セレクトショップの次なる視線|ikasa. 早川洋子
トレンドをとらえたブランド、趣味や嗜好性が表れた服、目利きがキャッチした 新世代のデザイナーなど、コンセプトが明確なショップであるほど、 ファッションに対する美意識は店内の品揃えからも一目瞭然だ。そんなショップを訪れるファッションフリークが気にしているのは、 常に新しい刺激を提案してくれるオーナーやバイヤーの次なる動向や関心。
今回は取り扱いブランドはプライベートでも着ているものばかりという「ikasa.(イカサ)」の早川洋子さんにお話を伺った。
岡山県出身。2001年、株式会社サンエーインターナショナルに入社。販売職を経て店長として経験を重ね、現場で培った審美眼と顧客との信頼関係を築く力を磨く。2009年に退職後もファッションとの関わりを持ち続け、2025年4月、代官山に自身のセレクトショップ「ikasa」をオープン。長年の現場感覚と独自の視点を生かし、時代の空気を纏ったアイテムを発信していく。
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@ikasa_shop
前職の楽しかった思い出を原動力にアパレルに再挑戦
—「ikasa.」という言葉の響きが印象的でショップ名の由来が気になりました。
早川:私は岡山県の笠岡市、主人も岡山県の井原市の出身で笠岡市、井原市のエリアは「井笠地域」と呼ばれているんです。自分でショップをやると決めたときに店名は悩んだんですけど、なるべくシンプルにしたいという想いはありました。候補はたくさん考えたのですが、最終的に「初心を忘れない」という気持ちを込めて自分の出生地をショップ名にしたんです。
—「岡山県のあの井笠ですか?」とお客さんから聞かれたことはありましたか?
早川:それはまだないですね(笑)。
— この地に店舗をオープンしたのはいつですか。
早川:2025年の4月です。
— 早川さんは「ikasa.」を立ち上げる前もアパレルショップの店長、販売員だったようですが、いずれは独立して自分のお店を持ちたいと思っていたのでしょうか。
早川:前職は結婚、出産を機に一度辞めているんです。なので「ikasa.」をスタートさせるまでアパレルの販売員としてはブランクがありますが、育児からも少しずつ手が離れて自分がやりたいことをあらためて考えたら販売員時代の楽しい思い出が蘇ってきたんです。前職は会社員だったのでブランドのセレクトも、アイテムの買い付けも会社任せでしたがキャリアを活かして再挑戦するなら自分の好きなブランドだけを揃えたショップをやってみたいと思ったんです。
— セレクトショップの場所として代官山を選んだ理由は何でしょうか。ファッションの街としてライバルは多いですよね。
早川:代官山への思い入れが特に強かったわけではありません。ショップの場所はなるべく自宅から近く、自分に馴染みのある生活エリアから選びたかったんです。他の街も候補としてありましたが、大きな通りに面していて広々としていたのでこちらの物件に決めました。外からでも店内を見渡しやすいので、ふらっと立ち寄るお客さんは多いですよ。
— ショップとしては、広々とした空間というのは大事にしたかったことなのでしょうか。
早川:多くのブランドを取り扱うためにスペースがほしかった訳ではなくて、「ikasa.」をくつろげるお店にしたいという想いがありました。なのでソファやチェアといったインテリアも気軽に座ってもらうために店内に置きたかったんです。リラックスできる空間づくりというのは常に意識していますね。
— 代官山のセレクトショップに訪れるお客さんの印象を教えてください。
早川:自分のファッションスタイルを持っているおしゃれな方が多いと思います。着こなしに関して上級者ばかりなので、お客さんのスタイリングに圧倒されることもありますし同時に勉強にもなっています。
— 早川さんは前職も含めて販売員としてキャリアは長いと思いますが、接客で大切にしていることはありますか。
早川:とにかくお客さんとの会話を楽しむことです。私自身が話すことが好きですし、お客さんとの出会いも「ikasa.」を訪れてくれたことでのご縁だと思っているので商品を買ってもらう、選んでもらうための会話だけでなく雑談もたくさん楽しんでいます。むしろ接客とは関係のない会話の方が多いかもしれません(笑)。
— 会話をすることでお客さんのパーソナリティも浮かび上がってきますよね。
