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Chopova Lowena 2026年春夏コレクション、未来を駆ける少女たちのユニフォーム

Sep 25, 2025
9月19日(金)18時、ロンドン・ファッションウィーク2026年春夏コレクションで<Chopova Lowena(チョポヴァ ロウェナ)>が新作「Cheerlore」を披露した。タイトルは“Cheer”と“Folklore”の合成語。アメリカンフットボールとチアカルチャー、そして南ブルガリアのカラカチャニ民族衣装という遠心力の強い文脈を、少女たちのユニフォームへと収束させる挑戦だ。彼女たちは観客席の下でもフィールドの上でも輝くというメッセージが、ショー全体の心拍を上げていく。

Chopova Lowena 2026年春夏コレクション、未来を駆ける少女たちのユニフォーム

Sep 25, 2025 - FASHION
9月19日(金)18時、ロンドン・ファッションウィーク2026年春夏コレクションで<Chopova Lowena(チョポヴァ ロウェナ)>が新作「Cheerlore」を披露した。タイトルは“Cheer”と“Folklore”の合成語。アメリカンフットボールとチアカルチャー、そして南ブルガリアのカラカチャニ民族衣装という遠心力の強い文脈を、少女たちのユニフォームへと収束させる挑戦だ。彼女たちは観客席の下でもフィールドの上でも輝くというメッセージが、ショー全体の心拍を上げていく。


冒頭から視線を攫ったのは、世界共通の記号であるプリーツスカートやバーシティセーターに、ブランドのシグネチャーであるカラビナスカート、スポーツジャージ、トラックパンツ、さらには巨大なフェイクファーコートを重ねるキメの強さ。フットボールを模したレースアップブラやボールバッグは競技そのものへの直截的なオマージュであり、ショルダーパッド入りのパニエ、ポンポンをあしらったジャケットやブリーフ、バッグがグラウンドを“女の子の領域”へと塗り替える。ブランドらしく装飾は過剰、「見られるために着飾る」という普遍の行為を、堂々と肯定するために。

 

足元の3Dプリント・ブーツは硬質なスパイクのようにプロテクションと装飾を両立し、動きの一歩先で気分を護る。ブルガリア由来のベルトバックルや段々に重なるドレスは、マキシからミニへと変形するジップオフ構造に再編成され、ジップは靴やジーンズにも拡張。身体とシチュエーションに応じて形を変えるユニフォームは、群れに属しながらも「私は私」という“個のチューニング”を可能にする。カラカチャニのジュエリーから着想したチェーンメイルは、邪を祓う守りであると同時に、少女文化の長い時間を編み込む柔らかなアーマーだ。

 

私自身も普段から<Chopova Lowena>を着ることが多いが、緊張する場面やここぞというときに袖を通すと、不思議と背中を押してもらえる気持ちになる。<Chopova Lowena>は単なる装飾ではなく、纏う人を奮い立たせるユニフォームでもあるのだ。

「チームに“I”はないけれど、個性には“I”がある」。この言葉が示すのは、チーム(TEAM)の一員として団結しながらも、一人ひとりの個性(Individuality)を輝かせることができるというメッセージ。今季のコレクションはまさに、その両立を祝福している。制服的な一体感に、あえて異質な装飾や構造を組み合わせることで、ルックは「同じでありながら違う」存在となる。統一のためのユニフォームではなく、着る人の意思によって常に更新される、生きた衣服として存在していた。

 

 

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ショーは五感のスイッチを次々に入れていく。日本の電子機器メーカー<Sony(ソニー)>とのパートナーシップから生まれたカスタムフリースの「Altoバッグ」には「WH-1000XM6ヘッドフォン」が収まり、会場にはロンドンを拠点とするDenim—Sykesによる嗅覚的空間デザインが広がる。

 

初のフレグランスである「Green Ruth, Green Root」「Queen Rosa, Rosa is Queen」「Hay, Zhasmina!」の3作もアクセサリーとして彩りを添えていた。香りの“マスコット”が登場してそれぞれのキャラクターに息を吹き込み、ウォーターボーイ(試合で水を運ぶ係)でさえクールに見せるChilly’sとのコラボ・スチールボトルは、レザーハーネスとチャームで装備化される。ここではアクセサリーもまた“応援”の道具であり、士気を上げるテクノロジーだ。

音は物語をさらに先へ運ぶ。デザイナー・エマ・チョポヴが作曲し、同じくデザイナーのローラ・ロウェナも参加したサウンドトラックは、ブルガリア民謡のダブやジャングル・リミックス、アメリカのチアコール、ローラの双子の娘の笑い声、怒鳴るNFLコーチの足音、孔雀の鳴き声、玩具のウサギを通してプログラムされたブランドのチアコール、エマの高校ジャズバンド、感情コントロールに関する自己啓発動画の音声、ASMRのチア・ロールプレイ、ダース・ベイダーの声色で語られるセラピートーク、イギリスの4チャンネルで放映されるティーンドキュメンタリーに至るまでをサンプリングし、奇妙でユーモラスな高揚を作る。チアの掛け声が民族の記憶を呼び起こし、民謡の拍子が現代のクラブ・リズムに溶ける瞬間、観客は“応援される側”から“応援する側”へと役割を反転させられる。

このコレクションが鮮烈なのは、スポーツ風や民俗リバイバルといった表層のカテゴリーに回収されない点だ。そこにあるのは、ユニフォームを“帰属の記号”ではなく“自由の装置”として更新する意志である。ルールの中で勝つのではなく、ルールそのものを着替えてしまう。だから彼女たちは恐れない。成功も失敗も、歓声もブーイングも、すべてを次のジャンプ台にする。<Chopova Lowena>が提示した「未来を駆ける少女たちのユニフォーム」は、集団の強さと個の尊厳を同時に引き受け、今日のゲームデーを明日の日常へと拡張する。世界中の“ちょっと変わった女の子たち”へのファイトソングとして。

Creative Direction: Charlotte Wales Studio
Hair: Kiyoko Odo
Makeup: Lauren Reynolds
Nails: Ella Vivii
Casting: Sarah Small
Set Design: Rory Mullen
PR:A.I.PR
Production: Sophie Marriott
Styling: Chopova Lowena
Music: Chopova Lowena
Olfactive Design Studio: Denim—Sykes

 


Chopova Lowena

2017年にエマ・チョポヴァとローラ・ロウェナによって設立されたロンドン発のブランド。ブルガリアのフォークロアとスポーツウェアを掛け合わせ、伝統とモダンを融合させた独創的なスタイルを提案している。
リサイクル素材やデッドストック生地を活用し、ブルガリアの熟練した女性職人と協働することで、文化遺産を守りながら新しい表現を生み出している。デザインとクラフトへの敬意を軸に、サステナブルかつエシカルなものづくりを追求していく。

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  • Edit & Text : Yukako Musha(QUI)

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