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ART/DESIGN

私たちは、何を信じて世界を見ているのか — 「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま~魔術、メディア、アート~」展レポート

Aug 2, 2026
AIによる画像生成やディープフェイク、SNSを通じて絶え間なく拡散される情報。私たちは日々、膨大なイメージに囲まれながら、「見たもの」をどこまで信じればよいのか判断を迫られている。

そうした時代だからこそ、映像やメディアが人間の知覚や信念に与える影響を、40年以上にわたり問い続けてきたトニー・アウスラーの作品を、いま改めて見直す意味がある。

虎ノ門ヒルズのTOKYO NODE GALLERY A/B/Cで開催中の「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま~魔術、メディア、アート~」もまた、AIやメディア、オカルト、超心理学など、一見すると異なるテーマを横断する展覧会だ。会場を巡るうちに、技術を通して世界を理解しようとしてきた人間の営みが見えてくる。

本展では、映像や彫刻、アーカイブを組み合わせた多様な作品を通して、「見ること」「信じること」「想像すること」をめぐる思考が展開される。本記事では、その中から《スペキュラー》《星》《計り知れないもの》《キメラ》という4つのインスタレーションを取り上げ、それぞれの作品を手がかりに、本展が現代へ投げかける問いを読み解いていく。

私たちは、何を信じて世界を見ているのか — 「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま~魔術、メディア、アート~」展レポート

Aug 2, 2026 - ART/DESIGN
AIによる画像生成やディープフェイク、SNSを通じて絶え間なく拡散される情報。私たちは日々、膨大なイメージに囲まれながら、「見たもの」をどこまで信じればよいのか判断を迫られている。

そうした時代だからこそ、映像やメディアが人間の知覚や信念に与える影響を、40年以上にわたり問い続けてきたトニー・アウスラーの作品を、いま改めて見直す意味がある。

虎ノ門ヒルズのTOKYO NODE GALLERY A/B/Cで開催中の「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま~魔術、メディア、アート~」もまた、AIやメディア、オカルト、超心理学など、一見すると異なるテーマを横断する展覧会だ。会場を巡るうちに、技術を通して世界を理解しようとしてきた人間の営みが見えてくる。

本展では、映像や彫刻、アーカイブを組み合わせた多様な作品を通して、「見ること」「信じること」「想像すること」をめぐる思考が展開される。本記事では、その中から《スペキュラー》《星》《計り知れないもの》《キメラ》という4つのインスタレーションを取り上げ、それぞれの作品を手がかりに、本展が現代へ投げかける問いを読み解いていく。

トニー・アウスラーとは

《スペキュラー》前にてトニー・アウスラー、撮影: Yuya Furukawa

1957年、ニューヨーク生まれのトニー・アウスラーは、映像を立体物へ投影する独自の表現で知られるメディアアーティストだ。顔や眼球を模した立体に映像を投影し、彫刻とも映像ともつかない存在を生み出す作品は、1980年代から現在まで一貫して制作されてきた。

アウスラーが探究してきたのは、人はどのように世界を認識し、何を信じ、想像してきたのかという、人間の知覚や意識のあり方だ。本展でも、その関心は過去から現在までの技術や思想を横断しながら、「見ること」「信じること」を軸に、人間がどのように世界を理解してきたのかを問い直していく。

展覧会タイトルにある「技術」と「霊知」も、その歴史の中で育まれてきた二つの視点だ。一見すると相反する概念のようにも思えるが、展示をたどるほどに、「技術」と「霊知」は人間が世界を理解しようとする営みの中で、互いに影響し合いながら歩んできたことが見えてくる。

《スペキュラー》——私たちは何を通して世界を見ているのか

展示室へ足を踏み入れると、大小さまざまな眼球が来場者を見つめ返す。宙に浮かび、ときに瞬きを繰り返すその眼は、こちらが作品を見ているというより、作品から見られているような感覚を生み出す。

《スペキュラー》 2021年、展示風景:「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま」 TOKYO NODE、撮影:木奥惠三

《スペキュラー》 2021年、展示風景:「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま」 TOKYO NODE、撮影:木奥惠三

眼球には、ニュース映像やSNS、陰謀論を思わせるイメージなど、現代の情報環境を象徴する映像が次々と映し出される。それらは断片的で、脈絡があるようでない。それでも私たちは、無意識のうちに意味を見出し、ひとつの物語として理解しようとしてしまう。

