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LIFE/STYLE

一冊の本に宿る、手仕事|ミモザブックス

Sep 3, 2026
2026年8月、ミモザブックスから「GIFT STORY -Birthday-」シリーズ第4弾として刊行された、住野よる『ぷれぜんと "のっと!!" ふぉーゆー』。
「誕生日に本を贈る」という体験を提案する本書は、物語だけでなく、手に取った瞬間から特別な時間を感じられる美しい造本も魅力の一つだ。

物語の世界を一冊の本として届けるために、紙や印刷、製本にも細やかな工夫が重ねられている。今回は、その一冊ができあがるまでを支える3つの現場を訪ねた。完成した本からは見えない、それぞれの工程に込められた技術と手仕事。その舞台裏へ。

一冊の本に宿る、手仕事|ミモザブックス

Sep 3, 2026 - LIFE/STYLE
2026年8月、ミモザブックスから「GIFT STORY -Birthday-」シリーズ第4弾として刊行された、住野よる『ぷれぜんと "のっと!!" ふぉーゆー』。
「誕生日に本を贈る」という体験を提案する本書は、物語だけでなく、手に取った瞬間から特別な時間を感じられる美しい造本も魅力の一つだ。

物語の世界を一冊の本として届けるために、紙や印刷、製本にも細やかな工夫が重ねられている。今回は、その一冊ができあがるまでを支える3つの現場を訪ねた。完成した本からは見えない、それぞれの工程に込められた技術と手仕事。その舞台裏へ。

一枚ずつ重ねて、表紙の窓をつくる

まず訪れたのは、「賀陽紙器株式会社」。
ここでは、今回の本の特徴でもある“窓”部分の型抜き加工を担っている。

立体感のある窓を備えた表紙デザインは全8種類。まるで小さな家を覗き込むような奥行きを持ち、窓の内側には、動物や植物、プレゼントなど、本の世界観を彩るさまざまなモチーフが描かれている。

しかし、この印象的なデザインを形にするためには、単に紙をくり抜くだけではない。立体感を生み出すため、複数枚の紙を貼り合わせる「合紙(ごうし)」によって厚みを持たせ、さらに窓から見える紙の断面が美しい茶色になるよう、膨大な種類の紙の中から最適な素材が選ばれている。

そして、数千冊を製作するため、型抜きに使用する刃型も今回のために特注で製作。刃の周囲には紙を押さえる緑色のウレタンが配置され、一冊一冊、正確に窓が抜かれていく。

今回のような特殊なデザインは、賀陽紙器にとっても挑戦だった。
企画部長の平井さんは「ブックデザイナーの名久井さんから窓の段差をもっと出したいという要望があり、何枚も合紙しているんです。でも、紙を重ねれば重ねるほど、型を抜くときにコンマ何ミリというズレが積み重なってしまう。厚ければ厚いほど、どうしても難しくなるんです」と振り返る。

そのため、型抜き後の仕上がりにも細心の注意が払われた。賀陽紙器から日宝綜合製本へ納品された後、窓枠のズレが目立つものは一つひとつ確認され、仕上がりの美しいものだけが次の工程へと進められている。

「何度もテストを重ねるうちに、『この本の売りは、この段差なんだろうな』と思いました。さらに、型抜きの後には窓枠と内側のイラストを貼り合わせる工程があるのですが、蓋を開けると絵柄が8種類もあるんです。『なにを訳の分からないことを(笑)』と思いました」と、制作当時を笑顔で振り返った。

一見すると小さな窓のデザイン。しかし、その立体感を実現するためには、わずかなズレも許されない型抜きの精度と、8種類それぞれを正確に貼り合わせる緻密な工程が欠かせない。窓の奥行きには、職人たちの試行錯誤が幾重にも積み重ねられていた。

箔を重ねて、表紙に輝きを

次に訪れたのは、「大学製本所」。
ここでは、本書の表紙に施される“箔押し”の加工が行われていた。

箔押しとは、金属でできた版に熱と圧力を加え、箔を紙へ転写する加工技術のこと。光の当たり方によって表情を変える繊細な輝きが生まれ、本に特別な存在感を与えている。

本書では、8種類それぞれの表紙デザインに合わせて、箔の色も8色を使用。さらに今回は、通常であれば一度で仕上げる箔押しを、あえて二度に分けて施している。

その理由について、工場長の佐古さんは「箔の層は非常に薄いため、一度では十分な色味が出ないことがあります。二度押すことで箔の層が少し厚くなり、より美しく、きらりとした輝きが生まれるんです」と話す。

