をつくるという考え方だった。
工場を後にする頃には、なぜ<Kalevala>が90年近くフィンランド国内生産を続けてきたのかが少し理解できた気がした。
ここで守られているのはジュエリーだけではない。職人技術や文化、そして長く使い続けるという価値観が次の世代へ受け継がれている。
Kalevala
ウェブサイト:https://www.kalevalashop.jp
インスタグラム:@kalevala_jp
- Reporting & Interview Support : Charles Kawamoto(QUI)
- Edit & Interview : Yukako Musha(QUI)






