「日常にフィットするクチュール」で新しい女性像を ー RIV NOBUHIKOデザイナー リバー ジャン / 小浜 伸彦 インタビュー
手仕事によって手間暇をかけて作り上げられたコレクションアイテムの数々は、モダンでありながら繊細な印象も持ち合わせ、型にハマらないスタイルを実現する。
デザイナー自身について、ブランドについて、今までメディアで語られることのなかった今までのコレクションについて話を伺った。
セントラル・セント・マーチンズ WOMENSWEAR 卒、DIOR、CELINEにてアシスタントデザイナー、LANVINにてアシスタントアートディレクター のメゾンキャリアを持つ小浜 伸彦とリバー ジャンのインターナショナルデザイナーデュオによるワイルドラグジュアリーブランド。 “Wild Luxury”をコンセプトに、ラグジュアリーファッションの持つクチュールの観念や技法を捉え直すことで、日常にフィットするクチュール、新しい女性像を見出すことを目的としている。
2022年春夏コレクションのキャンペーンヴィジュアルに登場したデザイナーのリバー・ジャン
ファッションに関わる仕事の中でも、お二人がデザイナーを志したきっかけは?
リバー: お母さんがファッショナブルな人で、小さい頃からお母さんの洋服で遊ぶのが好きでした。その経験が自分で自分が着る洋服を作りたいと思うきっかけになりました。
小浜: 昔からモノをつくるのが好きで、母がデザイナーだったという話を聞いて、デザイナーという仕事に興味を持ちました。
ロンドンにある芸術大学のセントラル・セント・マーチンズにてお二人は出会いました。それからそれぞれメゾンにて経験を積まれていましたが、独立しブランドを立ち上げる構想はいつからあったのでしょうか?
セントマーチンにて卒業コレクションを同じ空間で作りあげている間に、ラフな構想を考えていました。具体的な構想というよりは“気持ち”のような曖昧なモノだったように思います。
2019年にRIV NOBUHIKOは設立されました。
セレクトショップを持っている私達の友人の一人が卒業コレクションを見て、彼女のショップの為にカプセルコレクションを作って欲しいと言われたのが、ブランドのはじまりになります。
メゾン在籍時、クチュールを肌で感じてきましたが、そこにあるモノはすごく内に向けられた限定的なモノのように感じました。私達は、リバーの母親のように強さのある女性に向けたクチュールライクでありながら、ライフサイズからはみ出さないファッションを提案できればと考えています。
「“Wild Luxury”をコンセプトに、ラグジュアリーファッションの持つクチュールの観念や技法を捉え直すことで、
日常にフィットするクチュール、新しい女性像を見出すこと」がRIV NOBUHIKOの存在する目的として掲げられています。
クチュールライクなディテールやシルエットなどこだわりはありますが、結局のところデザイナー自身が着たい服なのかどうかという基準が一番のこだわりです。頭の中にある着たい服のためであれば、どんなに手間や時間がかかったりするようなアイデアでも、妥協することなく突き詰めるようにしています。
双方に考えやアイデアがある中でのデザイン制作は、どのように進めていますか?
二人ともやり方は違いますが、分担することなく共同で制作しています。制作において一人で完結することはなく、交換日記のように片方が制作したものに加筆や変更を加えており、それが混ざりきらないRIVらしさの一つだと思っています。
日本と韓国をそれぞれ拠点にしていますが、コロナ禍でのコレクション制作においてのコミュニケーションは?
私たちは今回のパンデミックで2年間程、直接顔合わせたコミュニケーションができない状態が続き、フィッティングや撮影なども含めて、基本的にやり取りはオンライン上で完結していました。
Zoomなどで、韓国と日本のアトリエをずっと繋ぎっぱなしにし、フィジカルな距離の代わりに、可能な限りスムーズなコミュニケーションができるようにしていました。
今回企画と連動したECでは、ファーストコレクションである2020年春夏シーズンのアイテムをはじめ、貴重なアーカイブアイテムを販売します。2020年春夏コレクションから最新のコレクションまで、制作当時の想いや背景を振り返っていただきます。
2020年春夏コレクション
パンデミックになる前のコレクションで、韓国と日本を行ったり来たりしながら作ったシーズン。その時の外国滞在時に感じた隣同士の国でありながらも、知らない部分が多い所から”Neighbour“をテーマにしました。
慣れ親しんだノスタルジックな部分もありながら、ハッとするような意外性をコレクションに表現しました。
シャンブレーの生地やレースを重ね合わせたジャケット、ドレープバッグなど、何か隠れていながらも、透けて別の顔が見えるようなアイデアを中心にデザインしました。
どのアイテムも立体裁断で作られている所や、ビーズ刺繍のディテールなど、RIVらしいクチュールライクな部分を垣間見ていただけると思います。
2020年秋冬コレクション
このシーズンから登場したパッチワークのアイデアは、サステイナブルやリメイクを違う角度でアプローチできないかと考えた所から始まりました。
