セレクトショップの次なる視線|RESTIR 柴田麻衣子
トレンドをとらえたブランド、趣味や嗜好性が表れた服、目利きがキャッチした 新世代のデザイナーなど、コンセプトが明確なショップであるほど、 ファッションに対する美意識は店内の品揃えからも一目瞭然だ。そんなショップを訪れるファッションフリークが気にしているのは、 常に新しい刺激を提案してくれるオーナーやバイヤーの次なる動向や関心。
今回は説得力のあるセレクトで顧客とも深い信頼関係を築いている「RESTIR(リステア)」の柴田麻衣子さんにお話を伺った。
愛知県生まれ。愛知県立大学英文科卒業後、株式会社リステアに入社。セールススタッフやVMDを経て、リステアのバイヤーとクリエイティブディレクターに就任。また、英メディア「ビジネス・オブ・ファッション」が発表するファッション業界で影響力のある人物を選出する「BoF500」2023にリストイン。世界各地のファッションウィークを周り、バイイングのほか多岐にわたる業務に携わるほか、自社の手がける二つのブランド<IRENE(アイレネ)>と<LE CIEL BLEU(ルシェルブルー)>のディレクションも手がける。
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負けず嫌いとフットワークの軽さを買われて東京の「RESTIR」へ
—現在は赤坂の「RESTIR」でクリエイティブディレクターを務めていますが、柴田さんのアパレルのスタートは名古屋からなんですよね。
柴田:私が大学を卒業する頃、名古屋はアパレルの新規出店のラッシュの時期でした。国内大手から外資まで、あらゆるアパレルの面接を受けたのですが、私が選んだのが名古屋では新興ともいえる<LE CIEL BLEU(ルシェルブルー)>でした。それが2001年です。
—あえて新しいアパレルメーカーを選んだのは何か理由があったのでしょうか。
柴田:私は競争で勝ち抜いていくことにやりがいを見出すタイプで、新しい会社であれば年功序列ではなくきっと実力主義で、貢献度によって若いうちから上のポジションを目指せると思ったんです。
—実際に入社してみてどうでしたか。イメージ通りでしたか。
柴田:その頃の私は全身を<Vivienne Westwood(ヴィヴィアン ウエストウッド)>で固めていて、そんなファッションは社内にはいなかったこともあり、入社直後から会社の上の人たちが「ちょっと面白いやつがいる」ってなったみたいです(笑)。それで本社のあった神戸の「RESTIR」事業を強化するということで、すぐにそちらに引っ張られて販売員からスタートして最終的にはバイヤーを務めました。名古屋の<LE CIEL BLEU>では1カ月も働いていないですね。
—東京の「RESTIR」もオープニングスタッフですか。
柴田:そうです。神戸のショップに在籍したのは1年半ぐらいでした。東京で最初の「RESTIR」は渋谷で、社長から「渋谷を盛り上げるぞ!」って声を掛けられて、私は「わかりました!」と即答しました。そんなフットワークの軽さも買われていたみたいです。
—東京のオープンに誘われたら、ある程度は「勝ち抜いた」という心境だったのでしょうか。
柴田:そこの満足度は全くなかったです。バイヤーとしてパリに足を運ぶようになりましたが、当時は「RESTIR」を誰も知らないからブランドとの交渉もうまくいかず悔しい思いをすることも多かったです。他のバイヤーの後塵を拝したくないという生来の負けず嫌いが顔を出すようになり、もっと頑張らなくてはと思うようになりました。
—「RESTIR」が東京に進出するにあたって、柴田さんに課されたミッションはどのようなものだったのでしょうか。
柴田:社長からは「日本一のセレクトショップを作ってくれ」と言われました。日本一ってざっくりとはしていますが、私はブランドラインナップ、売上げ、顧客数など総合的なものと受け止めました。
—東京の「RESTIR」を日本を代表するセレクトショップにするために柴田さんが着手したことは?
