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釣りを未来へつなぐ〜俳優の金子大地と考える未利用魚が秘める食の可能性

Apr 30, 2025
釣りをスポーツレジャーとして楽しむなら狙い通りの釣果こそが第一の目的なるだろう。しかし、どんな魚が釣れたとしてもそれを無駄にせず、美味しく食べることで釣りの未来を守ることができるかもしれない。俳優の金子大地が世田谷・池ノ上のイタリアン『ペペロッソ』の今井和正シェフに学ぶ未利用魚の可能性。食とのつながりを考える釣り体験をレポート。

釣りを未来へつなぐ〜俳優の金子大地と考える未利用魚が秘める食の可能性

Apr 30, 2025 - LIFE/STYLE
釣りをスポーツレジャーとして楽しむなら狙い通りの釣果こそが第一の目的なるだろう。しかし、どんな魚が釣れたとしてもそれを無駄にせず、美味しく食べることで釣りの未来を守ることができるかもしれない。俳優の金子大地が世田谷・池ノ上のイタリアン『ペペロッソ』の今井和正シェフに学ぶ未利用魚の可能性。食とのつながりを考える釣り体験をレポート。

「DAIWA PIER39」でQUI編集部の目に留まったのはファッション展示会では見かけることのないキッチンブースとシェフの姿。DAIWAは釣りを未来につなげていくための環境保全に強い関心を寄せているが、そんなDAIWAが注目するのが未利用魚を食材として提供している『ペペロッソ』の今井シェフだ。
近年は乱獲や環境問題により魚の生息状況が変化し、魚介類の未来が危ぶまれている。
釣りは「自然と向き合うアウトドアスポーツ」というDAIWAの姿勢に共感したQUI編集部は、釣り好き俳優の金子大地に声をかけ、様々な経済活動の中で行き場を失った魚介類「未利用魚」の可能性を探ることに。今井シェフの海釣りに同行させてもらった。

都会で暮らすからこそ釣りがいちばんの気分転換に


QUI:船上はかなり揺れがありますけど大丈夫ですか?

金子:大丈夫です!

QUI:おふたりの釣り歴をお聞きしたいです。まず、金子さんは?

金子:釣りを始めたのはここ1年、2年ぐらいです。地元が北海道で帰省した際に釣り好きの友人に誘われたのが最初でした。ビギナーズラックで50cmオーバーのアイナメを釣り上げて、それから釣りにハマっています。

今井:50cmオーバーはすごい!

金子:その時のシビれるような手応えが忘れられずに本格的に始めた感じです。まだ初心者すぎて釣りの醍醐味などはよくわかっていないのですが、「また大物と巡り会いたい」というのがモチベーションになっています。

QUI:ちなみに今日は未利用魚が釣れる可能性もあるのですが、未利用魚ってご存知でしたか?

金子:初めて聞きました。なので、未利用魚についても今井シェフからいろいろ学びたいと思っています。

QUI:シェフは釣りのキャリアは長いのでしょうか。

今井:釣りそのものは子供の頃から楽しんでいましたが、本格的にのめり込んだのはここ1年、2年ぐらいです。金子さんと同じぐらいですよ。

QUI:のめり込んだきっかけは?

今井:僕は釣った魚は『ペペロッソ』で提供しているんです。なので、お客さまに最高のお魚を食べてもらいたいという気持ちで今はバチバチに釣りと向き合っています(笑)。

QUI:『ペペロッソ』で食材として使っている魚は市場で仕入れることはないのでしょうか。

今井:ないですよ。100%自前です。

QUI:もしも釣果が芳しくなかった時、どうされているんですか。

今井:朝がダメなら夜に再挑戦。それでもダメなら翌日に行きます。雨でも雪でも。そうしないとお店で魚料理を何も提供できなくなります。狙った獲物が必ず釣れるとは限りませんが釣れた魚によって、鮮度や脂のノリなどのコンディションによって、どうやって調理しようって考えるのはすごく楽しいです。

QUI:おふたりが釣りをしたくなるのはどんな時ですか。

金子:まだ東京にそんなに慣れていないので、自然の中で釣りに没頭したくなる時があります。釣れる、釣れないはあまり関係なくて、海に行くことが僕にとっての気分転換です。

今井:僕も同じですね。お店の食材のためでもありますが、釣りはいちばんのリフレッシュになります。

QUI:現在は午前6時30分です。これから約5時間がフィッシングタイムになりますので思う存分釣り上げましょう。

魚介好きの金子大地が唸り感嘆した未利用魚の料理

QUI:イラ、ベラ、ウマヅラハギなどの未利用魚が釣れました。今井シェフが絶品の料理に仕上げてくれるそうなので金子さんに味わっていただきたいです。

金子:ありがとうございます!

