ロケーションから考察するデザイナーの意思|Rakuten Fashion Week TOKYO 2023AW
日本では「マスク着用は個人判断」と政府が発表したことを皮切りに、街ににぎわいを取り戻した。
改めて街に出て振り返ってみると、コロナ禍によって変わったのは、生活様式だけであろうか。
経済を抑え収益が減少したことで、老舗店舗・商業施設の閉業。加速する都市開発。
2年前の遊んでいたあの場所は、あの街は、もう無く、そこで生まれた代替え不可能なカルチャーはどこにいってしまうのか。
ファッションウィークの本拠地である渋谷は、都市開発が盛んに行われ、変化の大きい街であり、その都度ファッションも変わっていく。
現在は、多様化と商業ビル開発の影響でいわゆる「渋谷系」と象徴されるファッションは薄くなっているが、街を象徴するものは、歩く人の服装に現れ、彩られていると考える。
地域独特の土着的な文化に着目し、オリエンタリズムとファッションを結びつけることで、パリ、ロンドンにはない東京の独自性を再認識するときではないだろうか。
コロナ以降の都市とファッションという観点から、2023秋冬コレクションを振り返ると、各々のブランドがショー会場として選んだ場所を掘り下げることで、デザイナーの意思が受け取れるのではないかと思い、いくつか印象に残ったコレクションをまとめる。
YUEQI QI (ユェチ・チ)
2020年上海ファッションウィークでデビューを果たした中国出身のブランド。現在のパートナーとの出会いが東京であることがきっかけにより、今回東京ファッションウィークに初参戦した。
デザイナーが選んだのは、新宿駅に近い「珈琲西武」。1964年から創業している今では珍しい老舗の純喫茶である。
日本は敗戦後、貧困な生活が続いたが、1955年から高度経済成長期に入り、暗い生活の反動で煌びやかな店舗の内装やファッションが増えていった。その時代に西洋から流れてきたロココ調と過剰な装飾が特徴の純喫茶は、日本人が明るい未来に期待していた人々の心情が現れているとも言える。
<YUEQI QI>のコレクションは、パーカーやデニムといったデイリーウェアと、デザイナーが得意とするビーズ刺繍を駆使したアクセサリーやスカートをミックス。過剰な装飾は、「豊か」の象徴であり、ファッションの魅力へ誘ってくれる。
また、ヘアアーティスト河野富広氏によって作られたウィッグは、現代の人間を超越した姿。それは、ゲーム内でカスタマイズされたアバターのようであり、ナイトクラブのドラッグクィーンのようにも感じる。
BGMでは、「現在、過去、未来」と言葉が流れており、「温故知新」で歴史を慮り、未来へ繋ぐ。
ビーズ刺繍というクチュールから始めたデザイナーならではの演出だった。
YUEQI QI 2023AW COLLECTION RUNWAY
SOSHIOTSUKI(ソウシオオツキ)
2016年、当時若手ブランドが集まった合同ショー「東京ニューエイジ」でショーデビュー以降、単独では初となる今期は、麹町にあるFMセンタービル内の多目的ホール「TOKYO FM HALL」を会場にショーを行った。
彼は、戦前戦後に使用された軍服や当時の和装、僧侶の袈裟を研究し、日本の精神性を西洋のファッションと合わせて現代に落とし込んでいる。ネクタイには家紋。なで肩を誇張したようなジャケット。腹巻のようなウエストポーチ。数珠房をふんだんにあしらったセットアップ。日本の土着的な装いや文化的な要素を、コレクションのいたるところに散りばめていた。
デザイナー大月がこだわるテーラーは西洋の貴族から始まった装いを重んじつつ、着目しているのは、日本人のビジネススーツへのイメージや着こなしである。グレーのスーツスタイルを選んでいるのは、まさにそれであろう。
そして、今期の着想源となっているであろう喪服。コレクション全体を黒・白・グレーで統一し、腕や首には数珠を彷彿させるアクセサリー。葬式の様式美は、ファッションの特性である我々の「個性」を消すものであり、ビジネススーツもまた組織に属するという記号的なユニフォームである。
どちらも「個性」を打ち消す要素を掛け合わせているが、双方の特徴のバランスが取れていて、ブランドの個性が感じられた。
