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LIFE/STYLE

感性に響く絵本と出会える「MAIN TENT/メインテント」|本屋を遊ぶ vol.2

Oct 29, 2023
本は、そこで出会うこと、そこで買うことに価値がある時代へ。
ほしい本がなくても遊びに行きたくなるような、ユニークなインデペンデント書店を巡る連載「本屋を遊ぶ」の第2回は、吉祥寺の絵本・児童書専門古書店「MAIN TENT(メインテント)」へ。絵本の知られざる魅力を探りに、店主の冨樫チトさんを訪ねました。

感性に響く絵本と出会える「MAIN TENT/メインテント」|本屋を遊ぶ vol.2

Oct 29, 2023 - LIFE/STYLE
本は、そこで出会うこと、そこで買うことに価値がある時代へ。
ほしい本がなくても遊びに行きたくなるような、ユニークなインデペンデント書店を巡る連載「本屋を遊ぶ」の第2回は、吉祥寺の絵本・児童書専門古書店「MAIN TENT(メインテント)」へ。絵本の知られざる魅力を探りに、店主の冨樫チトさんを訪ねました。

絵本を仕事にしたきっかけ

いま書店をやっている理由を改めて考えてみたら、名前からして絵本が関係しているなと思って。僕の「チト」っていう名前は本名なんですけど、その由来はモーリス・ドリュオン作の『みどりのゆび』という本で。どこでも親指で触れるだけで種から芽を出すことができる“みどりのゆび”を持った少年の話なんです。その能力で刑務所とか、病院とか、町中に花を咲かせて、最終的には戦争を止めることになる。僕の祖父は植物学者で、父も植物関係の仕事をしていたこともあって、主人公の「チト」という名前をそのままつけたそうです。

「MAIN TENT(メインテント)」は2015年2月にオープンしました。いまもそうで、僕は基本的にはダンサーなんですが、ある日、自転車を漕いでいる最中に突然「絵本専門の古本屋っていけるんじゃないか」とひらめいたんです。当時は絵本を蒐集していたわけではないんですけど、親がすごく絵本好きで、小さいころは棚いっぱいに絵本があったので、人よりは詳しいだろうと。あとは絵本の内容は覚えていないけど、心が動いたときの温度感は覚えていて、それを知っていることは強みだから、きっとやれると思ったんですね。

店名は、ENTERTAINMENTのアナグラムです。あとはサーカスっぽい名前もいいなと。僕はたとえば企業のパーティーに呼ばれてクラウン的な、サーカス的なこともやっていたので。音楽はどこの国だかわからない、ジプシー系の音楽を流していて。ジプシーもサーカスもどこか物悲しくていかがわしい。吉祥寺の街のように、雑多な俗っぽさは失いたくはないんですよね。

お店の場所を吉祥寺にしたのは、住んでいる街だから。この街でやるということにしか、僕には意味が感じられなかったんです。吉祥寺で8年もやっていると、まわりは全部変わっていきますね。たとえばお店の前も、昔は街で一番大きいぐらいの駐車場だったんですよ。なくなってからは、買い物帰りにメインテントに寄ってくださる人たちがゼロになってしまいました。でもいろいろ変わりましたけど、僕はストリートダンサーなので、ストリートってそんなものだなって。いまある状況に合わせていくしかないし、そうじゃないと生き残れないなとは思います。

 

絵本のセレクトについて

メインテントはセレクトショップではないんです。だから売っていただいた本は、基本的にそのまま置いてあります。地元の子たちはやっぱり『おしりたんてい』も『かいけつゾロリ』も大好きなので(笑)。

最初から珍しい本を持っていたわけでもなく、それこそブックオフの100円コーナーを片っ端からまわるわけです。「これ、僕が店をやるとしたらこの値段じゃなくても売れるぞ」と。あとはダンスの営業で地方に行くと、とにかくいろんな古本屋に入って、帰りにはリュックと両手に絵本をいっぱい抱えてくるみたいな。でも結局は、全国のお客様から買い取りで集まってくるようになりました。海外に買い付けに行き始めたのは3〜4年前かな。表においてある雑貨は、現地で買い付けた本を送るときの隙間に埋めるように入れていて、売れて飛行機代ぐらいにはなればいいなと。

