ショーにかける決意、そして浪漫|Rakuten Fashion Week TOKYO 2023SS
世界の経済が豊かになれば、それに比例してファッションは煌びやかになる。
しかし、現在は終わると思っていた悲惨な争いが起きてもう半年が経つが、まだ終わりの見えない不穏な空気が流れている。
そして今年9月8日エリザベス女王が亡くなったことで、大手メゾンはショーやパーティを中止を発表。
日本は、ファッションウィークが終わった後の訃報だったこともあり、コレクションの発表には影響はなかったものの、我々も決して無関係ではない世界中の様々な変化は、フィジカルショーのあり方を考える機会となっている。
世界情勢が穏やかではない中、フィジカルショーはさらに意味を求められる。
壮大な資金と人の手が動いているたった15分の間に、何をやるのか、何を伝えるのか、デザイナーの意図が問われる。
2010年代は、デザイナーが作る世界観を伝えるための手法として使われたフィジカルショー。
2020年からは、デザイナーが世界に伝えたい意志が込められているように感じる。
先日開催された2023春夏のRakuten Fashion Week TOKYOにて、フィジカルショーを行ったブランドから、伝えたい意志が色濃く反映されているブランドをピックしていきたい。
HOUGA
観覧者にはある新聞紙が配られた。新聞紙は、<HOUGA>の新作コレクションを特集した号外を彷彿させるデザインであった。ショー開始までの待ち時間、新聞を開いて読んでいる姿は、時代がタイムスリップしたような風景だった。今期は、<HOUGA>を象徴する伸縮フリルを多様に用いつつ、赤、青、シルバー、ピンクとビビットな色が引き立つ。
テーマは「MY WILL、OUR WILL(私の意思、私たちの意思)」。多様化を目指す社会の中で、その波に乗り自由を勝ち取った人もいれば、自分を見失っている人もいるだろう。多様な価値観を持った人と生活するには、個人の強い意志が必要になってくる。今期の<HOUGA>は、迷いのある人への救いであり、強い意志を持つための服を提案したのではないだろうか。自分がなりたい自分であることが一番の自然体である。人と違っていても孤独ではない。いや、むしろ孤独を愛することを補助できるのはファッションの役目なのかもしれない。それは男女に限らず、どんな体型や年齢でも着られる洋服を提案したいという思いと、伸縮フリルが機能する着る人の体型を選ばない、男女を選ばないアイテムと合致するように思える。フィナーレで一気にモデルが闊歩する姿は、まるでデモのような強い意志を感じた。
HOUGA 2023SS COLLECTION RUNWAY
MASU
混沌とした世界に希望の光をくれる存在は、いつの時代も「トップスター」である。今期コレクションの象徴は、「マイケルジャクソン」誰もが認める王道のトップスターだ。通常ブランドは差別化を図るため王道を避けがちであるが、<MASU>のデザイナー後藤氏は真っ向から勝負に挑んだ。マイケルジャクソンが生前トップスターとして何万人の前に立つ一面と、パパラッチから逃れるように顔を隠すプライベートの一面、両方にマイケルらしさと色気を見出した。
スパンコール生地のフーディー、ヴィンテージパンツにはスワロスキーが散りばめられ、トップスターの表舞台と私生活を交えた。それはマイケルジャクソンに限らず、表舞台で着るドレスやタキシードだけじゃない、我々一般人が私生活で着ているようなアイテムにも「色気」があるというメッセージにも受け取れた。
フィナーレは「踊ろう」という言葉と同時に大量の赤いテープが舞い、その中をモデルたちが楽しく踊りながら再登場。観客も楽しくなって立ち上がってしまいそうなほど、暖かく優しい空気が流れた。そこはまるでネバーランド。しかし会場から一歩外に出れば、我々もマスクをしなければならない窮屈な生活をしている今、我々に光を与えてくれるマイケルのような存在を求めているように感じた。また、会場に敷かれたレッドカーペットは裁断しバックとして商品化。ショーで味わった思い出を一夜限りで終わらせない後藤氏のアイデアに脱帽である。
YOHEI OHNO
5年ぶりのショーは、国立科学博物館で行われた。<YOHEI OHNO>の着想源は、服以外の建築などの影響が大きい。「100年前の美術や文化は、現代では考えにくい技法や思想でデザインされていて、近未来の世界を見ているかのようなタイムレスな錯覚に陥る」と21年秋冬コレクションで大野氏は語っており、デザインの歴史を遡ることに着目し、コレクションに落とし込んでいた。そんな彼が、恐竜の骨格標本が並ぶ博物館を選んだのも納得がいく。コロナパンデミック以降、ファッションの必要性が問われている中でも大野氏は「人が装飾することの美しさ」を追求し、身体を誇張するデザインに挑んでいた。
