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SONIA CARRASCO 2027年春夏コレクション──衣服の「内側」から生まれる自由

Sep 14, 2026
古代ギリシャの都市メガロポリスに残る集会施設「テルシリオン」に着想を得た会場演出で発表された、<SONIA CARRASCO(ソニア カラスコ)>の2027年春夏コレクション。柱のグリッド構造を思わせる椅子の配置と、その間を縫うように伸びるランウェイが、秩序のなかに生まれる「空白」と、そこから広がる自由を描き出す。今季、ソニアが目を向けたのは、衣服の「内側」。裏地や縫い目、内部構造といった普段は隠されている要素を外側へと移し、制作の痕跡さえもデザインの一部として昇華した。

SONIA CARRASCO 2027年春夏コレクション──衣服の「内側」から生まれる自由

Sep 14, 2026 - FASHION
古代ギリシャの都市メガロポリスに残る集会施設「テルシリオン」に着想を得た会場演出で発表された、<SONIA CARRASCO(ソニア カラスコ)>の2027年春夏コレクション。柱のグリッド構造を思わせる椅子の配置と、その間を縫うように伸びるランウェイが、秩序のなかに生まれる「空白」と、そこから広がる自由を描き出す。今季、ソニアが目を向けたのは、衣服の「内側」。裏地や縫い目、内部構造といった普段は隠されている要素を外側へと移し、制作の痕跡さえもデザインの一部として昇華した。

2027年春夏シーズンに彼女が向き合ったのは、テーラリングにおける最も根本的な問いのひとつ、「衣服の内側には何があるべきなのか」というものだった。裏地、芯地、縫製、内部構造、糸、普段は衣服の内側に隠されているものを、どのように自然なかたちで外側へと存在させることができるのか。今季のコレクションは、その問いに対するひとつひとつの答えを、異なるガーメントの中に見つけていくように展開された。単純に服を「裏返す」ことでも、既存の構造を壊すことでもない、テーラリングが本来持つ論理や機能を尊重しながら、内側と外側の境界を丁寧に組み替えていく。完成された服の中に、あえて制作の途中を思わせるディテールを残すことで、服がどのようにつくられ、身体の上でどのように成立しているのかを可視化していった。

ランウェイには、ブランドを象徴するシャープなテーラリングやニットウェアをはじめ、ドレープの美しいロングコートやスカート、端正なテーパードパンツが登場。ブレザーやシャツといったワードローブの基本には、露出した内部構造や切りっぱなしのディテールが加えられ、背中側だけが長く伸びて風になびくシャツや、柔らかなレザーのジャケットなど、ベーシックなアイテムにひねりを加えたピースが並んだ。「技術がガーメントに合わせて変わるのであって、その逆ではない」という彼女の考え方は、今季のウェアにも色濃く表れている。ひとつの技術的なルールをすべての衣服に当てはめるのではなく、ブレザーにはブレザー、シャツにはシャツ、ニットウェアにはニットウェア、それぞれの構造に適した技術と解決方法が与えられている。だからこそ、同じアプローチであっても表現は一様ではなく、縫製のディテールやシルエットの変化として、それぞれの衣服に固有の個性が引き出されていた。

キーワードとなったのは、「構造と自由」、そして「完璧な構造と流動性」というコントラスト。<SONIA CARRASCO>にとって、テーラリングの美しさは、その完璧な構築性だけにあるのではない。精密に仕立てられた構造によって、その内側から自由な動きや自然な流動性を引き出すことができる。硬質なものと柔らかなもの、正確さと不規則さ、構築されたものと身体の動きに委ねられるもの。相反する要素をひとつの衣服の中に共存させることで、意思のある洋服が生まれた。

特に鮮烈な印象をもたらしたのは、100%シルクの糸を用いたタペストリーのフリンジスカート。特別なシルク糸を使い、職人が一つひとつ手作業で仕上げるタペストリーは、完成までに多くの時間を必要とする。白とグレーの糸が混ざり合い、身体の動きに合わせて揺れることで流動性を生み出す一方、そのベースには端正なテーラリングの構造がある。精密に仕立てられた構築性と、手仕事から生まれる自由な動き。そのふたつが一着の中で交差することで、服は身体とともに表情を変えるものへと変化していく。そこには、構造を支える技術と、手仕事によって生まれる不規則な美しさをともに尊重する、クラフツマンシップへの意識が表れていた。

