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【BEHIND THE RUNWAY – MIKAGE SHIN】シンプルな会場で与えた強い“BUG”、職人技をたたえたMIKAGE SHIN | Rakuten Fashion Week TOKYO 2024A/W

Apr 9, 2024
2024年3月11日(月)から16日(土)まで開催した「Rakuten Fashion Week TOKYO 2024A/W」。ショー前後のバックステージで、デザイナーをはじめ、ショーに携わるクリエイターにインタビューを敢行した。ショーに込めた想いや開催までの過程など、ここでしか読めないリアルな声をおとどけする。
今回お届けするのは、ワールド青山ビルのシンプルな会場で、脳が”バグ”を起こすような強い衝動を与えた<MIKAGE SHIN>。
フォトグラファー黒沢鑑人が繊細で柔らかさを感じる写真で撮り下ろした。

【BEHIND THE RUNWAY – MIKAGE SHIN】シンプルな会場で与えた強い“BUG”、職人技をたたえたMIKAGE SHIN | Rakuten Fashion Week TOKYO 2024A/W

Apr 9, 2024 - FASHION
2024年3月11日(月)から16日(土)まで開催した「Rakuten Fashion Week TOKYO 2024A/W」。ショー前後のバックステージで、デザイナーをはじめ、ショーに携わるクリエイターにインタビューを敢行した。ショーに込めた想いや開催までの過程など、ここでしか読めないリアルな声をおとどけする。
今回お届けするのは、ワールド青山ビルのシンプルな会場で、脳が”バグ”を起こすような強い衝動を与えた<MIKAGE SHIN>。
フォトグラファー黒沢鑑人が繊細で柔らかさを感じる写真で撮り下ろした。

バックステージレポート

デザイナー進美影が手がける<MIKAGE SHIN(ミカゲ シン)>の2024秋冬コレクションのランウェイショーは、自然光が心地良く差し込むワールド青山ビルの1階にて行われた。
予定していた会場が急遽使用できなくなり、快く受け入れてくれたという同会場。
「結果的に今シーズンのムードにピッタリだった」
今まで数々のブランドがショーを行ってきたが、株式会社ワールドと関わりのないブランドがこの場所でショーを行うことは初だという。

我々が会場に着いた頃は、ランスルーリハーサルの前、モデルは用意されたお弁当を食べたり、友人と談笑したり、各々の時間を過ごしていた。
今回スポンサーとして参加したメイクアップブランド<Maybelline New York(メイベリンニューヨーク)>によって、ワールドの会議室内に海外のショーさながらのメイクルームが設営されていた。
発売前のマスカラや、人気で完売が続くファンデーションなどメイクアップ用品が贅沢に並べられた。

ランスルーリハーサル時、会場の外は冷たい風が吹き荒れており、フィッティングを終えたモデルが寒そうに立っていた。
その中でもヘアメイク陣が、風にも負けずヘアメイクを調整しており、プロの心意気を感じた。
ヘアメイクは、全体的にレスな印象でコレクションアイテムの強さの中に光る繊細さを助長していた。

今シーズンのコレクションのテーマは、「GAME CHANGER」。
スポーツにおいては、試合の流れを一気に変えてしまう活躍をする選手を指す言葉だが、大きな変革をもたらすことにも使用される言葉である。

今シーズンのショーでは、PRに国内外で勢いのあるPRエージェンシー「Sakas PR(サカス ピーアール)」、スタイリストにKing Gnuをはじめとするアーティストや、雑誌、広告のスタイリングを手がけるShohei Kashimaなどそれぞれの分野で活躍するクリエーターたちも、<MIKAGE SHIN>がシーズンテーマ「GAME CHANGER」を声高らかに唱ううえで欠かせない存在となった。