QUI:シェフを初めてお見かけしたのは「DAIWA PIER39」でした。そこでも未利用魚の料理を振る舞われていましたが、DAIWAの展示会に協力されたのは、どういう経緯だったのでしょうか。

今井:DAIWAの担当者さんから「市場価値がないとされている未利用魚だけれど食材としての可能性を秘めている。そこにスポットを当てたい」というオファーをいただいたんです。どんな魚でも美味しく食べることができると考える自分からしたら、シビれるような言葉でした。なんてかっこいい釣具のブランドなんだと迷うことなく承諾しました。

金子:釣ったことはあるけれど食べたことのない魚もあって、どんな味がするのか楽しみです。

今井:まずはベラのオスとメスの盛り合わせです。そこに西洋わさびとパンをミルクで戻したもので北イタリアの伝統的なソースでアレンジします。ベラは皮に旨みがあるので皮付きのままで霜降りにしています。

金子:ベラってこんなに美味しいんですか!?味も臭いもクセはなくて、トロトロに柔らかいです。皮付きなので魚の旨みも感じられて、これまでのベラのイメージが一変しました。


今井:続いてはおつまみ感覚でイサキをご用意しました。イサキは血合いを少し残していて、ナッツ系と相性がいいのでピスタチオのソースを使いました。シチリア島では赤身のように血の感じを楽しむ魚にピスタチオソースを合わせる伝統があるのでそれに倣っています。船長によると今日のポイントでイサキが上がることは珍しいそうで、一匹だけ釣れたラッキーフィッシュです(笑)。

QUI:イサキも未利用魚なんですか?

今井:サイズが小さいとそうなります。大きすぎるから、小さすぎるからという魚の流通上の規格を理由に未利用魚になってしまう場合もあるようです。

金子:味が繊細すぎて、どう言葉にすればいいのかわからないです。血合いって臭みにつながるイメージもありますが全くないですね。繊細で、まろやかで、それでいて濃厚です。

今井:3品目はウマヅラハギです。カワハギに似ていますが、こちらは磯のにおいが強いために敬遠されて未利用魚とされています。肝を和えた本日の自信作とも言えるぐらい自画自賛の一品です(笑)。


金子:カワハギを超えてます!臭みなんて全く感じられない。肝が濃厚で、甘くて、衝撃的な美味しさです。これはお酒が飲みたくなりますね。

今井:生魚が続いたので温かい料理としてカンダイのフリットを。イタリアンではパンの端が残ってしまうことがあるので、それを溶かしてひと手間加えて衣として使っています。黄色いソースはかぼちゃでアマレットで香り付けを。黒いソースはぶどう果汁を煮詰めたもので中世の貴族の料理を再現しました。

金子:もはやデザートの領域ですね。ものすごく高級な貴族の味がします(笑)。黒いソースはぶどう果汁のようですがチョコレートのような風味です。食感もサクサク、フカフカで、魚そのものは淡白なのでソースで大化けしています。

今井:こちらはウンブリケッリという小麦粉と塩、水だけで練り上げた手打ちのパスタです。個人的に魚にはシンプルなパスタが合うと思っています。具材の魚はイラです。ゼラチン質が多いので、ゆっくりと炊き上げることで身がふわふわになります。ソースはバジルとトマトのアクアパッツァ仕立てです。


QUI:パスタも出てきましたがお腹は大丈夫ですか?

金子:どれも美味しすぎるのでまだまだ余裕です。こんなにモチモチのパスタは初めてかもしれません。魚の食感もふわふわ。このやさしい口当たりはイラのギョロっとした目と鋭い歯、そんな厳いた姿からは想像できないですね。

QUI:全部で5品を召し上がっていただきましたがいかがでしたか?

