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Julie Kegels 2026年秋冬コレクション──外見が流通する社会で、身体はどこにあるのか

Apr 9, 2026
2026年3月2日、パリ・ファッションウィークで<Julie Kegels(ジュリ ケーゲル)>が2026年秋冬コレクション「Face Value」を発表した。全36ルックを通して描かれたのは、顔、影、衣服、持ち物のあいだへ分散していく身体の輪郭だ。外見が一度きりの印象ではなく、複数の像として現れ続ける時代に向けた、鋭く静かなコレクションだった。

Julie Kegels 2026年秋冬コレクション──外見が流通する社会で、身体はどこにあるのか

Apr 9, 2026 - FASHION
2026年3月2日、パリ・ファッションウィークで<Julie Kegels(ジュリ ケーゲル)>が2026年秋冬コレクション「Face Value」を発表した。全36ルックを通して描かれたのは、顔、影、衣服、持ち物のあいだへ分散していく身体の輪郭だ。外見が一度きりの印象ではなく、複数の像として現れ続ける時代に向けた、鋭く静かなコレクションだった。

外見は、もう一度現れて終わるものではない。画面に映る顔、すれ違いざまの印象、写真として残る姿、誰かの記憶のなかで少し変形した像。同じ身体は、現れるたびに別の輪郭をまとって流通していく。<Julie Kegels>は、そうした外見の複数性を、視覚の構造として表現した。ショーは、白く抜けた背景とそこに立ち上がる影を使いながら、身体が最初から一枚ではないことをランウェイの上で証明していく。今季の起点にあるのは、見た目が言葉に先立って人物像を立ち上げてしまう、その一瞬の強さだ。装うことは自分を見せることでもあり、同時に守ることでもある。「Face Value」は、そのあわいに生まれる外見の緊張を起点にしていた。


幕開けの印象は、顔へのアクセスを絞ることにあった。黒のスーツに鮮やかなブルーのシャツを差し込んだ最初のルックでは、視線はまず細いフレームのアイウェアで止まり、その後で縦に落ちるシルエットへ移る。続くルックでは、高い位置で詰まった白シャツの首もと、額を覆うヘッドピース、頬の横に垂れる長いストラップが顔の周囲にもうひとつの輪郭をつくる。顔は感情の中心として開示されるのではなく、切り取られ、管理された情報として差し出されていた。

コレクションで繰り返されるのは、顔を飾るための装置というより、顔がどう読まれるかを調整する装置だ。<Theo(テオ)>と協業したアイウェアジュエリーでは目元を細く横切るフレームは顔の印象を一点へ圧縮し、革や布のヘッドピースは輪郭を仮のものへ変えていく。タイトルの「Face Value」がここで指しているのは、まず見た目が先に受け取られ、そのあとに意味づけが追いついてくるという、現代の視線の順序だ。

その視線のあり方を決定づけていたのが、ショー全体を貫く影の演出だ。ランウェイでは影が単なる背景にとどまらず、身体に付き従うもうひとつの像として機能していた。モデルの背後に立ち上がるシルエットは、実際の身体と重なりながらもわずかにずれ、目の前の肉体をそのまま確定させない。身体はそこで初めて、正面の姿ではなく、影を含んだ複数の像として知覚される。背後の影がわずかにずれた“もうひとつの像”として現れていたことも重要だ。身体はそこで、目の前の輪郭だけではなく、少し遅れて追いつく別の外見としても提示されていた。

服の構造もまた、身体をひとつのまとまりとして見せることを拒む。グレーのノースリーブニットは胴を大きな面として見せるが、ベルトが横断することで輪郭を途中で切る。黒のロングコートは高く持ち上がった首まわりによって身体を一本の柱のように見せ、白いサテンのパンツでは脇に残された布が歩行のあとを引きずるように揺れる。オレンジのラップ状のピースは肩や腰に巻きつきながら、身体の外側に別の外形を仮設する。ここでは身体の読み方をずらしていた。

そのずれをさらに強調していたのが、コレクション全体に散らされたジグザグのカッティングだ。黒レザーのベスト、トップスの裾、グローブやヘッドピース、ブランケットの縁、ロングドレスの境界線にいたるまで、直線でも曲線でもない鋭い刻みが繰り返し現れる。視線がなめらかに全身をなぞることを抑止し、そこで何度も引っかかるように仕組まれている。人物像は完成された全身像として一気に把握されるのではなく、部分ごとに止まりながら組み立て直されていく。ジグザグのカッティングは身体を断片として経験させるための仕掛けになっていた。

色の使い方も明快だ。基調にあるのは黒、チャコールグレー、白、デニムのブルーグレー。そこへ、エレクトリックブルー、バーントオレンジ、紫、ライムイエロー、鈍いティールが差し込まれる。これらの色は華やかさを加えるだけでなく、視線を止めるための支点として置かれていた。黒いテーラリングのなかの青、ニュートラルなルックに差し込まれる紫やオレンジは、まず一点を強く立ち上げ、それから全体へと視線を広げていく。色は外見の流通経路を設計するための導線の役割をになっていた。

顔と身体のあいだをつないでいたのが、バッグやシューズなどのアクセサリーだ。丸いパーツが突き出したアイコンバッグ、長く垂れるストラップ、足の甲を鋭く切り込むパンプスやブーツは、いずれも機能の説明より先に輪郭として記憶に残る。持ち物は身体の外側に置かれた道具ではなく、見え方を補助し、延長し、ときには攪乱するパーツとして扱われていた。身体は皮膚の内側だけで完結せず、身につけるもの、持ち運ぶものにまで染み出していく。

終盤に進むほど、その考えはさらに徹底される。グレーのドレスには箱のようなボリュームが左右に付加され、手には同じ素材の小さなケースが握られる。別のルックでは、スモーキーなプリントが衣服の表面に影のように残り、身体は実体と像のあいだで揺れ続ける。物体の輪郭が服へ移り、服の表面がまた別の像を宿す。身体はあくまで、衣服、影、オブジェクトが交差する接点として現れる。その反復は、ひとつの輪郭が物から衣服へ、さらに像へと移っていく今シーズンの構造をもっともわかるやすく表現していた。

「外見が流通する社会で、身体はどこにあるのか。」

<Julie Kegels>の答えは、身体が顔まわりのフレーム、背後に立つ影、ずらされた輪郭、手にしたバッグ、足もとへ落ちる視線のなかに分散して現れるということだった。

Julie Kegels 2026AW COLLECTION RUNWAY

Julie Kegels
Web:https://www.juliekegels.com/
Instagram:https://www.instagram.com/juliekegels/

  • All Photo : Julie Kegels
  • Edit & Text : Yukako Musha(QUI)

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