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彫刻への敬愛と手仕事への敬意を宿したジュエリー|AGMES モーガン・ソロモン

Jun 13, 2025
まるで、ミュージムアム。それがニューヨーク発の<AGMES(アグメス)>のシルバー&ゴールドのジュエリーが並ぶショールームの第一印象だった。ミニマルながらも彫刻的で、その造形はアート作品と表現したくなる。日本でも高く評価するバイヤーは多くジュエリー好きからはすでに知られた存在だが、QUI編集部はあらためて唯一無二の存在感の背景を紐解くためにデザイナーのモーガン・ソロモンにインタビュー。日本で初開催という展示会を訪れた。

彫刻への敬愛と手仕事への敬意を宿したジュエリー|AGMES モーガン・ソロモン

Jun 13, 2025 - FASHION
まるで、ミュージムアム。それがニューヨーク発の<AGMES(アグメス)>のシルバー&ゴールドのジュエリーが並ぶショールームの第一印象だった。ミニマルながらも彫刻的で、その造形はアート作品と表現したくなる。日本でも高く評価するバイヤーは多くジュエリー好きからはすでに知られた存在だが、QUI編集部はあらためて唯一無二の存在感の背景を紐解くためにデザイナーのモーガン・ソロモンにインタビュー。日本で初開催という展示会を訪れた。

ジュエリーの姿形は導かれるままに生まれていく

モーガンさんはいつ頃からジュエリーに興味を持ち始めたのですか。

モーガン:家族旅行でメキシコシティを訪れたときには祖母が自分が育った銀市場を案内してくれたり、母はこれまで集めてきたジュエリーについてひとつひとつの思い出を話してくれたり、幼い頃からジュエリーは身近な存在でした。私もジュエリーを手作りしていましたがそれは趣味で楽しんでいただけだったので、デザイナーとして自分のブランドを立ち上げるなんて夢物語でした。それでもやってみようと思う大きな転機が訪れたんです。

大きな転機とは?

モーガン:私が絶大な信頼を寄せる旧友と再会したときに、「君ならきっとできるよ」って背中を後押ししてくれたんです。その旧友がアンドリューという名前で、ブランド名の<AGMES>は彼のイニシャルの「AG」と私の旧姓のイニシャルの「MES」を組み合わせたものなんです。

イニシャルをブランド名にするなんてアンドリューさんは特別な存在だったんですね。

モーガン:彼が応援してくれたから夢を追うことを決心しましたし、当時働いていた会社を辞める決断もしました。実は再会後に、アンドリューはもう二度と会えない存在となってしまいました。<AGMES>は彼と一緒に作ったといっても過言ではないのでブランド名にイニシャルを残したんです。

<AGMES>のジュエリーは建築や彫刻からインスピレーションを得ることが多いそうですが、アートなども好きだったんですか。

モーガン:両親がアート好きだったこともあって、幼い頃から美術館によく連れて行ってくれました。多くの作品を目にして、歴史を学ぶことができたので、<AGMES>のデザインやディテールには自分が心を惹かれてきたアートの要素が自然と現れていると思います。

モーガンさんが影響を受けたアーティストはどのような方がいますか。

モーガン:バーバラ・ヘップワース、イサム・ノグチ、エルズワース・ケリーなどです。彼らの作品に共通するのは抑制された表現を通して語りかけてくることで、そこに私は強く惹かれます。「<AGMES>のジュエリーは身に着ける彫刻作品のようでありたい」と思っているのですが、それは間違いなく彼らの影響だと思います。

モーガンさんが惹かれる日本のアーティストは?

