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ただ、もの作りが好きなだけ。百合田智紀|tomoki yuritaデザイナー

May 28, 2019
古着のリメイクを中心とした、ハンドメイドによる独創的な表現が魅力のtomoki yurita(トモキユリタ)。デザイナーの百合田智紀に、自身のファッションの源泉から現在のクリエーションまで半生を振り返ってもらった。

ただ、もの作りが好きなだけ。百合田智紀|tomoki yuritaデザイナー

May 28, 2019 - FEATURE
古着のリメイクを中心とした、ハンドメイドによる独創的な表現が魅力のtomoki yurita(トモキユリタ)。デザイナーの百合田智紀に、自身のファッションの源泉から現在のクリエーションまで半生を振り返ってもらった。
Profile
百合田智紀(ゆりた・ともき)
tomoki yuritaデザイナー

大阪府出身。1998年アパレル会社に入社。2000年退社。同年tomoki yuritaを立ち上げ。舞台、CM、テレビなどのメディア衣装も手がける。

もの作りへの目覚め

小2ぐらいの図画工作のとき、先生にみんなの前で褒められて自信を持ったと思うんです。「百合田くん、こんな上手に作ってきましたよ」みたいな。そこからものを作るのが好きになって。もの作りに使えるんじゃないかと、道端に落ちてるボルトとかを拾ってくるような子どもでした。

高校のときは建築家になりたくて大学はそっちのほうに行ったんですが半年で辞め、ファッションの専門学校に行き直しました。大学に通っていて違うかなっていう感覚もあったし、建築に対してそこまで本気じゃなかったんでしょうね。いまも建物を見に行くことにはあんまり興味ないんですけど、造りたいなとは思います。お金と時間があるのなら、勉強しながら自分の家とかをセルフビルドしたい。

アトリエにかかる時計も自作

ファッションはもともと好きで。母親がミシンをやってたり、編み物ができたりした影響で、俺も中学ぐらいから服が好きになり、フリーマーケットとかで古着を買ってきては改造していました。デザイナーズブランドみたいなのはあまり興味が無く、一瞬だけゴルチエ(Jean Paul GAULTIER)を好きになったときあるんですけど、2、3着持ってただけで。専門学校ではデザイナーズ好きみたいな子たちばっかりだったけど、そっちじゃないなってのは初めから思ってました。

ファッションの専門学校に行ったからといってデザイナーになれるとも思ってなかったけど、3年生になって進路を考えないといけない時期になって、まあ、やってみようと。どうしても入りたい会社があったんで、新卒の募集はなかったけどなんとか人事の人につないでもらい、口説き落として入れてもらえました。最初から2年ぐらいで辞めようと考えてたんですが、そこは販売からしか駄目っていう会社で、本社へ上がるのも2年とかでは無理な話で。でも数字を出してアピールし続けたら、なんとか1年で本社へ上げてもらえました。異例やったと思います。そして結局2年で辞めたんですが、自分のブランドを始めて忙しくなる前に1年間なんかやろうと。半年で100万円を貯めて、3〜4カ月ロンドンに行ってきました。ずっとぶらぶらして、お金使い果たして帰ってきて、無一文でブランドをスタートしたっていう感じですね。

 

運に恵まれたブランドのスタート

ロンドンから帰ってきてから、安い生地を買って、服をいっぱい作って、写真を撮って……でもその後にどうしていいのかが分からなくて。会社員時代にはインディーズブランドショップみたいなのに持ち込んでお小遣い稼ぎみたいなことをしてたんですけど、本格的にやるにはどうやればいいのか。どこかの誰か、バイヤーと呼ばれるような人に見せないといけないんだろうなとは思っていたんですが、バイヤーがどこに存在するかも分からないし、展示会とかも全然知らなかったし。

で、もうなくなっちゃったんですけど、当時アゴストショップっていう会社が大好きだったからダメ元で事務所に行って、作っている服を見てくれませんかって。ほんと運が良かったんですが、受付で何となく通してくれて、たまたま社長が30分ぐらい時間があったから暇つぶしに見てくれて。結果アゴストショップの展示会にサンプルを並べてもらえることになり、食べるためのバイトはしなくてよくなりました。当時から古着のリメイクはやってたと思うんですけど全面的に押し出してはなく、きれいまではいかないですけどモードチック、アバンギャルドなモードみたいな感じの服を作っていましたね。

アゴストショップで3年間ぐらいかな、もう丸投げでできてたから、次のシーズンからやりませんって言われたときにはすごい悩みました。そのときから合同展に出だして、何年かしたら自分が合同展を主催するようになって。仲間内のブランドが増えてきたんで小っちゃいスペース借りて、10ブランドぐらいで。そのほうが安く済むし、自分たちの知っているバイヤーを呼び集めてやっていました。