金子:今日食べた魚たちがどうして市場価値がないとされているんだろうと思いました。僕、魚介はなんでも好きですが全てが想像を超えてくる味でした。シェフに感謝です。

釣ったからには美味しく食べるのが責任と考える

QUI:あらためてシェフにお聞きしたいのですが、どのような魚が未利用魚と区分されるのでしょうか。

今井:市場価値があるのかないのかは、主に魚類の流通段階での判断によるところが大きいです。小さすぎて食べるところがない、馴染みがないから調理法がわからず買い手がつかない、味やにおいにクセがあるから食材に適していない、さらには傷みやすい、そんな様々な理由などから行き場のなくなって未利用魚とされるのです。そうなると一般に流通もされないのでご自分で釣りあげても見たことがない、食べたことがない魚だから、例え釣れても処分しようと考えになってしまうんでしょうね。


金子:僕も釣った魚は基本的には持ち帰って食べていますが、スーパーなどでも見かけない魚は食べるのに適していないんだろうと全部リリースしていました。ベラはまさにそうで、それしか釣れないような日は釣果がゼロの感覚でした。

QUI:今日はそのベラを食しました。

金子:リリースしていたのを後悔するぐらい美味しかったです。むしろ、これからはベラ狙いなんて釣りもあるかもしれない。

QUI:リリースというのは魚にとっては命拾いだと思っていました。でもDAIWAの方から「魚は人に握られただけで火傷のようになる」と聞いて驚きました。

今井:深いところに生息するカサゴなんかは釣り上げることで水圧の関係で目が飛び出しますからね。釣ったからには美味しく食べるというのは釣り人のひとつの責任のような気がしています。

QUI:『ペペロッソ』では提供する魚は自分たちで釣っていますが、そういうスタイルになったのはどのような理由からなのでしょうか。

今井:僕は魚を美味しく食べることに関しては日本がナンバーワンだと思っています。魚そのものも美味しいですし、調理技術などはどこの国にも負けていない。レストランというのは食のエンターテインメントを提供する場なので、そこで世界一の魚で勝負したいと思いました。そのために自分たちで手に入れることにこだわりたかったんです。

QUI:未利用魚と呼ばれるような魚でも食材にするのは決めていたことですか。

今井:どんな魚でも食材にするつもりでした。磯釣りなんて未利用魚の宝庫ですから、むしろそんな魚を狙っているんじゃないかってぐらいです(笑)。魚好きの僕でもクセがあって食べにくいのはわかっていて、それならどうすれば美味しくなるかを調理法だったり調味料だったりを試行錯誤しています。

QUI:この世に食べられない魚は存在しない?

今井:もちろん毒などは取り除く必要はありますが、どんな魚でも美味しく食べることができるとは思っています。

金子:顔がいかつかったり、色がちょっと毒々しかったり、そんな魚でも絶品の料理になるということを実感しました。僕も釣った魚は食べようという意識が強くなったのですが、シェフのような味はもちろん再現できないです。何かコツのようなものはありますか?

今井:未利用魚とされてしまう理由に鮮度が落ちやすいということもあるんです。なので、釣ったらすぐに内臓を出して、魚をおろすのがいいと思います。血抜きや神経締めまで身につけることができれば理想的です。

金子:処理はマスターしたとして、あの絶品のソースや味付けはどのようにすれば‥。

今井:「レストランのような味を」となると難しくなりますが、美味しい味付けというのは簡単ですよ。金子さんもベラを釣って家で食べるとしたら、オリーブオイルだけは思い切り奮発してください。ちょっと塩を振って、上質なオリーブオイルを垂らす。それだけで抜群に美味しいですから。

金子:ソースはどれも絶品でしたが全ての味を持って行かれているかと言えばそんなこともなくて、魚もちゃんと旨みを主張していました。それは塩とオリーブオイルというようなシンプルな発想がベースになっているからなんですね。