モーガン:安藤忠雄の作品は大好きです。今日、私が身に着けているネックレスは香川県のベネッセアートサイト直島で目にした安田侃の彫刻に触発されてデザインしたものです。日本では東京、大阪、京都、最近では軽井沢にも行きました。軽井沢は美しい自然や山々に建築物が囲まれた穏やかな土地で、気持ちが静かに整っていくような感覚が今でも心に残っています。これから宮崎を訪れる予定で、より多くの作品や名所、観光地を目にしたいので新しい土地を巡ってみたいと思っています。

旅先などで目にした建築やアートから突発的にインスピレーションを得ることもありますか。

モーガン:旅先に限らずインスピレーションはどこからでもやってきます。「あれを目にしたことで、あのジュエリーが生まれた」ということは少なくて、私はデザインの原型を夢の中でぼんやりと見ることもあるんです。それをスケッチに残してデザインがスタートすることもあります。自分が体験、経験、体感してきた全てのことがインスピレーション源になっていて、なにとなにが結びついて生まれたデザインなのか自分でもよくわかっていません。

インスピレーションというのは直感的、感情的でもありますが、どのようにしてジュエリーのデザインに落とし込んでいますか。

モーガン:頭の中にデザインのイメージが浮かび上がってきたらまずは手を動かす。スケッチやワックス、粘土、3Dのソフトウェアなど、あらゆる手法で「形」を作ることから始めます。それを繰り返していくうちにデザインと素材が劇的にマッチする瞬間があり、そうなると後は導かれていくだけです。私は導かれるままにフィニッシュに向かっているので最終的に完成したジュエリーが最初のイメージとは全く異なる姿形をしているなんていつものことです(笑)。

自分の目が届く範囲でサステナブルなモノづくりを

<AGMES>はリサイクル素材やハンドメイドも特徴ですが、そのようなスタイルになった理由はなんでしょうか。

モーガン:私たちが住む地球は私たちにとって「家」だと思っているので、<AGMES>では創業当時からサスティナビリティを価値観の中核としていて、それは単なるマーケティング用語ではなくブランドの運営基盤そのものです。私にとってジュエリーはすごく愛おしい存在なので環境への配慮や手仕事への敬意が自然と湧き上がり、リサイクル素材やハンドメイドというスタイルに辿り着きました。

<AGMES>のコレクションは完全にリサイクル素材ですか。

モーガン:そうですよ。スターリングシルバーもK18ゴールドヴェルメイユもリサイクル100%ですし、製作過程で発生するスクラップメタルも必ず再利用しています。全てのコレクションは同じ価値観を共有する職人チームと生産しています。

ニューヨークの職人との協業も続けていることのひとつですよね。

モーガン:新しいコレクションも次から次へと作っていきたいわけではなく、<AGMES>のジュエリーが誕生する全てのプロセスに私自身が関わりたいので拠点であるニューヨークでの生産にこだわっています。職人とのコミュニケーションや生産背景を自分の目で見ることを大切にしているので小規模のチーム体制です。

細部のクオリティまで厳しくチェックしているんですね。

モーガン:目を光らせています(笑)。

サステナビリティを追求すればするほど乗り越えなければいけないこともあると思います。

モーガン:手間や時間を惜しんでいてはサステナブルな取り組みはできません。コストもかかるので場合によってはジュエリーの価格にも反映されることもあります。それらの価値をお客様に説明する必要もあったりします。それでも理解を得られないこともありますが、私にとっては万人に受け入れてもらうことよりもブランドの信念や価値観をブラさないことの方が大切です。

素材はどうやって決めていますか。デザインに合わせて選ぶのか、それとも素材が先に決まってジュエリーに落とし込むのか。

モーガン:メキシコシティの銀市場を訪れたことも影響のひとつで、私はシルバーへの愛着が強いんです。なので<AGMES>のジュエリーは必ずスターリングシルバーで作り、ゴールドのタイプはほしいと思ったときだけ新たに加えます。素材を選ぶというよりもまずはシルバーありきです。

<AGMES>のジュエリーはカジュアルにも見えますし、ラグジュアリーな印象もあります。デザインで意識していることはありますか。

モーガン:いちばんは着け心地です。幼い頃から、たくさんのジュエリーを身に着けるのが大好きで、「今日はどんなジュエリーコーディネートをしよう?」と夢中になっている姿を、家族も一緒になって楽しんで見ていました。だからこそお客様にも日常的に快適に身に着けてほしいので、デザインする上でも「重量」や「フィット感」は最大のチャレンジとして意識しています。見た目は重厚なので「こんなに着け心地がいいとは思わなかった」とよく驚かれますよ。