ソニアの考え方はスタイリングにも通じている。テーラリングをベースに、身体の動きに呼応する素材の揺らぎや、あえて覗かせた内部構造を組み合わせることで、完成された服に流動性を与える。異なる素材やディテールを重ねて装飾性を高めるのではなく、それぞれが本来持つ質感や動きを生かすことで、衣服は着る人の身体とともに表情を変えていった。そこから浮かび上がるのは、着る人の身体や意思を支えるものとして捉えるソニアの姿勢だ。女性がスーツを纏うことで得られる強さや自立、そして自由。その感覚を装飾や演出によって付け加えるのではなく、衣服の構造そのものから引き出そうとする意志が、一着一着に滲んでいた。

今季のカラーパレットを考えるうえでも、彼女の素材に対する姿勢は重要だ。日本では黒がファッションにおいて非常に強い存在感を持つことを、彼女自身もよく理解した上で、<SONIA CARRASCO>はあえて黒を使わない。彼女にとって黒は、「最もコンタミネートされた色」。黒という色には、あまりにも多くの意味やイメージがすでに付着しているからだという。だからこそ、黒の強さに頼るのではなく、素材そのものが持つ個性や質感を引き出すためバージンウール、コットン、シルク、レザーをはじめ、イタリア製のテキスタイルなど、天然素材を中心に選ばれたファブリックは、それぞれが異なる表情と動きを持つ。色で強さをつくるのではなく、素材、構造、質感の組み合わせによって強さを生み出す。そこにも、服の「内側」を見つめる今季の姿勢が通底している。

ショーの空間演出では、一定の間隔と規則性をもって配置された椅子が、これから始まるランウェイへの期待を高めていく。モデルがそのあいだを縫うように歩き始めると、整然とした空間に身体の動きが加わり、同じ一着でも見る位置によって異なる表情が浮かび上がる。歩みに合わせて服が揺れ、光を受けるたびにシルエットやディテールが変化し、ひとつの構造のなかにいくつもの景色が立ち上がった。会場を満たした音楽もまた、ソニア自身が手がけたもの。クラシックとロックという異なる音楽性を組み合わせ、ショーの進行とともに高揚感を高めていった。緻密に構成されたクラシックの端正な美しさに、ロックの強いエネルギーと奔放さが重なり、整然とした音の世界に次第に揺らぎが生まれていく。完成された構造から少しずつ自由へと解き放たれていくようなその展開は、今季のテーマとも呼応していた。ランウェイを駆け抜けるように響いたのは「カオスとの契約」。そしてフィナーレでは、リヒャルト・ワーグナーの「ラインの黄金 第4場:ヴァルハラ城への神々の入場」が流れ、ショーの熱量を一気に頂点へと押し上げた。秩序と逸脱、緻密さと奔放さ。服だけでなく、空間や音楽にまで異なる性質を持つものを重ね、それぞれの特性を生かしながらひとつの思想へと収束させる。

<SONIA CARRASCO>がテーラリングを追求する背景には、女性としての自身の経験がある。ファッション業界で働くなかで、女性は常により多くの努力を求められていると感じることがあるという。だからこそ、彼女にとって女性がテーラリングを纏うことは、自立しているという感覚をもたらし、自分自身をより自由にしてくれるもの。その感覚を、日々の経験からデザインへと持ち込みたいとソニアは語ってくれた。強さとしなやかさ、構築性と自由。そのどちらかを選ぶのではなく、相反するものをひとつの衣服のなかに共存させることで、<SONIA CARRASCO>は女性のためのテーラリングをこれからも新たなかたちへと更新してく。

 


 

SONIA CARRASCO

<SONIA CARRASCO(ソニア・カラスコ)>は、2019年にバルセロナで自身の名を冠して設立されたファッションブランド。サステナブルかつ高品質でミニマルな、ユニセックスおよびウィメンズウェアを展開する。伝統的なメンズテーラリングに、モダンな職人技や環境に配慮した技術を融合させているのが特徴。コレクションを通じて環境問題を提起することも多く、リサイクル素材やオーガニック素材、または倫理的に調達された素材を積極的に使用している。

 

SONIA CARRASCO
HP:https://sonia-carrasco.com/
Instagram:@soniacarrascoofficial

  • Photographer : Kaito Chiba
  • Edit : Miwa Sato

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