1950年代のスカートの膨らみを持たせるバッスルスタイル型のポケット。甲冑のようにゴツゴツとしたディテールのシースルージャケット。丸い肩パットの入ったドレスにロブスターの甲羅のようなパンツ。コルセットから破片が飛び出したような装飾。どのデザインをとっても「攻め」の姿勢であり、コロナ以降、<YOHEI OHNO>が挑戦して来たデザインの集大成である。ファッションの面白さは、身体を誇張すること、装飾することの楽しさを改めて実感したコレクションとなった。
YOHEI OHNO 2023SS COLLECTION RUNWAY
WATARU TOMINAGA
わずか3年目にしてアメリカや欧州でショーを行った<WATARU TOMINAGA>。国内で初のコレクションショーは、ドリーミーでファンシーのある世界を感じた。声は聞こえるが意味を受け取れないBGM、会場は白く、境界線が曖昧になる感覚は、まるで夢のよう。この中で登場するアイテムもまたトップスとボトムの境界線、ジャケットとTシャツの形が曖昧に見えた。取り外しが可能なスナップボタンがアイテムの至る所についており、それぞれのフォルムが崩れている。またブランドが得意とするグラフィックは、カラフルでポップなカモフラージュ柄により境界線がない。
また、Tシャツにはオリジナルのキャラクターがプリントされ、ぴたっとしたTシャツ、ビーズのアクセサリーなどから2000年のストリートカルチャーを彷彿させる。青春という無垢な時代に影響を受けた世代にとっては、ファッションの原点とも言える。今2000年代のファッションを語れば、「Y2K」として括られてしまうがそうではない。カラフルでトレンドやルールに縛られない自由な着こなしは、ファッションに純粋でキラキラしていた。その影響は、ヘアメイクを担当した河野富広氏も過去のインタビューで語っている。同じ時代のストリートに影響を受けた二人の相性が良い。きわめつけは、モデルが手にしていた2000年代初期に発表したiMac G3のスケルトンカバー。当時のテクノロジーは、今よりもカラフルで近未来的なデザインを楽しんでいた。比べて現在は、生活もデザインもシンプルに削ぎ落とす時代。「あの頃の未来は自由で明るかった」というメッセージをコレクションから受け取った。
WATARU TOMINAGA 2023SS COLLECTION RUNWAY
kudos / soduk
工藤司氏が手がけるメンズウェア<kudos>、ウィメンズウェア<soduk>による初の合同ショー。前日送られてきたメールには「ドレスコード:白い装いを取り入れたドレスアップにてお願いいたします。ショーの間は撮影をご遠慮頂きますようお願い申し上げます。」と明記。ショーでは記録のためにスマホが手放せない筆者にとって、久々に最初から最後まで服に集中することができた。
ファーストルックは、全身白のジャケットルックと、無作為に並ぶポケットに草花が飾られたシャツワンピを着たモデルが並んで登場。同性婚のウエディングドレスがよぎり、社会への強いメッセージだと感じたが、次第にリアルクローズへとアイテムが変わっていく。メンズ・ウィメンズ合同であることに気づき、これはデザイナー工藤氏の普遍的な愛の形、自由婚であるという解釈へ変わった。人の数だけ「普通」があるように、彼にとって特別ではなく「普通」のマリアージュルックなのであると感じた。モデル選びも絶妙だ。街中でよく見かけるような雰囲気であるが、魅力を感じる個性がある人が並んだ。手描きが生み出すエモーショナルなグラフィックから、右はノーカラー左はラペルが4つあるジャケット、ボタンの位置がねじれているベスト。大きく破れたところに安全ピンを止めたテーラードスーツに、ハーフスラックスとジーンズを合わせる。まるでミスマッチや製作段階で失敗したサンプルを愛すかのようなデザイン。一つ一つにデザイナー工藤氏の愛を感じ、全60体を見終えるころには目頭が熱くなった。デジタルで溢れる世の中で、自分の目でデザイナーの価値観に真っ向から向き合う。彼の姿勢に「kudos to you」(古い英語で称賛する)を送りたい。
- Text : Keita Tokunaga
- Edit : Yukako Musha(QUI)