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UTILITY浜中健太郎×スタイリスト橘昌吾|原宿で9年。UTILITYが見てきたもの、育てたもの

Apr 28, 2019
2010年、原宿とんちゃん通りにオープンしたセレクトショップUTILITY(ユーティリティ)。オーナーでありエフェクテンのデザイナーでもある浜中健太郎は、スタイリスト橘昌吾をファッションの道に導いた「師」でもある。
いまや人気アーティストのスタイリングを数多く手がける注目スタイリストとなった橘昌吾と、原宿のファッションシーンを見つめ続けてきた浜中健太郎の師弟対談で、ふたりのルーツを探る。

UTILITY浜中健太郎×スタイリスト橘昌吾|原宿で9年。UTILITYが見てきたもの、育てたもの

Apr 28, 2019 - FEATURE
2010年、原宿とんちゃん通りにオープンしたセレクトショップUTILITY(ユーティリティ)。オーナーでありエフェクテンのデザイナーでもある浜中健太郎は、スタイリスト橘昌吾をファッションの道に導いた「師」でもある。
いまや人気アーティストのスタイリングを数多く手がける注目スタイリストとなった橘昌吾と、原宿のファッションシーンを見つめ続けてきた浜中健太郎の師弟対談で、ふたりのルーツを探る。
Profile
浜中健太郎(はまなか・けんたろう)
UTILITYオーナー/EFFECTENデザイナー

1982年、函館生まれ。文化服装学院テキスタイル科を卒業後、アッシュペーフランス、(株)スミスを経て2010年に仲間とセレクトショップutilityを立ち上げる。(株)colorless代表取締役兼effectenディレクターとして活躍する一方、飲食店のディレクションやドッグウェアブランドのディレクションなど活躍は多岐に渡る。あくまでも誰が来てもまったりできる空間utilityを維持する事をベースにしている。

橘昌吾(たちばな・しょうご)
スタイリスト

1991年京都府生まれ。千葉県育ち。文化服装学院スタイリスト科を卒業後、2015年より活動を開始。 ミュージシャン、タレント、ルックブック、ショー、写真展等のスタイリングやディレクション、展示会やポップアップショップの空間演出 にも携わっている。

http://shogotachibana.com/

https://mobile.twitter.com/shogo_tachibana

https://www.instagram.com/shogo_tachibana/

あの坊主頭の野球少年が…

ー おふたりの最初の出会いは?

浜中:昌吾はUTILITYができる前、その前身のショップのときからのお客さんなんです。

橘:はじめて来たのが高校2年生。ずっと野球をやってて、坊主頭でこの店にやってきました(笑)。修学旅行の服を買うかなんかの理由で。

ー おしゃれが好きだった?

橘:いや、その頃は全然わかんなかったです。母親が買ってきた服でいいやってレベル。でも僕好きなアーティストがいて、その人がよくここの服を着ているっていうのを雑誌で読んで、それで原宿に来たんです。

浜中:そうそう、雑誌持って来てたよな、当時。めちゃめちゃ覚えてる。それから毎週のように来るようになって。

橘:はまっちゃたんですよね。浜中さんがいろいろ教えてくれるから。

浜中:いや、昌吾はただ服を買いに来る少年ではなかったです。常にメモ帳とペン持って。どういうブランドを買ってるんですか?とかきかれて、あれこれ答えると、全部メモとってるんですよ。

橘:それを次の週までに全部調べあげてきて(笑)。対等には話せないですけど、ちょっとは会話ができるようにしたかったんですよね。

浜中:気付いたら、そのブランドを身に着けてたりとかもあったよね。なんか、自分が服を好きになったときの感覚に似てるなあと思って。

ー ほかにも橘さんみたいな若いお客さんは多かった?

浜中:いや、いないですね。本当に好きなんだろうなって思って。そのうちスタイリストになりたいって言い出したんですよ。僕ら、スタイリストの世界はめちゃめちゃ大変なのを知ってたんで、現実知ったらやめちゃうんだろうなって正直思ってたんですけど。まさか、20代半ばにしてここまでいくとは…。

 

作っているのは、ファッションでありカルチャー

ー UTILITYがオープンした2010年頃の原宿は?

浜中:正直下火でしたね。家賃も下がっていたし、空き物件も多かった。ブランドが積極的に参入する街じゃなくなっていたという印象でした。

橘:僕はその頃文化服装学院の1年生になっていて。当時あったお店とか覚えてますけど、生き残ってる店、ほんと少ないですよね。

浜中:たしかにね。アローズがセブン-イレブンに変わっちゃう時代だもん。

橘:原宿っぽいとか渋谷っぽいとか、いまでもありはするけど、年々薄くなってる気がしますよね。なんか、ごちゃごちゃジャラジャラした服着てる人とかいたじゃないですか。あれはあれで、何かよかったですけど(笑)。

浜中:いまってみんな結構おしゃれじゃん?平均値が高くなってるでしょ。そこのところどう思う?

橘:買いやすくなってるっていうのはありますよね。ZOZOTOWNしかり、ファストファッションしかり。安く、手軽にいろんな物が手に入る。2010年頃にはまだいい服は高いお金出さないと買えなかったけど、いまは安くてもおしゃれする方法がいくらでもある。そこは、おしゃれの底上げにつながってるんじゃないですか。

ー ご自身でショップやブランドを運営する立場として、ファストファッションを意識することは?