柴田:ショップのセレクトに説得力を持たせるために、まず実行したのが歴史あるメゾンブランドを「RESTIR」で取り扱うことです。由緒正しいブランドが揃うことで、新進気鋭のブランドを置いてもお客様は安心して手に取ることができると思うんです。「聞いたこともないブランドだけれど「RESTIR」のセレクトなら間違い無いだろう」って。「RESTIR」の知名度が低い時期はヨーロッパのメゾンブランドを買い付けるのはハードルが高かったのですが、そのためにショップのコンセプト、ビジョンなどを伝えるためのプレゼンテーションは必死にやりました。
—「RESTIR」のラインナップには説得力をすごく感じます。
柴田:現在はラグジュアリーブランドだけでなく、日本の新進気鋭のブランドも揃っていて、私たちがおすすめすることでお客様が知らなかったブランドを選んでくれることも増えています。それはすごくうれしいです。
これまで以上に世の中のニーズの見極めが大切だと感じている
—柴田さんは「RESTIR」を任されて10年以上ですが、時代とともにセレクトショップの役割も変わってきていると思いますか。
柴田:変わっていると思いますよ。ちょっと個人的なことになってしまいますが、最近は「推し活」がすごく気になっていて、「推し活」はアンチエイジングにも、人生の喜びにもつながるという研究結果もあるぐらいなんです。少し前まではコレクションを賑わせた最旬の服やバッグ、シューズを手に入れることに喜びや幸せがあったと思うんですが、「推し活」って特にカタチとして手元に残るものでもないですよね。「RESTIR」にも推し活のための服を探しているというお客様が訪れることがあって、ファッションに求めるものは確実に変わってきているのかなと。そうなるとセレクトショップもニーズを見極めていく必要があると感じています。
—ファッションに対して自己所有よりも自己顕示が優先されている?
柴田:そういう傾向は少なからずあると思います。ただ、「推し活」によっておしゃれに目覚めた、ファッションが好きになったという方が増えるのは私としてはうれしいことです。
—「RESTIR」の知名度、信頼度のアップとともに柴田さんのバイイングにも変化がありましたか。
柴田:以前は日本のショップでは取り扱っていないようなブランドをいち早く見つけて、ファッション好きなお客様に紹介するのが私自身の喜びでしたが、SNSの普及で本当の意味で未知な才能を発掘するのは不可能になっています。今はメゾンから新進気鋭まで分け隔てなく、お客様に自信を持っておすすめできるブランドをセレクトしたい気持ちが強いです。
—柴田さんがバイヤーとしていちばん大切にしていることは何でしょうか。
柴田:「ワクワクする気持ち」としか言えないです。バイヤーという仕事はシーズンに合わせてブランドやアイテムを買い付けますが、それも自分の心構えひとつで刺激に満ちることもあれば、単なる作業のようにもなってしまいます。私も目まぐるしいファッションサイクルに翻弄されてバイイングがルーティン化に陥りそうになった時期があって、ワクワクする気持ちを失ってはいけないと強く思いました。
—柴田さんをワクワクさせてくれるのはどんなブランドですか。
柴田:表現が斬新だったり、発想が新しいブランドには惹かれます。「この一着さえあれば毎日が楽しくなる」と思えるような服は積極的にセレクトします。クリエーションが先鋭的な服をオンラインではリアルクローズの<LE CIEL BLEU>とのコーディネートで日常着として提案したり、「RESTIR」の店舗ではラグジュアリーブランドとのミックスで実験的なスタイルを提案したり。
—「RESTIR」のバイヤーを長年されていて、思い入れのあるブランドなどはありますか。
柴田:ひとつ挙げるとしたらデムナ ヴァザリア時代の<BALENCIAGA(バレンシアガ)>です。毎シーズンのコレクションに刺激をもらっていました。「RESTIR」が銀座に店舗を構えていた時はトランクショーを開催したこともあって、いろいろと思い出があるブランドです。
「RESTIR」をありとあらゆる欲望が満たされるショップにしたい
—「RESTIR」のブランドラインナップは頻繁に入れ替えたりしているのでしょうか。
柴田:これまではあまり変えてこなかったのですが、実はそろそろラインナップを一新させようと思っています。
—ラインナップの変化が大きいとお客様は戸惑ったりしそうですけど。
柴田:それはないと思いますよ。「RESTIR」がまたやってくれたって一緒に楽しんでくれるはずです(笑)。
—現在の「RESTIR」はどういうお客さんが多いですか。
柴田:こちらが提案する必要がないぐらいファッションセンスに長けた方もいらっしゃいますが、トップスからボトムス、シューズまでトルソーそのままを選んでくれるお客様もいて、トータルコーディネートで提案してほしいという声も多いです。「観劇に行くための服を選んでほしい」とか、オケージョンに合わせたオーダーもあります。
—百貨店のコンシェルジュみたいですね。
