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LIFE/STYLE

視線を変える家具、Muuto「Dream View Bench」が導く休息のかたち

Jun 27, 2026
身体を預けると、まず視線が変わった。

<Muuto(ムート)>「Dream View Bench」に腰かけたとき、最初はその座り心地を確かめるように、普通に腰を下ろしていた。けれど、頭まで預けるよう促され、ゆっくりと身体を倒してみると、視線は自然と上へ向かう。

その瞬間、普段の自分がどれほど前や下ばかりを見ているのかに気づく。屋外で空を見上げてみたい。身体の向きが変わるだけで、意識の向かう先も変わる。

その感覚は、MAARKETで5月に開催されたトークイベント「Dream View- 感情の輪郭をデザインする」で、デザイナーのリセ・ヴェスター自身が語った「Dream View Bench」のコンセプトとも重なっていた。このベンチは、身体を休めるだけでなく、視線を空へ導き、立ち止まる時間を生み出すためのデザインとして構想されたものだ。

視線を変える家具、Muuto「Dream View Bench」が導く休息のかたち

Jun 27, 2026 - LIFE/STYLE
身体を預けると、まず視線が変わった。

<Muuto(ムート)>「Dream View Bench」に腰かけたとき、最初はその座り心地を確かめるように、普通に腰を下ろしていた。けれど、頭まで預けるよう促され、ゆっくりと身体を倒してみると、視線は自然と上へ向かう。

その瞬間、普段の自分がどれほど前や下ばかりを見ているのかに気づく。屋外で空を見上げてみたい。身体の向きが変わるだけで、意識の向かう先も変わる。

その感覚は、MAARKETで5月に開催されたトークイベント「Dream View- 感情の輪郭をデザインする」で、デザイナーのリセ・ヴェスター自身が語った「Dream View Bench」のコンセプトとも重なっていた。このベンチは、身体を休めるだけでなく、視線を空へ導き、立ち止まる時間を生み出すためのデザインとして構想されたものだ。

視線を変えるデザイン

トークの中で印象に残ったのは、リセ・ヴェスターがプロダクトを単なる“もの”としてではなく、人の感覚や振る舞いに働きかける存在として捉えていたことだった。

「Dream View Bench」を手がけたのは、コペンハーゲンを拠点に活動するデザイナー、リセ・ヴェスター。デンマークでデザインを学び、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートでも研鑽を積んだ彼女は、家具やプロダクトにとどまらず、光のインスタレーションやミラー、オブジェクトなど、感覚的な体験を生み出す作品を発表してきた。

彼女の制作に通底しているのは、デザインが人の感情や感覚にどう働きかけるのかという問いだ。光、反射、素材、身体の動き。そうした要素を通して、空間の中にいる人の意識を少しだけ変えていく。リセ・ヴェスターの作品は、機能や造形だけで完結せず、人がその場で何を感じ、どのように振る舞うかまでを含んでいる。

彼女の制作背景として、トークではホスピスとのデザインコラボレーションにも触れられた。リセ・ヴェスターはそこで、医療施設に対して抱きがちな無機質なイメージとは異なる、穏やかで温かな空気に出会ったという。その経験は、色や光、形、自然の風景といった要素が人の心身に与える影響へと、彼女の関心を向かわせていった。

彼女の制作には、美しいと感じるものや、光、色、自然の風景といった感覚的な体験が、人の感情や身体感覚にどう作用するのかという視点も重なっている。リセ・ヴェスターは、そうした問いを家具やオブジェクトのかたちで、日常の中へ引き寄せようとしている。

空を見上げるという休息

「Dream View Bench」の構想は、パンデミック期のロックダウンを背景に生まれた。人々が心身の不調や閉塞感を抱え、日常の過ごし方を見直すなかで、リセ・ヴェスターが注目したのが、自然の中で過ごす時間や、空を見上げるという行為だった。

都市で暮らしていると、自然に触れる機会は限られている。そこでリセ・ヴェスターが目を向けたのが、頭上に広がる空だった。高層ビルの間にいても、街の中にいても、空は身近に存在する自然の一部として捉えることができる。

「Dream View Bench」は、その見過ごされがちな存在に意識を向けるためのベンチでもある。身体を預けることで、視線が自然と上へ向かう。空を見上げる、少し休む、ぼんやりと考える。そうした何気ない行為を、家具のかたちから促していく。

休むことや空想することは、日々の中で後回しにされやすい。効率や生産性が優先される時間の中では、何もしないことにどこか後ろめたさを感じることもある。けれど、立ち止まる時間は、感覚を整え、新しい考えを生むための余白にもなる。

「Dream View Bench」が提案しているのは、視線の向きを変えることで、意識の向かう先を変える体験だ。そこに、このプロダクトの面白さがある。

体験まで含めてデザインする

<Muuto>は、厳選された現代を代表するデザイナーたちとMuutoクリエイティブチームの協働を通して、現代の空間に向けた家具や照明、アクセサリーを展開してきたブランドだ。リセ・ヴェスターとの協働において焦点となったのは、家具としての完成度だけではない。

