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漆に見出した日本のクラフトマンによるエレガンス|maison2,3

Jul 14, 2023
プランニングディレクターの水野浩行さんとクリエイティブディレクターの江幡晃四郎さんが2019年に発足させたユニットmaison 2,3(メゾン トゥ コンマ スリー)。QUI編集部が取材に足を運んだ2023年の展示会「TIME」で発表された漆塗りのバッグチェーンは新鮮でカッコよく、歴史ある和の伝統工芸を身近に感じさせてくれるプロダクトだった。「日本の美は西洋に負けていない」という言葉も印象的だったmaison 2,3に、その真意を伺った。

漆に見出した日本のクラフトマンによるエレガンス|maison2,3

Jul 14, 2023 - FASHION
プランニングディレクターの水野浩行さんとクリエイティブディレクターの江幡晃四郎さんが2019年に発足させたユニットmaison 2,3(メゾン トゥ コンマ スリー)。QUI編集部が取材に足を運んだ2023年の展示会「TIME」で発表された漆塗りのバッグチェーンは新鮮でカッコよく、歴史ある和の伝統工芸を身近に感じさせてくれるプロダクトだった。「日本の美は西洋に負けていない」という言葉も印象的だったmaison 2,3に、その真意を伺った。

作れば作るほど地球にやさしい大量生産

QUI編集部(以下QUImmaison 2,3(メゾン トゥ コンマ スリー)を水野さんと江幡さんが立ち上げた経緯はなんだったのでしょうか。

水野浩行(以下水野):僕と晃四郎くんは同じデザインの仕事でも分野は異なっていたのですが、「二人は絶対に気が合うよ!」って共通の知人が引き合わせてくれたんです。その頃はちょうど自分も晃四郎くんもモノづくりに追われ続けることに疲れていた時期でもありました。それで二人でゆっくりとモノづくりに取り組んでみたいねって。それがmaison 2,3の始まりです。

QUI:追われていたというのは具体的には?

水野:僕は不要になった廃棄物からファッションアイテムを生み出すアップサイクルを手がけていたんですけど、小売りが主になるとシーズンごとに新しいアイテムを期待されることも多く、生産と消費のサイクルにどんどん飲まれてしまいました。自分がやっていることはゴミを減らしているのか、それとも新たなゴミを生み出しているのか、そんな葛藤が生まれたんです。

江幡晃四郎(以下江幡):自分も同じような感じでしたね。本職はコスチュームデザイナーなのですが、自分では満足できるプロダクトができたと思っていても、ショップの担当者からは「うちのイメージとは違う」と言われたり。

水野:似たような境遇だったから「一緒にやろう」って意気投合した感じもあります。

QUI:これまでのmaison 2,3の活動はアップサイクルが多いようですが、ブランドとしてもそこをテーマにしているのでしょうか。

江幡アップサイクルそのものを大々的に掲げていないのですが、現時点で発表しているアート作品やファッションアイテムは結果としてはそうなっています。

水野:「作れば作るほど地球にやさしい大量生産」というちょっと皮肉も混じった想いをコンセプトとしています。

漆に感じた日本の伝統工芸のポテンシャル

QUI:展示会で漆塗りのバッグチェーンを目にしたとき、とにかく新鮮で驚きもありました。

水野:僕の知人に漆職人がいて、ベコベコの紙コップに漆を塗った彼の作品を見たときに日本の伝統工芸のポテンシャルを感じたんです。使い捨ての紙コップが漆によって100年も持つプロダクトに生まれ変わっている。晃四郎くんにもすぐにシェアをしたら同じように感じてくれて、いつも僕が気になった作品や手法にも大きな関心を示さない晃四郎くんが漆には食いつきました(笑)。

江幡:最初は写真で見せられたので「すぐに現物を送って」って。

こちらが紙コップに漆がかけられたプロダクト

水野:リサイクル技術はどんどん進化していますが、塗り直すことで修復が可能な漆はSDGsのひとつの答えを遥か昔に示していたんですよ。だからこそプロダクトとして漆にもっと光を当てることはできるぞって感じました。

江幡:漆についてはどこまでできるのか自分も勉強中なので、洋服のように「こうしたい」という希望を職人さんに伝えきれない。難しいかもしれないけれどやってみないとわからないよってスタンスなので、協力してもらっている漆職人さんからはわがままなクリエイターだと思われているはずです。

水野:漆に限らず伝統工芸って歴史を背負ってきた流儀みたいなものが絶対的で、そこから逸脱するのは許されないような空気もある。でも、知人の漆職人は古いしきたりに捉われず、発想も自由です。異端な存在なので彼じゃなければ晃四郎くんがやりたいクリエイティブも引き受けてくれなかったんじゃないかな。普通の職人なら「それは漆の流儀に反する」って断られると思います。

