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触れたくなるものこそ愛おしい。伊澤直子|PEIENデザイナー

Apr 24, 2019 - FASHION
女性の表面的な強さや可愛さだけでなく、裏にある儚さや毒気も融合させてデイリーウエアとして発信するブランドPEIEN(ペイエン)。生まれ育った中国・北京でグラフィックデザインを学び、東京でファッションを学んだデザイナーの伊澤直子に、クリエーションの源泉とファッションへの思いを聞いた。
Profile
伊澤直子(いざわ・なおこ)
PEIENデザイナー

1983年、中国生まれ。2006年、北京服装学院卒業。2007年、来日。2011年、文化ファッション大学院大学ファッションデザイン科卒業後、2014年までアパレルOEM会社で企画デザインを務める。2015年、PEIENスタート。

日本の雑誌でおしゃれに目覚める

一般的な家庭に育ったので、小さいころからとくにファッションに興味があったわけではないんですが、父が出かけるときのスーツ姿を見てかっこいいなと思っていて。当時私のまわりではスーツ姿の男性が少なかったこともあり、父の佇まいが際立っていました。その記憶は現在にも影響しています。

子どものころは自分の容姿に自信が無く、無口で目立たない存在だったと思います。おしゃれに興味を持ったのは高校に入ってから。きっかけは日本の雑誌で、たとえば『ViVi』なんかを見てかわいいなって。そこに載っているブランドは北京では買えなかったので、週末は友だちと一緒に似ているアイテムをいろいろ探しに行っていました。

小学生から油絵をやっていて、絵はずっと好きでした。当時はデザイナーじゃなくてアーティストになりたくて。今もその気持ちはあります。大学は北京服装学院のグラフィックデザイン専攻に進みました。卒業してからグラフィックデザイナーとして就職して仕事をしたんですが、パソコン作業が性に合わなくて半年後には日本への留学を決めました(笑)。実際に触れないものは、あまり好きじゃないですね。

 

ファッションはチャレンジが大切

2007年に来日し、2009年に文化服装学院へ見学に行ったのですが、カラフルなファッションに身を包んだ学生たちのパワーに圧倒されました。ただ、私は服飾の経験も一切無く、出身も日本じゃないので、いきなり文化の大学院に入ることに不安もあったんです。BFGU(文化ファッション大学院大学)の先生に相談し、作品を見ていただいたところ、心から好きだと思ったら一回挑戦してみればと言っていただけたので試験を受け、入学することができました。

入学時は、日本に来て1年もたっておらず言葉にも苦労しました。BFGUは大学院なので基本的な服飾の知識は知っていて当たり前という環境でしたが、私はそれまで服飾についてまったく学んでこなかったので、最初のころは結構落ち込んでしまって……。転機となったのは1年生の10月、先生たちとパリファッションウイークを見学に行ったことでした。ファッションは本に書いてあることや先生が教えてくれるものだけじゃなくて、自分自身のチャレンジも大切だとすごく刺激を受けました。帰国後は再び火が付いた感じで、いろんなコンテストに出品して入選できたことで自信も持てましたし、1年生終了時の評価でトップ10にも入れました。

BFGU在学時の作

BFGUでの2年間を経て、卒業後はOEMの会社に入り、109などのギャル系ファッションのデザインと企画をやりました。そのときに夫と出会い、結婚して子どもができ、半年ぐらい産休に入りました。復帰してから、もともと自分の中にあった、こうやって平凡で安定した一生で良いのかという思いがむくむくと大きくなり、夫に「最後に一度自分のブランドにチャレンジしてみたい」と相談しました。すると意外にも反対されませんでした。OKというか、自分のお金でやってくださ〜いって(笑)。ちなみに夫はまったくファッションに興味がなく、出かけるときにも「もうちょっとちゃんとして」ってよく喧嘩しています。

 

手作りや手触りなどへのこだわり

自分のブランドPEIENを立ち上げたのは2015年5月。ブランド名は中国での自分の名前を元にしています。手作りもの、手に触れたくなるようなものを作りたいと考えていて、日本の昔の生地やインテリア用の生地などを探して使用することも多いです。アイテムによっては自分で撚った糸を使って刺繍をすることもありますね。

生地は普段からいろいろ探しています。私が探しているような生地はあまり人気がないのか、生地の量が確保できないものが多くて。基本的には生地を見ていたらデザインが出てくることが多いです。たとえばこのスカートは、生地幅1.2mをレングスに設定して、生地の両耳をそのまま生かしてデザインしているんです。

PEIEN 2017-18AW COLLECTIONより

手作りや手触りなどの素材感にこだわる理由は、たとえば人間の温かさ、服を作るときのストーリーを服の中に入れ込みたいから。作っているときは夢中になれて楽しくて。なにより手を動かすことが好きですね。

シーズンごとのテーマはあまりしっかり決めておらず、そのタイミングで感じていること、たとえば2017-18AWは小さいころのお父さんの記憶、スーツをイメージしたコレクションになっています。強めの女性をイメージし、男性も着られるユニセックスで作りました。

PEIEN 2017-18AW COLLECTIONより

もともとグラフィックデザインをやっていたので、ルックブックにもこだわりがあります。PEIENのことをちゃんと知らずに、ただファッションを作るために撮影されることは好きじゃないです。2017-18AWからいまずっとお願いしているフォトグラファーは、パリと東京で仕事をしているYuji Watanabeさん。私のホームページを見て「結構好きな洋服なんですけど1回話してみませんか」と連絡をいただいたのでお会いしところ、アートや建築、音楽など、私の感性とも合っていたので一緒にやってみましょうとなりました。

母となったことが作品に影響することもあります。2018SSは母と子をイメージして作りました。我が家の長男もこのモデルの子と同じく天パでかわいいんですよ(笑)。

PEIEN 2018SS COLLECTIONより

 

ブランドの本質を見つめ直す

PEIENのコレクションには「和」の要素がずっと入っています。刺し子や藍染めなどの生地、きもののパターン、家紋などのディテールを落とし込んでいます。目の肥えた方からは「もしかして日本の文化が好きなんですか」と指摘されることもありますね。

日本人は日本に対して慣れすぎているのでどこが面白いか気づかないかもしれませんが、私の視点からは日本の素敵なところがたくさん見えてきます。私の好きなものを詰め込んで、それでいてデイリーに着られる服を作りたいです。

2019SSからはTシャツもリリースしました。パリ在住のフォトグラファーAlex Huanfa Chengの写真を使用しています。ただおしゃれできれいな表現ということだけでなく、表現者の考えをどのように伝えるか、そこにずっと興味があります。

PEIEN 2019SS COLLECTIONより

今年、2019年はPEIENを始めて3年目のシーズンです。時間とともにファッションの好みは変わってきます。考え方も変わってきます。デザイナーとして、ブランドの代表として自分に足りない部分や、ブランドを始めた原点を見つめ直し、何をどのように作っていくかをきちんと考えるタイミングだと感じています。

将来は……いつか東京、そしてパリのファッションウイークに参加したいですね。

 

あなたにとってファッションとは?

「自分自身の成長」

 

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  • Text : Yusuke Takayama
  • Photography : Naoto Ikuma