 

tomoki yuritaのクリエーション

ブランドコンセプトはありません。シーズンのコンセプトとかも、いままで作ったことがないんです。言葉自体がまず苦手で。かっこいい言葉を探していく旅にはきりがないじゃないですか。だったら、1着作ったほうが早いし。

お笑いがめちゃめちゃ好きというのも関係あるかも。漫才はもうずっと好きで、ここ2、3年は落語にはまってて。音楽を全然聴かないので、作業してるときは落語をBGM代わりにずっと流して聞いてるからこそ、言葉を武器にするのは無理やなって思うんですよね。俺の範疇じゃないなって。

tomoki yuritaらしさみたいなのもあんまり意識はしてないし、他のブランドとかメゾンのコレクションなんかもあんまり見てないです。展示会には行くけど、服見に行くっていうよりも、友達がいたら話すぐらいな感じで。

ここ10年ぐらいはリメイクがほとんどなので、服作りについて一番考えてるのはたぶん古着を買ってるとき。買い終わって作業場に到着して、これとこれとこれを組み合わせようとかってときにはもうほとんど何も考えてないかもしれないです(笑)。買った古着は解体して、全部組み合わせて余すところなく使ってく。縫い代部分だとか、穴が開いてたり汚れてたりしたらそこは捨てるけど、それ以外はほとんど使えてる感じですね。古着じゃない生地を使うときにも、基本的に全部一点物で、組み合わせが違うように作ってます。

いま年間の着数でいったらどれぐらいなんだろう。小物とかも合わせちゃうと、もう2000とか行くかもしれない。俺、かなり手が早いほうやと思うんですよ。たぶん1日平均5着とかは作ってるのかな。ほんとはぜんぶ一人でやってるってのも、何とかしないといけないんですけど……体力面がやっぱりね。今回の展示会前も、集中して整体とはりに行って、1回ゼロまで戻して。

スランプも昔はありましたけどね。最初の10年間ぐらいはコレクション誌見たりとか、街に出掛けていろんなものを見たりとかを意識するようにはしてたけど、それを無理してやってたときは、やっぱ生みの苦しみがあってしんどかったですね。いまは何も初めから意識しないから、苦しみはそんなにないかもしれないです。ただ単に作業が大変っていう(笑)。

 

服を作り続けるということ

認められて褒められると、やっぱりうれしいですよね。初期の頃、街で歩いてた女の子が俺の作ったスカートをはいてるのを発見して思わず話しかけにいったら、横で歩いてた彼氏にすっごいにらまれたり(笑)。ただ俺自身は服に限らず、小っちゃい頃からそうだったんですけど、作るまでがピークで、作った瞬間からそれが嫌いになる。自分の作ったものに対して固執してないんですよね。いままで作った服で自分が着てるのって、ほんまに数着しかない。

基本的には、そのとき作りたいものを作っています。たまに誰かの衣装とかやるときとかは、やっぱりその人を想像してやるけど。衣装のデザインがすでに決まってる場合は、tomoki yuritaとしてではなく仕事として縫うことはやりますって感じで受けたりとかするし、(森山)直太朗のやつ(コンサートツアー『人間の森』)は、「やるんなら全部やりたい」っつって、直太朗の服と、あと演奏する人、舞台に立つ人、楽器を出し引きしたりとか、マイクセッティングする人の衣装まで全部やらしてもらって。自分の服が舞台でこうやって出てきて、なんやろな。すごく新鮮でしたね。いままではもう全然知らないタレントさんに作る衣装やったけど、直太朗は展示会で買ってくれたりとか、一緒にイベントしたりとか、友達でもあるから。でも、やっぱり作った時点で終わっちゃってるような気もしますね。

たぶん俺はものを作るのが好きで、既製品が好きじゃないってだけ。欲しいものがあったとしても高くって、じゃあ自分で作っちゃおうっていう。DIY精神というか、貧乏性なのかもしれないです。

tomoki yuritaでは毎シーズン、ほとんど同じテイストで作っているけど、それは変えてもしょうがないと思ってるから。トレンドを追ってるわけじゃないし。でも人のやることやから、いまこう言ってても、来年めっちゃトレンドを追うブランドになってるかもしれないですけど(笑)。

 

あなたにとってファッションとは?

「回答なし」

これに答えるのは、いろんな面で難しいなって思うんですよね。すごく考えればかっこいい2字で終わるだろうし。でもそのときによって、食いぶちでもあるし、人を幸せにするものでもあるし、普通の人が考えるファッションと一緒やと思います。デザイナーやってるからといって、ファッションはこうですとかっていうのは、俺はないですね。

 

その他のデザイナーインタビューはこちら

  • Text : Yusuke Takayama
  • Photography : Yasuharu Moriyama

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