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LIFE/STYLE

3月3日は、金魚の日 – “個性こそが美しさ”多様性を愛でる金魚という文化

Mar 3, 2023
3月3日は金魚の日。
なぜ桃の節句で知られるこの日が金魚の日にも制定されたかというと、江戸時代に雛人形といっしょに金魚を飾る習慣があったことに由来するのだとか。
今日は、日本人の最古のペットで最も身近な水棲生物“金魚”の歴史と文化を紐解きます。

3月3日は、金魚の日 – “個性こそが美しさ”多様性を愛でる金魚という文化

Mar 3, 2023 - LIFE/STYLE
3月3日は金魚の日。
なぜ桃の節句で知られるこの日が金魚の日にも制定されたかというと、江戸時代に雛人形といっしょに金魚を飾る習慣があったことに由来するのだとか。
今日は、日本人の最古のペットで最も身近な水棲生物“金魚”の歴史と文化を紐解きます。

自然界には存在しない「金魚」という生きもの

金魚のルーツ

金魚といえば日本の夏の風物詩ですが、実は意外にも中国原産の生きものです。

そもそも金魚とは、野生のフナが突然変異したもの。その歴史は古く、3世紀頃には突然変異による「黄金の魚」がすでに存在していたといいます。

日本に持ち込まれたのは16世紀はじめ、中国から大阪の堺に伝わったのが始まりで、当初こそ一部の富裕層のためだけのものでしたが、江戸時代に庶民の間でも爆発的な金魚ブームが到来。その後、長い年月をかけて人の手にとって交配が進められ、金魚は名実ともに、日本文化を彩る魚へと進化を遂げていきました。

赤いのになぜ「金魚」?

金魚といえば「赤」のイメージがありますが、なぜ「金魚」という名前なのでしょう。

これには諸説あり、「昔はもっと金色だった」というものや、「金に換えられるほど高価だった」という説も。金魚の学名「Carassius auratus」は「黄金色の魚」の意味で、英語でも「goldfish」と呼ばれています。

金魚の姿 上から見るか、横からみるか

「金魚は上見」とは

(※1)

「金魚は上見(うわみ)」という言葉があります。

これは「金魚は上から見たときの姿こそが美しい」という価値観を表す言葉です。ガラスの水槽が存在しなかった時代に人々は焼き物の盆などに金魚を入れて鑑賞していました。そのため、金魚は上から見た時のおもしろさ、美しさを追求して改良が進められました。現代でも、金魚の美しさを競う品評会では、上から見た金魚の泳ぐ姿を審査することが圧倒的に多いのだとか。

江戸の金魚ブーム きっかけは武士の副業

金魚ブームのきっかけは武士のサイドビジネス

江戸のはじめ、金魚は一部の上流階級の人たちだけのものでした。井原西鶴が残した記録によると、当時金魚は1匹5両から7両、現代の価格にして50~70万円で取引されていたというから驚きです。江戸時代の半ば以降、金魚の大ブームが起こりますが、その背景には下級武士たちの副業として、金魚の養殖が推奨されたことが挙げられます。

数が一気に増えることで、一匹の値段が下がり、庶民にも手が出せるようになったのです。

遊女たちは金魚に自分を重ねた

金魚ブームが起こったもう一つの要因として、ガラスの加工技術の進歩も挙げられます。

風鈴職人たちが作る「金魚玉」と呼ばれる小さな吹きガラスの容器もその一つ。金魚玉の普及によって、金魚をどこにでも連れていくことができるようになり、金魚との距離もぐっと縮まりました。

江戸の人々の中でも、遊女たちの熱狂は相当のもので、自分の着物と似た柄の金魚を飼育したり、中には自分の名前をつけて分身のように愛でる遊女もいたのだとか。

美しい姿でありながら、金魚鉢の中から決して出られない金魚を、自分たちの境遇と重ねていたのかもしれません。実際、遊女たちは金魚と呼ばれることもありました。

雛人形とともに金魚を飾ったのはなぜ?

