FLORENTINA LEITNER 2026年春夏コレクション、儚くも鮮烈な“夏の記憶”
テーマは「My Heart Will Go On」。10代の情緒と郊外の空気感を軸に、ストリートとフェミニン、ポップとアイロニーが交差するルックが、若さの光と影を詩的に描き出した。

by Jokke de Roo
ショーが始まると、会場はまるで白昼夢の中にいるかのような空気に包まれた。
蛍光ピンクのスカートが揺れ、ネオンの光を反射するレザーキャップがまぶしく光る。
それは単なるファッションショーではなく、過ぎ去った夏の記憶をもう一度呼び起こすような、映画的な体験だった。
今季のタイトル「My Heart Will Go On」は、恋や自由、そして青春の儚さへのオマージュ。
フロレンティーナ・ライトナーがインスピレーションに挙げたのは、ハーモニー・コリン監督の『Gummo』や『Spring Breakers』。
無垢さと混沌が同居するその映像世界を、彼女は衣服のテクスチャーと色彩の中に落とし込み、ネオンの光に照らされるスケーターガールの姿を、現代的なユースカルチャーの象徴として描き出した。
特に印象的だったのは、2000年代初頭のポップカルチャーを再構築した<Paul Frank(ポール・フランク)>とのコラボレーション。
ジュリアス・ザ・モンキーやバニーガールといった懐かしいキャラクターが、Tシャツやバッグ、スカートの上で再び息づく。
それは単なるノスタルジーではなく、過去の「かわいさ」を現在の感性で読み替える試みだ。
アイロニーを帯びたポップな視点は、軽やかでありながらどこか批評的な響きを持っている。
ルックの中心にあるのは、自由と繊細さの共存だ。
耳付きのオーバーサイズのフーディーにややグロッシーなミニスカート、バギーパンツに大ぶりなフリルトップを合わせたスタイリングは、ストリートカルチャーの躍動感を纏いながら、どこか不安定なバランスを保っている。
その不均衡さが、若さ特有の衝動と戸惑いを想起させた。
レーザーカットを施したレザーや、透け感のある素材を組み合わせたルックには、無邪気さの奥に潜む繊細さや脆さが漂う。
光沢とマット、硬質とソフトが混じり合う造形が、感情の揺らぎを視覚的に描いているようだった。
カラーパレットは、蛍光ピンク、アシッドグリーン、エレクトリックブルーといったエネルギッシュな色彩が中心。
そこにウォッシュドホワイトやグレー、ブラックのドット柄が重ねられ、明るさの中にほのかな陰影が差し込む。
派手さの裏に見え隠れする静けさが、コレクション全体に独特の余韻を残していた。
アクセサリーもまた、このシーズンを象徴する存在となっている。
モンキー型のバックパック、編み込みのヘアキーチェーン、ネオンのリボンクリップ。
さらに、日本では「THE FOUR-EYED」で展開されている台湾発のジュエリーブランド<Melted Potato(メルテッド・ポテト)>とのコラボレーションによるフラワーモチーフのピアスやチョーカーが登場し、ポップなルックに鋭いエッジを加えていた。
かわいらしさと挑発性のバランスが、ブランドの持つ軽やかな反骨精神を体現している。
「My Heart Will Go On」は、単なる青春賛歌ではない。
それは、無邪気さと混沌、自由と不安、そして恋の始まりと終わりのあいだにある感情を、ファッションという言語で語る試みだった。
スケートボードを抱え、夜の街を滑り抜ける少女たちの姿は、未来に焦がれるでも、過去に縋るでもなく、「いま」という瞬間を生きる若者の純粋な衝動そのものを映している。

タイトルに込められた“愛”は、永遠を約束するものではなく、消えてもなお心に残る一瞬のきらめきに近い。
フロレンティーナ・ライトナーが見つめるのは、恋の始まりでも終わりでもない、その狭間で揺れる感情の風景である。
儚さを恐れず、甘さに溺れず、現実と夢の境界線を軽やかに越えていく。
パリ・ファッションウィークという、名だたるメゾンが集う舞台の中で、<Florentina Leitner>はフェミニンでロマンティックな新しい風を吹き込んだ。
その瑞々しい感性は、固定化されたラグジュアリーの価値観に対する静かなる挑戦としても機能している。
日本でも取り扱いショップが着実に増えるなか、ブランドが発する“夢と現実のあいだ”という独自のビジョンは、国や世代を超えて共鳴を広げつつある。
Florentina Leitner/フロレンティーナ・ライトナー
オーストリア出身のファッションデザイナー、フロレンティーナ・ライトナーが手がけるブランド。2020年にアントワープ王立芸術アカデミー・ファッション学科の修士課程を修了後、<Dries Van Noten>での勤務を経て、2021〜2022年に自身の名を冠したブランドを設立。現在も拠点をアントワープに置きながら、活動を続けている。
ブランドの核にあるのはストーリーテリング。強い女性像に着想を得ながら、ファッションフィルムや幻想的なビジュアル撮影を通じて、洋服に物語性を与えている。レーザーカットのディテールや、異素材の組み合わせ、立体的なフラワーモチーフ、アイコニックなサングラスなど、独自の感性が反映されたアクセサリーにも定評がある。
「Florentina(フロレンティーナ)」が意味するのは“花開く”という言葉。その名に込められた思いの通り、同ブランドではイタリア・ベルギー・ブルガリアの職人による生産を大切にし、デッドストック素材の活用など、可能な限りサステナブルなものづくりにも取り組んでいる。
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- Photography : Jiro
- Edit & Text : Yukako Musha(QUI)




























