QUI

LIFE/STYLE

誰かの手から、誰かの手へ「マヤルカ古書店」|本屋を遊ぶ vol.3

May 18, 2026
本は、そこで出会うこと、そこで買うことに価値がある時代へ。
ほしい本がなくても遊びに行きたくなるような、ユニークなインデペンデント書店を巡る連載「本屋を遊ぶ」の第3回は、京都・一乗寺の「マヤルカ古書店」へ。京都の街で“紡ぐ”ことについて、店主のなかむらあきこさんを訪ねました。

誰かの手から、誰かの手へ「マヤルカ古書店」|本屋を遊ぶ vol.3

May 18, 2026 - LIFE/STYLE
本は、そこで出会うこと、そこで買うことに価値がある時代へ。
ほしい本がなくても遊びに行きたくなるような、ユニークなインデペンデント書店を巡る連載「本屋を遊ぶ」の第3回は、京都・一乗寺の「マヤルカ古書店」へ。京都の街で“紡ぐ”ことについて、店主のなかむらあきこさんを訪ねました。

「マヤルカ古書店」について

― 古書店を始めたきっかけを教えてください。

あまり面白い理由ではないのですが、これまで編集者、相談員、ライター、図書館司書など、さまざまな仕事をしてきた中で、唯一続いているのが古本屋なんです。最初は趣味として、自分の蔵書をネットや1日限りのイベントなどで販売していました。

1人で店を始める前に、3人の古本屋で共同店舗も運営していましたが、そのときも売上は趣味の延長のような感じだったので、本気で古本屋をやり始めたのは2013年に1人で店を初めてからです。

― 店名の「マヤルカ」とは、どのような意味でしょうか?

マヤルカはロシア語で「わたしの手」という意味です。手のひらで大切に読む本、誰かの手から誰かの手へ、そして手仕事を大切に、などの意味を込めています。

― 数ある場所の中で、京都、そして現在の場所にお店を構えた理由はありますか。

現在の店舗は2店舗目で、最初は西陣にありました。一乗寺は大学や新刊書店が周囲に多いので、地域の方で本好きの割合が多いような気がします。観光地化しすぎていないので、平日にも足を運んでくださる方が多いんです。本をセレクトするうえでも、そうした地域の方々の空気感やカラーは大切にしたいと思っています。

― なかむらさんが本を好きになったきっかけは何でしょうか?

大人になるまでかなりの田舎に住んでいたので、実は娯楽が本を読むこと以外ありませんでした。なので、意識する前から自然と、ずっと本を読んでいた感じです。

 本を読むこと、本屋へ足を運ぶこと

― 情報が手軽に手に入る時代に、本を読むことや本屋へ足を運ぶことには、どのような価値があると感じますか。

情報が簡単に手に入る時代なのは、本当にその通りだと思います。ただ、それだけで十分なのかな、とも感じています。
たくさんの情報に触れたうえで、さらにその奥にあるものを求めている方もいるのではないでしょうか。買取をしていると、自分の想像力では到底たどり着けないような思考や関心の積み重ねによって蔵書を作り上げている方に出会うことがあります。

それは単に「本が好き」という言葉だけでは表せないような世界です。
もちろん、これまで本にあまり触れてこなかった方にも来ていただきたいですが、一方で、長年膨大な量の本を読んできた方にも満足してもらいたい。さらに深い世界へ向かうお手伝いができたら、という思いは大切にしています。
お客さんと話していると、「自分は本当に何も知らないな」と感じることが多いですね。

京都という土地、 こけしと郷土玩具

― 現在はどのようなお客さまが多いでしょうか。地元の方、観光で訪れる方など、変化はありますか。

地域の方、観光の方、それから最近は海外の方も多く来てくれます。
海外の方は、日本の文化や本について本当によく勉強されていて、私自身も気づいていなかったようなことを質問されることがあり、驚かされます。

地域の方も、学生さんやお子さん連れの方、ご高齢の方まで本当に幅広いですね。散歩コースのひとつとして立ち寄ってくださっているのかな、と感じる方もいて、うれしくなります。