コレクションとしては、「情動」と「瓦解」をキーワードに、見た瞬間に心と頭を瓦解させ「強い“BUG”」を与えることを目指した。

コレクションで目を惹いた一見絞りのように見えるトゲトゲは、ピラミッドのように渦状に積層する立体的な刺繍で形成されている。
この特殊な刺繍技術は、大阪の刺繍職人が独自開発した新技術で、トゲがランダムに違う方向を向いていることにより、さらに立体感が出るように緻密に工夫されている。

特徴的なデニムは、京都産のデニムボンディングオパール生地を使用している。
デニムボンディングオパールとは、二枚のデニムを貼り合わせて二層のデニムを作り、その後デニムの表面にオパール加工糊を塗布して一層目のデニムのみを溶かし、さらにウォッシュ加工で仕上げた特殊な製法のデニム生地。
全面にデニムの糸がフリンジのように無数に現れ、独特の風合いと迫力が特徴となっている。

ブランドが得意とするテーラードも大胆にカットオフしてショート丈に。
シャープなカットに、緩やかに広がるベルスリーブは、テーラードの洗練された上品なイメージに、大胆なコントラストが加えられた。
袖には、国内の刺繍職人と共同で開発した、ステッチ調の刺繍とフリンジ技術をドッキングさせた加工も施され、日本の誇るべき技術を大切にするブランドならではのアクセントディテールだ。

<MIKAGE SHIN>は、2023年9月、表参道駅から徒歩約2分という好立地にブランド初の旗艦店をオープンしたことは記憶に新しい。
同店は、ブランドが手がけた商品の販売だけでなく、社会情勢により変わりゆく消費者の動向をいち早くキャッチしながらブランドの運営に活かす「ラボ」の役割を担い、日によってはデザイナー本人も店頭に立って店を訪れる顧客の声に耳を傾けている。
実際に店頭で得た顧客の動向をコレクションのアイテム構成に反映させているという。
ただコレクションを制作するのではなく、顧客にも目配せしていることがブランドが支持されている理由だと思う。
日本の伝統技術を大切に、地に足を着けたものづくりを行う<MIKAGE SHIN>に今後も目が離せない。

デザイナー 進美影 インタビュー

― ファーストルックで登場したトゲトゲのドレスだったり、染色であったり、随所にクリエイティブが感じられたショーでした。苦労した点は?

日本のものづくり、特にファッションのものづくりは世界から見ても特殊です。伝統や価値を残したいという思いがあって、そうした生地や技術を駆使しました。今季初めに”GAME CHANGER”というテー マ⾃体は決めていたのですが、まずその具象性のないある種漠然とした精神性のテーマを、どれだけ⾃分のエステティックで視覚的に落とし込みながら⼀貫して強く押し出せるか、その点が難しかったです。最終的に、“情動”と”⽡解”をキーワードに、ボロボロと⽡解する不完全なテクスチャーや歪なアシンメトリーで、不安定感のあるものをハードな素材で⽀える、”⼆律背反性”に<MIKAGE SHIN>らしさを⾒出してコレクションとして構成していきました。
その上で、GAME CHANGERなものを作るというのを作るという点で、今回はこれまでよりもさらに⽇本の職⼈の⽅とのものづくりで驚くような作り込みを沢⼭させて頂きました。
かなり特殊で繊細な技術を、あえて大きくその限界を超えるクリエイティブで表現するということをテーマのひとつにしていたので、いろんな人と詳細を詰めていく作業が大変でしたね。

― そういった職人技を駆使したことが新しいチャレンジであったということでしょうか?

そうですね。もともと日本のカットジャカードや刺繍などは使っていたのですが、ここまで多くオリジナルの作り込みをしたのは初めて。そういう意味では新しい挑戦でした。ただ目立てばいいじゃなくて、きちんとしたものづくりで押し出していきたいという気持ちがありました。意味のない消費のされ方じゃなく、ちゃんとものづくりをリスペクトした見せ方をしたい。デザインとしてカッコいいもので勝負したい。でもそのためにはまず、「このブランドはなんだろう。何を起こしてくれるんだろう」って、脳内で理解できないバグを起こさなくてはと思いました。だから、ファーストルックではあえてちょっと理解がしがたいルックを投入しました。