日本の手仕事を現代に活かせるかは腕次第

QUI:バッグチェーンに漆を施すというのはどういう発想からだったのでしょうか。

江幡:知り合いの女性の「バッグチェーンは重い」って言葉がずっと頭に残っていて、いつか軽いバッグチェーンをデザインしてみたいという構想はありました。漆の可能性を知ったことで遂に実現できるぞって。ベースとなっているのは害獣の革でサステナブルを意識しています。金属ではないので本当に軽いですよ。漆って塗り終わってからちょっと時間が経つだけで表情が微妙に変化していく、その味わいもいいですよね。

水野:漆は戦国時代は大将クラスの鎧に権威を与えるために用いられていたということもあって、「魅せる」という意味ではファッションのひとつでもあったんです。伝統的な漆とアイコン的なバッグチェーンの組み合わせは決して奇を衒っているのではなくて、ファッションの文脈はきちんとあるということはわかっていただきたいです。

江幡:はからずともですが(笑)。

水野:革を糸で縫って繋ぎ合わせてそこに漆を重ねているmaison 2,3バッグチェーンは鎧と構造がまったく同じです。確かにはからずとも昔の人たちと同じ手法でモノづくりをしていますが、現代的に再解釈はできたかなって思っています。日本的なプロダクトをエレガントと思ってもらえるきっかけになればうれしいです。

QUI:「ラグジュアリー」や「エレガント」という価値観で選ぼうとすると、どうしてもヨーロッパブランドに目を奪われがちです。

水野:maison 2,3ヨーロッパのブランドへの対抗意識があるわけではないですよ(笑)。日本には美しい手仕事も伝統工芸も残っているわけですから、それをどれだけうまく活かしていけるかは現代のクリエイターのディレクションにかかっていると思います。素材を引き立てることができるかはシェフの腕次第ですよね。

江幡:漆との取り組みはずっとやっていきたいと考えていますが、僕個人としては日本にこだわっているつもりもないんです。ただ、日本だからこその職人技が存在しますから、必然的に地産地消のようなスタイルになっていくような気もしています。

maison 2,3のビジョンは言語化するのが難しい

QUI:maison 2,3の次の構想がとても楽しみです。

水野:僕個人の解釈にはなってしまうんですけど、ヨーロッパのラグジュアリーが「華美」だとするなら日本のラグジュアリーって「潤い」という言葉で表現できると思っています。その潤いの優美さをわかりやすく体現しているひとつが漆なんじゃないでしょうか。艶っぽくても奥ゆかしくて、そんな日本らしい美しさをどんどん発信していきたい。

江幡:クリエイティブは外から評価されることも大事なことだとはわかっていますが、そこよりも自分たちが満足することを第一に考えたい。maison 2,3に関わっている全員に喜んでもらいたいから、職人さんに自分たちの無理を押し付けるようなことは絶対にしたくないです。

QUI:お二人が日本のクラフトマンシップを尊重されているのはすごく伝わってきますが、水野さんと江幡さんのご自身のなかに秘めるクラフトマンシップってなんでしょうか。

江幡:ディレクターとしてはコミュニケーション能力というものを大事にしたいです。漆でまた作品を発表するとしたら、次はもっとうまくいきそうな手応えがあるんです。それは職人の方との信頼関係を築けている、惹かれあっていることが自信につながっています。

水野:クラフトマンシップとはお互いを好きになること(笑)。ヨーロッパのラグジュアリーブランドはそれができているような気がしていて、クラフトマンをきちんと尊重しているから、極論ですがディレクターが変わったとしてもブランドの価値が揺らぐことがない。日本もクラフトマンの技術でも信頼でも平均点はずば抜けて高い。ただ持論ではありますがエレガンスが足りない、本当はあるのに気づいていない。そのためにもmaison 2,3ではエレガンスを感じさせるプロダクトをやり続けたい。今回の漆はその第一歩です。

QUI:maison 2,3のバッグチェーンに触れて、漆の美しさに気づく若い世代も多いと思います。私自身がそうでした。

江幡:アウトプットまできちんとできたという満足度はありますね。やりたいことが尽きるなんてことはありえないですが、世の中にとって意味のないプロダクトを生み出したくはないので次に何をするかは慎重に見極めたいです。

水野:maison 2,3のアイテムを身につけることで力強さのようなものを得られる、そんなブランドになっていけたらいいなとは思っています。これじゃないといけないという絶対性のようなものを示していきたい。自分がこれまでやってきたサスティナビリティに関わるプロジェクトは課題から問題解決までのストーリーラインが明確なのでインタビューでも答えやすいのですが、maison 2,3の理念やビジョンの言語化は本当に難しい。今回もきちんと伝えきれていないような気もしています(笑)

Instagram:@maison2.3
  • Text : Akinori Mukaino
  • Edit : Miwa Sato (QUI)

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