― こけしや、その土地ならではの民藝品も扱われていますが、そこにはどのような思いがあるのでしょうか。

こけしは、本屋を始める前から好きで、自分でも集めていました。
一見すると少し奇抜に思われるかもしれませんが、こけしの蒐集文化は戦前までさかのぼる歴史があり、多くのコレクターが存在します。また、どれも手作りなので、同じように見えて1つとして同じものはありません。模様や形にも意味があります。

そういった手作りの素朴な魅力と、蒐集することでどんどん深まっていく魅力の両方があるかなと思います。実は、こけしや郷土玩具に関する書籍や資料も非常に多く存在していて、その多くが絶版になっています。世界に1冊しかないような資料もあり、古書の中でも1つのジャンルを形成していると言っていいのではないでしょうか。
私自身も、こけしや郷土玩具だけでなく、それらにまつわる本や資料も積極的に集め、販売しています。

古い書籍には、図版が木版で刷られているものも多く、そうした点でも、こけしや郷土玩具に詳しくない方にも魅力を感じてもらえるのではないかと思います。

― 京都という土地の文化に対する思いや、これからの京都に願うことがあれば教えてください。

京都に住んで20年になりますが、いまだによくわからないですね。笑
ただ、古いものを大事にしていたり、歴史がすぐそばにあるという環境は、古本屋として本当に恵まれていると感じています。

“紡ぐ”という思想

― 「紡ぐ」という言葉を大切にされている印象があります。本、人、土地、時間をつなぐ「紡ぐ」という行為について、どのようにお考えでしょうか。

古本屋にとって、とても大切な仕事だと思っています。
単純に「売る」だけであれば、ブックオフのような大型店のほうが、在庫量は圧倒的です。それでも、私のような小さな町の本屋や、さまざまな専門店が存在する意味は、蔵書を、ひいては文化や知識を蓄積し、次の世代へつないでいくことにあるのではないでしょうか。

そういう意味では、ネット上の情報だけではカバーしきれない部分がある気がしています。一方で、今はネット上にしか存在しない情報もあります。受け皿や器としての古本屋、という視点で物事を見ると、いま見過ごされているものが、後々重要になっていく可能性もあるのかもしれません。

思い入れのある古書

― 思い入れのある古書はありますか。

自分が古本に興味を持ったきっかけが、昭和初期の文学書の美しい装丁だったので、装丁に惹かれる本がいくつかあります。店に本を並べる際も、装丁はとても大切にしています。

特に好きなのは、オートクチュールデザイナーとしても活動していた平林洋子さんの装丁です。ファッションデザインを手がけていた方が書籍の装丁も行っていて、洗練された独特のデザインが印象的なんです。

左:三島由紀夫『お嬢さん』、右:有吉佐和子『非色』

「あれ、もしかして」と手に取ると、やはり平林さんの装丁だった、ということがよくあります。装丁だけでなく、紙の材質や小口の仕上げにまで細やかなこだわりが感じられて、つい手に取ってしまいます。

こうした本に触れていると、電子書籍や青空文庫で読める作品が多い時代だからこそ、本という“もの”そのものの魅力に、独自の説得力を感じます。

― 最後に、マヤルカ古書店はこれから、どのような場所でありたいとお考えでしょうか。

ショップカードには「暮らしに寄り添う古本屋」とコピーを添えています。
これは、なにも暮らしにまつわる本を扱うというのではなく、ハレの日だけでなく普通の日に、おしゃれをしていてもしていないくても、何もしたくない休日も誰とも話したくない日も仕事で疲れている日も、気負わずそれぞれのペースで立ち寄れる店でありたいという思いを込めています。

だから、必要以上にお客さんに話しかけることはありません。でも、おしゃべりが盛り上がる日もある。何かを強制することも、されることもない、そんな空間でありたいと思っています。

店主:なかむらあきこさん

マヤルカ古書店
京都市左京区一乗寺大原田町23-12
営業時間:11:00 〜 18:00
定休日:火曜日
ウェブサイト:https://mayaruka.com/
Instagram

  • Edit / Text / Photograph : Seiko Inomata(QUI)

NEW ARRIVALS

Recommend