自分の感覚のまま、生きること ー HOUGAデザイナー 石田萌 インタビュー
これを決定的なものにしたのは、この度Rakuten Fashion Week TOKYOにて、発表された2023年春夏コレクション。
定番のディテールはありながらも、今までの印象とは大きく異なり、目に見えるパンク精神が宿っていた。
大切なものを守るために、自分を強く持たなければいけない。
<HOUGA>はデザイナーの原体験がベースになっているブランドということもあり、この機会にブランドについて、デザイナー自身について話を聞いてみたいと思った。
1988年生まれ。慶應義塾大学文学部美学美術史専攻、エスモード・ジャポン東京校卒業。第86回装苑賞佳作1位、第11回YKKファスニングアワード優秀賞受賞。株式会社BIGIにてレディースの企画を経験し、出産を機に退職。2019年春夏シーズンから『HOUGA』をスタート。
ー どのような子供時代を過ごされましたか。
絵を描いたり、工作したり、物語をつくったりすることが好きでした。また、ピアノやバレエ、習字を習うなど、一人で遊ぶことが楽しく、好きなことをマイペースにやっていました。一人でもずっと楽しめるタイプで、あまり人と打ち解けるのが得意ではなかったので、友達は多くありませんでしたが、好きなことを通して一度会話が始まると一気に打ち解けられる感覚が好きでした。
他にも好きなキッズファッションブランドのカタログ、シール、キーホルダーなどコレクションしていました。
ー 内気でマイペースな少女だった石田さんがデザイナーを志した理由は?
小さい頃から作ることが好きだったので、漠然と何かをデザインする人になりたいと思っていました。小学生の高学年頃にファッション雑誌に出会い、そこから実際に新宿や原宿などのお店に通うようになりました。自分で選んだお気に入りのデザインが施された服を着ていると、普段は話さないような人から話しかけられたり、会話のきっかけとなったり、自分自身も着る服によって心が強くなるような感覚がありました。着ることで自信を与えてくれるような服をデザインするデザイナーという存在に憧れて、私も同じように着る人を明るく、応援できるような服をデザインしたいと考えるようになりました。
ー 大学では美術史を専攻しながら、エスモード・ジャポン東京校にも通われていました。
もともと服が好きだったので「ずっと服のことをしていたい」と思っていましたが、今思えば、服以外のことを勉強する機会が持てたことは貴重な経験でした。様々なことを同時進行させることは、時間的にも集中できなくなるなど、さまざまな制約もありますが、 服を作る以外の時間にイメージが膨らみ、全く関係のないことからの思いつきもあるので、それも強みと捉えられるようになりました。少しの時間でも美学、哲学、美術史、現代アートなどに触れた感覚は無意識のうちにものづくりに生かされていると思います。
ー 出産を機に前職を退職し、<HOUGA>を立ち上げられました。<HOUGA>のコンセプトに込められた想いは?
2022年春夏コレクションのテーマは「Pleasant Holiday」。同ブランドの東京コレクションへの参加は初となった。
コンセプトは“Unbirthday Party Dress”364日 、自分が “萌芽” する。―The story of the country, vague but certainly exists somewhere.
人は毎日何かの役割を演じていて、服もその時々の何かしらのTPOに合わせたものであるはずです。それも大切かもしれないですが、「もっと何にもとらわれずに自分の感覚を解放したいな」という気持ちが常にありました。自分の中で心が解放される日が増えたらもっと人生が楽しくなるのにという想いから、閉塞感からの解放、新たな可能性を「萌芽」と表現しました。体がある世界が全てではなく、”HOUGAの国”ではそれぞれの人がそれぞれの心地よい感覚で自由に暮らしています。そんな自分本来の国に戻る、つながるためのアイテムとして<HOUGA>の服があります。
ー 母になり社会的な制約を感じることが多々あるかと思います。その中での葛藤などの感情が作品づくりのインスピレーションに繋がることはありますか。
以前から私の場合、クリエイションは感情から生まれています。基本的に人生がつまらなくて、そのおかげで作りたいものが絶えずたくさんあること、つくる動機となることが嬉しいです。「こうあるべきだ」といった悪気のない決めつけや、性別や年齢による無意識の思い込み、偏見に特に違和感を感じます。善意から間違いを指摘してくれたり、補正してくれたりする人もいますが、人それぞれ理由やタイミングがあったり、基準は一つではないし、必ずしも間違いではない場合もあると思います。具体的にどの制約がどのデザインになるという意味ではなく、「もっとこうでもいいよね」という可能性を持って、「もっと排除しない世界だったらいいのに」という感情がモチベーションになってクリエイションが生まれています。服は商品でもありますが、私にとってコミュニケーションツールでもあるので、そういった葛藤や違和感をひとつずつ無くす作業をしています。
