パリ・ファッションウィーク 2026年春夏コレクションガイド — “私”の視点への回帰 vol.2
Acne Studios/アクネ ストゥディオズ
<Acne Studios>の2026年春夏コレクションは、メンズ/ウィメンズのアーキタイプを分解し再構築することで、自己認識から立ち上がる新しい女性像を探った。
シガーサロンを再現したヴォールトホールで、ワークウェアやユニフォーム、クチュールレースを横断しながら、フェミニニティの固定観念を静かに揺さぶっている。
トランスポーズドジャケット、ユニフォームシャツ、ガーゼのスリップスカート、蝋引きレザー、裂いて再構築したデニム、窓枠のように穴を開けたセーター、反り上がるつま先や脚を覆うブーツなどの強い印象を与えるシューズ、さらにCameroバッグの新バージョンが登場。
ホモエロティックなムードとRobynのサウンドが交錯するなか、強さと脆さを抱えた現代のフェミニンを多層的に体験させるコレクションだった。
Acne Studios 2026SS COLLECTION RUNWAY
Rabanne/ラバンヌ
<Rabanne>の2026年春夏コレクション「The Wakening」は、1950年代のビーチカルチャーと制御不能な気象変動を重ね合わせ、楽観と不穏が同時に立ち上がる世界を描いた。
理想化されたバカンス像の裏側にある緊張を背景に、水着特有の身体を締める造形的な精密さと、ウェットスーツの流れるようなラインを再解釈し、解体と再構築のプロセスで楽園のきしみを浮かび上がらせる。
再構築されたスイミングコスチューム、ジップフロントのネオプレンパンツ、サイドにドレープを寄せたスカート、ローウエストのペンシル、分節化された金属ティアードのカークラッシュスカート、メタリックリーフのパンプスや再解釈されたサーフブーティーなどが登場。
パステルから深いエメラルドへ移ろう1950年代の色彩と金属の質感が、繁栄のきらめきとその奥に潜む前兆を照らし出し、気圧が変わるようにムードが揺らぐコレクションだった。
rabanne 2026SS COLLECTION RUNWAY
Rick Owens/リック オウエンス
<Rick Owens>の2026年春夏ウィメンズコレクション「TEMPLE」は、回顧展と響き合う神殿のイメージを軸に、グラマラスさとアメリカ的な直截さが交差する世界を描いた。
GRS認証ナイロン、ラテックスに浸したリサイクルチュールのスパンコール刺繍、ヘビーレザー、メタルショルダーなどの素材に、乱雑にかき上げたようなドレープを重ね、荒削りさと官能を同居させる。
マイクロクロップトレンチやレザーバイカー、ラテックスディップド・チュールを用いたドレス、骨格をなぞるようなシアーインナー、ランジェリーブランド<Livy>とのコラボブラ、ベジタンのヘビーレザーコートなどが並ぶ。
自伝的な視点とSuicideの音像が重なり、“困難な時代にはタフな服を”という思想をまっすぐに提示したコレクションだった。
Rick Owens 2026SS WOMENS COLLECTION RUNWAY
ISABEL MARANT/イザベル マラン
<ISABEL MARANT>の2026年春夏コレクションは、太陽に導かれるようにひとり旅に出る女性を描き、その旅路の記憶とクラフトマンシップを織り込んだワードローブとして構成された。
日差しにさらされ柔らかく風合いを増したウォッシュドシルクやジャージー、熱でエンボス加工したレザーなど、時間の痕跡を感じさせる素材が旅の感覚と呼応する。
クロシェの軽やかな編み目、アシンメトリーに波打つラッフル、カーゴトラウザー、フラップポケットのライトジャケット、ノットで結んだドレス、オープンニットやスエードベスト、花刺繍のデニムなどが登場。
サンドやブロンズから夕暮れのブラックやヴァイオレットへ移ろう色合いが、旅の高揚と静けさの両方を映し出したコレクションだった。
UNDERCOVER/アンダーカバー
<UNDERCOVER>の2026年春夏ウィメンズコレクションは、「but beautiful」を春夏仕様に再解釈し、アン・ヴァレリー・デュポンの歪んだぬいぐるみ作品から着想したいびつな美しさを追求した。
左右非対称のパターン、ずれたボタン、はみ出す裏地、ラフなハンドステッチなど、服づくりの経験を持たない誰かが感覚だけで作ったような手作りのぬいぐるみのような服という発想を、リアルクローズに落とし込んでいる。
