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FASHION

受け継がれる東京のシーンとコレクティブ ー スタイリスト島田辰哉×アートディレクター村田実莉

Apr 12, 2023
2022年12月9日、ドイツ産のリキュール「イエーガーマイスター(Jägermeister)」が主催する「NIGHT EMBASSY TOKYO」が、渋谷のクラブBAIAにて開催された。
本イベントはクイア、ファッション、音楽を軸に、クリエイティブで情熱のある方々を招聘し、自由な空間・スペースにおいて発案を実現するプログラムとして世界規模で展開。
クラブ・カルチャーの聖地のひとつとして知られるドイツ・ベルリンをはじめ、フランス・パリやロシア・モスクワ、ブラジル・サンパウロ、南アフリカ・ヨハネスブルグなど、各地域の主要都市を周り、アジアでは、東京で初開催された。
そのイベント行われたファッションショーを仕切ったのは、スタイリスト島田辰哉氏と、アートディレクターでありアーティストの村田実莉氏。立場は違えどファッションに精通する2人。
「Something Reborn」と題したショーの参加ブランドには、現役で活躍している<KIDILL>や<BALMUNG>などのブランドから、HIROYUKI HAYASHIなど新進気鋭の若手クリエイターまでが肩を並べ、1つのショーでミックスしたスタイリングで披露された。
ショーを拝見し、2000年以降のブランドやクリエイターをまとめあげたものだと私は解釈した。
横並びブランドに固執するファッション業界の構造を取り払い、ファッション表現を通して、時代性や、カルチャー、ジェンダーまでも大胆に表現していた。
この垣根を超えた開かれた表現を、いちイベントが行ったこととして終わらせず、記録に残したいという思いから、主催した2人にショーを開催に至る思いや、現在ファッションに対して考えていることを伺った。

受け継がれる東京のシーンとコレクティブ ー スタイリスト島田辰哉×アートディレクター村田実莉

Apr 12, 2023 - FASHION
2022年12月9日、ドイツ産のリキュール「イエーガーマイスター(Jägermeister)」が主催する「NIGHT EMBASSY TOKYO」が、渋谷のクラブBAIAにて開催された。
本イベントはクイア、ファッション、音楽を軸に、クリエイティブで情熱のある方々を招聘し、自由な空間・スペースにおいて発案を実現するプログラムとして世界規模で展開。
クラブ・カルチャーの聖地のひとつとして知られるドイツ・ベルリンをはじめ、フランス・パリやロシア・モスクワ、ブラジル・サンパウロ、南アフリカ・ヨハネスブルグなど、各地域の主要都市を周り、アジアでは、東京で初開催された。
そのイベント行われたファッションショーを仕切ったのは、スタイリスト島田辰哉氏と、アートディレクターでありアーティストの村田実莉氏。立場は違えどファッションに精通する2人。
「Something Reborn」と題したショーの参加ブランドには、現役で活躍している<KIDILL>や<BALMUNG>などのブランドから、HIROYUKI HAYASHIなど新進気鋭の若手クリエイターまでが肩を並べ、1つのショーでミックスしたスタイリングで披露された。
ショーを拝見し、2000年以降のブランドやクリエイターをまとめあげたものだと私は解釈した。
横並びブランドに固執するファッション業界の構造を取り払い、ファッション表現を通して、時代性や、カルチャー、ジェンダーまでも大胆に表現していた。
この垣根を超えた開かれた表現を、いちイベントが行ったこととして終わらせず、記録に残したいという思いから、主催した2人にショーを開催に至る思いや、現在ファッションに対して考えていることを伺った。
Profile
島田 辰哉
スタイリスト

SHUN WATANABE氏に師事し、2012年に独立。以降、ファッションを中心に数多くのブランドや雑誌でスタイリングを手掛けるかたわら、2015年から自らのインディペンデントマガジン『CONTACT HIGH ZINE』も出版。

村田 実莉
アートディレクター、ビジュアルアーティスト

逆説的なシチュエーションを元にネイチャーとデジタルを融合した現象的なビジュアル表現を行う。ラフォーレ原宿、PARCOなどキャンペーンビジュアルや映像の他、imma天 @ DIESEL ART GALLERYのキービジュアルと会場アートディレクションを担当。2019年インドに滞在。「盗めるアート展」にて、偽クレジットカード作品「GODS AND MOM BELIEVE IN YOU」を出展。2020年よりKOM-Iと「HYPE FREE WATER」を開始。東京のアーティビズムを刺激するビジュアルアートとして、環境と水をテーマにした架空の広告を制作。