柴田:アパレルだけでなく美容関連のアイテムを置いているので「RESTIR」を訪れるお客様の目的も様々で、だからこそ相談されることが多いのかもしれないです。
—お客様とのコミュニケーションで大切にされていることはありますか。
柴田:何でも話せるようなカジュアルな関係性ですね。もちろん接客としての礼儀はきちんと守りつつ、こちらが堅苦しく応じるとお客様もリラックスできないと思うので。そういう関係性を築けているからか、親子三代にわたってお付き合いのあるご家族もいらっしゃいます。先ほどブランドラインナップを一新させると話しましたが、それも「なにこれ!?」みたいな驚きや発見をお客様に届けたいという気持ちが強くなってきたからなんです。
—新しく取り扱うブランドはどのような基準で選定したのでしょうか。
柴田:私が大切にしている「ワクワクする気持ち」に共感してくれて、一緒に手を取り合ったらきっと面白いことができるはずって思えるブランドをセレクトしました。個人的な思い入れで選んでいるので結果が出たらいつも以上に喜びは大きいと思います。
—今はトレンドで選べば刺さるというわけではなく、お客様のマインドを探り当てる必要もあるので結果を出すのも大変ですよね。
柴田:マインドを探り当てるというのは本当にバイイングに不可欠な時代になっていると思います。バイヤー歴も長いのでセレクトに関しては自分なりの美学やプライドのようなものはありますが、そこに固執せずに柔軟な考え方を持っていないと取り残されてしまいます。それは最近すごく感じていることです。
—もしもこのインタビューが1年前、2年前だったとしたらそれぞれの質問に対する柴田さんの答えも違っていたかもしれないですね。
柴田:間違いなく答えは違っていたはずです。いろいろと心境に変化はあるのですが、それも「今の「RESTIR」は面白いか」と自問自答を続けていて、もっと大胆に変えていかなければと答えが出たのが今のタイミングです。
—柴田さんが描く「RESTIR」の理想像のようなものはあるのでしょうか。
柴田:素敵な服やアクセサリー、シューズを届けたいというのもあるのですが、訪れるだけでメンタルまで全てが満たされるようなショップにしたいです。物欲だけでなく、ファッションからビューティー、人との出会いまで、ありとあらゆる欲望を満たすショップになるのが理想です(笑)。それを叶えるために自分の直感を信じて、世の中の風向きを敏感に感じ取って、これからもセレクトし続けていきたいです。
—もしも直感が外れてしまったら?
柴田:その時はやり直せばいいんです(笑)。
柴田麻衣子がレコメンドする3ブランド
<PHOEBE PHILO(フィービー ファイロ)>
ブランドとしては3シーズン目、袖を通した時にこなれた表情を出すためにあえて生地にシワを施すなど、デザイナーのモノづくりにあらためてリスペクトを抱きました。凛々しくストイックなデザインだからこそ飽きもこないはずですし、管理職の方などのオフィススタイルにもぴったりだと思います。
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<Chika Kisada(チカ キサダ)>
取り扱いは初めてなのですが実はずっと見続けてきたブランドで、今季はデザイナーの「好き」を詰め込んで爆発させたようなパンキッシュなクリエーションにひと目で惹かれました。ホリデー用として<<LE CIEL BLEU>とのカプセルコレクションも展開する予定です。
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<self-portrait(セルフ ポートレート)>
ケイト・モスやBLACKPINKのジスを起用したビジュアル特化のプレゼンテーションで話題を攫ったロンドンのブランドです。そういう自分の立ち位置を掴み取るための戦略性が素晴らしいと思いました。「RESTIR」ではここ数年は取り扱っていなかったのですが再スタートです。
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RESTIR
「RESTIR(リステア)」は、東京・六本木に本店を構える日本を代表するラグジュアリーセレクトショップ。2000年に設立され、世界各国のハイブランドから新進気鋭のデザイナーまで、洗練された感性でキュレーションされたアイテムを展開。ファッション、アート、カルチャーを横断する独自の世界観を持ち、“モードの発信地”として国内外のファッショニスタから注目を集めている。近年ではオンラインストアにも力を入れ、グローバルな視点でトレンドとライフスタイルを提案する存在へと進化を続ける。
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- Photograph : Kota Kurokawa
- Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
- Edit : Miwa Sato(QUI)