ー では<HOUGA>の定番フリルシリーズも、葛藤や違和感を無くす中で生まれたのですね。
2022年秋冬コレクションのテーマは「The Dreamer」。<HOUGA>を象徴する定番のフリルシリーズは、ジェンダーレス、エイジレス、ボディコンシャスなデザインに、扱いやすさも兼ね備えたアイテム。
「おしゃれは我慢」という部分もあると思いますが、特に子育ての中では日々いろいろな我慢が必要なのに、おしゃれするときまで我慢したくないという感情になっていました。アイロンする時間もなくて、汚れもすぐ付くし、太ったり痩せたり、今ぴったりの服を買ってもどうせサイズも変わるかもしれない。好きなものは変わらなくて、ドレスアップしたい気持ちがあっても、ドレスは着る機会も少ないし、ハードルが高く感じました。
そこから、洗濯できて、すぐ乾く、シワも気にならないワッシャー加工のナイロン素材を選び、ゴムでギャザーを寄せて、伸縮性のあるフリルで何か作れないかなと立体で遊びだしました。ただ楽なものではなくて、ストレスフリーでもドラマチックなものがつくりたいと思う中で定番のフリルシリーズは生まれました。手持ちの服にも何でも合わせられて、ドレッシーにもカジュアルにも合う、手軽なパーツドレスです。穴だらけだし、今でも初めて出会う方々のハテナな顔をたくさん見ますが、周りのスタイリング好きなおしゃれな人たちが自由な着方を提案してくれる中で、手に取ってくれる方々が、自分らしく着こなしてくれるようになり、徐々に受け入れられるようになりました。
ー 23年春夏コレクションでは、「大切なものを守るために、自分の意志に自信を持てるように」と、パンク・ロックテイストを取り入れ、ストリートファッションからインスピレーションを得ており、アイコンのフリルがありながらも、今までとは印象が異なるHOUGAを目の当たりにしました。
2023年春夏コレクションのテーマは「MY WILL, OUR WILL」。鉱物や宝石からインスピレーションを受けたカラーが目を惹く。
お客さまとイベントなどで直接お話しする機会やSNSでの反応などを見ていると、本当に<HOUGA>のことを好きでいてくれる方はブランドのデザインだけではなく、思想やストーリーに共感してくれていると感じています。毎シーズン”HOUGAの国”のさまざまな人にフォーカスした物語をテーマにしているので、根本は変わりませんがその他の部分はその時ごとに変わる可能性があります。”HOUGAの国”ではそれぞれの人がそれぞれに干渉せず、自由に暮らしているので、私自身も既存顧客はこれが好きだから、などと決めつけたりせず、いい意味で媚びずに自分の感情に素直に自由に作っている方が”HOUGAの国”らしいし、それが既存のファンのためでもあると信じています。
不器用なのでビジネスとのバランスを意識しすぎると、また違和感が出てきてしまいますが、1着のファンだけではなく、ブランドやお店に共感してくれるファンを大切にする中で、コミュニティが出来ていってビジネスが成長したらいいなと思っています。
ー <HOUGA>を通して今一番伝えたいことは?
いろいろな形式でコレクション発表をしてみて、やっぱりショーはいいな、<HOUGA>の服にも合っているんじゃないかなと感じました。ショーを見て初めてブランドを知ってくださった方もいると思います。<HOUGA>はドレスブランドですが、既存のファッションという概念にとらわれすぎず、服を通して新しいことに常に挑戦するコミュニティでありたいなと思っています。「”HOUGAの国”に入ったらちょっと人生が楽しくなりそう」と思ってもらえるような存在になれたらと思っているので、今後も是非”HOUGAの国”の物語を楽しみにしていただけたらと思います。発表方法は毎シーズン検討しますが、もちろんランウェイもまたやりたいです。
ー ブランドとして、石田さん個人として今後の展望は?
今後やりたいことはたくさんあります。
ブランドとしては、アートなど他のジャンルの方とコラボレーションをして、何か作ってみたいです。アトリエなのかショップなのか、メタバース空間なのか、など分かりませんが、”HOUGAの国”の住民たちの集いの場のような場所もあったらいいなと思ったり。あとは日本だけでなく、海外でも住民候補を探したいです。少しずつチーム体制も整えて、挑戦できる環境を作っていきたいです。
個人としては、今後もっと良いものを届けられるように、日々勉強し、好奇心旺盛に子供のような柔軟な心で生きていきたいです。沢山の方々に支えられて、応援してもらい、ここまで継続出来たので、これからも感謝の気持ちと初心を忘れずに、ブランドを大切に育てていきたいです。視野を広げ、おばあちゃんになっても挑戦しつづけていたいです。
HOUGA
https://houga.jp/