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セレクトショップの次なる視線|Nip in the Air イタイ タイコウ

Jul 30, 2026
その名の通り、オーナーやバイヤーの審美眼がフルに発揮される「セレクトショップ」。
トレンドをとらえたブランド、趣味や嗜好性が表れた服、目利きがキャッチした新世代のデザイナーなど、コンセプトが明確なショップであるほど、ファッションに対する美意識は店内の品揃えからも一目瞭然だ。そんなショップを訪れるファッションフリークが気にしているのは、常に新しい刺激を提案してくれるオーナーやバイヤーの次なる動向や関心。今回は来店はアポイント制で、商品からはブランドタグを外し「閉じながら広げていく」ショップを目指す「Nip in the Air(ニップ イン ジ エアー)」のイタイタイコウさんにお話を伺った。

セレクトショップの次なる視線|Nip in the Air イタイ タイコウ

Jul 30, 2026 - FASHION
その名の通り、オーナーやバイヤーの審美眼がフルに発揮される「セレクトショップ」。
トレンドをとらえたブランド、趣味や嗜好性が表れた服、目利きがキャッチした新世代のデザイナーなど、コンセプトが明確なショップであるほど、ファッションに対する美意識は店内の品揃えからも一目瞭然だ。そんなショップを訪れるファッションフリークが気にしているのは、常に新しい刺激を提案してくれるオーナーやバイヤーの次なる動向や関心。今回は来店はアポイント制で、商品からはブランドタグを外し「閉じながら広げていく」ショップを目指す「Nip in the Air(ニップ イン ジ エアー)」のイタイタイコウさんにお話を伺った。
Profile
イタイ タイコウ
Nip in the Air 代表

1996年生まれ。神戸のセレクトショップのバイヤー、企画を経て2025年に「Nip in the Air」をオープン。

Instagramをチェック!
@nipintheair507

Nip in the Airは「うっすら日本」を提案するショップ

「Nip in the Air」は訳すと「ひんやりとした空気」のような意味ですが、ショップ名にはどういう想いが込められているのでしょうか。

イタイ:「Nip in the Air」というのは英国の詩人のジョン・ベッチェマンの詩集のタイトルなんです。僕は英国が好きで、カルチャーも好きで、「Nip in the Air」という言葉の響きに惹かれました。

では、ショップの方針やコンセプトを表しているものではない?

イタイ:無関係ということではないです。僕が自分のショップでやりたかったのは「日本らしいものを扱う」ということでした。でも、それは日本人作家やメイドインジャパンという直球ではなく「なんとなく日本っぽい」ぐらい感覚的なことです。「Nip in the Air」は「空気中に日本が漂っている」のような意味にも解釈できて、自分がやりたい「うっすら日本」というショップの考えに近しいと思い選びました。


イタイさんは神戸のセレクトショップで働いていたそうですが、ショップを立ち上げるというのは最初から考えていたことですか。

イタイ:そうですね。前職で働いていたのも自分でショップをやるために必要なことを学ぶためでもありました。

そこで得た経験や知識というのは現在の「Nip in the Air」にどう活かされていますか。

イタイ:前職時代は取り扱いブランドもインポートが多くて、シーズンごとに買い付けのために海外に足を運んでいたのですが、そういう経験をしてきたからこそ日本的なものに目を向けたくなったというのはあります。

反動のようなことですか。

イタイ:そうかもしれないです。海外での買い付けにかけていたコストを国内に全振りすればおもしろいものを発掘できるのではと思ったんです。セレクトショップの多くが外に目を向けるなら、自分は内に目を向けてみようと。

「こっちだってアリだよね」という柔軟さは何かに影響を受けて生まれたものですか。

イタイ:80年代半ばから90年代半ばのロンドンのファッションカルチャーが好きで、大きな影響を受けたのが「House of Beauty and Culture(ハウスオブビューティー&カルチャー」です。アイコンのスタイルじゃなくても、「こういうのだってパンクの精神だよね」という考え方はすごく魅力的だと思います。