ブランドが大きくなっても「らしさ」は見失わない

2016年にブランドを設立してから来年で10周年を迎えますが、日本での展示会は初めてですよね。

モーガン:日本を初めて訪れたのは2017年でした。アートと生活が融合している日本の日常の在り方が深く心に残って、ずっと再訪を願っていました。「意図を持ったモノづくりの姿勢」や「職人の精神」、「静かな美意識」という日本文化の価値観は<AGMES>にも通じるものがあるので、今回の来日は個人的にもブランドにとっても自然な流れのように感じています。

日本の美意識は<AGMES>のデザインにも影響を与えていますか。

モーガン:<AGMES>のデザイン言語でもある「抑制の美」は、まさに日本の美学そのもののように感じています。余白にこだわり「あえて加えない」ことに深い意味があるという日本の美意識に私は惹かれます。

日本のジュエリーショップでも取り扱いは多いですし、メディアでも紹介されていますが日本での反応はどうですか。

モーガン:レスポンスはどれもハートウォーミングなものばかりです。私が身に着けているカフも私自身はとても気に入っているのですが、高額なこともあってニューヨークではそこまで反響をいただけませんでした。ですが日本ではとても高い人気で、日本の方々がクオリティとデザインをきちんと見極めてくれているからだと感じました。言葉の壁を越えて、自分が信じたデザインに共感してもらえたことがすごく嬉しかったです。

<AGMES>はアーティストと取り組んだアイテムもありますが、日本のブランドや工芸とのコラボレーションも考えていますか。

モーガン:一緒にやってみたい日本のアーティストは頭には浮かんでいます。でも、具体的には何も決まっていないのでまだ秘密です(笑)。日本でのコラボレーションをいつか実現したいという思いは強いです。

これから挑戦したいことはありますか。ブランドとして今後の展望などがあるなら教えてもらえますか。

モーガン:リアルな目標としては海外での展開を増やしていきたいですが、もっともっとサステナブルな取り組みに注力したいです。リサイクル素材にこだわることも、建築や彫刻を敬愛することも、クラフトマンシップに敬意を払うことも、ブランドとして成長すればするほど<AGMES>らしさというのを見失いたくない。創業当時から目指しているのは誰からも長く愛され続けるヘリテージブランドになることです。これからもその道を歩み続けていきたいです。

これからジュエリーはどのような存在になっていくと思いますか。

モーガン:もちろん自分を飾り立てるものでもありますが、ジュエリーは自分にとって意味のあるもの、物語を持つもの、自身のアイデンティティとなるもの、そんな存在になっていくはずです。私が最終的に目指しているのは大胆であり彫刻的でありながら、表情は穏やかな「日々のリズムの中に自然に溶け込むジュエリー」です。毎日でも身に着けたくなる「第二の肌」のようなものを作っていきたいです。

モーガンさんにとっては装飾品でもあり身体の一部でもある?

モーガン:両方ですね。私が身に着けているリングなどは基本的に外すことはないのでそういう意味では身体の一部ですが、今日のカフなどは自分自身を鼓舞したいときに装飾品として選ぶことが多いです。なんだか武装したような気分になれるので(笑)。

モーガンさんが身に着けているジュエリーにはその日のテーマがあるんですね。

モーガン:「Symbols of Love」というコレクションはふたつのピースを合わせるとハートになったり、リーフになったり「つながり」をテーマにデザインしたものです。このコレクションは自然とのつながりを感じたい、自分を愛したいときに身に着けたくなります。「今日はこんな気分で過ごしたい」、「今日の自分はこうありたい」とジュエリーは私の気持ちに常に寄り添ってくれる存在です。

 


 

AGMES

2016年、ニューヨークにて設立されたジュエリーブランド。彫刻的なフォルムと、サステナビリティを核としたクリエイションを特徴とし、すべての製品は地元の熟練職人の手により少量生産されている。リサイクル貴金属を使用したタイムレスなデザインで、次世代へと受け継がれる“現代の継承品(モダン・ヘアルーム)”を提案する。

Instagramはこちらから!
@agmesnyc

  • Photograph : Junto Tamai
  • Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
  • Edit : Miwa Sato(QUI)

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