浜中:僕はもうまったく別物だと思っていて。例えばユニクロとかって、生活必需品に近い分野じゃないですか。僕らがやってるのは、ファッションだし、カルチャー。こういう理由があるからここの服を買いたいとか、彼が雑誌を持って来たようにここをめがけて来てもらう理由がないと、存在意義がなくなっちゃうと思うんです。

橘:そうですね。カルチャー。服だけじゃなくて、何かいろいろ教えてくれたんですよ。こういう音楽聴けとか、こういう映画を観ろとか。なんか、浜中さんたちが勝手に録音してたラジオあったじゃないですか。

浜中:「ポジティブサンデー」ね(笑)。ラジオのパーソナリティになりたいねって友達と話してて、3年くらいやってたんですよ。テーマ決めて勝手にしゃべって、「曲のコーナーです」って曲かけて。誰も聞いてないですよ。録音してるだけだから。配信してない(笑)。

橘:僕が唯一のリスナーでしたよね。USBにデータ入れてもらって、家で課題とかやってるときにBGMとして流してた。結構いいこと言ってるんですよ。ファッションの話だけじゃなく、音楽のこととかいろんなカルチャーについてしゃべってるんで、普通に面白いなと思って。

浜中:こういう熱心な子がいっぱい出てくると、もっとファッションの未来も明るいと思うんですけど。

 

若い発想から次のアクションが生まれる

ー やはり橘さんは特別な存在?

浜中:そうですね。だからこそ、20代中盤にして自分が憧れていたアーティストのスタイリングまでたどりつくというドリームをキャッチしたと思うし、そういう例はほかに聞いたことないですよ。やっぱり彼は、ここをコミュニティの空間と捉えていたんだと思うんです。出入りすることによって、何かしらの出会いが生まれる。それがそのまま仕事につながってくっていう流れですよね。だからいまでは、彼の視点から新しいアクションが生まれています。例えば、コレクションのモデルのセレクトとかも、僕らにはない発想が次々出てくるんで。

ー モデルにYouTuberを起用したり?

橘:そうですね。YouTuberをルックのモデルに起用するって前代未聞で、普通はやっぱりやりにくいと思うんですけど、UTILITYのポジションとか店の雰囲気とかお客さんの層とか、いろんなことを全部考慮してありだろうと思って。浜中さんともよく話すんですけど、本当に服が好きなおしゃれな人たちに対してというより、興味あるけど何着たらいいか分からないみたいな層に僕は発信してるつもりで。それは僕が浜中さんから教えてもらったことなんで。

浜中:やっぱりこれは、10年ぐらい僕らのことを見てるからこそ、できる技なんですよね。僕らはUTILITYを始めるときから、ファッションマニアに向けたブランドや洋服屋をやるつもりはないという姿勢だったんです。結局、その人たちのパイって決まっていると思うんで。服に手を出してみようかな、どうしようかなっていう若い子たちが増えてゆけば、本当の底上げになっていくわけじゃないですか。

ー YouTuberを起用した反響は?

浜中:反響の大きさには正直驚いています。やっぱりいまはSNSの「いいね」とか「リツィート」がひとつのバロメーターじゃないですか。その数が桁違いだったり、ファッションのメディアが、今までよりも濃く取りあげてくれるとか。昌吾はある程度こういう反響を見越して話を投げてきたと思うんですけど、僕はそういう情報、皆無に近いものだったんで、もう「なるほどな」しかなかったですよね。いつまでもすべてを自分でやるような第一線にいる必要はないんじゃないかと思ってて。僕らが細部にまで手を出していくよりも、いまのファッションやカルチャーを見ている若い世代に委ねた方がどう考えてもいいんですよ。そこで跳ね返ってきたアクションを、みんなで共有できて、分け合えていけば、それが結局WIN WINになるわけで。

橘:僕も本当にそう思います。UTILITYができた当時から、浜中さんは学生時代の友だちとかレザー職人の友だちとか、能力のある人たちと一緒に店を作りあげていて、その関係性みたいのがめちゃめちゃかっこいいなと思ってたんです。僕はいまスタイリストとしていろんな人と知り合う機会があるので、例えばパフューマーやってる友だちを紹介して、オリジナルのディフューザー作ったり、そういうことを形にして、教えてもらってきたことを還元したいんです。

浜中:こう話してみると、結構、感慨深いものがあるね(笑)。

 

人が結びつく、社交場としてのUTILITY

ー これからのUTILITYに求めることは?

橘:浜中さんは昔から、自分の着たい服とか、好きなカルチャーをコレクションに反映してるんで、それを変えないでほしい。好きなものを作って売れてるって1番いいじゃないですか。売れるものって正直いくらでも考えつくし、いっぱいあるんですけど、そればっかりやらずに、いいバランスを保ってるお店の姿勢を貫いてほしいですね。

浜中:何も変わらず、ここに存在して、ね。この仕事やってると何が面白いかって、毎年友だちが増えていくんですよ。それはやっぱり、この空間があるからだと思うんです。だから、形が変わろうが、たとえ洋服屋じゃなくなったとしてもUTILITYというのは社交場として、ずっと残したいなっていうのはあるんですね。

橘:この後ろの陳列棚、いまでこそ商品置いてありますけど、もともとバーカウンターですからね。服見ながら酒飲める店っていう(笑)。

浜中:そうなんです。そういうコンセプトで(笑)。

橘:原宿で9年生き残るって、かなりすごいことなんで。まねする店とか絶対出てくると思ったんですけど、できないんですよね。商品のまねはできても、同じ空間を作るのはムリ。やっぱり、服がどうこうだけじゃなく、いろいろ教えてもらえる、学べる場所なんで。

  • Text : Midori Sekikawa
  • Photography : Yasuharu Moriyama

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