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ファッション展を楽しむために必要な視点 – ファッション展の重要な役割とは –

Dec 27, 2023
渋谷に店舗を構えるヴィンテージ古着専門店「Archive Store」のマネージャー鈴木達之によるコラム。今回のテーマは『ファッション展の見方』。ここ数年、ファッション史をアート的視点で体験できる展覧会が増えてきたように感じる。ファッション展は、ファッションを学問として学ぶには最適なコンテンツと言える一方で、アート性の高さゆえに、理解するには少し難易度が高いようにも感じる。そこで今回は、わたしなりの観点で、よりファッション展を楽しめるような視点を紹介し、ファッション展の意義について考察していく。

ファッション展を楽しむために必要な視点 – ファッション展の重要な役割とは –

Dec 27, 2023 - FASHION
渋谷に店舗を構えるヴィンテージ古着専門店「Archive Store」のマネージャー鈴木達之によるコラム。今回のテーマは『ファッション展の見方』。ここ数年、ファッション史をアート的視点で体験できる展覧会が増えてきたように感じる。ファッション展は、ファッションを学問として学ぶには最適なコンテンツと言える一方で、アート性の高さゆえに、理解するには少し難易度が高いようにも感じる。そこで今回は、わたしなりの観点で、よりファッション展を楽しめるような視点を紹介し、ファッション展の意義について考察していく。
Profile
鈴木 達之
Archive Store マネージャー

1980年代〜2000年代初頭のデザイナーズアーカイブを収集して、独自の解釈でキュレーションしている、ファッションの美術館型店舗を運営。SNSでは独自のファッション史考察コラムを投稿。メディアへの寄稿や、トークショーへの登壇など、活躍の場を広げている。

ファッションとは、常に現在地(トレンド)を更新し続けていくカルチャーなので、時に立ち止まり、歴史を振り返ることで、現代ファッションの本質を、より体系的に理解することができるのではないか。そういった意味でファッション展は、現代ファッションにおいても重要な役割を担っている。

近年話題になったファッション展からいくつかピックアップすると、2020年の「ドレス・コード?――着る人たちのゲーム」展や、2021年の「ファッション イン ジャパン 1945-2020―流行と社会」展、2022年の「ガブリエル・シャネル展 Manifeste de mode」、そして、2023年の「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」展、「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル Yves Saint Laurent, Across the style」が挙げられる。Archive Storeでも展示しているメゾンマルジェラも、2023年はアーティザナルを披露する演出として、「シネマ・インフェルノ」を開催し、大きな話題となった。

私自身、デザイナーズアーカイブ作品を通して、当時の社会背景、ファッショントレンド、カルチャー、デザイナーの哲学などから点と点を繋げて(コネクティング・ドッツ的視点)考察し、現代に再解釈した考えを言語化して発信している立場なので、ファッション展のような通常のランウェイショーとは別で、よりアート的な観点でキュレーションされている展覧会は、ファッションを学問として学ぶには、最適なコンテンツだと言える。とはいえ、アート性の高いファッション展を理解するには、少し難易度が高いと感じる。そこで、今回は、『ファッション展の見方』というテーマで、わたしなりの観点で、ファッション展の見方についてまとめていく。

ファッション展の2大分類

まずファッション展を大きく分類すると、2種類に分けることができる。1つ目はブランドやデザイナーの歴史、文脈を体系的に伝えてくれる展覧会(以下:「ブランドデザイナー展」)。2つ目は、キュレーションを通して、観覧者にひとつの壮大な問いを与えてくれて、考えさせられるテーマ性の高い展覧会だ(以下:「テーマ企画展」)。どちらもファッション学を学ぶ上では、非常に有意義な体験なのだが、展覧会に行く前に、まずどっちのタイプの展覧会なのかを把握することで、見るべきポイントがうっすらと理解できてくるはずだ。

上記の展覧会で分類すると、シャネル展や、ディオール展、イヴ・サンローラン展などは、1つ目のブランドデザイナー展に分類できる。一方、ドレスコード展や、ファッションインジャパン展、シネマ・インフェルノなどは、あくまでもわたしなりの観点だと、2つ目のテーマ企画展に分類できる。正直なところ、分類に正解、不正解はないので、あくまでも観覧する上での、事前準備のスタンスの違いだけで、どちらの分類に捉えても、全く問題はない。

イブサンローラン展から学ぶ「ブランドデザイナー展」の見方


そこで、ブランドデザイナー展をどう観覧していくべきかについては、イヴ・サンローラン展を例にわたしなりの視点で考えていく。まず、最初に考えるべきは、題材となっているブランド、デザイナーがいつの時代から、いつの時代まで活躍したのか、ざっくりとポイントだけでいいので、理解すると、見方が変わってくる。また、そのブランドは、いつの時代からあって、その頃の社会背景はどうだったのか。歴史を教科書のように、大局的に捉えると、更に理解しやすくなる。

イヴ・サンローランを例にざっくりと歴史を理解すると、1958年にクリスチャンディオールの後継者として一気にオートクチュール界のスターになり、伝説となったトラペーズ・ライン(台形の意味)を発表した。その後1961年に自身のメゾン「イヴ・サンローラン」を設立して、現代ファッションにも繋がる、数々の名作を後世に残してきた。

ピーコート、サファリルック、タキシード、ジャンプスーツなど、男性服から着想を得た女性服の原点は、まさにイヴ・サンローランの功績だと言える。1960年代は、世界的に戦後の社会主義体制からの脱却で、民主化が一気に加速し、社会的に女性が活躍し始める時代で、その時代の転換期を象徴する服がまさに、イヴ・サンローランの作品だ。つまり、女性服の価値観を変えたデザイナーとして捉えておくと、作品の見方も変わってくるはずだ。

