RUNWAY MAKEUP CODE — 資生堂ヘアメイクアップアーティスト中村潤が読み解く、2026年秋冬のメイクアップコード
世界観を際立たせるエッジの効いたヘアメイクを得意とし、パリファッションウィークをはじめとする国内外のショーでリードアーティストと して活躍。広告・雑誌など多様な現場で、ナチュラルからアヴァンギャルド まで幅広い依頼に対応し続け活動している。
Instagram:@jun.nakamura24

SHISEIDO HAIR & MAKEUP ARTIST
中村 潤 / JUN NAKAMURA
「近年のランウェイでは、自立した現実を生きる芯のある女性像がひとつの軸になっていると感じます。メイクもそれに呼応していて、その人自身の肌や骨格を生かした、ミニマルな仕上がりが多く見られます。
今季はそうしたシンプルな顔に、ロマンティックな甘さや少し反骨的な要素を加えた表現が印象的でした。顔全体を作り込むより、ひとつのアクセントによって、その人の印象を動かしている。そのバランスに惹かれます。
今、ファッションでもメイクでも“リアリティ”がとても重要だと感じています。ここでいうリアリティは、ナチュラルに見えることだけを指しているわけではありません。ランウェイに大胆な服が登場しても、その背景にはブランドのアーカイブや服の構造、そのシーズンにその形を見せる理由があります。表現の強さに、その人が身につける必然性が伴っていることが、今のファッションには求められていると思います。
メイクも同じで、その人自身の肌や表情を生かしながら、どこに色を置き、何を強調するか。その選択によって、顔にその人らしい意志が生まれます。」
RUNWAY NOTE 01
LOW BLUSH
低い位置に広げるチーク
WHAT TO WATCH
今季、中村がまず注目したのは、頬の広い範囲に血色を広げたチーク。可愛らしさやピュアさにつながりやすいチークを、シャープな目元やミニマルな肌と組み合わせることで、甘さの中に緊張感をつくっている。
さらに目を向けたいのが、その位置だ。近年よく見られた頬の高い位置から目の下にかけての血色に対し、今季は赤みを頬の低い位置まで広げたルックが印象的。色そのものだけでなく、顔のどこに重心を置くかによって、見慣れたチークの印象を更新している。

SHISEIDO HAIR & MAKEUP ARTIST
JUN NAKAMURA
「広い範囲にチークを入れると、一般的には可愛らしい印象になります。でもこのルックは目元をクリーンでクールな印象に作り、肌もすっきりと仕上げているので、顔全体はむしろストイックです。そこにピュアな血色が入ることで、女性像に柔らかさが加わっている。その組み合わせが新鮮でした。
今はその人自身の肌の質感を生かしたメイクが多く見られます。だからこそ、顔の中でチークを色の主役にするバランスも、とても今らしいと思います。
同じチークでも位置によって印象はかなり変わります。頬の高い位置ならピュアさが強く出ますが、低い位置まで広げると少し落ち着いた表情になる。見慣れたチークを、位置と組み合わせによって違う女性像に見せているところがおもしろいです」
RUNWAY NOTE 02
LOWER-LID LINER
下まぶたに効かせる黒
WHAT TO WATCH
続いて目を引いたのが、下まぶたに黒を効かせたアイメイク。ハードな黒を、クリーンな肌や端正なファッションと組み合わせることで、パンクやゴスとは異なる表情を生み出している。
ポイントは、黒を上まぶたへ大きく広げるのではなく、下まぶたに重心を置いていること。目元の強さを残しながら上側には余白をつくり、黒と透明感をひとつの顔の中に共存させている。

SHISEIDO HAIR & MAKEUP ARTIST
JUN NAKAMURA
「この黒には、今季らしいロマンティックさを感じます。ロマンティックには、甘さだけでなく、暗さや危うさを含んだダークロマンティックという方向もあります。下まぶたの黒には、そういう少し影のある美しさがあります。
以前ならこうしたアイラインはパンクやゴス、グランジといったカルチャーと結びつけることが多かったと思います。今季は、透明感のある肌や、知的ですっきりした服と合わせている。黒の強さは残しながら、顔全体は軽く見えるところが新鮮です。
上まぶたに黒を広く入れると、クラシックなスモーキーアイに近づきます。下まぶたに黒を置くと、目元は強調されながら上側には余白が残る。どこを強くして、どこを軽くするか。そのバランスが、昔からある黒いアイラインを今の顔に見せていると思います。」
RUNWAY NOTE 03
ROUGH COLOR
ラフに効かせるカラー
WHAT TO WATCH
ミニマルなメイクが多く見られる今季だからこそ、イエローやグリーンなどの鮮やかな色を大胆に使うルックも強い存在感を放つ。
ただし、色の強さをそのまま前面に押し出しているわけではない。指で触れたようなムラや曖昧な輪郭を残し、整えすぎないことで、鮮やかな色をメイクだけで完結させず、その人自身のスタイルへと馴染ませている。

SHISEIDO HAIR & MAKEUP ARTIST
JUN NAKAMURA
「今はひとつのトレンドだけが正解になる時代ではなく、さまざまな美意識が同時に存在しています。ミニマルなメイクが多い中で、あえて鮮やかな色を選ぶと、“この人はこの色が好きなんだ”という個性がよりはっきり見えるんです。
強い色を均一に塗って輪郭まできれいに整えると、メイクの存在感がかなり前に出ます。今回のルックには、指で触れたようなムラや、輪郭の曖昧さが残っている。そのラフさによって、鮮やかな色が服やその人自身の雰囲気に馴染んで見えます。色そのものは大胆なのに、塗り方は少し無造作。そのバランスが今っぽいと思います。」
WHAT MAKES IT NOW?
何を使うかより、
どこにどう効かせるか。
3つのルックに共通しているのは、見慣れたメイクを位置や組み合わせによって新しく見せていることだ。
チークは、甘さのある血色をストイックな顔に重ねる。下まぶたの黒は、クリーンな肌や端正な服と合わせる。鮮やかなカラーは、ラフなタッチを残して見せる。
使っている色やテクニックは身近でも、その扱い方が変わることで、顔の印象は大きく変わる。
今季のランウェイから見えてきたのは、何を使うかより、どこにどう効かせるか。どうやらその選択が今のメイクを新鮮に見せているようだ。
ABOUT
SHISEIDO HAIR & MAKEUP ARTISTS
資生堂グループに所属するヘアメイクアップアーティスト集団。広告や国内外のファッションショーでヘアメイクを手がけるほか、メイクアップ商品の色開発やビューティートレンドの研究など、多彩な領域で新しい美の表現を発信している。
- Edit : Yukako Musha(QUI)


