クソみたいな今を眩しく照らす、これからのための物語。映画『佐々木、イン、マイマイン』
20年代の映画界を担う幅広いキャストが集結
俳優になるために上京したものの、鳴かず飛ばずのまま無気力になっている27歳の悠二(藤原季節)はある日、高校の同級生の多田(遊屋慎太郎)と偶然再会する。多田との再会により、悠二の中で、高校時代に圧倒的な存在感を放っていた同級生・佐々木(細川岳)と過ごした日々の記憶が鮮明に蘇る。
そしてある夜、悠二に面識のない女性から電話がかかってくるー。
監督は、King Gnuの“the hole”のミュージックビデオなどで知られ、2016年に初監督作『ヴァニタス』がPFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワード2016観客賞を受賞した内山拓也。本作『佐々木、イン、マイマイン』は、『ヴァニタス』にも出演した細川岳が、高校時代の同級生とのエピソードをもとに、内山監督に映画化の話を持ちかけたことがきっかけでプロジェクトがスタートした。
俳優志望の石井悠二を演じるのは、今泉力哉監督『his』での好演が話題を呼んだ藤原季節。カリスマ的存在の佐々木を、企画を持ち込んだ細川岳自身が演じる。そのほか、村上虹郎、小西桜子、さらにKing Gnuのメンバーで又吉直樹原作の映画『劇場』にも出演するなど活躍の場を広げている井口理といった、20年代映画界を担う実力派から話題の新星まで幅広いキャストが顔を揃える。
記憶の中の日々と現在が時を超えて交錯し疾走する
予告では悠二が過ごす倦怠感溢れる現在と、記憶の中の躍動感溢れる佐々木との日々の対比が印象的に描かれている。しかし、映画『佐々木、イン、マイマイン』は、そのシンプルな対比だけで捉えるのは充分ではない。
悠二は後輩の俳優・須藤(村上虹郎)に誘われて舞台の稽古に臨むが、次第に悠二の中で舞台の内容が自身の過去と現在とにリンクし、シンクロしていく。呼び起こされた記憶は、現在と対比されるだけの届かない場所にある過去ではない。それは舞台のスポットライトよりも悠二を眩しく照らし出して、確実に悠二の中の何かを動かすものだった。時を超えて再び走り出した悠二の人生が叫ぶ言葉は、過去からつながり託された言葉そのものだ。
一方、騒々しく破天荒で掴み所のない佐々木だが、そんな彼とは対照的ながらやはり掴み所のない彼の父親(鈴木卓爾)との微妙な距離感が、作品に緊張感と寂寥感を与える。悠二をはじめとする友人たちの目線で描かれる粗野な佐々木だけでなく、その佐々木が父に向ける眼差しにも注目してほしい。
また、織り交ぜられた音楽も作品の魅力に大きく寄与している。劇中で登場人物たちが唄う、西岡恭蔵の『プカプカ』、中島みゆきの『化粧』など、70年代の名曲が作品の魅力をさらに引き立てている。20年代の青春映画でありながらも、世代を超えて響く名曲が観る者全員のノスタルジーを誘う。
なすべきことを未来に先送りしていつのまにか「そのうち」が口癖になって、現在地も向かうべき場所もわからなくなった、クソみたいな今を生きているすべての人に向けられた、これからのための物語。ダサくて不器用で、赤の他人にとってはなんでもないただのちょっと変わったやつでも、思い出すたびにもう一度自分の心に火を灯してくれるような、『佐々木、イン、マイマイン』はそんな誰かを思い出させてくれる映画だ。
『佐々木、イン、マイマイン』
2020年11月27日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
クソみたいな今を生きてる俺へ、あの頃の俺たちより。
監督:内山拓也
脚本:内山拓也、細川岳
出演:藤原季節、細川岳、萩原みのり、遊屋慎太郎、森優作、小西桜子、河合優実、井口理(KingGnu)、鈴木卓爾、村上虹郎 ほか
©「佐々木、イン、マイマイン」
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- Text : Masayoshi Yamada