LVMHプライズ2026 セミファイナリストイベントをレポート、デザイナー自身が選ぶアイコニックピース

2013年にスタートしたLVMHプライズは、世界中の若手デザイナーを対象とした国際的なファッションアワード。昨年<SOSHIOTSUKI(ソウシオオツキ)>の大月壮士が受賞したことは記憶に新しいが、これまでにも同賞は<Marine Serre(マリン セル)>のマリン・セルや<Wales Bonner(ウェールズ ボナー)>のグレース・ウェルス・ボナーなど、現在のファッションシーンを牽引するデザイナーを輩出してきた。セミファイナリストに選出されたブランドはパリで作品を披露し、その後の審査を経てファイナリストが決定する。

会場では、セミファイナリストに選出された20組がコレクションを展示。ここではその中から編集部が注目したブランドにフォーカスし、各デザイナー自身が選んだアイコニックなピースとともに紹介する。
ACT N°1/アクト ヌメロウーノ
デザイナーのルカ・リン
<ACT N°1>は、イタリア・レッジョ・エミリア出身のルカ・リンが手がけるブランド。中国にルーツを持ち、異文化の中で育った自身のバックグラウンドをもと、2016年に設立された。幼少期の記憶や多文化的な視点を起点に、宗教や価値観の交差をデザインへと昇華させている。ファッションを社会的メッセージの媒体と捉え、児童婚やジェンダー不平等、ステレオタイプといった問題にも向き合う。2025年にはインターナショナル・ウールマーク・プライズのファイナリストにも選出された。クラシックなワードローブの再解釈を軸に、既存のルールを解体しながら新たな装いを提示している。
ルカ「コレクションでは、衣服の“構築と脱構築”の両面を探求しています。同時に、その構造やシステムが持つ意味やコストにも目を向けています。シルエットは常に新しいものを模索していて、バルーンのように膨らみ、動きや落下の中で変化していくフォルムを追求しています。特に重要なのは、レイヤーとドレーピングが生み出す流動性とダイナミズムです。」
ルカ「クラシックなブレザーは、もともと伝統的なメンズジャケットとして制作したものですが、袖を短くカットし、ネック周りにドレープを加えることで、より自由な動きを与えています。根底にあるのは“動きによって柔らかさを生む”という考えです。」
ルカ「このピースは、過剰生産された素材を用いて制作しました。ボタンの中には30-50年前のものも含まれていて、それらを組み合わせて“庭”のような刺繍を作っています。一つひとつは小さいですが、全体として立体的で印象的な表現になっています。1万個以上のボタンを使用し、完成までに300時間以上を要しました。」
ACT N°1
Website:https://actn1.com/
Instagram:@act_n1
Julie Kegels/ジュリ ケーゲル
デザイナーのジュリ・ケーゲル
<Julie Kegels>は、ベルギー・アントワープを拠点に活動するジュリ・ケーゲルが手がけるブランド。王立芸術アカデミー卒業後の2024年に自身のウィメンズブランドをスタート。同じ街で育った女性として、リアルな視点から“ひとりの女性の中に複数のアイデンティティが存在する”という考えを軸にデザインを行っている。クラフトと直感を大切にしながら、彫刻的なシルエットや職人的技術、サステナブルな素材を組み合わせ、個人的な記憶や生活空間、現代的な日常から着想。エレガンスとユーモア、ファンタジーと現実を軽やかに行き来する表現が特徴だ。衣服は特定のイメージを押し付けるのではなく、着る人それぞれの個性が自然と立ち上がる“余白”を持たせている。
ジュリ「本当は全部紹介したいくらいなんだけど(笑)、この中から二つ選ぶのはすごく難しいですね。」
取材時も明るくフレンドリーな人柄が印象的で、まるで友人のようにコレクションを紹介してくれた。数あるピースの中から、特にお気に入りの2点をピックアップ。

