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pillings 2026年秋冬コレクション──半径1kmの私室から社会へ。無機質なオフィスで放つ唯一無二の「意志」

Mar 6, 2026
デザイナー村上氏がこれまで描いてきたのは、決して完璧とはいえない主人公である。社会のスピードにうまく乗れず、内面に重たい感情やコンプレックスを抱えながら生きる不器用な人々だ。歪なシルエットのニットを通して、彼は「生きる上での不器用さ」に光を当て続けてきた。しかし今季、私たちが目撃した新作コレクションは、これまでの<pillings(ピリングス)>の叙情的な文脈をポジティブに転換させた。

pillings 2026年秋冬コレクション──半径1kmの私室から社会へ。無機質なオフィスで放つ唯一無二の「意志」

Mar 6, 2026 - FASHION
デザイナー村上氏がこれまで描いてきたのは、決して完璧とはいえない主人公である。社会のスピードにうまく乗れず、内面に重たい感情やコンプレックスを抱えながら生きる不器用な人々だ。歪なシルエットのニットを通して、彼は「生きる上での不器用さ」に光を当て続けてきた。しかし今季、私たちが目撃した新作コレクションは、これまでの<pillings(ピリングス)>の叙情的な文脈をポジティブに転換させた。

今回のコレクションを紐解く上で重要なのは、<pillings>を纏う「場所と時間」のコントラストである。これまでブランドが提示してきた舞台は、半径1km圏内の閉ざされた「生活圏」であった。その私的な空間で許容される歪なシルエットは、社会に馴染めない内向的な精神の表れであり、日常に耐えるための「不器用さ」として私たちの目に映っていた。

しかし今回、ショーの舞台に選ばれたのは、東京のビジネスの中心地である有楽町のオフィスビル12階。窓の外には、無機質なスーツが行き交う「現実の社会」が広がっている。纏う場所が「生活圏内」から「オフィス」へと変わった瞬間、その強烈なコントラストが、服の持つ意味を180度反転させたのである。
均質化された制服やスーツが支配する厳格な空間。そのど真ん中で、あえて<pillings>の歪なニットや崩れたデザインを身に纏うことは、生活の不器用さや無防備な姿ではない。「この歪さをデザインとして愛し、選んで着ている」という、強固な意志の表明である。

プライベートな生活の中で生まれたデザインは、社会性が求められるオープンな場所に対するウィットとして機能し、服への深い愛着と共に、「個」としての異彩を放っていた。かつて私的な空間で「不器用さ」に映っていたものが、社会というキャンバスの上では、意図的でユニークなデザインへと昇華されたのだ。

今季、村上氏は「夢と現実の間」を見ているかのようなコレクションだと語った。ランウェイには、これまでの縮絨による歪な服だけでなく、まるでウェディングドレスのように非現実的で煌びやかなニットも登場した。彼にとっては、そのどちらもが等しく、人を輝かせる「ドレス」なのであろう。

不況や紛争など、重く苦しい「現実」が覆い被さる現代。これまでの<pillings>が「とある一人の不器用な生活」というプライベートに閉ざされた世界に寄り添ってきたのだとするならば、今季は彼女たちを社会の真ん中へと連れ出すことで、同じように息苦しさを抱える「より多くの人々」へと、その救済の輪を大きく広げたと言える。だからこそ、今季のニットドレスに宿る煌びやかさは、過酷な現実をサバイブするための「夢」として機能するのだ。オフィスという均質化された現実の中で、あえて煌めく夢(ドレス)を纏うこと。それは、古いユニフォームという殻から脱皮し、誰にも奪われない唯一無二の「意志」を獲得するための、極めて力強いメッセージである。

これまでの<pillings>が、傷ついた心を優しく包み込む「繭」であったとすれば、有楽町の空の下で発表された今季の<pillings>は、社会で生きる女性たちが自分らしさを失わずに戦うための、ウィットに富んだ「武器」へと進化を遂げていた。

不器用なままでいい。誰かが決めた完璧なユニフォームなど着なくていい。自身の歪さを愛し、あえて社会の真ん中で着こなす姿勢から醸し出される意志と美しさ。<pillings>は今、日常をサバイブするすべての大人たちに向けて、明るく愛に満ちたエールを送っている。

pillings 2026AW COLLECTION はこちら

  • Text : Keita Tokunaga
  • Edit : Miwa Sato(QUI)

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