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Julie Kegels 2026年春夏コレクション、日常を走り抜ける女性へ捧ぐ“変身”の魔法

Oct 3, 2025
2025年9月29日、パリ16区メトロ・パッシー駅で発表された<Julie Kegels(ジュリー ケーゲル)>の2026年春夏コレクション「Quick Change」。シャツを破ればドレスが現れ、ジュエリーは実はステッカー。日常を走り抜ける女性のための、ユニークかつエレガントな変身の魔法が広がった。

Julie Kegels 2026年春夏コレクション、日常を走り抜ける女性へ捧ぐ“変身”の魔法

Oct 3, 2025 - FASHION
2025年9月29日、パリ16区メトロ・パッシー駅で発表された<Julie Kegels(ジュリー ケーゲル)>の2026年春夏コレクション「Quick Change」。シャツを破ればドレスが現れ、ジュエリーは実はステッカー。日常を走り抜ける女性のための、ユニークかつエレガントな変身の魔法が広がった。


映画の舞台としても知られるメトロ高架下に現れたのは、時間に追われながらも軽やかに駆け抜けるパリジェンヌの姿。<Julie Kegels>が見せたのは、女性が日常の中で幾度も装いを変えながら生きる、その瞬間を映し取るようなランウェイだ。モデルたちはアパルトマンの扉から現れ、歩みの途中で変身を遂げる。遅刻しそうな朝にも、パーティーに向かう夜にも見えるその振る舞いは、観客に自らの日常の一コマを思い出させる。

コレクションの核は「不完全さの美学」にある。急ごしらえのブラストラップ、ボタンを掛け違えたまま伸びた襟、メイクで汚れた布地。いずれも欠陥ではなく痕跡として衣服に刻まれ、シミはプリントに、シワは構造に、縫い目は記憶へと変換されていく。肩に寄せられたシワのシルエットはドレスやカーディガンに繰り返し登場し、洗濯物干しから取り上げられたままのような即興性を漂わせた。

素材選びも日常性に根ざしている。ベッドシーツやテーブルクロス、ガーメントバッグは衣服として再生され、二重仕立てのオーガンザスカートにはバイオグリッターが仕込まれ、歩くたびに光が揺れる。さらに、アントワープで1981年に創業したランジェリーブランド<MARIE JO>のデッドストックのランジェリーをアップサイクルしたパッチワークブラも登場し、日常と歴史をつなぐ新しい物語を紡いだ。

パンプスのつま先はグリッターで覆われ、セーターの肘には煌めきが施されていた。近接カットで捉えれば、慌ただしい一日の途中に垣間見えるきらめきがより鮮明に浮かび上がる。

遊び心は随所に現れる。胸元や首元に貼られたジュエリーのような装飾は、実際にはステッカー。ヴィンテージのレース柄ブーブステッカーをもとに3Dプリントで現代的に再構築したもので、観る者にナイーブな驚きと笑みを誘う。服そのものにも仕掛けがあり、シャツを破ればスリップドレスが現れ、マリリン・モンロー風のガウンは儚げな「影」に姿を変える。変身は幻想でありながら、同時に日常の中で幾度も繰り返される女性のリアルな営みを思わせた。

歴史への眼差しも忘れない。19世紀後半のトゥールニュールを想起させるカットアウトやスリット、警察シャツや軍服、乗馬ポロといった制服の再解釈。アーカイブの記憶と未来の物語が交錯し、過去のフォルムは新しいリズムで蘇る。

「Quick Change」は、不完全さや慌ただしさを否定せず、その中に潜む美を掬い上げるコレクションだった。走り抜ける女性が幾度も身を変える姿は、時間に追われる現代そのものを映し出す。変化は不安であると同時に力となり、服はその矛盾を優雅に抱え込む。<Julie Kegels>は、変身を余興ではなく日常の詩として提示し、ファッションに新たなウィットと魔法を吹き込んだ。

Julie Kegels

ベルギー出身のデザイナー、ジュリー・ケーゲルは、アントワープ王立芸術アカデミーを卒業後、2024年に自身の名を冠したブランドを設立。同年、パリで開催されたウィメンズ・ファッションウィーク2024-25秋冬シーズンでデビューを果たし、コレクション「50/50」では異なる女性像を探求しながら、ラグジュアリーの概念を再考させ、エレガンスと遊び心の間に新たな均衡を提示した。
彼女のビジョンは一貫して、既成概念への挑戦と、着る人それぞれの個性に響く服づくりにある。単一の「女性像」に収まることを拒む姿勢はブランドの大きな特徴であり、個人的な記憶や現代的な感覚を取り込みながら、時代を超えたエレガンスと大胆で先鋭的な要素を融合させている。
ジュリー・ケーゲルが創り出すのは単なる衣服ではない。それは物語であり、女性たちを真の自己表現と洗練された世界へと誘う招待状である。

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  • Edit & Text : Yukako Musha(QUI)

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