パリ・ファッションウィーク 2026年秋冬コレクションガイド — 現実に触れる衣服 vol.3
Yohji Yamamoto/ヨウジヤマモト
<Yohji Yamamoto>が、パリ市庁舎で2026年秋冬コレクションを発表し、ちあきなおみの「冬隣」が流れる空間に、黒を重ねた衣服と終盤の下駄の音が響いた。ショーは、着物の合わせを思わせる前身頃の重なりや、布を寄せて生まれる不規則なドレープを軸に、西洋のテーラリングとは異なる「包む衣服」の構造を前面に出して進んだ。胸元で重なるコート、肩から長く落ちるドレス、幾層にも折り重なるショールカラーのアウターに加え、インディゴのコットンやフランネル、ベルベット、ジャカード、解体したチェックやレース、葛飾北斎と葛飾応為の作品を引用したプリントが黒のルックに差し込まれた。スマートフォンではなく自分の目で見るよう促すカードが置かれた会場で、山本耀司は、身体を造形する服ではなく、平面の布を重ねて結び、包み、守るものとしての衣服のあり方をあらためてパリで示した。
Yohji Yamamoto 2026AW COLLECTION RUNWAY
Ann Demeulemeester/アンドゥムルメステール
<ANN DEMEULEMEESTER>が、パリのコルドリエ修道院で、2026年秋冬コレクション「Dear Night Thoughts」を発表した。ステファノ・ガリーチは、ブランドが培ってきたダークロマンティシズムやアンドロジナスな美学を踏まえながら、黒と白を基調に、詩情と反骨心が同居する現在のユースカルチャーへと接続した。ハイネックにレースのラッフルを重ねた黒のロングドレス、シアーなチュールでコルセットの骨組みだけを残したようなウエスト、アシンメトリーなスカート、切りっぱなしの裏地や長いリボンを垂らしたピークドラペルのジャケット、シアーシャツ、オーバーサイズのミリタリーコート、重厚なブーツや履き込んだようなスニーカーが並んだ。厳格なテーラリングにほつれや着古したような加工を重ねることで、創業者の孤高の詩情を守りながら、強さと脆さを抱えたまま都市を歩く「静かなる反逆者」の輪郭を今の時代に引き寄せた。
Ann Demeulemeester 2026AW COLLECTION RUNWAY
Gabriela Hearst/ガブリエラ ハースト
<Gabriela Hearst>が、2026年秋冬コレクションで、1919年にセーブ・ザ・チルドレンを創設した人道支援者エグランタイン・ジェブにオマージュを捧げた。コレクションは、社会福祉に献身しながら規範に縛られなかった彼女の生き方を手がかりに、厳密な素材開発と手仕事を通して、人間味、革新、強さを積み上げていく内容となった。独自開発のカシミアレースによるアイボリーのフロアドレスやセパレート、マドレス・イ・アルテサナスによる編み込みポワントルやカシミアマクラメ、ブラックのデッドストックオーガンザにのせたマイクロフローラルレース、日本製シルクブークレ、ヴィンテージリユースのミンク、カシミア100%のコーデュロイ、リユースデニムのミリタリーパンツ、取り外し可能な再生ファー襟付きトレンチ、マンティーリャを取り入れたコートやフリンジ付きガウンが登場した。エグランタイン・ジェブの信念と行動を軸に、伝統的な女性像と男性像の境界を横断しながら、職人技、社会へのまなざし、そして想像力に働きかける服の力をひとつのランウェイに結びつけた。
GABRIELA HEARST 2026AW COLLECTION RUNWAY
KIKO KOSTADINOV/キコ コスタディノフ
<KIKO KOSTADINOV>が、2026年秋冬ウィメンズコレクションで、「見る者」と「見られる者」のあいだにある緊張関係を軸に、都市のなかで自然を観察する視線を衣服へ落とし込んだ。グリム兄弟の「フィッチャーの鳥」やシンディ・シャーマンの同名作品を参照しながら、観察という行為を支える実用性と、羽根の奥行きや虹色のきらめきを帯びた表面表現がコレクション全体を貫いた。ノートやペン、双眼鏡を収めるユーティリティトラウザー、隠しポケット付きジャケット、二重構造のニット、変形するレギンス・ジャンプスーツ、発光するようなドレス、濡れたようなコーティングコットン、ニードルパンチベルベット、フェザーヤーンのインターシャ、マトラッセコート、イリディセントサテン、ドルマンやケープ、バルーンとバットウィングを掛け合わせた袖、<Patcharavipa(パチャラヴィパ)>や<Oakley(オークリー)>、<ASICS(アシックス)>との協業によるアクセサリーとフットウェアが並んだ。会場中央のオスカー・トゥアゾンによるネストボックスとともに、衣服は観察をうながす道具であると同時に、主体と観察者、空間と空間のあいだを移動する女性の身体感覚を可視化する装置として組み立てられた。
KIKO KOSTADINOV 2026AW WOMENS COLLECTION RUNWAY
UJOH/ウジョー
