Wallabee™に琉球文化の彩りをのせて|THE INOUE BROTHERS×Clarks Originalsのソーシャルデザインの共鳴
デザインの力で人間と人間を対等につなげていく
—<THE INOUE BROTHERS>は兄である聡さんと弟の清史さんによって2004年に設立されていますが、お二人とも前職はファッションとは関係ないお仕事だったんですよね。
井上:僕はグラフィックデザイナーで、清史は美容師でした。<THE INOUE BROTHERS>というデザインスタジオは「いずれは二人で事業を」と将来的な計画として最初からあったわけではないんです。今となって感じるのは<THE INOUE BROTHERS>の誕生には、自分たちが生まれ育ったデンマークの教育システムが大きな影響を及ぼしていたんだと思います。

Photo:Marine Gastineau
—デンマークの教育システムとは?
井上:僕は1978年生まれで、その頃のデンマークを席巻していたのがヒッピーカルチャーです。学校の先生たちも平和主義であり民主主義であり、自然と共生するという思想が強かったと思います。なので僕も現代でいうサステナビリティというものを小学生の頃から無意識に叩き込まれていた。そして大人になって僕が広告の世界で、清史が美容業界で働くようになると今度はソーシャルデザインのムーブメントがデンマークで起きました。コペンハーゲンで結成されたアーティスト集団の<SUPERFLEX(スーパーフレックス)>にも強い憧れを抱いて<THE INOUE BROTHERS>を立ち上げたんです。
—デザインスタジオを立ち上げた段階で会社としての事業内容は決まっていたんでしょうか。
井上:僕も当時は26歳だったので「ソーシャルデザインをやる」という想いが先走るだけで、自分たちに何ができるのか見えていませんでした。
—<THE INOUE BROTHERS>といえばアルパカですが、あの素材との出会いは会社を起こした後だったんですね。
井上:コペンハーゲン大学でボリビアの遊牧民について論文を書いていた友人からアルパカについて教えてもらったのが2006年でした。友人が取り組んでいたのが「カシミヤに劣らぬ品質、価値なのにアルパカで生計を立てている遊牧民はどうして貧しいのか」というテーマです。遊牧民にはビジネスやマーケティングの知識がないので中間業者だけがいい思いをしていたんです。


Photo:Robert Lawrence
—その現状を<THE INOUE BROTHERS>の力で変えていきたいと。まさにソーシャルデザインですね。
井上:自分にできることはデザインをすることです。アルパカをデザインするという発想から自然とニットアイテムへと辿り着きました。<THE INOUE BROTHERS>がファッションブランドと名乗っていないのはアルパカも自分たちが取り組んでいるプロジェクトのひとつで、アルパカの遊牧民に正当な対価を届ける結果がニットアイテムなんです。だからと言って僕たちはチャリティ活動をしているつもりはありません。生産者がハッピーになれば生み出されるもののクオリティは自然と上がっていくんです。「アルパカのニットが好きであれば、ハッピーな生産者が生み出すアルパカを選びませんか」という考えです。

Photo:Robert Lawrence
—現在はファッションにおいてもサステナブルやエシカルは浸透していますが、2006年に<THE INOUE BROTHERS>の考えに共感してもらうのは難しさもあったのではないでしょうか。
井上:おっしゃる通りで難しかったです。2006年の頃は自分たちが目指していることについても「デザインの力で社会に貢献する」と一般的な説明しかできませんでした。ですが「ソーシャルデザインとは」と聞かれたら、今は「人間と人間が対等につながること」と答えます。素材の生産や技法などに着目するのがサステナブルのように思われがちですが、本当にサステナブルな社会を実現するには人間同士の関係性や環境を良好することが不可欠だと思っています。
世の中に振り向いてもらうために世界一を目指す
—<THE INOUE BROTHERS>が世の中に提供し続けている「クオリティ」とはなんでしょうか。お話を聞いているとプロダクトの完成度だけではないような気がします。
井上:僕たち兄弟はデンマークで生まれ育ちましたがデンマーク人からすると移民なわけです。ツラい人種差別も経験して、その度に父親から「やり返すのではなく、相手に勝てるもの身につけろ」と言われ続けました。その教えが身に染みているので「誰にも負けない世界一のアルパカ」というのが自分たちが最優先としているクオリティです。