人がその家具に触れたとき、身体の向きや視線、気持ちの動きがどのように変わるのか。「Dream View Bench」は、そうした体験まで含めてデザインされたプロダクトといえる。

トークで印象的だったのは、このベンチが休息のあり方そのものに目を向けていることだった。腰かける、身体を預ける、視線が上がる。そこに生まれる一連の動きが、空間の中に立ち止まる時間をつくっていく。

その背景には、<Muuto>が近年深めているニューロエステティクス/神経美学への関心もある。<Muuto>が創業当初から大切にしてきたのは、家具や空間が人の感覚にどう働きかけるのかという視点だった。近年、その直感的なアプローチには、科学的な文脈からも光が当てられているという。

アートや建築、デザイン、光や色。そうした感覚的な体験が、人の心身やウェルビーイングにどう作用するのか。<Muuto>はこの分野の研究者や専門家とも協働してきたといい、その視点はリセ・ヴェスターの制作にも重なっている。

硬質な素材、有機的な曲線

「Dream View Bench」は、ブラッシュドステンレススチールでつくられている。耐久性が高く、屋内外で使える素材でありながら、その表面は周囲の光や色をやわらかく映し込む。空の色や周囲の環境を受け取りながら、時間や天候によって異なる表情を見せるのも特徴だ。

素材は硬質で、佇まいには彫刻的な強さがある。一方で、フォルムは人の身体に沿うような有機的な曲線を描く。

見た目には硬質で、少し距離を感じる。けれど実際に身体を預けると、背中から頭にかけて自然に角度がつき、視線が上へ抜けていく。ステンレススチールという素材の緊張感と、身体を受け止める曲線のやわらかさ。そのギャップも、「Dream View Bench」の印象をつくっていた。

リセ・ヴェスターは、この曲線を導き出すために、自身の身体を使いながら試作を重ねたという。人間工学の本に答えを求めるのではなく、実際に身体を預けたときにどのような角度や曲線が心地よいのかを探っていく。その後、性別や身長、体格の異なる人々にも試してもらいながら、現在の形へと調整していった。

空間に置かれた姿は、オブジェのようにも見える。けれど、その魅力は眺めるだけでは伝わりきらない。腰かけ、身体を預けることで、視線や意識の動きが立ち上がってくる。

空間に生まれる、立ち止まる時間

「Dream View Bench」は、デンマーク・デザインミュージアムの庭園にも設置されている。かつて病院だった建物の庭園という場所性も、このベンチの背景と重なる。新鮮な空気や自然光に触れ、休息や回復のために過ごされてきた場所に、空を見上げるためのベンチが置かれている。


また、発表されて間もないながら、コペンハーゲンのカストルプ空港にも、このベンチが採用されている。
実際に設置された場所では、一人で空を見上げる人もいれば、目を閉じて休む人、スマートフォンを見る人、子どもが遊ぶように使う姿も見られたという。デザイナーが込めた意図はありながらも、使い方はひとつに限定されない。それぞれの人が、それぞれの仕方で休息を見つけていく。

オフィス、ホテル、商業施設、ミュージアム、屋外の共有スペース。人が一時的に滞在する場所において、家具は単に身体を休めるためだけのものではない。そこでどのような姿勢になり、何に視線を向け、どのような時間を過ごすのか。家具は、空間の体験そのものに関わっている。

「Dream View Bench」は、視線を変えることで、意識の向かう先を変える。

身体を預け、空を見上げる。そのシンプルな行為から、休息のかたちは少しだけ更新されていく。

 


 

MAARKET
東京都港区北青山2-7-15
営業時間:12:00〜19:00
ウェブサイト:https://maarket.jp/
Instagram:@maarketofficial

Muuto
Muutoは、2006年に設立されたコペンハーゲン発の家具ブランド。ブランド名は、フィンランド語で「新しい視点」を意味する「muutos」に由来する。スカンジナビアンデザインの伝統を受け継ぎながら、素材や技術、大胆な発想を取り入れた家具、照明、アクセサリーを展開。厳選された現代を代表するデザイナーたちととの協働を通して、現代の空間に向けたプロダクトを提案している。
ウェブサイト:https://www.muuto.com/
Instagram:@muutodesign

リセ・ヴェスター(Lise Vester)
コペンハーゲンを拠点に活動するデザイナー。ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートでDesign Productsの修士号を取得。光、反射、触覚的な素材を通して、人の感覚やウェルビーイングに働きかけるデザインを探求している。家具、照明、オブジェクトなどを手がけ、日常の中に新しい視点や感覚的な体験をもたらす作品を発表している。
ウェブサイト:https://www.lisevester.dk/
Instagram:@lisevester

  • Edit&Text : Y.O(QUI)

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