江戸時代、雛人形とともに金魚を飾っていたのはなぜなのでしょうか。

雛人形の起源は形代(かたしろ)にあるといいます。形代とは祈祷などで自分の身代わりに使う人形のこと。人型の人形に自分の穢れや罪をうつし、海や川に流していたことが雛人形の始まりです。現代でも「流し雛」という風習があるのもこのためです。

こういった歴史的に雛人形は水と密接に関わりがあることから、雛人形と一緒に水の生きものを飾る習慣が古くからあり、以前からハマグリやするめなどを飾られていましたが、金魚の普及とともに雛人形と合わせて飾られるようになったといわれています。

極限まで個性をのばす文化

個性を愛でる文化

(※2)

金魚という生きものは、突然変異の個体同士を掛け合わせて進化してきました。例えば飛び出た目玉が愛らしいデメキンは、目が飛び出た個体同士を交配させて種を固定させて作られます。ただ、目玉が飛び出る、頭にこぶがあるというような状態はいわば“奇形”です。

遺伝的にも劣性のため、デメキンとそうでない金魚を掛け合わせてもデメキンは生まれません。自然に交配を繰り返せば金魚は数世代でフナにもどってしまうため、交配と品種改良には人の手が必ず必要になります。金魚は自然界には存在しない生きものなのです。

こういった、いわば自然の中で淘汰されてしまう突然変異を「個性」としてのばすことで生まれたのが金魚です。同じく観賞魚として人気がある錦鯉でも、例えば目が飛び出ていたり、頭にこぶがあったりすると売り物にはなりません。でも金魚はそのままの姿、個性が愛される生きものです。みんな違ってみんな良い、という考えのもと、数世紀にわたって個性が守られたのが金魚という生きものなのです。

なぜ日本人は金魚が好きか

最古のペットとして

金魚は、日本人の最古のペットと言われています。江戸の金魚ブームから、現代にいたるまで、日本人のそばにはいつも金魚がいました。戦時中には、金魚を飼っていると家に爆弾が落ちない、というおまじないめいた迷信が流れるほどです。

金魚すくいの金魚には、短命というイメージがありますが、金魚は非常に丈夫な生きもので、正しく飼育すれば10年ほどは生きられます。ギネスブックに載っている最高齢の金魚はなんと46歳。人生の伴侶になりうる長さです。

小さきものを愛でる日本の文化

日本人はぜここまで金魚を愛するのでしょうか。それには、欧米人とは異なる自然との付き合い方が存在するためと言われます。日本の気候は欧米諸国にくらべ荒々しく、台風や地震など、突発的な天災が多い地域でもあります。厳しい自然で生きる中で、いつしか日本人は、「美しい自然」の一部だけを切り取って愛でるようになったといいます。

それが、箱庭であり、盆栽であり、金魚鉢の金魚だったのではないでしょうか。

大正時代の駐日フランス大使、ポール・クローデルは次のように言っています。

「江戸の人たちにとって、自然から与えられるものは、(大自然そのものではなく)手の中にもてるもの、袖の内に隠せるものだ」

多様性こそ金魚の魅力

自然界には存在しない生きもの、金魚について深く調べてみました。

金魚の魅力はその多様性にあるといっても過言ではありません。一つの種の中で、これほどまでにさまざまな色や形をもつ金魚というふしぎな生きもの。デメキン、頭にこぶがあるとか、しっぽが長い、色が黒い、背びれがないとか、そういった人々の熱狂をよそに、水槽の中で優雅に泳ぐ金魚から、学ぶことは少なくないのかもしれません。


(※1) 豊国『金魚好』,加ゝや,文久3. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1304247 (参照 2023-03-01)
(※2) Benson Kua from Toronto, Canada, CC BY-SA 2.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0>, via Wikimedia Commons

  • Direction : Takashi Okuno
  • Writer : Kuuki Asano
  • Edit : Ryota Tsushima

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