Photo:Robert Lawrence
—その「誰にも負けない」はプロダクトの完成度やデザインの優劣を指しているわけではないんですよね。
井上:そうですね。<THE INOUE BROTHERS>のプロジェクトについて知ってもらいたいと思ってもクオリティが低ければ誰も耳を傾けてくれません。クオリティというのはコミュニケーションツールであり、「誰にも負けない」というのはこちらに振り向いてもらうためにも必須なんです。なので生産者の意欲や労働環境、幸福度まで含めて世界一を目指しています。
—<THE INOUE BROTHERS>が取り組んでいるプロジェクトやプロダクトについてヨーロッパと日本では反応は異なるのでしょうか。
井上:日本人がいちばん理解してくれますし、共感してくれます。サステナブルやエシカルは新しい概念のようですが、日本には古くから人間と人間が対等につながる「三方良し」という考えがあります。日本人がソーシャルデザインに理解を示してくれるのは当然といえば当然ですよね。

Photo:Chai
—<THE INOUE BROTHERS>が「ソーシャルデザインの力で現状を変えたい」と思うのはどのような時ですか。
井上:僕の答えは結局は「デンマークで生まれ育ったから」というところへ帰結してしまうんですけど。
—それだけ強烈な原体験ということでしょうから全く構いません。こちらとしても聡さんのリアルな言葉を聞きたいです。
井上:デンマークで受けた差別に対して僕はすごく悔しい思いをしました。どうして悔しいかというと「不公平」だからです。デンマーク語も話せるし、デンマークの生活や文化も理解しているのに同じ扱いをしてもらえない。ボリビアの遊牧民もそうです。人柄も素晴らしい、仕事に対しても真面目。そういう人々が利用されるような世の中であってほしくない。理不尽な不公平を目の当たりにした時に「<THE INOUE BROTHERS>としてやれることがあるはずだ」という意欲が湧いていきます。

Photo:Chai
—他のブランドとのコラボレーションとなるとクリエイティブのモチベーションに変化はあるのでしょうか。<Clarks Originals>との取り組みはどうでしたか
井上:<THE INOUE BROTHERS>のコラボレーションは自分たちが個人的に親しんできたブランドとの協業が多く、<Clarks Originals>もそのひとつです。1998年ぐらいから2000年ぐらいにかけて僕も含めて同世代の多くが<Clarks Originals>を履いていました。デザイナー志望の僕が最もピュアに「とにかくかっこいいものを作りたい」と思っていた頃で、<Clarks Originals>からコラボレーションの話をいただいた時には当時の思い出が鮮明に甦ってきました。
—「かっこいいものを作りたい」と情熱を燃やしていた聡さんがかっこいいと思って履いていたのが<Clarks Originals>だった。
井上:その通りです。そして先ほどの不公平をなくしたいという反骨精神にもつながるのですが、僕の10代はレゲエやヒップホップと共にあったようなもので、反権力を象徴するようなミュージシャンの足元にあったのが<Clarks Originals>でした。
—<Clarks Originals>というとスタイリッシュな都会のシューズというイメージがありました。
井上:コラボレーションをするにあたって<Clarks Originals>の歴史をいろいろ調べてみたんです。まず驚いたのが200年もの歴史があること。そして貧しい人たちでも靴を履けるようにしたのが<Clarks Originals>ということも初めて知りました。ソーシャルデザインのブランドということですよね。
心に問いかけて着目した琉球文化が宿る天然染色
—今回は<Clarks Originals>のアイコンシューズのWallabee™に沖縄の琉球藍と奄美大島の泥染めを取り入れていますが、伝統的な天然染料に着目したのはどういう理由からでしょうか。
井上:僕は4年前に生活の拠点をデンマークから沖縄県に移しました。生まれ育ったデンマークをホームと思ったことはないですし、だからと言って日本に郷愁を抱いたこともない。それは僕の家族も同じ考えでした。そこで拠点を日本に移すとなった時に、どこなら落ち着けるのかと考えて出た結論が沖縄県でした。琉球と日本というダブルアイデンティティに自分たちの感情移入ができたからです。


Photo:MODAN
—琉球には、日本と深く関わりながらも、独自の王国として歩んできた歴史がありますよね
井上:沖縄に移住して僕は故郷を見つけたような気がしました。<Clarks Originals>からコラボレーションのオファーがあった時にクリエイティブを頭で考えるのではなくて、自分の心に問いかけようと思いました。そこでやってみたいと思ったのが自分にとって初めてホームと感じられた琉球の文化が宿る染色をWallabee™に取り入れることです。
—染色は天然染料をWallabee™に直接スプレーしたそうですが、そのアプローチも独特だと思いました。
井上:僕のクリエイティブの原点はハンドメイド、ハンドペイントでした。なので今回のWallabee™は琉球藍と泥染めでそれぞれ100足限定なのですが、全て手作業なので一足一足の表情が異なります。スプレー染色は前例がなかったのですが沖縄の「琉球藍研究所」と奄美大島の「金井工芸」に協力してもらい、両工房の研究によって実現できたものです。