早川:それはありますね。「この方はあのブランドのあの洋服が好きかもしれない」と会話から掴むこともあります。会話が盛り上がったことで店内を隅々まで見て回ってくれて、そのお客さんにとって新しいブランドとの出会いが生まれることもあるのですが、それはとてもうれしい瞬間です。
ブランドは絞ってアイテムを広げるのがお店のスタイル
—ブランドをセレクトする際に重要視しているポイントはありますか。
早川:「ikasa.」で取り扱っているのは自分がプライベートでも着ているブランドばかりです。自分が好きかどうかというのはすごく重要ですね。ブランド数も絞っているのですが、アイテムのラインナップは多いと思います。それも自分のショッピングのスタイルが関係していて、好きなブランドほどたくさんのアイテムを見たいんです。店内のスペースには限りがあるのでブランド数を多くしてアイテムは絞る、ブランドは絞ってアイテムを広げる、そのどちらかになるとは思いますが「ikasa.」は後者ですね。
— 早川さんが惹かれるブランドにはどんな特徴がありますか。
早川:私は繊細×カジュアルのような異素材をミックスするレイヤードスタイルが好きなので、素材の持ち味や特徴をうまく引き出した服を作るのが上手なブランドに惹かれます。素材の扱いに長けるデザイナーが作る服は、異なる素材を組み合わせてもアンバランスにならないんです。女性が気になる身体のパーツをうまくカバーしてくれるようなシルエットが得意なブランドも好きです。
— 最近は見た目よりもモノづくりの背景やストーリーが重要視されるようになってきていますが、早川さんもデザイナーさんとはそんな話をしたりしますか。
早川:もちろんです。展示会などでデザイナーさんからぱっと見ではわからないようなこだわりを聞いたりすると、その情報は必ずお客さんにも伝えるようにしています。一着の服に懸けるデザイナーさんの熱量を知ることで、その服を着る喜びがさらに高まると思うんです。
— バイヤーとしてアイテムを買い付けるときは、スタイリングを思い浮かべたりするのでしょうか。
早川:ヴィンテージ風のTシャツをセレクトするときは「あえてきれいめのスラックスを合わせたらかっこいいかも」とか、そんなことはよく考えますね。ショップに揃っているのが上品なテイストのアイテムばかりだったら、着こなしに崩しの要素を足せるようなちょっとラフなアイテムを追加しようとか。
— 早川さんがSNSに投稿しているスタイリングを見てショップを訪れる方も多そうですよね。
早川:ショップを訪れたお客さんに話を聞くと、ほとんどが「ikasa.」のことをSNSで知ったという方です。SNSにアップしているのは私が好きな「大人の上品さがありながらどこか遊びを感じるようなスタイリング」で、そこに共感してくれるのか現在の客層は、私と世代が近い30代から50代が中心です。
— 自分が好きなブランドを取り扱って、自分の日常的なスタイリングを提案して、「ikasa.」はまるで早川さんのクローゼットそのままのようなショップですね。
早川:そうかもしれない(笑)。展示会にもバイヤーの職務としてというよりもブランドのファンとして足を運んでいる感覚です。セレクトもある意味、素人目線を大切にしているというか。同じアパレルの販売員でも会社員時代と違って、満足度や充実度は今の方がはるかに上です。自分が気に入ってセレクトした服が完売したときは歓喜しています(笑)。
5年も10年もクローゼットに置いておきたくなる服を
— スタートしたばかりのお店ですが今後の構想などはありますか。実は入店して真っ先に目に留まったのが、ジャンヌレのイージーチェアでした。
早川:確かに家具にこだわりはありますけど、自分で取り扱うのは難しいと思っています。でもインテリア系は好きなので花器や花瓶、食器などはいずれはやってみたいです。「ikasa.」は「long relationship」をコンセプトにしているのですが、アイテムのジャンルが広がったとしてもそこは変えるつもりはないです。
— 今後も長く付き合っていきたいと思えるアイテムだけをセレクトしていくのでしょうか。
早川:「長く付き合いたいアイテム」というのも私の基準になります。もしかしたら年齢を重ねることによってファッションの好みが変わったらブランドやアイテムのラインナップも現在とは大きく変化するかもしれません。そのときの自分が5年でも10年でもクローゼットに置いておきたくなる服をセレクトしていきたいです。