まずは、今回お二人がファッションショーを開催するに至った経緯を教えてください。

島田)「NIGHT EMBASSY TOKYO」の話をもらったとき、音楽とファッションとクイア、それぞれのカルチャーに精通する方に声がかかっていて、若い世代と一緒にイベントでやりましょうという企画でした。内容は映像でもいいし、インスタレーションでもよかったんだけど、クラブ「BAIA」でやることは決まっていたので、場所があるのならファッションショーをやりたいと提案しました。ショーをやるならディレクションは自分の中でみのちゃん(村田実莉)に頼みたい、ブランドはまだ世に知られてない若手をフックアップしたいと考えてたんです。
だけど、12月にブランドがショーをやっても販売に繋がらないしメリットがないんです。だとしたら、最近よく現代アートシーンで耳にする”コレクティブ”(1人リーダーがいて、同じテーマを持った一時的なアーティスト集団)の概念は、ファッションでも活かせると思っていました。多様なブランドが集まったコレクティブ感と、みのちゃんがディレクションした演出やストーリーが合わさったら面白いものになりそうと思い、僕とみのちゃん2人でアイデアを出し合いながらカタチを作っていきました。雑誌を作っていく感覚でファッションショーをつくっていけたらいいんじゃないかと考えたんです。

村田)私が考えたストーリーは、シンギュラリティーという言葉があるように、デジタルやテクノロジー、AIの発達によって人間の立場が危うくなってくる未来を軸に考えました。私自身がそういうテーマが好きだったというのもあるんですけど、ファッションショーに現代アートの文脈で演出とメッセージを考えることが私の役割なのかと思って。例えば、ベルトコンベアー式に人間が生産されてる様子を見ると心が痛みますよね。でも人間は、それを他者に向けてやってるというような、人を使ってアンチテーゼができると思ったんです。
実際のショーでは、会場に祭壇と棺桶が用意されていて、サイボーグのようなモデルが棺桶を開けると、新しい人間が誕生します。棺桶は人間の終わりではなく、新しい人間が生まれ変わる未来の箱のようなもの。棺桶から出てきたモデルは、未来のサイボーグです。最初は人間の形態に近いけど、ショーが進むにつれて体が植物に侵食されていったり、デジタルのようなものが付随したり、だんだん人間の形態が変わっていくという流れになってます。最後は棺桶のサイドが開き、そこには内臓のようなグロテスクな柄を着たモデルが横たわっていて、サイボーグが主体の世界では人間が陳列されています。例えば、スーパーに行けばお肉が並んでいるような状況を、人間である我々が見て終わる内容にしました。

ショーの冒頭、棺桶を開けるモデル

棺桶から”新しい人間”が登場したシーン、サイボーグと”新しい人間”が並ぶ

ショーの最後、棺桶のサイドを開けると、グロテスクな柄の服を着たモデルが横たわる

島田さんは村田さんのコンセプトからスタイリングを構築していったのでしょうか。

島田)そうですね。みのちゃんのアイデアに、ファッションのアイデアの乗せていくイメージです。例えば、ファーストルックは「I LOVE HUMAN」と書かれたTシャツにデニムと街で見かけるスタイルにしたのは、テーマの流れもあるけど単純に「可愛いよね。いいよね。」って感覚で採用しているものもあります。

村田)「I LOVE HUMAN」のTシャツを着てるって誰目線なんだよって感じとかもいいですよね。(笑)サイボーグが着ているとわからないと、この面白さは伝わらないですし。ファッションショーってブランドの世界観や人物像とかデザイナーの美学があってそれを見せる場所だと思うんですけど、今回のショーを見た人はどう捉えたんだろう?
私の意図としては、実際、未来に求められるスタイルは、一見記号的な未来像なんだけど、サイバーパンクのような全身サイボーグというよりもプリミティブな方向に行くんじゃないかなと想像して。スタイリングに植物を取り入れることにしました。今でもインフルエンサーたちがこぞってインスタグラムで投稿するのは、植物やバケーションで見た自然の風景だったりしますよね。このように、現代人もデジタルを使っているのに、相反する自然なものに本能的に惹かれている行動も同じだと思いますね。

photographer ayakaendo

島田)ショーのスタイリングをする時は、ブランドが作り上げたコレクションの色合いや素材、アイテムの強さなどをなだらかに組み合わせる事が多いのですが、それとは違った面白さがありましたね。ショーの中で出てくる生け花のスタイリングの植物は、専門学校の同級生だった華道家の萩原亮太と一緒に作りました。この企画の少し前に彼と作った作品を、みのちゃんに見せて「いいね!」って話になったり。棺桶の中のお花も用意してもらいました。萩原の紹介でメインステージの祭壇のお花は、dodo tokyoという別のフラワーアーティストが作ってくれました。「みのちゃんのグラフィックで服作ってみたいよね。」とか、単純に2人が思う面白いことを採用していった感じはあります。