ヴィンテージのディテールをあえて強調して使わずに、テキスタイルの一部としてフラットにダイヤ柄にし、縫い代を表に出す事で手作業を目で見えるようにデザインしました。
また、他のシーズンとは違い、このシーズンのルックは、韓国で韓国のチームと撮影しました。撮影はパンデミックで行き来ができるギリギリのタイミングだったので、ラッキーでした。撮影機材もミニマムに、わざとレンズに指を重ねるなど、アクシデントのようなライブ感のあるルックにしました。
2021年春夏コレクション
リバーのセントマーチンでの卒業コレクション””Sofa Girl”のレザーパンツを再解釈したデニムパンツが登場したコレクション。後にブランドを象徴するアイテムの一つとなります。
2021年春夏コレクションにて、発表された再構築デニムパンツ
リバー・ジャンのセントマーチンでの卒業コレクション””Sofa Girl”で発表したレザーパンツ
ウエストが綺麗に見えるカッティングやシルエット、マテリアルを再解釈するという元々のコンセプトはそのままに、如何にエッヂの効いたアイデアをリアリティのあるアイテムにするか苦労しました。
2021年秋冬コレクション
母国語の違うインターナショナルデザイナー同士の交わるようで交わらない”MARBLE”で限定的なコミュニケーションをテーマにし、完全に混じりきらない物悲しさを表現しました。
沈みかけた夕日からインスパイアされたバックギャザーディテールや、コインギャザーディテールなど、どこか儚げなディテールを中心にデザインしました。
ルックは、室内と屋外で撮影しているのですが、どちらが室内かわからない境目がないようなマーブルな形になるようにしました。
2022年春夏コレクション
帰国後に馴染みきれない自分達を重ね合わせて、”メガシティの中にいながらも部外者であるような孤独感 ”をテーマとしており、無人島で漂流物をはぎ合わせたようなコレクションを作りました。
ブランドの異なるヴィンテージスカーフをはいで、包んでバッグにしたり、切り裂いたようなスリットや、アシンメトリックなパーツをはいだスカートやドレスなど、繊細でありながらも、部外者としてサバイブするような強さのある美しさを表しております。
2022年秋冬コレクション
2年間のパンデミックの中、国を跨ぎ、拠点を別にする私たちと同様に、様々な人が苦悩してきました。2022年秋冬コレクションは、その苦悩を乗り越えた”再会”を祝うパーソナルなコレクションになっています。
随所に、手一杯の花束や涙で滲んだプリント、抱きしめ合うようなシルエットなど、パーソナルなロマンティックの要素を散りばめられています。
どこか敬遠しがちな(身の回りに当たり前にありすぎるもの)生地や素材の見方や使い方を変えることで、ステレオタイプのような印象をモダンに変換するのが、RIVらしい特徴の一つだと思います。普段見過ごしてしまうようなモノをコレクションを通して、一緒に目にすることができれば幸いだと考えています。
2023年春夏コレクション
”Memory of Wimbledon”がテーマとなったコレクションは、リバージャンがセントマーチン在学時のホリデー期間にウィンブルドンの友人宅で一ヶ月過ごした時の記憶がインスピレーションとなっています。
立ち上がると目に入るガーデン、窓からレースカーテンを揺らす風、部屋の外から聞こえるテニスの音、ノスタルジックでありながらも、これから何かが始まるような予感を表現しました。
今回は、今まで以上に、見て着てくださる人たちとコレクションを通してコミュニケーションをしたいと考えていました。なので、RIVのクチュールライクな価値観はそのままに、ラケットやボールバッグなどのシンボリックな要素を盛り込み、スタイリングの幅を想像しやすいような余裕のあるデザインをしました。
現在ルックや展示会でのコレクション発表を行なっています。今後の発表方法について具体的な構想は?
現在、ルック形式の発表のほかに、展示会場ではアートディレクションをしていただいているアートグループ”東葛西1-11-6 A倉庫”の協力で、インスタレーションに近いような形で発表させて頂いています。こういった発表方法も、私たちのアイデンティティの一つだと考えています。
アートグループ”東葛西1-11-6 A倉庫”の協力でインスタレーションのように展開された2021年秋冬コレクションの展示会場
今後、そういった側面をブラッシュアップし、インスタレーションとして成立するような強度で発表できればと考えています。
コレクション発表を重ねる中で急激なアカウント拡大はせず、地に足を付けた物作りを行なっている印象が強いです。その点において何かお考えはあるのでしょうか?
これまでブランドのアイデンティティや地盤を固めることに注力してきました。今後は、国やジャンルにとらわれずに広がりのあるコミュニケーションができればと考えています。
デザイナーお二人の今後の展望は?
服は服なだけではなくなり、目では見えない/見えづらいアティテュードがファッションになると考えています。それは、ファッションブランドの境界線が変わっていくことであり、マーブルに他のジャンルのものと混ざったものなのかもしれません。
私たちは、RIVのアティテュードをコレクションを通して、表明していければと思います。
RIV NOBUHIKOのコレクションはこちらから
- Text : Yukako Musha(QUI)