Photo:Chai
—琉球の歴史が宿る染色であれば前例がないやり方で挑むのではなく、伝統的な技法に則るという考えも生まれそうですが。
井上:残すべき、残っていくべき伝統技法や伝統工芸はあるのですが、後継者不足という問題が現実としてあります。「琉球藍研究所」も「金井工芸」も守るべきものは守りながら、次の世代が受け継ぎやすいように現代的なアップデートは必要という考えなんです。スプレー染色も柔軟な発想の賜物です。
—藍染めと泥染めのベースにオレンジやグリーン、ピンクなどの色を載せていますが、あれはニットでいうネップ糸のように見えます。
井上:そのつもりはなかったですが、そういう捉え方もあるんですね。アトリエでグラフィティの作業をするとTシャツでもシューズでも、あらゆるところにペイントが飛び跳ねます。それは汚れなんですけど、計算して付けているわけではないので唯一無二の味わいのある表情にも思えてくる。今回のペイントも「グラフィティ作業後のアーティストのシューズ」というイメージなんです。
—デザインとしてのアプローチですが着想源は「不可抗力の汚れ」です。そのアイデアに<Clarks Originals>の反応はどうでしたか。
井上:<Clarks Originals>の歴史を紐解くとストリートファッションに欠かせない存在だったことがわかります。ブランドは200年も歴史があるとコンサバになりがちですが、<Clarks Originals>はストリートに受け入れられていたことを歓迎していたわけです。なのでWallabee™にストリートアートの感性を融合しても違和感が生まれるわけがないと僕は思いました。

Photo:Chai
—聡さんの<Clarks Originals>へのリスペクトがいろいろと伝わってきます。
井上:今回のコラボレーションは自分が通ってきたカルチャー、自分の記憶に残る10代の思い出や風景をストレートに反映したのでアーティストとして純粋に楽しかったです。<THE INOUE BROTHERS>としてやりたい表現を<Clarks Originals>は快く受け入れてくれて本当にありがたかったです。
—弟の清史さんの思い入れも今回のシューズに込められているんですよね。
井上:もちろんです。これまでは<THE INOUE BROTHERS>は会社なので兄と弟でもビジネスパートナーであることを意識していましたし、そうあるべきだと思っていました。ですが僕の原体験や原風景は清史の原体験や原風景でもあり、自分の心に問いかけた<Clarks Originals>とのコラボレーションをきっかけに「俺たちは井上兄弟のままでやっていこうぜ」と弟と話すようになりました。
—<THE INOUE BROTHERS>はアパレルを通じていろんなプロジェクトに取り組んできたわけですが、時代とともに聡さんのファッション観に変化はありますか。
井上:自分が知りたい情報を得る手段は今はいくらでもあるので、ファッションが好きなら服について、カルチャーについて深掘りした方が絶対に楽しい時代になっていると思います。オタクマインドで自分が好きなものをどんどん追求してほしいとも思います。
—ファッションデザイナーもマニアックな着想や視点は増えているような気がします。
井上:それは僕も感じます。日本のクリエイターの探求心はどんどん高まっているからアプローチにも独自性がある。新しいものに目移りするのではなく、古き良きものをきちんと見直すことができるのが日本という国なので、ファッションやモノづくりだけではなく自然や環境保護のことまで世界のお手本になれると思っています。<THE INOUE BROTHERS>も自分たちがやっていることを自信を持って世界中に発信していきたいです。

Photo:Fadi Dahabreh

Photo:Chai
商品情報

Wallabee_Amami_Mud-Dyed ワラビー 奄美 泥染

Wallabee_Ryukyu_Indigo-Dyed ワラビー 琉球 藍染
販売価格:¥39,800(税込)
SIZE:Women’s UK4(23cm)-UK6(25cm)/Men’s UK6(24cm)-UK10(28cm)
数量:限定200足
仕様:すべてのシューズに個別のシリアルナンバー入り
販売情報
受注開始日:2026年9月3日(木)
受注場所:Clarks Originals Tokyo/全国のクラークスストア/オフィシャルオンラインストア
POP-UP STORE at Clarks Originals Tokyo:2026年9月3日(木)から9月30日(水)まで
お届け:受注期間終了後から加工を行うため、最大2ヶ月ほどでお手元にお届け
ウェブサイト:https://www.clarks.co.jp/
- Text : Akinori Mukaino
- Edit : Yusuke Soejima(QUI)