QUI編集部が未知なる才能を追い求めて|paratrait デザイナー 坂井俊太
今回取り上げるのは<paratrait(パラトレイト)>。クリエイションについて、デザイナー自身について、バックボーンについて。知られざる魅力を深掘りし、強く発信してみたい。
文化服装学院で学んだ後渡英し、Istituto Marangoniのロンドン校で修士課程を修了。その後<Alexander McQueen(アレキサンダー・マッ クイーン)>と<BURBERRY(バーバリー)>でウィメンズウェアデザイナーを経験。日本に帰国後、デザイン事務所を設立。国内外のブランドにデザイン提供し、現在は <DAIWA(ダイワ)>などのデザイナーも務める。 2023 年、秋冬コレクションより自身のブランド<paratrait(パラトレイト)>をスタートする。
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審査員の粋な計らいでイスティチュート・マランゴーニのロンドン校へ
QUI:坂井さんは文化服装学院を2年終了時に編入し、イギリスでファッションを学んでいますが、日本では学び足りなかったということでしょうか。
坂井:海外でも学びたいという思いは文化服装学院の頃から持っていたんです。日本と海外では教えること、教え方が全く異なるだろうと思っていましたが100%想像通りでした。
QUI:日本と海外ではどんな違いがありましたか。
坂井:日本のファッション学校が教えてくれるのは縫製などのテクニックがメインです。でもデザインとなるとやはり海外じゃないと学べないことは多いです。日本で教わる「いいものを作る」というテクニックにおいては世界一だと思いますけどね。
QUI:海外でも学びたいと思ったのどうしてですか。
坂井:海外に行くことになった直接のきっかけはファッションコンテストの副賞でした。それは英国、イタリア、フランスのファッション学校のマネージャークラスの方が審査をするコンテストだったのですが、そこで受賞するとスカラシップで学費が免除になったんです。そのコンテストはもう無くなってしまったんですけど僕はそれだけをずっと狙っていました。でも実は落選しているんです。
QUI:英国には副賞として留学されたわけではないんですか?
坂井:そこはちょっとした裏話がありまして。ファイナルで審査員と顔を合わせて面談をしたのですが、どこの学校に留学したいかを聞かれました。留学先のひとつとしてイスティチュート・マランゴーニがあったのですが行き先はミラノ本校と決まっていました。でも僕はロンドン校を強く希望していたのでイスティチュート・マランゴーニの審査員はわざと僕を落選させたんです。落選してしまえばミラノに行く必要もないと、スカラシップと同じ条件でロンドン校に引っ張ってくれました。ロンドンを希望したのは<Alexander McQueen(アレキサンダー・マックイーン)>のやっていることの面白さ、新しさに強い憧れがあったからです。
QUI:<Alexander McQueen>ではデザイナーとして仕事をされていますが、どのようなきっかけだったのですか。
坂井:みんな<Alexander McQueen>で働きたいと思っているのであの手この手を考えますよ。僕はマックイーン本人を出待ちしました(笑)。そこでポートフォリオを見せて「働きたいです」って伝えたんです。その思いが通じたのか、最初はインターンからのスタートではありましたが朝から晩まで働
QUI:その次のキャリアは<BURBERRY(バーバリー)>でしたが、門を叩いた理由はなんでしょうか。
坂井:当時のディレクターがクリストファー・ベイリーでブランドとして勢いがありましたし、やっていることもかっこいいなって思っていました。僕はリアルクローズが好きなのですが、そこに対してもその頃の<BURBERRY>に新しさを感じたんです。
QUI:<Alexander McQueen>と<BURBERRY>での経験で坂井さんが得たものはなんでしょうか。
坂井:どちらもトラッド出身ですから、モノづくりということではすごくしっかりしていました。デザインのフロー、発想の仕方などは現場だからこそ学べたことだと思います。<Alexander McQueen>で印象に残っているのは、デザイン案をトップにチェックしてもらうときに良くないものに対しては「セクシーじゃない!」と扱き下ろされるんです。いいか悪いかの評価基準が「セクシー」というのは日本にはない発見でした。
QUI:たしかに、「セクシー」という評価基準は日本ではあまり聞いたことがないかもしれないです。
坂井:僕はデザイナーとしての学びは自問自答の繰り返しだと思っているので、自分が持っていなかった「セクシー」というクリエイティブの価値感を知ったのは大きかったです。あと学んだことといえばファンタジーの具現化ですね。
QUI:ファンタジーの具現化とは?