<UJOH>が、2026年秋冬コレクションで、90年代のグランジやポストロックに宿っていた反骨心を起点に、秩序と逸脱のあわいに立つ新たなエレガンスを探った。ブランドの根幹にある理知的な精密さを見つめ直し、整いすぎた構造に対して、再構築の欲求や直感的でいられる自由さを差し込むことで、これまでのコードに内側から揺さぶりをかけた。ジップによってラインを断ち切り開閉できるジャケットやドレス、フェイクスエードやフェイクファーを配したアビエイタージャケット、意外な位置に置かれたレース、尾州のションヘル織機で織ったナイロンフィルム入りのチェック、ハンドカットのフリンジ、ブラックやチョコレート、ローズウッド、シダグリーン、ダークフィグの色が交錯し、DREAMS COME TRUEへのオマージュルックも披露された。着崩したスタイリングと手間のかかる素材開発を重ねることで、反商業主義的なグランジの気分を現在のテーラリングへ接続し、均整の取れた服の内側に、わずかな歪みと熱を残した。
Louis Vuitton/ルイ ヴィトン
<Louis Vuitton>が、ルーヴル美術館のクール・カレに設えたランドスケープのなかでニコラ・ジェスキエールによる2026秋冬ウィメンズ・コレクションを発表した。コレクションは、山々、森、平原といった自然環境のなかで育まれてきた衣服の知恵を手がかりに、越境と横断、新しい時代のフォークロア、そして自然を読み替える21世紀の衣服のアーキテクチャーを組み立てた。再解釈したアニマルパターンを織り込んだキャンバスやデニム、レザーの造花、3Dプリントや樹脂による鉱物のようなボタンと鹿の角を思わせるヒール、植物由来のファー、シボや溝を刻んだレザー、1932年当時のプロポーションとカラーに立ち返った「ノエ」バッグ、トランクのビスを引用したイヤリングやリング、ネックレスが登場した。トランク職人としての技術とレザーへの知見を土台に、自然とともに生きる身体の記憶をデジタル以後の現実へ引き戻し、旅、帰属、クラフトの人間性を同時に運ぶ服と装身具の体系を描き出した。
FLORENTINA LEITNER/フロレンティーナ レイトナー
<FLORENTINA LEITNER>が、2026年秋冬コレクション「You Are a Star」を発表し、スポットライトの中へ自分の足で入っていく若い女性の変身と執念を描いた。『プリティ・プリンセス』のスリープオーバーの場面や、『Sex and the City』でキャリーが大晦日の雪のニューヨークをパジャマ姿で走る場面を手がかりに、親密さと露出、部屋着と外出着の境界が崩れていく構成となった。ボクサーショーツ、ピンクのランジェリーに重ねたシアー素材、王冠を添えたリラックスシルエット、ラム型のバッグ、スリーピングマスク、星のグリッターアップリケ、ニットのプライズボウ、レーザーカットのジュエリーモチーフ、ウォーターボトルも運べるバッグへ作り替えたボウやビューティークイーンのサッシュが並び、グレー、ブラック、ホワイト、ブラウンに淡いピンクやブルー、メタリックの光が差し込んだ。完璧さではなく、部屋着のままでも前へ進み、見られることを引き受けながら夢に手を伸ばす勇気を軸に、グランジとロマンティック、カジュアルとリーガルを一人のヒロインのなかで共存させた。
Florentina Leitner 2026AW COLLECTION RUNWAY
CFCL/シーエフシーエル
<CFCL>が、パレ・ド・トーキョーの「Saut du Loup(ソー・デュ・ルー)」で、「VOL.12 Collection」を発表した。
ヨーゼフ・ボイスの「社会彫刻」に向き合った今季は、「Knit-ware: Sculpture」をテーマに、着る人と社会をつなぐメディアとしての衣服を、しなやかなドレープと彫刻的なフォルムを備えたニットで組み立てた。TW INLAYの三重構造ニットによるボリュームコート、AC MILANやMILAN VELVETの軽やかなドレープ、樫の木の樹皮から着想した箔プリント、6メートルの蹴回しを持つSOFT MILAN FOILのフレアドレス、1265本のフリンジを手で通したFLUFFY FRINGE FOIL、2670個のスパンコールを用いたENCHANTのトレーンドレス、<VEJA(ヴェジャ)>とのコラボレーション第2弾が披露された。
ベン・ヴィーダ(Ben Vida)のライブパフォーマンスが響く自然光の差す会場で、<CFCL>は、量産され拡散していく衣服を社会に作用する複数の作品として捉え、クリエイションとソーシャル・インパクトをニットウェアの造形へ重ね合わせた。
LITKOVSKA/リトコフスカ
<LITKOVSKA>が、2026年秋冬コレクション「FIREFLY」を発表した。停電が続く冬のキーウで、頭につけた小さな光を頼りに街を行き交う人々の姿を起点に、電気も暖房も水もない環境のなかで制作された今季は、不確かな状況の下でも消えない内なる光を軸に進んだ。知的なテーラリング、建築的な解体、変形するデザイン、アシンメトリー、未完成の美学に加え、キーウの建築やバロック衣装に通じる流れる輪郭と揺れるボリューム、伝統的なウクライナの両掛け袋「Besahy」から着想したBESAGY BAG、会場のために調香師と制作したキーウの冬の香りがコレクションを支えた。懐中電灯が実用品であると同時に方向と生存のメタファーとして扱われることで、脆さを抱えた時代においても人と人をつなぐ光と、都市に残る生活の匂いを衣服の中にとどめた。
LITKOVSKA 2026AW COLLECTION RUNWAY








