旅の記憶が奥底に潜むアートなフレグランス|pesade ファウンダー モク・ヨンギョ
グラフィックの経験を活かし香りのビジュアル化に挑戦
— モクさんはどのようなキャリアを経て<pesade>を立ち上げたのでしょうか。
モク:私は前職はグラフィックデザイナーでした。<pesade>を立ち上げる前はファッションブランドのクリエイティブディレクターを長年務めていましたし、個人的に風景写真のフォトグラファーの仕事もしていました。
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— そこからどうして香りの世界に?
モク:香りはその日の装いの仕上げとして纏うものでもあるのでファッションとも密接な関係があり、興味がありました。ビジュアルをディレクションする仕事に長く携わっていたこともあって、「目には見えない香り」という無形なものを言語化、ビジュアル化してみたいという考えをずっと抱いていたんです。
—「香りのビジュアル化」はなんとなくイメージはできますが、壮大なクリエーションのような気もします。
モク:自分の頭の中に香りのイメージが明確に浮かんでいても、それをどうやって具現化すればいいか、そこに辿り着くまではいつも大変ではあります。ただ、具現化の方法を頭の中に巡らせることで新しい視点や解釈が生まれるので、それは楽しいことでもあります。
— 考え続ける、悩み続けることで新たな発見が得られるんですね。
モク:目に見えないことを表現するのは芸術だと思うんです。なので私はフレグランスはアート作品だと思っています。<pesade>のフレグランスは全て私なりの解釈から生み出されているものですが、お客さんはまた私とは異なる解釈で楽しんでいる。例えば同じ芸術作品を目にしたとしても感じ方、捉え方は人それぞれですよね。そういう点でも香りとアートは近い存在だと思います。
— ブランド名の「ぺサドゥ」にはどのような意味があるのでしょうか。
モク:「ぺサドゥ」という名前は馬が地面から体と前足を45度以上に持ち上げる馬術の技法を由来としています。その姿勢を保つには「力」を必要としますし、完璧な「バランス」も求められます。自分が作り出すフレグランスも「力強さ」と「バランス」の両立を目指したかったので、この名前にしました。フレグランスのボトルの蓋も馬蹄をモチーフにデザインしているんです。馬術からのインスピレーションはブランドのコンセプトにもビジュアルアイデンティティにもつながっています。
—「力強さ」と「バランス」の表現のために調香師とどのような共創に取り組んでいるのでしょうか。
モク:比喩的な答えになってしまいますが、東洋の哲学と西洋の美しさのようにときに相反するもののなかに調和を見出していく。それを調香師と取り組むのが<pesade>のプロセスです。私が企画した香りのイメージを伝えて、力強く、強烈で、それでいてバランスに優れた香りを調香師と一緒に作っていきます。
— 香りは無形なので、イメージを伝えるというのはまたしても大変そうですが。
モク:イメージを伝えるのはとても難しいですよ(笑)。ですが、調香師には私がイメージした香りを完璧に表現してもらいたいわけではなく、そこはコラボレーションなので共創していくことで別の解釈が加わっても、当初考えていた着地点とは異なっても構わないと思っています。
— 調香師とのコラボレーションで予期せぬ香りが生まれることもありますか。
モク:もちろんです。調香師というアーティストがそれぞれの知見と経験を活かして意見を出して、それを共有することで新たな香りが生まれる。それこそがアートという創造の楽しさです。私もいつかは自分で調香をしてみたいです(笑)。
旅の記憶を着想源にChapterという概念で香りを表現
— <pesade>の香りのコレクションにはChapterという表現が用いられていますよね。
モク:Chapterごとにテーマは異なるのですが、全て私の個人的な旅の記憶がインスピレーション源になっています。異国の地で一瞬の出会いだったにも関わらず忘れられない人のこと、初めて訪れた土地に感じた神秘性などから着想を得て香りの表現へと繋げていくのですが、ひとつのChapterを完成させるのに約1年を要します。
Chapter 1 のテーマは「Slow beat, Dazzling sunlight(ゆったりとしたリズム、まぶしい日差し)」
Last Saffron Chapter 4 のテーマは「Night Ride(夜の旅)」
— 旅というのはプライベートでのものですか、それともテーマ探しのためですか。
モク:インスピレーション源となるのは、あくまで自分が余暇で楽しんだ旅です。ただ旅先での体験、経験が香りに結びつきそうだと感じたら、同じ土地をもう一度訪れてイメージを固めていくので最初はプライベートで、2度目の訪問はテーマ探しのためとも言えます。
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— Chapter ごとに香りの印象は異なりますが、それぞれカテゴライズされているフレグランスは世界観が共通しているように感じます。