現在のコレクティブとは異なるかもしれませんが、2010年頃にスタートした<BALMUNG(バルムング)>、<runurunu(ルヌルヌ)>、<bodysong.(ボディソング)>よる合同インスタレーション「COCOON(コクーン)」を思い出しました。<BALMUNG>、<runurunu>はショーにも採用されていましたし、脈々と受け継がれていると感じました。

島田)2010年頃、僕はアシスタントをやっていて、同世代の僕は少なからず彼らの活動に影響を受けています。ビジネスよりもクリエイションにかける熱意はすごくあって、あの感覚は現在の若手クリエイターにも共通する部分はあると思っていたんです。例えば、当時の彼らのクリエイションは、今回のショーでピックアップしたHIROYUKI HAYASHIの作品のような完成度やクオリティの高さなど近しいものを感じます。売るつもりかどうかはわからないですが(笑)。だからこのショーでは、10年前にやってた<BALMUNG>、<runurunu>のスタンスと若手のHIROYUKI HAYASHIを同列で合わせたかったんです。

村田)東京の表現の強みは、ミックスすることがうまいところだと思うんです。ファッションの歴史でも、アメリカから輸入されたカルチャーを日本で再解釈したのが「アメカジ」だったり。個人だとコレクションショーをやれないブランドも、3組くらい同じバイブスを持った人たちが集まれば、資金をシェアできそうだし、観に来る人も楽しいはずですよね。私はファッションデザイナーではないから、面白至上主義的にいいなって思うのかもしれないですが。でもメリットしかないと思います。昔、coconogaccoが渋谷PARCOで合同のインスタレーションやショーをやっていたし、私の世代だと「シブカル祭」があって、そこでメインビジュアルを制作したときに、同世代のクリエイターと繋がったり、文化庁のメディア芸術祭には、新しいクリエイターと出会える機会がありましたよね。集まる場所はなくなりつつあるのが残念ですが、アート業界では場所や機会にこだわらず、その反動でインスタグラムを通して、個人で発信している人が増えてますね。

島田)ファッション業界でいうと、昔の「COCOON」とはテイストが違うけど、いろんなところでシーンが生まれてる感覚はありますね。例えば、PCでもスマホでもグラフィックが作れればプリントTは誰でも簡単に作れるから、ブランドを作ることがやりやすくなっています。以前だと服を作ること自体縫えない人からすると距離があったし、造形美も含め1着1着手が込んでないといけないような風潮でした。でも、今の若い世代はそういう感覚はないし、むしろプリントTにコンセプトを合わせることで強いアイテムだったり、Tシャツ1枚がラグジュアリーなものになったりする時代だと思うんです。ブランディングが上手ければハイエンドなものになる可能性を秘めている時代だから、若い層の活動を見てると、もしかしたら今のファッションは現代アートに近しいのかもになってきているのかもしれないと思いますね。

村田)そうですね。特にツールに関する情報が手に入れやすくなっているし、イラレやフォトショの技術も上がって使いやすくなってますよね。だから、発想とか編集力が求められる時代だと思います。もっというと、スマホで作品が作れる時代だし、昔のようにアプリから作る人はごく少数いますけど、もう稀な存在ですよね。だから、今手に入れやすいツールやアプリを使ってどう工夫するかが大事だと思います。手軽にできるし、SNSで公開できるので、制作のスピードも上がっている気がしますよね。今回のショーのように、服をイチから作り上げるよりも、今使える技術を駆使して、既存のブランドのアートピースを再構築して使うのと同じかもしれないです。

今までのお話を聞いて、ファーストルックがすごくコンセプチュアルなものに受け取れました。現代人へのアンチテーゼという側面からストリートでいそうなTシャツにデニムを合わせたり、様々なものが手軽に作れるようになったことへのアプローチだったり。そして「I LOVE HUMAN」というメッセージ。現代を表す強いルックのように感じます。

