若きデザイナーが探求する、陶芸とファッションの交差点|RIKU UMEHARA デザイナー 梅原陸
RIKU UMEHARA 2025AW COLLECTION はこちら
ー 2025年秋冬コレクションの展示会をきっかけにブランドのことを知りました。ブランドはいつ立ち上げたのでしょうか。
2023年の夏にブランドを立ち上げましたが、公の場で発表をしたのは2024年秋冬コレクションからです。
ー 自身のブランドを立ち上げるという思いはいつからあったのでしょうか。
ブランドを立ち上げたいという漠然とした思いは学生の頃からありましたが、卒業後の進路を考えていたタイミングでは現実的に難しく迷いがありました。結局、一度は裏地の卸をやっている会社の技術部門に就職しました。
ー 会社に勤めていながらもファッションへの想いは抱き続けていましたか。
入社1年目の夏ぐらいから服作りを始めました。服に限らずモノを作ることが好きだったこともあり、自分の作品を見てもらいたくて2023年の12月には展示会をやると決めて約半年間は服作りに没頭しました。
ー 初の展示会では何を発表したのでしょうか。
カットソー、シャツ、ベスト、ジャケット、パンツなど5型、計8着を企画から製作まで一人で行い発表しました。
ー 約半年間で8着も多いですね。来場者の反応はどうでしたか?
友人にしか展示会の案内は出していなかったんですけど、「欲しい!」と思ってくれた子たちもいて嬉しかったです。そうなると、自然と次の展示会のことも頭に浮かんで、より多くの人が欲しくなるようなコレクションを発表したいという思いが生まれました。
ー その展示会が服作りをビジネスとして意識するようになった第一歩だったんですね。
作品としてではなく商品としてみてもらいたいという思いは、学生時代のインターンシップの経験から養われていたように思います。プロの仕事を見て、自分が好きでやっているモノづくりとの違いやビジネスとしてブランドを継続していく難しさを身をもって知れたことはすごくいい経験でした。展示会の後は自分がブランドをやっていくうえで必要なスキルを学ぶために、すぐに勤めていた会社内の生産管理の部署へと異動届を提出しました。
ー 部署異動という迅速な決断はなかなか真似できることではないように思います。ご自身でも行動力がある方だと思いますか。
思い返せば、そうなのかも知れません。もともとは映画監督を目指していて高校卒業後は、京都造形芸術大学の映画学科に進学したんです。
ー 映画監督とは!ものづくり全般に興味があったんですね。
そうですね。ファッションか映画かで迷ったのですが、その当時は映画作りの方に興味があったので進学を決めました。夏のゼミで一本の映像を作る授業があって、チームで作り上げていくんですけど一人でも揃わないと撮影ができない状況で、その時にキャスティングしたモデルが大遅刻してみんなで到着を待ったことがありました。僕からするとその待ち時間がもったいないなと感じちゃって。それでチームで制作するよりも自分のペースでものづくりをしていくことの方が向いてるなと思ったんです。それで、すぐに大学を辞めて、文化服装学院の入学を決めました。
ー 即断即決ですね(笑)。大学を辞めてから文化服装学院に入学するまでの期間でモノづくりはされていたのでしょうか。
特に製作はしていなかったのですが、韓国に短期留学をしていました(笑)。
ー 留学先が韓国だった理由は?
韓国は幼少期に家族旅行でよく訪れていたので馴染みがありました。そんなに深い意味はないです(笑)。
ー 留学経験が今の活動に活きていると感じることはありますか?
日本の文化や伝統技法に目を向けるようになった気がします。パーソナルな話をすると留学中に陶芸家だった祖父が他界したことも大きく影響していますね。改めて、自分が生まれ育った環境の特異性や工芸という存在を、これまでとは違った視点で捉えるようになりました。
ー <RIKU UMEHARA>から日本的な美意識を感じていましたが、陶芸家の家系の歴史は長いのでしょうか。
陶芸は曽祖父が始めたので僕は四代目になります。実家の敷地内に工房があったので幼い頃から陶芸がすごく身近だったんですけど、実は初めてろくろに触れたのは学校の授業でした(笑)。ファッションという自分が戦えるフィールドを見つけた時に、幼少期から陶芸と接してきたことが自分の強みになると思ったんです。服と陶器を掛け合わせることで工芸品の敷居の高さみたいなものを取っ払いつつ、日本の伝統技術の価値を知ってほしいと思いました。
ー 洋服のディテールやウォレットチェーンなどに使われている陶芸品は印象的です。
最初に作り始めたのはリングを中心としたアクセサリーでした。そこから制作を進めていくにつれて洋服のディテールにも落とし込むようになりました。頭でイメージしたものを瞬間的に形にしやすいアクセサリーと、時間をかけてイメージを固めていく洋服ではデザインの思考過程が違うので陶芸をどのようにアクセントとして活かすかは分けて考えているかもしれません。どちらも制作しているからこそバランス良くものづくりができているように感じます。ブランドとしては、「伝統工芸品を身につける」という価値観を提案していきたいです。
ー ブランドが掲げている「用の美」というコンセプトにも通じていますよね。
「用の美」の現代的解釈というコンセプトは洋服作りのためだけではなく、日本の伝統工芸や民藝の面白さを知ってほしいという思いがあります。個人的には、メインストリームではないものに光を当てて価値を見出していくことに惹かれているので、そういうモノづくりを目指しています。
ー 新しいコレクションを立ち上げる際にはリサーチが欠かせないと思いますが、どのようなものから着想を得ることが多いのですか?
本から着想を得ることもありますが、日本的な感性を大切にしているので国内の旅先で気になった建造物や日本特有の素材が使用された家具などは写真に撮って、リファレンスブックに納めたりしています。
ー ご自身の中で美の基準などはあるのでしょうか?
このエッジ、このライン、みたいなこだわりはありますが、すごくニュアンス的なので言語化するのは難しいです。それでもじっくりと観察して「かたち」を意識することは洋服の型紙を作る時にも活きていると思います。あとは、余白の作り方は自分の洋服やアクセサリーに対してもすごく意識しています。
ー その精察力やこだわりに職人気質を感じます。
そこは幼い頃から父親の影響があるのかもしれないです。手で粘土を捏ねてからろくろで仕上げていきますが、人の手で作っているのに姿形はほぼ均一で、個体差がほとんどありません。熟練の技と経験、そして独自の美学がなければ、その美しさを保てないと感じています。
ー クリエイションに関して多方面から影響を受けているんですね、それでは最後に今後の目標を教えてください。
2シーズン目となった2024年秋冬からはサンプルも量産もともに工場を使っていて、アイテムのバリエーションが増えました。そういうところで、これまで以上にクオリティにこだわりながらチャレンジの幅を広げていきたいです。長いスパンでブランドを考えていますし、自分の予想通りにステップアップできている感覚があります。4シーズン目ぐらいまではブランドとして耐える時期だと思っていて、なおかつ未来への投資もしないといけない。結果に対して驕ることなく、落胆することもなく、淡々とやるべきことを続けていきたいです。
RIKU UMEHARA
ブランドコンセプトは「用の美」の現代的解釈。陶芸家の家系で生まれたデザイナーは、服作りを通して職人としての考え方や想いを形成する。服と陶器の掛け合わせが特徴的な<RIKU UMEHARA(リク ウメハラ)>は、ブランドを象徴する「民藝」というワードを通して「着用者に寄り添うこと」を目指している。
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@riku_umehara__
- Photograph : Kaito Chiba
- Text & Edit : Miwa Sato(QUI)