吉井添をつくるもの
3つのテーマから見えてくる、吉井添の現在地とは。
唯一無二のルックスと表現力で、ファッション界にとどまらない注目を集める若き才能の実像に迫った。
モデルの仕事を通して、自分に自信がついた
― まずは、モデルを始めたきっかけから教えていただけますか。
高校3年生ぐらいのときに、友人や知人から「やりなよ」と勧めてもらったことがきっかけです。もともと自己肯定感が高いほうではなかったので、モデルという仕事を通して人としゃべれるようになったり、カメラを向けられても対応できるようになったり、結果的に自分に自信がついたことは良かったなと思います。
― 小さいころはどんな子どもでしたか?
姉が3人いて、母がいて、4人の女性に囲まれて育ったこともあり、落ち着いてゆったりとしたタイプだったと思います。
― すごくかわいがられたでしょうね。末っ子の男の子で。
いや、全然ですよ。女家庭だと逆にボコボコにされます(笑)。
― なるほど(笑)。ファッションには小さいときから興味がありましたか?
母親が洋服とかのデザイナーだったので、そこに影響されている部分はかなりありますね。
― 家にも服がいっぱいあるような環境で?
そうですね。小さいときにそういうものにいっぱい触れられたのは良かったなと思います。
― 思い出に残っている服はありますか?
洋服を自分で初めてちゃんと買ったのが18歳ぐらいだったんです。中世のエレガントな洋服が好きで、フリルブラウスを買いました。着こなせるのか心配だったんですが、メイクも覚えて、着たときに悪くなかったので、うれしかった記憶があります。
そのころからモデルとしても、いろんなお洋服を着させていただくようになって。もともと服自体は好きだったけど、着る自信が欠落していたのですが、どんな服装にも抵抗がなくなっていきました。
― 自分の引き出しにない服を着ることで、自分の可能性が広がっていくことってありますよね。これからもモデルとして活躍していきたい?
自分は、刺激のある仕事じゃないと続かないと思っていて。モデルの仕事は毎回違う現場で、違う人と会って、自分では買えないような洋服を着させてもらえる。そしてひとつの物語をつくっていく中に入れてもらえるのは刺激的で、すごく素敵なことだなと思います。気分にムラがあるほうなので、モチベーションを失わずにやり続けていきたいです。
多様性という価値観が浸透したことでラクになった
― 今日は「フェミニン」をテーマにした撮影でしたが、ジェンダーをはじめとした多様性が尊重されるようになってきた変化を、吉井さんはどのように捉えていますか?
自分はもともと協調性がなく、対人関係よりも自分らしさばかりを尊重してきた人間なんですね。だから小さいころは髪を肩ぐらいまで伸ばして、お姉ちゃんのおさがりのトップスを着ていたり、中学生ではメイクもしていたり。当時では珍しいタイプの人間だったので浮いてしまうことも多々ありました。
ジェンダーレスとか多様性という言葉が出てきて、その価値観が浸透したことで、自分の表現方法を説明する手間が省けるようになりましたよね。そこはすごいラクになったんじゃないかなと。
― 自分らしさを肯定してくれる言葉ができた。
たとえばファンキーな服を着てるからグレてるわけでもないし、高い服を着てるから金持ちってわけでもない。体裁だけで一概にどうこう決めつけられず、自分のしたい格好をすることが個性として扱われるようになってきたのはすごく良いなと思います。
― 逆に世の中に対して、もっとこうなれば良いのにと考えていることは?
まったくないです。さっきも言ったんですけど、人に理解して欲しいという気持ちがあまりないので。ただ、自分に適した時代に生まれられて良かったなとはめっちゃ思います。
― では今の時代に、ファッションやメイクにはどんな力があると感じますか?
自分はファッションやメイクに、そのときの情緒を反映させるようにしていて。パワーが溢れているときはパンクな洋服を着たり、人間でなく無機物になりたいときはドールみたいなフリフリの洋服を着たり。おしゃれするときはその時々の気持ちを優先していて、「これこそ俺のスタイル」みたいなジャンルがないんです。
画家さんがテンションによって作風が変わるのと似ていて、こういう情緒のときはこういう服を着ようというパターンがあるんですよね。
― おもしろいですね。それで気持ちを上げていく?
そうです。まあ、出かける予定がなかったらずっと寝間着のままですが(笑)。
― ちなみにファッション以外でお金を使っているものってありますか?