― あのトゲトゲのドレスはインパクトがありました。着こなすにはハードルが高いですけれど、レッグウォーマーやマフラーなどの小物であれば取り入れやすいなと思いました。

うれしいです。それも“狙い”でしたね。昨年が暖冬で、夏もすごく長く続きましたよね。この数年で日本の気候が変わってきたことで、冬服や秋冬のスタイリングも変わってきたなと思っていて。去年9月にオープンしたお店でお客様とお話ししていると、よりニーズが見えてきたんです。ドレスをさらっと着る時もあるけれども、小物をプラスして楽しんでいらっしゃる若い方が増えているなと感じたんです。まずはブランドの良さを知ってもらうためにも、レッグウォーマーやベルトなどのプラスワンアイテムを追加しました。

― お客様とお話する機会があるのですね。

デザイナー来店デーを不定期で開催しています。今はオンラインで物が買える時代で、お店に買いに行かないっていう方も増えているけれども、わざわざ来てくださるような空間にしたくて。ものづくりの背景をお伝えする機会があれば、お客様にとって特別な体験になると思ったんです。また私としても、どういう方が<ミカゲシン>の服を着てくださっていて、今後どういう服があったら、みなさんがワクワクするかなと考える機会になっています。結局ファッションっていうのはどこまでいってもコミュニケーションにいちばん価値があるなって思っています。見てもらう人がいて、伝え方があって、理解があって。コミュニケーションは大きな価値ですね。ブランドにとっても、そしてきっとお客様にとっても。

スタイリスト Shohei Kashima(W) インタビュー

― スタイリングを組むうえで心がけたこと、準備したことを教えてください。

今回のテーマを孰考し、ブランドのすべてを革新的に変えるのではなく、ブランドフィロソフィー内で少しだけ瓦解した新しいアプローチを心がけました。 “単体“各ルックの微々たる変化で“全体“ブランド世界観としての大きな変化に。準備としては、過去のアーカイブをすべて見直しました。1点1点のアイテムとモデルに個性がありましたので、見る人が、スタイリングではなく各ルックの各アイテムにアイキャッチするように、あまり複雑なレイヤードをせず、できる限りミニマルで洗練された既存の購買層と新規をうまく取り入れられるようなスタイリングをしようと思いました。事前に40体作りたいとのオーダーがありましたので、この型数の中でどう見せればクリアできるか。最大限にさまざまな並びのパターンを模索しました。

― ショーの抑揚をどのように付けていくかなど、ショー全体の流れはどのように作りましたか?

ひとつのポイントとして、“並びの連続性を色濃くすること“が鍵となりました。型、形、色、素材。前後ルックのどこかしらの連続性を色濃く出し、ゲストの脳内を混乱させず、シンプルに“今はこのアイテムを見れば良い“と明瞭に情報処理していけるような流れを作りました。その流れの中で飽きと集中力低下防止として、流れを崩さない程度の唐突な裏切りルックも少し差し込んでいます。早い段階で演出や音からのヒントも得て、オープニングルックをラストルックではなく、最初に抽象的に配置したことも今回のターニングポイントになっていたかと思います。

― ショーを終えた感想をお聞かせください。

時代感やエゴも大切ですが、ブランド自体の魅力と思考を最大限に引き出す本質的な役割が担えていたら良かったなと思います。

キャスティング Kosuke Kuroyanagi(VOLO)インタビュー

― キャスティングうえで意識されたことはありますか?