一方で、工程は決して単純ではない。箔押しの仕上がりは、紙との相性だけでなく、箔の裏面ののりの種類や、その日の温度・湿度にも左右される。

金や銀の箔には、紙用はもちろん、ビニール用や布用など用途に応じたさまざまな種類が用意されている。一方、今回使用したカラー箔はのりの種類が限られているため、実際にテストを重ねながら最適な条件を探っていったという。

「同じ条件で押しても、色によって入り方が違うんです。今回も8色の中で、しっかり入る色もあれば難しい色もありました。」そう振り返る佐古さんの言葉からは、一見すると同じように見える箔押しにも、素材や環境と向き合いながら最適な仕上がりを探る、職人ならではの経験と勘が欠かせないことが伝わってきた。

屋根を切り出し、本のかたちを整える

そして、最後に訪れたのは「日宝綜合製本」。
ここでは、本書の特徴的な“屋根”部分の裁断工程を見学した。

家の形をした本書の表紙。その印象を形づくる屋根部分の裁断には、専用の「当て木」が用いられている。この当て木は、賀陽紙器株式会社が今回の本のために制作したものだ。

表紙に施された合紙の厚みもあり、裁断工程には細かな調整が求められた。
作業では2冊分を重ねて裁断を行う。表紙の厚みや硬さの関係から、今回の仕様では2冊ずつが限界だったという。

「紙を重ねる量が多いほど、上と下でサイズに差が出てしまうんです。業界ではこれを『被り』と呼びます」と話すのは、日宝綜合製本の松尾さん。裁断機は紙全体を均一に押さえるのではなく、刃が入る部分だけを押さえて裁断するため、重ねた冊数が増えるほど上下でわずかなズレが生じやすくなるという。

そこで今回は、一度で仕上げるのではなく、裁断を二度に分けて実施。「被り」をできる限り抑え、屋根の形を美しく揃えるための工夫だ。

「被りをゼロにすることはできませんが、二度に分けて裁断することで、ズレはかなり少なくできます。こうした細かな積み重ねが、最終的な仕上がりを左右するんです」と、松尾さんは話す。

目に見える美しい造形の裏側には、各工程でわずかなズレも見逃さず、一冊一冊を丁寧に仕上げていく職人たちの判断と技術が積み重ねられていた。

私自身、「造本」という言葉から思い浮かべていたのは、紙や装丁など、手にした瞬間に感じる美しさだった。けれど、3つの現場を訪ねてみて、その美しさの背景には、デザインを実現するための技術だけでなく、細部まで妥協せず向き合う職人たちの判断と手仕事があることを知った。

「あと少しきれいに」「もう少し揃えるにはどうするか」。それぞれの現場で交わされる言葉や、仕上がりを確かめる眼差しからは、仕様どおりにつくるだけでは終わらない、職人たちの熱量が伝わってきた。ほんのわずかなズレにも目を配り、紙の状態を確かめながら細かな調整を重ねていく。そうした一つひとつの判断と手仕事にこそ、本というプロダクトに宿るクラフトマンシップがあるのだと思う。

販売情報

『ぷれぜんと "のっと!!" ふぉーゆー』住野よる
伝説のデビュー作『君の膵臓をたべたい』から11年。新作スピンオフ作品が発売!

出版社 ミモザブックス
定価 5,500円(税込)
判型 105mm×180mm(変型)
頁数 72頁
購入はこちら

住野よる (すみのよる)
2015年『君の膵臓をたべたい』でデビュー。新人としては異例の大ベストセラーとなる。23年『恋とそれとあと全部』で第72回小学館児童出版文化賞を受賞。他の著書に『また、同じ夢を見ていた』、『よるのばけもの』、『か「」く「」し「」ご「」と「』、「麦本三歩の好きなもの」シリーズ、『この気持ちもいつか忘れる』、『告白撃』などがある。デビュー10周年記念作『夜想い』が2026年7月22日に双葉社より刊行された。

今回訪れた工場

賀陽紙器株式会社
住所:〒701-4276 岡山県瀬戸内市長船町服部290-7
ウェブサイト:https://www.kayoushiki.jp/

大学製本所
住所:〒700-0984 岡山県岡山市北区桑田町10-5
ウェブサイト:https://daigaku-s.jp/

日宝綜合製本
住所:〒703-8208 岡山県岡山市中区今在家197-1
ウェブサイト:https://www.nippoh-bb.co.jp/

▼前例のない本をつくる、「GIFT STORY -Birthday-」|ミモザブックス

LIFE/STYLE
前例のない本をつくる、「GIFT STORY -Birthday-」|ミモザブックス
Sep 03, 2026
  • Photograph : Kengo Yamaguchi
  • Edit / Text : Seiko Inomata(QUI)

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