Christopher Nemeth、Judy Blame、Dave Babyら、シューズデザイナーJohn Mooreのアトリエに自然と集まった人々によって形成されたクリエイティブ集団「House of Beauty and Culture」のアーカイブを収録した一冊。

「左の靴は、Dave Babyが直筆でペイントしてくれた一足なんです。2足とも、このカルチャーを教えてくれた<KIDS LOVE GAITE(キッズ ラブ ゲイト)>の山本さんに別注で作ってもらったもので、僕にとっては特別な意味を持つ靴なんです」(イタイさん)

ショップの場所として東京を選んだのも決めていたことですか。

イタイ:場所にこだわりはなかったですが、自分がやりたい「うっすら日本」というのは狭い領域なので、それをリーチさせるならやはり東京なのかなと。僕が感じる「日本らしさ」って外国人の方がおもしろがってくれる気がしていて、日本人だとピンとこないかもしれませんが、コンビニのサンドイッチだって僕はすごく日本的だと思うんです。

手を汚さずに開封できる仕組みや鮮度のこだわりなどの気配りは日本人的な発想かもしれないですね。

イタイ:他県から買い物や遊びに来る人も多いですし、いろんな国から観光客も訪れるので、自分が発信したいことを多くの人に届けるなら東京が適しているのかなと思いました。

ショップをアポイント制にしたのはどういう理由からですか。

イタイ:今はセレクトショップをやりたいと思う人が減ってきているような気がしているんです。その理由はさまざまでしょうけど苦労の割に報われないというイメージがあるのかもしれません。僕がアポイント制を選んだのは、自分にとってやりやすいフレキシブルなスタイルでもやっていけるということを示せたらというのが理由のひとつです。美容室でも料理屋でも予約するのが普通ですよね。洋服屋もそうなっていってもいいと思うんです。

マンツーマンで丁寧な接客をしたいというのもありますか。

イタイ:洋服屋って接客ありきだと思うんです。モノづくりの背景やストーリー、生地の品質など、詳しく説明するのが当たり前だというのが僕の考えです。

アポイント制と聞くとお客さんを選んでいる印象があったのですが、むしろ逆だなって思うんです。「来るものは拒まず」で誰にでも平等に接客しますというのがアポイント制ですよね。

イタイ:僕もキャパシティが大きいわけではないので、一度に複数のお客さんを相手にして上手く接客ができるとは思いません。「Nip in the Air」を訪れたいという方にきちんとしたおもてなしをしたかったのでアポイント制を選びました。

接客で大切にしていること、心がけていることはありますか。

イタイ:選んでもらった服をずっと好きでいてほしいので、その人のライフスタイルに関わって、ハッピーをもたらすような服選びをお手伝いしたいです。「結婚式で着るためのジャケットを選びたい」というお客さんがいたのですが、それはうれしかったですね。その人の生活に深く関わる服を「Nip in the Air」に探しにきてくれたわけですから。

思想が宿るオーラを放つようなプロダクトに惹かれる

SNSに「ブランドタグが付いていない服屋」とあって、それも独特のスタイルだと思いますが、タグをはずしているのはどうしてですか。

イタイ:ブランドのロゴって記号のようなもので、記号にお金を払うというのは僕もやっていることなので理解はできます。ですが「Nip in the Air」で取り扱っている商品は、その記号に価値があるからという理由でセレクトをしているわけではないので、ブランドを伝える必要性をあまり感じないんです。ブランドがわからない状態だからこそ、お客さんにも直感で選んでほしいと思っています。