ジュリ「この木目調のジャケット。カラー部分のデザインも気に入っていて、光沢のある素材感と木目の温かさのコントラストがすごくいいバランスなんです。」

ジュリ「もう一つは少し前のコレクションのものなんですが、このオールインワン。これは本当に気に入っているピースです。フロントから見ると、シャツとニットをレイヤードしてデニムまで着ているように見えるんですが、実はバックで一体になっているんです。とても反響も良くて人気のアイテムなので、もしかしたら次のシーズンで復活するかもしれません。」
Julie Kegels
Website:https://www.juliekegels.com/
Instagram:@juliekegels
LII/リー
デザイナーのゼイン・リー
<LII>は、中国・重慶出身のゼイン・リーが手がけるブランド。2023年にFITを卒業後、ニューヨークを拠点にブランドを設立。2024年秋冬シーズンにデビューを果たした。スポーツとクチュールの交差点をテーマに、大胆なシルエットをテクスチャー豊かな素材と現代的なカラーリングで表現している。
ゼイン「今回のコレクションでは、鮮やかなカラーアクセントを多く取り入れていて、1990年代のアメリカンスポーツウェアからインスピレーションを受けています。アメリカで学ぶ中で強く影響を受けた要素のひとつですね。当時は大胆な色使いや実用的な素材をハイファッションに落とし込む動きがありました。このピースもその延長にあって、ウエスト部分が2WAYになっているのがポイントです。」

ゼイン「このピースは、フロント部分に腕を通して、首にかかるストラップで固定する構造になっています。とても直感的で、自分の好みに合わせて調整できるのが特徴です。こうして着ることで、全体としてスクエア型のシルエットが完成します。」
LII
Website:https://lii-studio.com/
Instagram:@l__i_i
NONG RAK/ノン ラック
デザイナーのチェリー・W・レイン・プアンフアン
<Nong Rak>は、ティーラパット・プアンフアンとチェリー・W・レイン・プアンフアンが手がける素材への探究心を軸にしたニットウェアブランド。彼らを中心にした小規模なチームによって、すべてのピースが手作業で丁寧に制作されている。近しい関係性の中で生まれるコラボレーションとケアを大切にしながら、直感や手仕事、素材との対話を通してコレクションを展開。クラフトの積み重ねによって自然に生まれる揺らぎや個体差も、ブランドの魅力として捉えている。2022年には<Marc Jacobs(マークジェイコブス)>のサブブランド<Heaven(ヘヴン)>とのコラボレーションでも注目を集めたことは記憶に新しい。
チェリー「私たちオリジナルのモヘアで作られたドレスです。すべてヴィンテージの糸から作っていて、やはりヴィンテージの方が品質が良いと感じていますし、個人的にもとても気に入っているピースです。」

チェリー「このピースは、本物のバロックパールを使ったカラフルなパーツを、ニットの工程後にかぎ針編みで仕上げたものです。さらにシルクタイの端材も使っていて、ファイバーアートのような表現になっています。言葉では説明しきれない独特の質感で、少しワイヤーのような感覚もあります。ちなみにヴィーガン素材ではありません。」
NONG RAK
Website:https://nong-rak.com/
Instagram:@thenongrak
SHINYAKOZUKA/シンヤコヅカ
<SHINYAKOZUKA>は、小塚信哉が手がけるブランド。小塚は2013年にセントラル・セント・マーチンズを卒業。ファッションを衣服単体ではなく、音や匂い、風景や人の存在までを含めた総体として捉え、‘picturesque scenery’ 絵に描いたような情景という概念のもとで制作を行なっている。各コレクションは独自の物語から始まり、環境や体験としてのファッションを提示。2026年1月にはフィレンツェのPitti Uomoにて、初の海外でのランウェイショーを開催した。
小塚「コレクションはいつも絵を描くこととプレスリリースを書くことから始まって、そこから広げていきます。今回は“片手袋の形をした灯台”がテーマです。片方の手袋があれば、もう片方がどこかにあるはず、という発想や、無機的なものが有機的に変わっていくようなプロセスをデザインに取り入れています。」
小塚「このピースは、軍手に先端がレザーになった作業用手袋をイメージしたハンドペイントを施し、ドライバーズニットにニードルパンチで埋め込んでいます。クラフト感の強いディテールです。」

