見る者を狂わせる月のように。小川裕樹|lunaticデザイナー
千葉県出身。2016年3月、ドレスメーカー学院卒業。同年、自身のブランドlunaticをスタートし、2017SSコレクションを発表。
その瞬間、自分が進みたい世界が見えた
どちらかというとワンパクで、外で駆け回っている方が好きな子どもでした。ファッションに興味を持ったのは中学生のころ。友だちにおしゃれな子がいて、彼の影響でいろいろな洋服を見たり買ったりし始めました。ただ、いろんな雑誌を読んでも自分が好きなブランドや系統が見つからないなと思っていたんですが、高校生になってパリコレが掲載された雑誌を見たときに「あ、俺が行きたいのはこの世界なんだ」と。心を捉えられたのはDRIES VAN NOTEN(ドリス ヴァン ノッテン)のコレクションでした。そのときにファッションに目覚めた感覚はありますね。デザイナーになろうと、ぼんやりですが思った瞬間です。コレクションブランドの洋服は高くて買えないことの方が多いので、ショップに行って袖を通してみることを繰り返していました(笑)。
高校卒業後はドレスメーカー学院という東京の服飾専門学校で3年間学びました。1・2年で洋服の基本的な作り方を学び、3年目には自分のクリエーションをどう生み出していくかという授業が主でしたね。また入学したあたりから小説を読むようになって。王道かもしれませんが、中村文則さんとか村田沙耶香さんとか、そういう方が書いた小説には服作りにおいても影響を受けています。いまでも本はできる限り読んでいます。
自分のブランドは、上京して専門学校に入学したときから立ち上げたいと思っていました。就職しちゃうとあんまり自分の行きたい方向のデザインができなくなるかなと。卒業したのが2016年の3月、その3カ月後の6月にはroomsという合同展示会でLunaticのファーストコレクション2017SSを発表しました。
いま作りたいものを作りたい
ブランド名のLunaticは「頭がおかしい人」という意味。Luna=月で、月に影響されておかしくなった人が「Lunatic」。月のように人の感情を揺さぶって狂わせるほど美しいものを作りたいという思いを込めています。
コレクションの作り方はコンセプト先行です。まずはコンセプトを固めて、表現したいことと、ビジュアル的にどういう写真に収めるかということが固まるまではまったくデザインもしないです。イメージが決まったら、それに沿ってデザインや生地選びをする感じで。服に仕立てるときの決め事のようなこだわりはとくになくて、毎シーズン自然に同じ感覚で作っています。
コンセプトはその時の気分だったりするんですけど、たとえば2019SSだと0.002519度っていうのがコンセプトになっていて、それは水が固まり始める温度と氷が溶け始める温度。この温度と明確に決まっているのにどこか曖昧な感じを表現したくて、冷たいのか暖かいのかよく分からないドラマチックな世界観を目指しました。
作るものは自分が着たいというよりも、作りたいと思うものを作る方が多いですね。もちろん自分で着てみたら「意外と似合ってるな」ということもあるんですが。特徴としては、メンズウウェアなんですけどレディスでしか使わない素材だったりサイズ感だったりを取り入れていて、どこか中性的な世界観があるところでしょうか。たとえばレース素材は毎シーズン使っています。そういうこともあって女性で着てくれている方もいます。
定番だとシンプルなテーラードジャケットは毎シーズン作っています。テーラードジャケットはもともと好きで、サイジングは結構タイト。既製服というよりはオーダーメイドで作るようなクラシックで本格的な仕立てで作っているんで苦労しますね。
表現することが一番大切
ブランド3年を振り返って……あっという間と言うにはしんどすぎたなと(笑)。楽しいのはサンプルがあがって、予想以上に良い服ができていたとき。あとフォトグラファーの方と現場で相談しながら即興で撮り方を変えたりして、それで良い写真ができたときはうれしいなと思います。
撮影でいえば、2019SSはルックブックも好きですね。洋服作ってるクセに洋服がよく分からない写真も多いのですが、コンセプトに基づいた世界観の表現が一番できているのかなと。棒立ちのルックを撮るブランドが多いと思うんですが、僕は個のアイテムよりも表現したい世界観を重視しているのでドラマチックな撮り方を心がけています。
現在は毎シーズン20〜25型ぐらいを発表しています。将来的にはランウエイもやりたいので結果的に増えていくかもしれません。デザイン、パターン、ものによっては縫製まで一人でやっているので大変といえば大変ですが、自分にとっては表現することが一番大切で、ファッションがその術を与えてくれました。だからファッションはずっと好きだし、嫌だなと思ったことは一度もないですね。
あなたにとってファッションとは?
「表現するためのツール」
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- Text : Yusuke Takayama
- Photography : Naoto Ikuma