海外の絵本でメインとなるのは東ヨーロッパかな。侵略や戦争の歴史もあって悲しいんだけど、そのぶん文化へのプライドがめちゃくちゃ高いのでおもしろい。戦後の大人たちが次の時代を託す子供たちになにを届けるかを真剣に考えて作った絵本だから、すごくパワーがあるんです。

でも最初はチェコの絵本とか苦手だったんです。かわいいって、なんか違うよねって。それで実際に現地に行ってみたら、かわいさに負けて買ってきちゃうんですね(笑)。生を見ると全然違うんですよ。

東欧にしても北欧にしても、結局は古いものに惹かれちゃいますね。いま残っているという時点でつわものなんです。ダメなものは淘汰されていきますから。そして同じ本でも誰がどう読んだかによって全然違うので、そこにすごく惹かれるといのもあります。だから傷や落書きがあっても、おもしろいなと思えれば価値を見出して残すものもあります。古着が好きなのと一緒ですね。

 

絵本の選び方、楽しみ方

絵本も、パンを買うみたいに選べば良いと思うんです。おいしそうだと思えば買ってみる。食べてみないとわからないから。絵本は読んでも消えないから、ちょっとハードルが高いとは思うんですけど。本当におもしろい本にたどり着くには、いっぱい失敗するしかないので。買うときにセレクトしすぎると、自宅にきれいな本棚ができちゃうので。とりあえず家まで連れて帰って、そこから何を読むかをセレクトするぐらいのほうがいいんじゃないかな。

うちは外国語の本も多いので、読めないじゃないかっていう方もいます。でも絵本って、0歳から触れるものですよね。だから子供に還れば良いんですよ。絵本の絵は挿絵ではいけなくて、物語をアニメーションのように動かしてつなげていくことが必要なんです。文字が読めなくて絵は見れるってことは、より絵に集中して純粋に感じ取れる。それってむしろおいしいですよね。

 

思い入れのある絵本4選

『いるいるおばけがすんでいる』モーリス・センダーク(原作・画)、ウエザヒル翻訳委員会(訳)

皆さんおなじみの『かいじゅうたちのいるところ』ではなく、『いるいるおばけがすんでいる』という、三島由紀夫が編集委員に入っているレアな一冊。『かいじゅうたちのいるところ』より前の1966年に出版されていて、翻訳の文章も全然違うんです。数万円はする絵本ですが、売ってくださった方もその価値をご存じなくて「えー」っと驚いていました。

 

『Taka-chan and I: A Dog’s Journey to Japan』ベティ・ジーン リフトン(著)、細江英公(写真)

メインテントに非売品はないんですけど、売りたくない本はあります。こちらもそんな1冊で、めちゃくちゃ素晴らしい写真絵本。写真家の細江英公さんが、石亀泰郎さんに贈った署名が入っています。石亀泰郎さんというのは『イエペはぼうしがだいすき』という、写真絵本の頂点と言っても良いぐらいの作品を手掛けた方です。『Taka-chan and I』は、日本では『たかちゃんとぼく』というタイトルで出版されていて写真が最高なんです。どうやって撮っているんだろうという写真がたくさんあります。とにかく良くて、大好きですね。

 

『せかいのひとびと』ピーター・スピア(作・絵)、松川 真弓(訳) 『ZOOM』イシュトバン・バンニャイ(作・絵)

うちは古本屋ですが、少しだけ新刊も取り扱っています。必ず置いておきたいなというのは『せかいのひとびと』と『ZOOM』。『せかいのひとびと』は、多様性とはどういうことなのかいちいち説明しなくても、この本が家にあれば理解できるという1冊。みんながみんな違うということが、すごくわかりやすく書いてあります。

『ZOOM』は大人になってから出会った絵本で、「絵本ってこんなにおもしろいんだ」と気付かされました。景色がどんどんズームアウトしていくんですが、それは僕自身の価値観とも重なっていて。たとえばひとつの記事ができる前には印刷に携わる人がいて、取材をしてくれる人がいて、撮影する人がいて、更に向こうにはそのカメラを作った人もいる。そうすると全部つながっているんですよね。

 

MAIN TENT(メインテント)

東京都武蔵野市吉祥寺本町2-7-3
営業時間:平日 10:30~17:00 休日 10:30~19:00
定休日:水曜日
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  • Photograph : Naoto Ikuma
  • Text : Yusuke Takayama(QUI)
  • Edit : Seiko Inomata(QUI)

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