【BEHIND THE RUNWAY – pillings】レースカーテンに重ねた衣服という存在|Rakuten Fashion Week TOKYO 2025S/S
バックステージレポート
自分の身体と外界を繋ぐ衣服という存在は、時に着る人自身を表すものであり、時に自分を守る武装装置にもなりうる。部屋の中と外を隔てる薄いレースカーテンに、自分の身体と外部の間を隔てる唯一の存在である衣服を重ねた。
<pillings(ピリングス)>といえば2014春夏コレクションでデビューして以来、デザイナー村上亮太と村上の母による自転車操業でコレクションを発表。その後、2018春夏コレクションからは村上亮太が単独でデザインを担当し、2023年にはサザビーリーグと事業譲渡契約を締結したことで、型数の増加や自動機によるニット類のバリエーションが期待されていた。ふっくらとした人の手の温もりを感じる手編みのニットが代表的な<pillings>は、2024秋冬シーズンでブランド初となるレザーのコートが登場し、新たな素材への挑戦と表現における探究心が垣間見えた。
続く、2025春夏コレクションは千代田区北の丸公園内に位置する科学技術館で発表された。大きなグレーのカーテンに覆われた窓、ツルツルとしたフローリングタイルが広がる会場にどこか冷たさを感じながらも日常的に見慣れた公民館や病院の待ち合い所を想起させた。今回のコレクションについて「過剰じゃない静かな風景に目を向けたかった」と語る村上。カチッカチッと規則的なメトロノームの振り子の音に合わせてモデルたちが歩くというシンプルな演出に、自然と意識は衣服へと集中した。
ファーストルックはヌーディーなベージュカラーのニットトップスにスッキリとしたスティックパンツがシルエットを強調。続く、ルックも一貫してスキンカラーをベースに、胸元に皺をよせたシャツやポケットの裏地が透けて露わになったパンツ、光沢感のあるナイロン生地で仕立てた半袖シャツ等、布帛が多数登場した。自動編み機で製作されたハイゲージのニット類はトップスとカーディガンがドッキングされたデザインに淡い色合いがコレクションに軽快さを生む。中盤にかけて多数登場したシャツやニットに重ねられたカーディガンのスタイリングでは袖を通さず、垂れ下がる様子に社会と折り合いのつかない女性像が重なった。
後半にかけて漂うロマンチックさと奇妙さは、スタイリングによってレイヤードしているかのようにみえるボリュームのニットドレスと独特のテクスチャーで単調なリズムを崩すハリ感のあるドレスが演出した。2枚目のルックは今回のコレクションの着想源の1つでもあるレースカーテン柄で編んだニットを樹脂のコーティングで一つ一つ手で固めたのものだという。
村上は2025春夏コレクションの出発点に70年代前後に台頭した「内向の世代」を代表する作家の1人、古井由吉の作品「杳子(ようこ)」にブランドが掲げる「社会と折り合いのつかない女性像」を重ね合わせた。村上は「ただ空がきれいだな、とかなんか花がきれいだなとか何気ない日常の一部分を見る目が、どんどん失われているなと。そういう視点をもっと持つことは大事だと思うし、今そういうものを持つっていうのが僕にとっては一番幸福なことなんじゃないかなと思って。今回のコレクションでも、起伏が激しい過剰なことはしないでおこうと決めていた。」と話した。決して華美ではない演出は、<pillings>が掲げる女性像を体現するモデルの表情やヘアからも伺えた。どこか虚げな表情に儚さを感じる一方で、無造作ヘアの一部が細く垂れ下がる様子は不憫さを孕みながら妙に艶かしく観客の心を引き寄せる。
これまでの<pillings>では、ブランドが掲げる女性像に毒々しさとじめっとした湿度を感じてきた筆者だったが、2025春夏コレクションでは社会と折り合いのつかない人物像を微細なディテールや演出で重ね合わせながら、心に生まれた余白のようにも感じ取れた軽快さが成熟した精神性を表現していた。素朴で優しい眼差しで見つめる喜びは、<pillings>をまた新たな価値観と美学の探究へと導くのだろうと感じた。
デザイナー 村上 亮太 インタビュー
― 今回のショーで伝えたかったことを教えてください。
あまり過剰じゃない演出や静かな風景みたいなものに目を向けました。派手な広告や数字に捉われる日常の中で、「今日の空はいつもより雲が多いな」とか「木漏れ日が綺麗だな」とかそういった視点を持つことが、今の僕にとって大事だと感じたんです。
スタイリスト Ai Takahashi インタビュー
― 村上さんとのショーの準備を進めるにあたって印象に残っているエ
今回のコレクションは、「日常の中にある小さな起伏、
― ショーのコンセプトや世界観をスタイリングではどのように落とし
今回のコレクションは、「ありふれた日常の中の気怠い情感」や「自己と外の世界がぼんやりと交わる感覚」など、
キャスティングディレクター Kosuke Kuroyanagi インタビュー
― 村上さんとのショーの準備を進めるにあたって印象に残っているエ
今回、初めて<pillings>のショーキャスティングのご相談を頂き
― ショーのコンセプトや世界観をキャスティングではどのように落とし
モデルさんのポテンシャルももちろん大事ですが、
メイクアップアーティスト Rumiko Ikeda Harris(M・A・C) インタビュー
― 村上さんとのショーの準備を進めるにあたって印象に残っているエ
毎シーズンテーマが分かりやすい!心の内面を大事にした内容で、
― ショーのコンセプトや世界観をメイクアップではどのように落とし込
特にこだわったのは質感です。心の内面を表現する為に、
ヘアスタイリスト Hidetoshi Saiga(TONI&GUY)インタビュー
― 村上さんとのショーの準備を進めるにあたって印象に残っているエ
デザインが生まれるまでの一連のルーティーンがいつもすごいなと思っています。村上さんは毎シーズン、
― ショーのコンセプトや世界観をヘアではどのように落とし込
日常の中にある見落としがちな何気ない美しさを丁寧に描くこ
2014年春夏、村上亮太と母・村上千明によって<RYOTAMURAKAMI>をスタート。2018年春夏にはデザインを村上亮太が手がける形となり、2021年春夏からブランド名を<pillings>に変更する。
- Photograph : Kaito Chiba
- Edit : Miwa Sato (QUI)