モク:そこが<pesade>が大切にしているバランスです。調香の前段階として必ずテーマごとの物語を自分で綴るんです。その旅のエッセイのようなものを調香師にも読んでもらうことで香りのイメージを共有しています。
— 日本にいながら海外を思い浮かべたり、冬でも夏の記憶が蘇ったり、香りは一瞬にしてどこかに連れて行ってくれるので根底に「旅」があるのは表現に説得力を感じます。
モク:「どこかに連れて行ってくれる」というのはまさに同感なので、<pesade>の香りからそのような印象を抱いてもらえたのならとてもうれしいです。
— わずか3年でChapter4まで発表されていて<pesade>の勢いを感じますが、今後のビジョンなどはありますか。
モク:ヨーロッパ進出を計画していて、2026年にはミラノにフラッグシップストアを構える予定です。
— いつかは日本にも旗艦店を?
モク:もちろんです。必ず実現させたいですね(笑)。
Chapter1「ゆったりとしたリズム、まぶしい日差し」
Mid Mountain
新鮮なレモンの香りに重なる穏やかなローズ。スズランの清らかな香りが蘭と調和し洗練された印象に。香りが落ち着くとアンバーとパチョリが現れ、温かさと静けさが漂う。
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The New Error
シトラスを織り込んだブラックティーの香りに始まり、そこに続くラムと杉の香りが滑らかさと甘美を提供。多面的でジェンダーニュートラルなキャラクターを持つ官能的な香り。
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In Hindsight
ムスクがローズと白い花々とともに優雅さを表現し、深いアンバーが輪郭を強くも優しく引き立たせる。暖かく官能的なムスクが長く香り続ける。
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Chapter2「異国の旅・冒険」
An Unseen
花と木々の間で、ネロリは純粋で透明な輝きを放ち、繊細なムスクが肌に溶け込み、官能的で優雅なオーラを残す。
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De Nude
ベンゾインとサンダルウッドの甘い温かさは柔らかなアイリスに包まれ、装飾的なイランイランと大胆なレザーがドラマと抗いがたい官能性を加える。
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Oud Blond
ダバナと花の香りが洗練されたウードの上で官能的な輝きを放ち、ムスクが穏やかに浸透。時間とともに香りは柔らかく上品な余韻へと変化していく。
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Chapter3「愛する人たち」
Veil Rose
優雅で神秘的な幕開けを織りなすローズとゼラニウム。ピンクペッパーとパチョリが明るさと構造を加え、香りの構成を完成させる。
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Lay Figure
ベルガモットの明るさ、ネロリの柔らかな花のタッチ、ムスクの静かな安らぎが、澄んだ透明感のある香りを生み出す。
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Blue Eyeshadow
温かみのあるアンバーとトンカビーンで仕上げられた香りは、苦味とスパイシーさを持つカルダモンとサンダルウッドが滑らかな調和を奏でる。
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Chapter4「夜の旅」
Last Saffron
エキゾチックなサフランが赤いベリーの甘さに溶け込み、アンバーとバニラが肌の上で官能的に柔らかくなっていく。
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Orris Cocoon
成熟したオリスはロンジン茶によって深められた粉のような花の優雅さを放ち、コリアンダーの種、革、そして木々が官能的でありながら静かな仕上げを作り出す。
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Oud Nights
アルテミシアとグレープフルーツのきらめきに、クミンとナツメグがスパイスの神秘的な香りを織りなして。ウードが優しく立ち上り官能的な深みを漂わせる。
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- Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
- Edit : Miwa Sato