今期のショーを体感し、ブランドコンセプトである日本の精神性は、日本人が潜在的に持っている「個」を消し、お国のため、または現代の組織のために捧げる「忠誠心」だろうと解釈した。それは、会場を皇居に近い場所で行ったことや、ショーが始まると真っ暗になり、不穏なサイレンが会場を轟かせた演出から、私たちは歴史的に「何を背負っていて、何に守られていて、どういうアイデンディティを持っているのか」を装いから再認識をせざるをえない。
歴史のある半蔵門や麹町であるが、現代はスーツ姿の「サラリーマン」が多い。その観点からも、今回コラボレーションした<KOTA OKUDA(コウタ オクダ)>のマネーコレクションを、アイコニックなドル紙幣から、古い日本紙幣に変え、アイテムに落とし込んだのもエッジが効いていておもしろいと感じた。
強いメッセージと皮肉を感じ取ったショーだった。
SOSHIOTSUKI 2023AW COLLECTION RUNWAY
SEVESKIG(セヴシグ) / (un)decided(アンディサイデッド)
デザイナーNORIが手がける<SEVESKIG>が10周年を迎え、記念として2023年から始動したウィメンズブランド<(un)decided>との合同ショーを、渋谷PARCOの屋上、COMMUNEで行った。
渋谷PARCOといえば、様々なカルチャーを発信してきた場所である。ネットがない時代から、PARCOに行けば新しい発見があり、新進気鋭なデザイナーやアーティストが表現できる場所で、最新のテクノロジーやサブカルチャーでさえも、PARCOという商業施設で出会える。2016年までカルチャーの発信地として役目を担っていたが、建て替え工事により休業、2019年に新生PARCOが誕生したが、当時の面影は一掃されたように感じていた。
しかし、その期待に応えているのが、9階にある配信番組「DOMMUNE」だ。ファッション、音楽、アニメ、映画、サブカルチャーまで多種多様なカルチャーを、深く振り下げている唯一の場所だと思う。
デザイナーNORIは、アニメのカルチャーに精通しており、過去にはガンダムシリーズや、今敏監督の『PERFECT BLUE』と<SEVESKIG>のコラボを発表している。今回コラボしたのは、同監督の名作映画『パプリカ』。夢と現実を行き来し精神治療をするストーリーは、現代のVR「仮想空間」AR「現実拡張」のテクノロジーと類似している。
リハーサル時の一枚、スマートフォンをかざすと浮かび上がる映画『パプリカ』の名シーン「夢の中のパレード」
今回のショーでは、AR技術を駆使し、目の前のランウェイショーにスマートフォンをかざすと『パプリカ』の名シーンである「夢の中のパレード」が浮かび上がり、画面上で仮想と現実が交差するシステムを構築。演出では、デジタルテクノロジーを駆使していたのだが、コレクションの着想源は、ネイティブアメリカンのホピ族とデジタルと相反するテーマ。
ペンドルトン柄を彷彿させる幾何学模様やチェック。ウィメンズでは、現代的なパーカやブルゾン、パプリカがプリントされたベストなど、様々なカルチャーがミックスされている。戦後、アメリカから輸入された衣類を、ファッションとして土着的に再解釈し、「アメカジ」としてカルチャーを作った渋谷だからこそ、文脈的に成立するスタイルである。今回のコレクションの主役であるアニメを「カルチャー」として理解があり、VR、ARなどデジタルアートを発信しているPARCOとは相性が良い。
一方で、商業施設でもあり、資本主義の姿勢は崩せない。ファッションも資本主義のレールに乗り、ブランドを展開しなければならない。ショーで配られたブランドのステイトメントには、「工業化や加速する資本主義への批判」と書かれていた。商業施設の屋上で批判のメッセージを打ち出したのは、とても挑戦的で意味のある姿勢だと思う反面、「資本主義に対し、背を向けながらもファッションは成立するのか」「これからファッションが生き抜く場所をどう構築するか」我々消費者も考えなければならない課題を突きつけられたような気がした。
- Text : Keita Tokunaga
- Edit : Yukako Musha(QUI)