お客さんからは「なんていうブランドですか?」って聞かれませんか。

イタイ:もちろん聞かれますよ。質問されたときにはきちんと説明はしますし、僕はその商品の魅力を1から10まで話したいタイプです。

「Nip in the Air」を訪れるのはどんなお客さんが多いですか。

イタイ:前職の頃から、九州や名古屋、東京など遠方から来てくださるお客さんも多かったんです。そのご縁が今も続き、「Nip in the Air」にも足を運んでくださる方がたくさんいます。

新しいお客さんはどんな方が多いのでしょう。

イタイ:僕もまだ掴みきれていないのですが年齢は10代から50代までとかなり幅広いです。取り扱っているのは基本的にメンズウェアなのですが女性の方も多くて、ショップの存在はSNSや僕のブログを見て知ったという方がほとんどだと思います。ちょっと変わったお客さんとして、AIにおすすめショップを聞いたら「Nip in the Air」を紹介されたというのもありましたね。

イタイさんが「Nip in the Air」で取り扱いたいと思うのはどんなアイテムですか。バイイングの際に重視しているポイントなどはありますか。

イタイ:自分がモノづくりをできるわけではないので職人や作家へのリスペクトは強くて、自らの手を動かしている人が生み出すプロダクトに惹かれます。

「日本を感じる」というのは具体的にはどういうものでしょうか。

イタイ:わかりやすいのは日本の生地を使っている、日本の技術が活かされているようなことです。あとは、うまく日本ナイズされたモノ。5ポケットパンツのフォーマットで作っているデニムスカートなど、そういうフェミニンではないスカートの提案というのは着物に慣れている日本人だからこそのアイテムだなって思います。フランスの寿司屋より、日本のイタリアンレストランの方が僕には日本らしく感じるみたいなことです。

セレクトの際に時代感というのは意識しますか。

イタイ:それは無意識のうちに意識していると思いますよ。トレンドというものがあるのかないのかよくわからない時代ですけど、例えば僕が細いパンツを穿きたいってなったとしたら同じような気分の人は必ずいるはずです。

デザイナーのモノづくりの考え方にも時代感って現れますよね。

イタイ:デザイナーの思想が宿っていて、それを感じられるのが今の時代のプロダクトだと思います。思想が宿っていないプロダクトは生き残っていけないんじゃないでしょうか。静かでも服からオーラが放たれているというのは大事だと思います。



ショップ運営の傍ら、ブランドのスタイリングやビジュアル制作、旅先で撮影した写真も、ショップづくりと地続きの表現活動として発信をしているイタイさん。プロダクトや風景に宿る空気感を、自身ならではの視点で丁寧に切り取っている。

消費することや選ぶことにじっくり時間をかけてほしい

今日はお互い胡座でのインタビューです(笑)。まるで友達の家のような居心地の良さがあって、いい意味でショップらしくない空間ですよね。

イタイ:むき出しの梁も障子もこの建物のオリジナルで、自分が日本家屋や和を意識して設えたものではないです。ショップらしくないというのも計算ではなくて、建物の内装をそのまま活かしたら昭和っぽい雰囲気になったというだけです。建物は1964年に建てられたもので外観デザインも当時は最先端だったと思うのですが、今となっては昭和感が強いですよね。

「Nip in the Air」のオープンは2025年です。オンラインでも服を購入できる時代ですが、リアル店舗だからこその役割ってなんだと思いますか。

イタイ:情報を得るにしても、服を選ぶにしても、フィジカルな体験って大事だと思うんです。「Nip in the Air」がテーマにしているのが「閉じながら広げていく」ということです。アポイント制ではありますが開放された場でもあり、予約すれば誰でも訪れることができて、服とゆっくり向き合える場所があるのは洋服好きにとってはうれしいんじゃないかなって思っています。

普通のセレクトショップだとふらっと立ち寄って、店員との会話がないままお店を出ることもありますが、「Nip in the Air」ではイタイさんとフィジカルな接点は必ず生まれますよね

イタイ:自分が服を買うなら店員さんとの会話やコミュニケーションも楽しみたいので、「こういう洋服屋があるとうれしい」と思うことを「Nip in the Air」で実践している感じです。扱っている服の値段も決して安くはないので、その値段にふさわしいプロの接客を意識しています。