しかし、この日常着としての女性服(男性服からの着想)を、今でこそスタンダードとなったプレタポルテ(高級既製服)でいち早く提案し、世の女性に広めていった一方で、対極的な非常に芸術性の高いオートクチュール作品も手がけている。オートクチュールの根幹である職人的な技法や、アートを服に取り入れた創造性の高い作品が印象的であり、そこにはラグジュアリー、そしてオートクチュールの本質的な意味を提示していたのではないだろうか。

このように、男性服をベースとした女性服や、職人的で創造性の高いアート的な作品を創造した点について考えると、「イヴ・サンローラン」は、現在デザイナーズアーカイブとしても人気の高いマルタン・マルジェラなど80年代以降のファッションデザイナー達に、多くの影響を与えてきているファッション史において重要なデザイナー、そしてブランドだと言える。

マルジェラで言えば、1990年代発表のリプロダクションなどの男性服から再構築した女性服や、初期からマルジェラの根幹として作り続けているオートクチュール相当のアートピースライン「アーティザナル」などと、構造的には非常に近いと感じる。ファッションの歴史を、年代ごとに大局的に理解し、時代ごとの文脈を、点と点を合わせて解釈することで、現代ファッションとの差異を考える、きっかけを与えてくれるのが、ブランドデザイナー展だ。

メゾン・マルジェラ「シネマ・インフェルノ」から学ぶ「テーマ企画展」の見方


次に、テーマ企画展については、マルジェラの流れを汲んで、メゾン・マルジェラの「シネマ・インフェルノ」を例に考えてみる。シネマ・インフェルノは、ブランドデザイナー展でもあるが、本質的にはテーマ企画展だと捉えている。なぜならば、こういったテーマ企画展では、まず展示における「イシュー」つまり、メインメッセージが設定されている。イシューをまず理解して、その上で、観覧すると、展示作品を見て、何を考えるべきか、視点が定まるのではないだろうか。そこで、シネマ・インフェルノにおけるイシューをわたしなりに考えると、2点挙げられる。1点目が、メゾン・マルジェラの創造性の根幹「アーティザナル」を現代に再提示すること。そして、2点目が、ランウェイショーの枠に収まらない、コンセプチュアルな作品の見せ方(インスタレーション)だ。

まず、マルジェラのアーカイブでも、とりわけ希少性の高い⓪番(ウィメンズ)、もしくは⓪⑩番(メンズ)のアーティザナルは、1991年から本格的にスタートしたメゾンマルジェラを象徴するライン。既存の服や生地を再構築して、全く新しい物に作り変える、まさに現代アート的手法で、当時のパリモード界の価値転換したまさにアンチモードの代表的なクリエーションだと言える。

2023年現在のファッショントレンドは世界的なマーケットの拡大、SNSにおける加速度的な情報拡散により、クリエイティビティだけでなく、よりコマーシャライズされた視点での製品作り、プロモーションのアイディア、クオリティーが求められている。もちろんジョン・ガリアーノ率いるメゾン・マルジェラもファッションマーケットの中で、年々成長してきたブランドのひとつだが、メゾン・マルジェラは、コマーシャルな視点でのショーではなく、あくまでもブランドが大切にしてきた創造性溢れる世界観を、最大化させるための表現方法としてのプレゼンテージョン、インスタレーション方法を、改めて、世に問いかけているのだと感じた。

それはまさに、創業者マルタン・マルジェラがブランド創設初期から実験を繰り返してきた思考であり、メゾン・マルジェラがコンセプチュアルアートだと言われる理由はここにあると言える。つまり、メゾン・マルジェラの「シネマ・インフェルノ」では、改めて、メゾン・マルジェラが現代ファッションにおいて、アート的創造性の必要性を訴えかけていると同時に、2015年以降ジョン・ガリアーノによるメゾン・マルジェラでも変わらず創業者マルタン・マルジェラの哲学を継承し、創造性溢れる作品作りにトライし続けていることを、改めて意思表明したのではないだろうか。

それは、「シネマ・インフェルノ」の正式なタイトル「MAISON MARGIELA PRESENTS AN ORIGINAL CONSEPT BY JOHN GALLIANO」の部分を見れば、自然と理解できる。これからのデザイナーは、このようなストーリーの見せ方、プレゼンテーションもきっと求められてくることを理解したのと同時に、そんな時代の価値転換を感じさせられる、貴重なインスタレーションとなった。

ファッション展の重要な意義

『ファッション展の見方』。それは、ファッションそのものの背後に、どのような歴史やメッセージが込められているのかを考えた上で、作品を見て感じたものを、自分なりに解釈、編集して言語化することが大切であり、現代のわたしたちが、人生を豊かに生きるための「気づき」を与えてくれる、それがファッション展の意義だと、わたしは捉えている。

 

 


Archive Store
1980年代〜2000年代にかけてのデザイナーズファッションに着目し、トレンドの変遷を体系化して独自の観点でキュレーションしている美術館型店舗。
創造性溢れるアート作品から社会背景を感じられるリアルクローズ作品まで、様々なデザイナーズアーカイブを提案している。

“アーカイブ”とは作品に込められた意味や時代の印(しるし)であり、そこから読み取れるストーリーが人から人へと伝わっていくことで、後世に記録や記憶として残っていく。
Archive Storeでは、アーカイブ作品を見て、触れて、着て、言語化してもらうことで、ファッションを学問として楽しんでもらえることを目指している。

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