村田)島田さんと打ち合わせしているときに、「いいね!かわいいね!」って感覚で作っていったのでそこまで意識的ではなかったです。ただ言葉は出さずとも、私たちの根底にはさっき話したような軽さとか、ファッションだからこそ、人を使ってアンチテーゼなメッセージを込めるには必要なアイテムだよねって通じ合えたんだと思います。

島田)振り返って見るとファーストルックは重要な要素だったのかなと思います。
I ♡ HUMANのTシャツを着たデニムパンツのルックにしよう!とみのちゃんと話し合ってから、Tシャツを制作する際にイメージしていたのは、「アンドロイドが”I ♡ HUMAN”とステンシルでDIYしている光景」で、その世界はディストピアなのかユートピアなのか分からないその様を想像していました。現代の子がAIがもっと身近になった未来と聞くと、アンドロイドに人間が侵略されるような世界を想像しがちですが、反対にアンドロイドが人間を好いてくれる未来もあるのかなと想像していると、今回のショーのムードもなんとなく見えてきた部分があります。アンドロイドに侵略されるディストピアな未来と、アンドロイドと共存するユートピアな未来が同列にある世界観。そして、最後に残るのは、肉となり売られていく人間と、人間に寄り添っていくアンドロイドだけというストーリー。この辺りのムードは、音楽を担当してくれたナツキさんの世界観に繋がってくるんです。今回はハードなものよりも、エモーショナルな音楽が良いと考えていました。エレクトリックだけど、少し切ないようなメロディー。エンディングっぽいイメージでした。
アイテム自体は軽いけど、ショーのストーリーでいうと重要なルックになったし、みのちゃんとその感覚を通じ合えたのが大きいです。

photograph ayakaendo

最後に、スタイリストとして活動されている島田さん、アートディレクターとして活動されている村田さん、ブランドの価値を高める側にいるお2人が、いちからファッションショーを作ってみての感想をお聞かせください。

村田)スタイリングができていくうちに、性別や思想に囚われない、何考えてるかさえわからない人もできたりしてその面白さはありましたね。ファッションって商業的な媒体の中で、最も自由な表現の幅が持てるものだと私は捉えているんですが、いちブランドがショーをやるとなると、商業的に売れる服であったり、服自体のプロダクトとしての魅力を伝えることを前提にしたりなど、様々な制約があるんじゃないかなと感じます。
また、私がやっている普段のファッション広告の依頼だと、ほとんどがスチールと動画なんですが、撮影するのも動画を作るにもお金がかかるから、たまには今回のショーみたいに、フィジカルで体験できる表現の機会が増えていくといいなと思いますね。

島田)ここまで自由に出来る機会は滅多にないので、とても楽しかったです。僕はオルタナティブな感覚がファッションの原点だと思っています。だからこそインディーズのシーンがとても大切で、現在ブランドをやってる人やクリエイションを続けている人をリスペクトしています。東京には、インディーズも含め面白いブランドやクリエイターがたくさんいるのに、多くの人に届かないのは、勿体無いと思います。まだ僕も知らないブランドもあるだろうし、発掘していく作業はすごく面白いですね。昔、お世話になった人に「極論あなたの好みだから」と言われたことがあるんです。それはファッションの仕事は「自分の好きを伝えていくこと」って意味でした。今回のショーはそのスタンスが詰まっているんじゃないかなと思います。
今は、コロナパンデミックの影響でデジタル映像が増えましたが、やっぱりファッションショーじゃないと味わえない感覚は代替えできないと思っています。モデルが着て歩いて、服が動いている迫力というか。ショーでしか届けられない熱量はあると思っているので、ファッションウィークのような大きなイベントで、今回のショーのような機会があればもっとファッションが面白くなるんじゃないかなと思いますね。

参加ブランド・クリエイター
BALMUNG(バルムング
runurunu(ルヌルヌ)
rurumu:(ルルムウ)
KIDILL(キディル)
Cycle by myob(サイクル バイ エムワイオービー)
ORIMI(オリミ)
MOTHER FACTORY(マザーファクトリー)
FAITH TOKYO
HIROYUKI HAYASHI
JIAN YE
JYOSEI

All Photo
  • Photograph : Masamichi Hirose
  • Interview : Keita Tokunaga
  • Edit : Yukako Musha(QUI)/ Miwa Sato(QUI)

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