AURALEE 2026年春夏メンズコレクション、日常のささやかさに宿る美意識をかたちにする


ファーストルックは、ブラックレザーのセットアップ。強い日差しのパリでは少し重たく感じられるが、これは始まりの一歩に過ぎない。続くルックでは、レザージャケットにコートを重ね、その下にはスイムウェア風のアイテムを合わせた。黒からグレー、そしてエクリュへと、色彩は次第にやわらかく明るく移ろい、冬から夏へ向かう気配をまとっていく。
日常の中にある感覚をすくい上げ、服づくりへと昇華させるという、岩井氏の手法は一貫していた。今回、彼が着目したのは日本の風物詩「春一番」。冬を越え、春の到来を告げるその風は、暑さと寒さが入り混じる不安定な季節に吹く。朝、何を着ればいいのか迷うような時期。夏服と冬服が混在し、どこかちぐはぐなバランスになる。その不確かさ、そしてふと表れるパーソナリティに、岩井氏は惹かれた。風でまくれ上がる服、知らぬ間に服に付いた花びら――そんなジェスチャーも、どこかチャーミングに映る。







突風に着想を得ながらも、繊細な視点から生まれる<AURALEE>の風はささやかな喜びに満ちたものだ。一見重みを宿すレザーは、実は非常に薄くしなやか。ウールのように見えるセットアップは、実はカシミアを強撚したもの。他に、リネンとシルクのツイードや、二重に重ねることで柄を生み出すシルクのオーガンジーなど、細部に密やかな工夫が施されている。見た目は控えめながら、触れて、動いて、はじめて気づく驚きがある。




コレクション全体を通して、柔らかなカラーパレットと素材のハリ・落ち感が心地よいリズムを生み出し、スラブニットが穏やかなアクセントに。足元にはビーチサンダルが多く用いられ、ブランドの定番であるニューバランスとのコラボスニーカーも新作が登場。さらに、アイウェアブランド「アイバン」との共同制作によるサングラスも披露された。





パリファッションウィークでもその存在を定着させつつある<AURALEE>。「誇張するのではなく、ただ続けていきたい」と語る岩井氏は、目の前にあるものを丁寧に見つめ、地に足のついたクリエイションを重ねていく。その姿勢が、このささやかで確かなコレクションに結実している。





- Text & Back Stage Photo : Ko Ueoka
- Edit : Yusuke Soejima(QUI)