去年の9月から半年ぐらい、スマホゲームの課金にハマって、毎月すごい額を使っていたんですよ。それこそ洋服が全然買えなくて、どうしようってぐらい。それでゲームを全部消しました。
― ええっ、全消去。僕だったらショックで泣いちゃいそう。
執着心がそんなに強くないので、消すときはわりと大丈夫。
― でも執着心がないのに、そんなにハマっちゃうんですねえ。
ドッとハマってなにも見えなくなっちゃう性格なんですよ。それが怖い……。
世の中にないからこそつくりたい
― 最後に、吉井さんのアーティストとしての一面についてもお聞きかせください。モデルをする前は、イラストやデザインを仕事にしたかったそうですね。
はい。なにかを表現することが本当に好きで。自分の内面をうまく伝えるのが苦手な人間なので、昔からそれを形にして提示していたのかもしれません。
― 作品自体に伝えたい思いを込めている。
でも一定期間、同じテンションじゃないと描けなかったりもするんです。さっきのおしゃれとも似ていて、なにかをつくるときは自分の情緒を大事にしています。
― イラストを描き始めたのは物心ついたころから?
そうだと思います。しっかりうまくなりたいと思って、6年ぐらい習いました。
― めちゃくちゃ上手いので、自己流なのか気になっていました。
やっぱりすごい力になりましたね。
― イラストはどんな手法で描かれているんですか?
一人暮らしを始めてから片付け癖がなくなっちゃって、片付けなくていいデジタルで描くことが多くなっています。学生のときは水彩画がほとんどでしたが。
― イラストのお仕事もされているので、その場合デジタルのほうが扱いやすいですしね。ご自身の中で代表作ってありますか?
うーん……ないかもしれないです。
― ないっていうのは、どういう意味合いで?
言ってしまうと、そんなに満足してないんですね。頭の中ではすごく良いものができあがっているのに、どんなに時間をかけてもそれをボンって出すことはできなくて。頑張ってはいるけど、「よく描けたぜ」みたいな清々しい気持ちになるってことはあんまりないんです。
― 想像以上のものができたという瞬間ってないんですね。
うん。悲しいですよね。でも、そういう瞬間を体験したいからこそ描き続けられているのかもしれません。
― たしかに。満足しちゃったら終わっちゃうかもしれない。
そうですよね。
― 他に表現活動ってなにかしていますか? たとえば文章とか。
詩を書くのはすごい好きです。まだ誰かに見せるっていうほどではないですけど。
― 詩ですか。じゃあ歌はどうでしょう?
実は、歌はやりたいと思って頑張っています。書くのが好きなので。
― おお、歌詞を書くのが?
はい。
― 曲は?
曲も10代のころからつくってはいたんです。世の中にない音楽なのに、すごく聴きたいと駆られることがあって。「なんでこの曲存在しないの?」みたいな。こういうリズムの曲があったら良いのにとか、こういうテーマの曲があれば良いのにとか思うことが多いので、自分でつくれたら一番良いんだろうなと。
― 存在しないからつくろうと思ったんですね。好きなアーティストがいて、楽曲をコピーして、そのうえでオリジナル曲をつくるみたいなストーリーはよく聞きますけど。
それって逆にすごいなと思います。自分だったら好きなアーティストに寄せちゃうので、オリジナルなんて絶対にできない気がします。その人をリスペクトしているからこそ、自分が許せなくなりそうで。
― 歌となると、どうしてもお父さん(吉井和哉さん)のことが思い浮かびますが、やはり影響は受けていますか?
自分は父のライブや曲に触れたことが本当に少ないんですけど、小さいころから話を聞いたり、テレビで観たりはしてきたわけで。母からは絵やファッション、そして父からは歌と、両親からは絶対に影響を受けているとは思います。
― お父さんに相談は?
「歌やりたいんだよね」って相談はしました。 父は押し付けるタイプではないので、そっと応援をしてくれています。
― 吉井さんの曲はいつごろ聴けそうですか?
どうでしょう? 少しづつ曲のパーツを作っていて、今は週一でボイトレに通っています!
― そうなんですね。近いうちに聴けることを楽しみにしています!
Profile _ 吉井添(よしい・てん)
2001年11月11日生まれ、東京都出身。2019年からモデル活動を開始し、多くのファッション雑誌への出演、ブランド広告にも起用される。フォトジェニックな顔立ちと183cmという長身と細身のスタイルを活かし、幅広いファッションを着こなす。またイラスト画を得意とし、そのイラストがアパレルブランドとのコラボ商品として採用されるなど、幅広く活躍するマルチアーティスト。2023年4月より、コミュニティサイト「OBSCURE CHURCH」を立ち上げ、自身が生み出す言葉やアート、不定期開催のライブストリーミングなどを通じて ファンとのコミュニケーションを取ることができるサイトとなっている。
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- Photograph : Misuzu Otsuka
- Styling : Yuuki Tsuchida
- Hair : Satomi Suzuki(S-14)
- Make-up : ANNA(S-14)
- Edit / Text : Yusuke Takayama(QUI)
- Edit : Yukako Musha(QUI)