小塚「色と大きさの異なる約1300個のボタンで、雪の中に月が浮かんでいるような情景を表現したコート。5人のスタッフで約6日かけて手作業で仕上げています。」
SHINYAKOZUKA
Website:https://shinyakozuka.com/
Instagram:@shinyakozuka
SSSTEIN/シュタイン
デザイナーの浅川喜一朗
<ssstein>は、浅川喜一朗が手がけるブランド。独学でデザインを学んだ浅川は、東京でセレクトショップ「carol」を運営した経験を経てブランドをスタート。ヴィンテージの解体と再構築を通して、自身のクリエーションへと発展させていった。「静かな強さと品のある美しさ」をコンセプトに、自然体でありながら洗練されたムードを表現。パターン、素材開発、縫製に至るまで国内外の技術を融合し、丁寧に作り込まれている。
会場でもひときわ人だかりができており、その注目度の高さがうかがえた。
浅川「この鮮やかな赤のジャケットは、今回のコレクションでもキーアイテムです。色味のバランスもすごく気に入っています。どこか見覚えのあるデザインの中に、少し違和感のあるディテールを加えていて、シルエットにもこだわっています。」

浅川「このコートは、シルエットを少しだけ残しつつ、イタリア・コロンボ社のカシミアを使用した非常に柔らかい生地で仕立てています。クラシックな雰囲気も大切にしながら、スエードとのコントラストも気に入っています。」
SSSTEIN
Website:https://ssstein.com/
Instagram:@ssstein_design
TÍSCAR ESPADAS/ティスカー エスパダス
<Tíscar Espadas>は、デザイナーのティスカー・エスパダス、パートナーのケヴィン・コーラーが手がけるプロジェクト。2019年マドリードを拠点にティスカーによって設立され、2021年からはアート保存修復を学んだケヴィン・コーラーが合流し、活動をスタートした。衣服にとどまらない広義の美的言語を、ファッションを軸に構築し、異なるメディアや分野、職人技術との協働を通じて、ひとつの世界観を立ち上げている。クラフトを重視しながらも、自由な着用性を備えたピースを提案している。作品は実験や構築のプロセスから生まれ、素材への感性や偶発的な発見、手仕事の積み重ねがそのままかたちになる。すべてのピースはローカルで制作される一点性の高い存在だ。
ティスカー「私はどちらかというと、商業的な視点も持ちながら、それでも特別で“手に取れる”服作りを大切にしています。ニットはスペインで現地のパートナーと協働して生産していますし、ジュエリーやシューズもすべて地元のメーカーと一緒に制作しています。」
ティスカー「このアイテムの魅力は、その汎用性にあります。さまざまな形で着ることができて、ケープのように羽織ることもできるし、腕を通してより構築的に着ることもできます。夏らしい軽やかさもありながら、レイヤードすれば冬にも対応できます。フラットにもボリュームを出しても着られる、スタイリング次第で印象が変わるのです。
私にとっては、こういったアイテムはまさにシグネチャーのような存在です。そして何より好きなのは、同じ服がまったく違う年代や人たちに着られているのを見ることです。60代の女性が着ているのも見ましたし、20代の男の子が同じものを着ているのも見ました。それがとても美しいと感じる。年齢に縛られず、自由であるということを表現しているからです。」
「前回のコレクションのアイテムです。例えばこの2つのピースは、外側はあえてラフな仕上げにしている一方で、内側には美しいシルクの裏地が施されています。そのコントラストがとても魅力的だと思っています。」
TÍSCAR ESPADAS
Website:https://tiscarespadas.com/
Instagram:@tiscarespadas
世界各国から集まった新進ブランドのクリエイションが披露された今回のLVMHプライズ2026セミファイナリストイベント。デザイナーと来場者が直接コミュニケーションを取る場面も多く見られ、次世代のファッションシーンを担う才能が集う機会となった。近々発表されるファイナリストにも注目が集まりそうだ。
LVMH Prize for Young Fashion Designers 2026
Website:https://www.lvmhprize.com/fr
Instagram:@lvmhprize
- Reporting : Charles Kawamoto Tetsu(QUI)
- Edit & Text : Yukako Musha(QUI)