今井:ご家庭では無理にアレンジを考えず、魚種で調理法を決めてしまうのが楽だと思います。イラだったら煮てパスタの具材にしよう、ベラだったら刺身で食べようとか。

QUI:金子さんを釣りの世界に導いた友達も、きっと食べることを前提として釣りをされてはいないですよね。

金子:それはそうだと思います。でも僕はシェフと一緒に釣りをして、魚を美味しく味わったことで釣りの目的が少し変わっていきそうな気がしています。周囲の釣り仲間にも「リリースせずに美味しく食べたほうがもっと楽しいよ」って伝えていきたい。これからは「魚を食べるための釣り」という考えになるのは間違いないです。


金子大地着用アイテム:blouson ¥64,900、pants ¥53,900、jersey tee ¥24,200 (D-VEC|グローブライド(株)0120-506-204)

QUI:そういう意味ではシェフは最初から「自然の恵みをいただく」というのが釣りのスタンスでした。

今井:お客さんに喜んでもらうための最高の食材探しです。いつも「大きいのが釣れないかな」ではなくて「美味しそうな魚が釣れないかな」って祈っているので(笑)。未利用魚って、その地域の海だけで釣れる地魚ということも決して少なくないのです。目の前が海なのに地魚を出すお寿司屋も減っているそうですが、それはすごくもったいないことです。地魚と言われたら「食べてみよう」という気にもなりますよね。

QUI:今日は早朝からの釣りに始まり『ペペロッソ』での調理、試食までお付き合いいただきましたが、いかがでしたか。

金子:釣りやっぱり楽しいですね。初めて釣った地魚らしい魚も混じったりしましたし、未利用魚についても学ぶことがすごく多かったです。今年もたくさん釣りに行きたいって気持ちになったので、これからはベラもちゃんと食べます(笑)。

今井:金子さんが「釣った魚は食べたい」という気持ちになってくれたことがいちばんうれしいです。未利用魚と区分けされる魚が減っていけば人気が集中している魚も乱獲されることがなくなり、生態系のバランスも改善されていくんじゃないかなって思っています。

金子:いかに自分が「これは美味しくない魚」、「釣れてもうれしくない魚」と先入観だけで決めていたのがよくわかりました。今日は本当にいい体験をさせてもらったと思っています。

今回はQUI編集部が今井シェフの釣りから調理まで密着させてもらったが、決して見映えがいいとはいえない魚でありながら、釣り上げた際のまるで少年のような嬉々とした表情が印象的だった。シェフのスタイルは釣り人と魚の共存のような側面があるのは確かだが、それ以上に単なるゲームフィッシングに留まらない釣りの楽しみ方を示すもので、それを最も実感したのが金子大地だろう。
どんな魚種であっても美味しくいただけるということは「釣れた魚が本命」ということ。「どうやって食べようかを考える」のも釣り人のモチベーションでるあることに気付かされた貴重な体験となった。


Profile _ 金子大地(かねこ・だいち)
1996年生まれ、北海道出身。「アミューズオーディションフェス2014」にて俳優・モデル部門を受賞しデビュー。以降、映画・ドラマ・CMに多数出演。2018年には、ドラマ「おっさんずラブ」(EX)で人気沸騰。2019年、ドラマ「腐女子、うっかりゲイに告る。」(NHK)で初主演を果たし、一躍脚光を浴びる。主な出演作に、『逆光の頃』(17)、『ナラタージュ』(17)、『家族のはなし』(18)、『殺さない彼と死なない彼女』(19)、『猿楽町で会いましょう』(20)、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21)、河合優実との初共演を果たした『サマーフィルムにのって』(21)、『手』(22)などがある。近年の出演作は、映画では『モダンかアナーキー』(23)、『Winny』(23)、『52ヘルツのクジラたち』(24)、ドラマではNetflixの「サンクチュアリ -聖域-」(23)など。
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撮影協力:ペペロッソ(PepeRosso)
池ノ上にあるイタリア郷土料理店「ペペロッソ」。シェフの今井和正は、自ら釣った魚や自家栽培の野菜を使い、パンやパスタ、器に至るまで手仕事で仕上げる。素材に向き合い、その時々の感覚を大切にした料理を提供している。
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  • Photography : Daisuke Inoue
  • Hair & Make up : Akira Nagano
  • Art Direction : Masahiro Kikuchi(QUI/STUDIO UNI)
  • Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLE)
  • Edit : Yusuke Soejima / Ryota Tsushima(QUI)

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