歪んだラインや不揃いのディテールをあえて見せるジャケットやドレス、構造の綻びを意図的に残したトップスなどが展開し、未完成のようでいて計算された違和感が全体を貫く。
愛らしさと不穏さが交差する歪みを肯定し、完璧さへと傾きがちな日常に小さなゆらぎを差し込むコレクションだった。
UNDERCOVER 2026SS WOMEN’S COLLECTION RUNWAY
ISSEY MIYAKE/イッセイ ミヤケ
<ISSEY MIYAKE>の2026年春夏コレクション「Being Garments, Being Sentient」は、衣服は意識を持ち得るのかという問いを起点に、服を生き物として想像することで新たな衣服像を描いた。
生長し脱皮するという仮定を与えられたフォルム、思いもよらない場所に袖や襟が現れる造形、物欲のあふれる身体をなぞり取るようなシルエットなど、従来の機能や役割から離れたシリーズが並ぶ。
PEU FORM3、PALINDROME、URBAN JUNGLE、予測不能な袖や襟を配したADVENTITIOUSのニット、<CAMPER(カンペール)>とのKarst Finchなど、多層的な実験が連続する。
タレク・アトゥイによるサウンドスケープがテキスタイルの音と呼応し、着る側と衣服側の境界を問い直す、構造と素材に基づく探究的なコレクションだった。
UNDERCOVER 2026SS WOMEN’S COLLECTION RUNWAY
ALAÏA/アライア
<ALAÏA>のWinter Spring 2026コレクションは、前シーズンからの連続性を基盤に、身体を彫刻として捉えるブランドの理念をさらに深化させた章として構成された。
コットン、パイソン、レザー、シルクへと素材を極限まで絞り込み、ユニフォーム的な厳格さと身体の官能性のあいだに生じる緊張を、色とフォルムによって鮮烈に描き出す。
マクラメで表現された想像上のパールや羽根、身体にねじれるように引き寄せられたトーション構造のピース、意外なポイントから吊られてシルエットを再定義する造形、動きの中で断片化し再び集まるフリンジなど、クラフトと彫刻性が交錯するプロセスが展開。
鏡像と映像が重なる演出により、身体そのものを生きる彫刻として捉える<ALAÏA>の思想が際立ち、アーカイブと未来を連続線で結ぶコレクションとなった。
ALAÏA 2026WS COLLECTION RUNWAY
FLORENTINA LEITNER/フロレンティーナ レイトナー
<FLORENTINA LEITNER>の2026年春夏コレクション「My Heart Will Go On」は、10代の情緒や郊外の空気を軸に、青春の光と影を描いた。
映画『Gummo』『Spring Breakers』に通じる無垢と混沌の世界観を、ネオンカラーやストリート要素、フェミニンなディテールに落とし込んでいる。
Paul FrankとのコラボTシャツ、耳付きフーディー、グロッシーなミニスカート、バギーパンツ×フリルトップ、レーザーカットレザー、<Melted Potato(メルテッド・ポテト)>とのフラワーアクセサリーなどが登場。
蛍光色の高揚感の裏側にウォッシュドホワイトやグレーを潜ませることで、不安定な若さの感情を繊細に掬い取るコレクションだった。
Florentina Leitner 2026SS COLLECTION RUNWAY
Ann Demeulemeester/アンドゥムルメステール
<Ann Demeulemeester>の2026年春夏コレクション「THE SOLITARY ONE」は、少年時代に焼きついたバスケットボールの記憶と、古典文学とロック文学に宿るロマンスを重ね合わせ、孤高の人物像を描き出した。
ロマンスと反逆、スポーツが交錯する世界観の中で、遠回りな道を選ぶアンチヒーロー的な存在が、テーラリングとアスレティックウェアの衝突として立ち上がる。
エンパイアラインのドレスとカレッジショーツ、コルセット風トップ、汗染みのような質感を与えたジャージー、羽根飾りやヘッドバンド、ほどけた靴紐などが登場。
ブラック・オン・ブラックやダスティローズの色合いが、試合の高揚と余韻の孤独を呼び覚まし、勝者である必要のないロマンスを静かな強さとともに肯定するコレクションだった。