坂井:僕が英国にいた2010年頃はファッションのクリエイティブも戦国時代で、どれだけオ
守備範囲は広くても「プロダクトとしての洋服」という考え方を貫く
QUI:<Alexander McQueen>はモード、<BURBERRY>はトラッドとブランドイメージとしては共通項が少ないような気がします。坂井さん自身がやりたいデザインというのも幅広いのでしょうか。
坂井:英国ではウィメンズが主軸でしたが<paratrait>はメンズですし、その意味では守備範囲は広いかもしれないです。でも自分がやりたいファッションというのは一貫していて、「プロダクトデザインとしての洋服」という考え方がずっとあります。服としてデイリーでリアルに着ることができるということです。<Alexander McQueen>もパワーにあふれる派手なクリエイティブに目を奪われがちですが、バックボーンとしてテーラリングがあって服作りとしては正統派なんです。
QUI:<paratrait>はテックウェアの要素が見られます。坂井さんは<DAIWA(ダイワ)>でもデザイナーをされていますが、そこでパフォーマンスウェアに触れていることが関係していますか。
坂井:関係はありますね。<paratrait>の立ち上げは<DAIWA>でテクニカルなことに携わったことがきっかけのひとつで、英国で学んだトラッドと日本で関わったテックウェアの融合というのが実現できると思いました。「トラッド×テック」というファッションは自分のオリジナリティにできると。
QUI:帰国直後はデザイン事務所を始めていますが、それは<paratrait>の準備期間を設けたかったのでしょうか。
坂井:ファッションに限らずデザインというものが好きだったので、さまざまなプロダクトデザインに携われるデザイン事務所をやりたかったんです。クライアントの依頼に対して最適解のデザインを考える、機能を発揮するプロダクトを提案するというのは今でも大好きです。
QUI:坂井さんが考えるファッションにおける機能というのは決してスペックではないですよね。
坂井:「プロダクトデザインとしての洋服」というものを考えたときに「きちんとしたモノづくり」というのがあって、トラッドというのはそのひとつの答えだと思っています。<paratrait>もトラッドをベースにしているのはそういう理由からです。僕にとっては完成品が醸し出す佇まいのすべてが機能であって、そいう意味ではセクシーも可愛いもかっこいいも機能であり、そいう捉え方ができるのがファッションだと思います。スペックを機能とするのはテックブランドがやっていることなのでそこを追求しようとは思いません。
「トラッドをテックでアップデートする」をさらにやり切っていく
QUI:「トラッド×テック」というのは常にベースにあると思いますが、新しいコレクションはどのようにして思いつくことが多いですか。
坂井:最近はネパール、スリランカ、オーストリアを訪れましたが、気になっている国を旅行するようにしています。やりたいことは毎シーズンある程度は見えていて、そんな状況で自分が気になっている国を訪れるので必ず刺激はありますし、結果としてアイデアにつながります。
paratrait 2025SS Campaignのヴィジュアルルック。
2025春夏シーズンではスリランカが生んだ天才建築家ジェフリー・バワによる「地域環境と建築物の融合の上に成り立つ近代空間」にインスパイアを受けた。
2025秋冬シーズンのインスピレーションを求めて、8月末に行ったネパール。
QUI:やりたいことを見つけに行く旅ではないんですね。
坂井:やりたいことは見つかっているので、そのテーマやアイデアを固めるための旅行ですね。やりたいことはたくさんあるので、今のところはコレクションのテーマで困ることはないですね。むしろ手が足りないぐらいです。
QUI:先日、「TOKYO FASHION AWARD 2025」を受賞されましたが率直な感想を教えてください。
坂井:受賞は素直にありがたいです。ブランドとしてももっと露出したいと考えていたので「TOKYO FASHION AWARD 2025」の受賞は<paratrait>のことを知ってもらえるきっかけにもなるとも思っています。
第10回目となる「TOKYO FASHION AWARD2025」を受賞したデザイナー集合写真。
QUI:受賞はブランドとしてどこが評価されたと思いますか。
坂井:審査員コメントは「もっといける」でした(笑)。それは僕の海外でのキャリアなどを評価してくれているからこそ、もっと飛ばせるぞという激励でもあると思っています。
QUI:今後<paratrait>でやっていきたいクリエイションはありますか。
坂井:「トラッドをテックでアップデートする」というスタンスは変えるつもりはないですが、4シーズン目の展示会を終えてもっと飛ばしていいのかなと思っています。これまで手探りでしたけど、もう少し攻めてもいい頃かなと。飛ばすといっても気を衒うようなことをしたいわけではなくて、「プロダクトデザインとしての洋服」をやり切っていくという感じですね。今の時代だからこそできることをやり切りたいです。
paratrait 2025SS COLLECTION はこちらから
HP:https://www.paratrait.com/
- Photograph : Kaito Chiba
- Text : Akinori Mukaino
- Edit : Miwa Sato(QUI)