— ブランドは絞ってアイテムを広げるのが「ikasa.」のスタイルと仰っていましたが、新しいブランドに関心を持ったら現在のブランドと入れ替えることになるのでしょうか。
早川:そうなるでしょうね。今の私が大好きなブランドでも、年齢とともに「long relationship」にフィットしないものも出てくるはずです。コンセプトはブラしたくないので、そうなると「ikasa.」での取り扱いはやめると思います。ただ、私の好きは持続することが多くて、プライベートでも何年も続けて同じブランドの服を買い続けています。
— 一度好きになったら長い理由として、洋服そのものだけでなくデザイナーさん自身にも惹かれるということもありますか。
早川:自分のファッション感において影響を受けたデザイナーさんはたくさんいます。好きなブランドのデザイナーさんは私と同世代くらいの方から少し上の方まで多くいますが、展示会などでお会いすると着こなしもすごくかっこよくて「この年齢になっても、こんな服を着こなせる女性になりたい」と憧れの存在ばかりです。取扱ブランドのデザイナーさんのスタイリングをチェックしてしまいます。
—「ikasa.」には早川さんの「long relationship」に共感する服好きの方が集まってきそうですね。
早川:ありがたいことに地方からもSNSに問い合わせがあって、そういう場合はInstagramのDMでのみ通販対応をしているんですけど、やはり服にリアルに触れてほしいですし、試着もしてほしい。「頻繁に足を運びたくなる」と多くの方に思ってもらえるようなショップにしていきたいです。
— 広々としたスペースを活かして、お客さんが訪れたくなるようなイベントも開催できそうですね。
早川:これからブランドのポップアップはいくつか予定しています。ファッションとは関係ないのですが金継ぎのワークショップを開催したこともありますよ。
— 金継ぎはまさに「long relationship」ですね。
早川:他には骨格診断をできる友人がいるので協力してもらおうかなと構想していたり。友人、知人の趣味や特技を活かしたイベントはいろいろ考えています。そういうところからも「ikasa.」に興味を持ってもらえたら嬉しいです。
早川洋子がレコメンドする3ブランド
<FUMIKA_UCHIDA(フミカ ウチダ)>
このブランドの取り扱いができなかったら「ikasa.」もスタートさせていなかったかもしれない、というぐらい大好きなブランドです。生地から手がけるほどテキスタイルにもこだわっていて、デザインは可愛くても大人にふさわしい上質感を醸し出してくれるところがいちばんの魅力です。
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@fumika_uchida
<pelleq(ペレック)>
私が理想とするシルエットを叶えてくれるブランドとしてセレクトしました。デニムもゆったりとしてラフな雰囲気ですが穿くとウエストまわりをすっきりと見せてくれて、バックスタイルの美しさは秀逸です。こちらも「ikasa.」の主軸となるブランドのひとつです。
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@pelleq_official
<JUN MIKAMI(ジュン ミカミ)>
このブランドはシンプルだからこそ際立つシルエットの美しさに惹かれました。デイリーに寄り添ってくれるような万能なアイテムが特徴で、撥水性や速乾性を備えていたり、袖捲りスタイルのためにシャツのカフにゴムを仕込んだり、ディテールのこだわりが光ります。
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@jun_mikami_official
ikasa.
2025年4月、代官山にオープンした日本のブランドを中心に取扱うセレクトショップ。「long relationship」をコンセプトに、流行の速さに流されず、長く寄り添える視点でセレクトする。
〒150-0033
東京都渋谷区猿楽町4-6 代官山宝ビル 1階 ikasa
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- Photograph : Kaito Chiba
- Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
- Edit : Miwa Sato(QUI)








