パリ・ファッションウィーク 2026年秋冬メンズコレクションガイド — 不確かさのワードローブ vol.3
KIKO KOSTADINOV/キコ コスタディノフ
<KIKO KOSTADINOV>は、特定のストーリーを設けず、服そのものの形や素材に目を向けた。ドム・ハンス・ファン・デル・ラーンの理論に触れながら、基本となるシルエットをもとに分量やバランスを変えたルックを展開。アシンメトリーな留め具のロングコート、多機能ポケット付きのパーカ、テーラードジャケット、切り替えの入ったトラウザーズやパネルニットが登場し、登山靴とランニングシューズの要素を掛け合わせたフットウェアもラインナップ。装飾的な演出よりも、服の比率や着用時の見え方の違いに焦点を当てていた。
KIKO KOSTADINOV 2026AW MENS COLLECTION RUNWAY
kolor/カラー
<kolor>は「The Waves」と題し、海や灯台守を想起させるサバイバル的な世界観を軸に据えた。荒れた環境に耐える衣服のイメージをベースに、経年変化のような加工やほつれ、強いシワ感などを取り入れ、整いすぎない質感でムードをつくっている。コートやジャケットを中心に、ユニフォームを思わせるアウター、ニット、重ね着を前提としたスタイリングが登場した。過酷な状況を生き延びるための実用性と、服が持つ物語性を重ね合わせながら、現代の不確かさに向き合う視点をコレクションに落とし込んだ。
kolor 2026AW COLLECTION RUNWAY
ssstein/シュタイン
<ssstein>は、日常の景色や他者の気持ちから立ち上がる情緒を、素材とディテールで掬い上げた。カシミアの質感に近づけたフランネルの“変形チェスターフィールド”や、ラムズウールツイードのステンカラーなど、リラックスした輪郭を襟裏のスエードやレザーで引き締める設計が要所にある。赤のダブルフェイスブルゾンでは内側から手縫いして表にステッチを出さず、スウェットパンツにはフライを設けてトラウザーのように成立させた。くたっとしたツイードやムラ染めのコーデュロイ、起毛を効かせたニットが記憶の温度をつくり、ウィメンズに向けた試みも含めて、着る人の幅を広げる提案が見られた。
ssstein 2026AW COLLECTION RUNWAY
doublet/ダブレット
<doublet>は「AIR」と題し、目に見えない空気をコレクションの起点とした。大気中のCO₂を原料とする糸や、温室効果ガスを取り込む微生物から生まれた樹脂、排気ガス由来の炭素を使ったインクなど、空気に由来する素材を実際に用いている点が特徴だ。ボリュームを含んだニットや軽やかに膨らむアウター、空気を想起させるユーモラスな小物類なども登場し、テーマを視覚的にも展開した。素材開発の過程で生じる揺らぎや制約も含めて制作の前提とし、完成品だけでなくそこに至る時間や工程にも光を当てた。
doublet 2026AW COLLECTION RUNWAY
POST ARCHIVE FACTION (PAF)/ポスト アーカイブ ファクション (PAF)
<POST ARCHIVE FACTION(PAF)>は「Drifter」と題し、漂流をシーズンのキーワードに据えた。クラシックなコートやジャケットを軸に、解剖学的なカッティングや非対称のジップ、カットアウトなどのディテールを取り入れ、テーラリングとスポーツウェア由来の機能性を掛け合わせたアイテムが光る。ウールやレザーのアウター、再構築したフーディーやニット、シャツに加え、<On>とのコラボレーションシューズやレーザーカットを施したフットウェアも登場した。帰る場所や固定された立場にとらわれない“漂流”という状態を肯定し、アーカイブを更新し続けるというブランドの考え方を重ねていた。
POST ARICHIVE FACTION (PAF) 2026AW COLLECTION RUNWAY
TAAKK/ターク
<TAAKK>は「Impulse, Springing Up(湧き上がる衝動)」と題し、日本の縄文文化を着想源に据えたコレクションを発表した。人と自然が近接していた時代の感覚を手がかりに、内側から湧き上がる衝動やエネルギーを、素材の表情やシルエットへと接続している。縄文土器特有の縄目の文様を彷彿させる質感のあるテキスタイルや多層的なレイヤリングを軸に、構造の反復や切り替えによって、衣服そのものの存在感が際立つルックが並んだ。原初的な荒さと現代的なデザイン性を同居させることで、日常着の中に緊張と強度を残していた。
TAAKK 2026AW COLLECTION RUNWAY
agnès b./アニエス ベー
<agnès b.>は、ブランドが長年培ってきたクラシックとモダンの対話を継承した。フランス発のアイコニックなブランドらしく、タイムレスな佇まいと柔らかなラインを基調としたルックが中心となり、素材の質感や汎用性の高いアイテム構成が日常の装いに馴染むワードローブを展開。コレクションで目を引いた「BRING BACK THE GOLDEN SUNSHINE」のスローガン、朝焼けとも夕焼けとも取れる曖昧な空のイメージは、始まりと終わりの境界を重ねるように、いまの時代に必要な光を問いかけているようだった。
agnès b. Homme 2026AW COLLECTION RUNWAY
BED j.w. FORD/ベットフォード
<BED j.w. FORD>は「ROMAN」と題し、利便性や効率が優先される現代社会を背景に置いたコレクションを発表。街に溶け込みながら重さを抱えた人物像を軸に、デザイナー山岸慎平が語る憧れと現実のあいだの感覚や、“内側から立ち上がってくるもの”を辿る姿勢を表現した。大きなステープルを配したロングコート、クラシカルなジャケット、隠しドローストリング入りのタックパンツ、背面にプリーツを施したジレ、シルクを織り込んだデニムなどが登場し、オレンジやブラックを基調にチェック柄を加えた落ち着いた色構成が用いられた。「ROMAN」を憧れや冒険、静かな理想主義を含む内面的な感情として位置づけ、見えない部分に施したディテールやクラフトへの視点を通して、均質化が進む時代における個人の感覚をコレクションに落とし込んでいた。
BED j.w. FORD 2026AW COLLECTION RUNWAY
- Edit & Text : Yukako Musha(QUI)