あります。僕がキャスティングするうえで大事にしていることは、そのシーズンのテーマと、洋服がどう作られているか、です。洋服の形、生地、サイズ感など、オーディション前に可能な限り見させていただいています。進さんはわかりやすく資料にまとめてくださるので、すごく分かりやすいし、やりやすいです。そのうえでモデルは何人必要か、男女比率くどうするかなどをヒアリングしてからキャスティング、オーディションという流れですね。

― 今回、モデルは多様な方が集まったそうですね。

進さん、スタイリストのカシマさんたちと話し合って決めたのですが、バランスよく多様な美しさを表現したいっていうのはみんな共通してもっていたので、けっこうスムーズに決まりましたね。

― ショーを終えた感想を。

楽しかったです!僕が持っているものは出しきれたかな。その道のプロフェッショナルが集まって、チームでひとつのショーを作りあげることに喜びを感じています。お客さんがショーを見てどう受け取っていただけたのかは知りたいですね。

メイクアップアーティスト Rei Fukuoka(TRON management)インタビュー

― ショーのテーマをメイクにどういうふうに落とし込んでいったのでしょうか?

今回は個性的なルックがそろったので、洋服を全面に出すためにメイクは極力ナチュラルに仕上げました。モデルも個性が強いラインナップだったので、肌も極力作り込まずに、ちょっと無機質な感じに。甘いルックを着たモデルには目の下にちょっとシャドウを入れて、ほんのりスパイスを効かせました。

― デザイナーの進さんはなんとおっしゃいましたか?

全部をきれいにまとめるっていうよりは、「ヘアにもメイクにも違和感がほしい」と言われていて。最初はそういう方向でメイクを作っていたのですが、思ったよりも服が個性的だったので軌道修正しました。メイクもここまで違和感与えちゃうとトゥーマッチになっちゃうねっていうことで。全体的にモデルはみんなナチュラルメイクなんですが、何人かに、この<メイベリン>のオレンジ色のマスカラを効かせて。進さんと一緒にモデルを一人ひとり見ながら、「この子は眉毛を消そう」とか、「この子のリップはもうちょっと強くてもいい」とか決めていきました。

― ショーのテーマに沿ったメイクを作っていくなかで、ご自身のクリエーションを加えたりは?

自分らしさの表現としては、違和感を表現するためにモデルの目の下にクマを作りました。もともとクマがあるモデルには、あえて消さずに。進さん曰く、あんまり着飾ってない感じのメイクがいいっていうことだったので。

― メイクの注目ポイントはどこですか?

やっぱり目もと。マスカラですね。<メイベリン>のオレンジ色のマスカラと、新作の“青みブラック”を使っています。

ヘアスタイリスト Takayuki Shibata インタビュー

― ヘアスタイルを作るにあたって意識したことはありますか?

進さんの作る服自体がアバンギャルドでジェンダーレス、ちゃんと主張があるデザインなので、ヘアはなるべく抑えめにして、モデルの個性を生かそうと思いました。

― 進さんと進められていったのですか?

進さん、スタイリストのカシマさん、僕の3人で。ああじゃない、こうじゃないと言いながら楽しくできました。

― 服が主役となるなかで、ご自身のクリエイションはどう表現されたのでしょうか?

ヘアスタイリストとしてアイデアは提案させてもらったりはしたのですが、進さんとカシマさんのさじ加減で方向性を定めていきました。自分の意見を交えつつ、みんなで作っていくっていう感じではありましたね。

― 注目して見てほしいヘアスタイルは?

僕としてはやっぱり、服を含めたスタイルで注目してほしいなと思っています。ヘアにフォーカスしなくてもいいかな。そんな必要ないぐらい服が素晴らしいので。ショーですね、ショー全体を注目してほしいです。

<MIKAGE SHIN>
設立年 2019年
Designer – 進美影

デザイナーの進美影によって 2019年10月にニューヨークで設立されたジェンダーレスブランド。2020年9月より拠点を日本に移転。2022年8月に開催された「Rakuten Fashion Week Tokyo」には、特別支援協賛枠で公式参加。2022年11月に日本メンズファッション協会よりベストデビュタント賞を受賞。

MIKAGE SHINのブランドページはこちらから

  • Photograph : Kanto Kurosawa
  • Interview : Kaori Sakai(STUDIO UNI)
  • Report & Edit : Yukako Musha(QUI)

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