店内には服から靴、アクセサリーまで幅広いですが「イタイさんが感じた日本らしさ」を基準にセレクトしていくならアイテムに偏りが生まれたりする可能性はあるのでしょうか。

イタイ:それはあるかもしれないですね。極論ですが服を置かないということもあるかもしれない。什器代わりに使っているベンチもオーダーを受けてからですが販売していて、洋服屋ではありますが取り扱いのジャンルに特にこだわりはないです。

「Nip in the Air」が最終的に目指しているショップのスタイルのようなものはありますか。

イタイ:僕自身が買い物はゆっくりしたいという考えなので、お客さんにもそういう買い物を楽しんでほしい。消費のスピードはできるだけ遅くなってほしいです。

消費のスピードを遅くするというのは?

イタイ:消費に消極的になってほしいという意味ではないです。僕は買い物好きで、新しいもの好きで、買うと決めたら決断も早いのですが、選ぶ時にはひとつひとつのモノと真摯に向き合っています。インスタントに選んだものはインスタントに消えていくので、消費することに時間をかけてほしいなって思っています。

今日はいろんな質問をさせてもらいましたが、ひとつひとつの答えに引き込まれるような感覚がありました。イタイさんの考え方って、きっとブレることはないんでしょうね。

イタイ:僕はワインが好きですが、知識が豊富かといえば全くそんなことはありません。ワインが好き、でも知識は浅いという僕をソムリエは見下すことはなくて、服選びに関してはソムリエのような立場の僕もそうありたいと思っています。服が好きというお客さんに、もっとファッションが好きになるような出会いを提供していきたいです。

イタイタイコウがレコメンドする3アイテム


パーカー

日本の洋服屋のキュレーション能力って世界に誇れるものだと思っていて、他の優れたショップの魅力を伝えるというのも「Nip in the Air」がやりたい「日本っぽさ」です。このパーカーは千駄ヶ谷の「ZSC(ゼンソースクロージング)」が作ったもので、50年代の後付けパーカーを90年代のスウェットのボディで表現していて、「時代の書き換え」のような反骨的なリメイクが魅力的だと思いました。「Nip in the Air」のために作ってもらった一点物です。


シャツジャケット

シャツ生地をジャケットのデザインに落とし込んだものがシャツジャケットと呼ばれることが多いですが、これはシャツ生地を使っているのは同じですが、テーラードジャケットの縫製やパターンを取り入れていて「本物のシャツジャケットを作る」というデザイナーの気概と説得力のあるモノづくりに惹かれました。シルエットはゆるく見えますが、袖を通すとジャケットらしいきちんと感も生まれます。


ベンチシート

大阪でジュエリーをメインにしていた作家が作ったステンレス製のベンチシートです。「1.5人分の椅子」というのがコンセプトで、誰もが背もたれの部分に合わせて座ると思うんですけど、そうすると二人の間にちょっとした隙間が生まれるんです。知らない人同士だと近すぎて、親しい間柄だと気まずさを感じる。そういう微妙な距離感を背もたれで表現したセンスが素晴らしいです。「Nip in the Air」でオーダーが可能です。


 

Nip in the Air

東京・神宮前に佇む予約制プライベートショールーム。日本の技術や素材、ものづくりに宿る思想に惹かれ、ブランド名ではなくプロダクトそのものの魅力を大切にセレクト。ゆとりある空間で対話を重ねながら、一人ひとりのライフスタイルに寄り添う服やものとの出会いを提案する。消費を急がず、じっくりと選ぶ時間そのものを楽しめるショップだ。

アポイントメントはこちら

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@nipintheair507

  • Photograph : Yuki Ito
  • Text : Akinori Mukaino(BARK in STYLe)
  • Edit : Miwa Sato(QUI)

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