作品を見ているうちに、意識は「見る」という行為そのものへ向かっていく。私たちは普段、自分の目で世界を見ているつもりでいる。実際には、ニュースやSNS、テレビ、インターネットなど、さまざまなメディアを通して世界を認識している。《スペキュラー》が投げかけるのは、「私たちは何を通して世界を見ているのか」という問いだ。

《スペキュラー》は、「見る」という行為が決して中立ではないこと、そして私たちの視界は常に何らかのメディアや情報を介して形づくられていることを意識させる。

《星》——「見える」とは、本当に真実なのだろうか

私たちは日々、目に映るものを現実として受け入れている。しかし、その「見える」という感覚は、本当に確かなものなのだろうか。

《星》では、超心理学者・福来友吉の透視研究や、アメリカの極秘計画「スターゲート計画」、第三の目など、「見えないものを見る」ことにまつわるイメージが、星型彫刻と猫の彫像を通して提示される。

左:正面から見た《星》 右:角度をズラして見た《星》

正面から見ると、一つの映像作品のように見える。ところが少し立ち位置を変えるだけで、星形の内部に設けられた反射構造によって映像は幾重にも分裂し、ひとつだった像が幾何学的に広がっていく。その見え方は、まるで万華鏡を覗いているようだった。見る位置によって像の形や重なり方は変わり、見れば見るほど、自分が何を見ているのかわからなくなっていく。

《星》の猫の彫像

印象に残ったのは、一体の黒猫の彫像だった。何度写真を撮っても、その姿だけがうまく写らない。展示空間の暗さによるものかもしれない。しかし黒猫は、古代エジプト神話では守護的な存在とされ、日本の物語や民間伝承では異界を思わせる存在として描かれることもある。また、「シュレディンガーの猫」は、観測されるまで状態が確定しないという量子力学の思考実験として知られている。そうした多層的なイメージを背負う存在だからこそ、「捉えようとしても捉えきれない」という体験そのものが作品の一部になっているように感じられた。

私自身もまた、黒猫という存在に結びついたイメージを通して、この出来事を受け止めていたのかもしれない。《星》は、こうした鑑賞者の記憶や先入観までも作品の中へ引き込みながら、「見えるもの」が必ずしも確かなものではないことを意識させる。

《星》で揺らいだ「見えるもの」への信頼は、《計り知れないもの》で、私たちは何を根拠に真実を判断するのかという問題へと広がっていく。

《計り知れないもの》——未知を前にしたとき、人は何を信じるのか

《計り知れないもの》は、1920〜1930年代を舞台にした約86分の映像作品と、それを補完するアーカイブで構成されている。映像には、コナン・ドイルやフーディーニ、霊媒マージャリー、トニー・アウスラーの祖父フルトン・アウスラーなど、当時実在した人物たちが登場する。

《計り知れないもの》2015-2016年 Courtesy:Tony Oursler Studio

映像だけでは、それぞれの人物や出来事の関係を理解するのは簡単ではない。壁面に並ぶアーカイブを読み進めることで、映像に登場した人物たちのつながりや、心霊主義、マジック、科学、初期の映像技術が交錯していた時代背景が少しずつ見えてくる。

印象的だったのは、この作品が「誰が正しかったのか」を描いているわけではないことだ。霊の存在を信じる者、それを暴こうとする者、科学的に検証する者、それぞれが自らの立場から真実を追い求めている。しかし、その結論は一つには収束しない。

こうした歴史をたどるうちに浮かび上がってくるのは、「未知を前にしたとき、私たちは何を根拠に真実を信じるのか」という問いだ。写真や映像といった新しい視覚技術が登場するたび、人はそこに真実を見出そうとしてきた。その問いは、SNSやAIによる画像生成が日常に入り込んだ現在にも続いている。アウスラーは1920〜1930年代の出来事を描きながら、過去と現在をひと続きの問題として示している。

そして視線は、真実を見極めることから、人が想像したものをどのように形にしてきたのかへと移っていく。

《キメラ》——想像された生命は、どこまで現実になりうるのか

本展の最後を飾る《キメラ》は、本展のために制作された世界初公開の新作インスタレーションだ。森や工場が共存する空間には、人間や動物、機械を思わせるさまざまな「キメラ」が点在し、ユートピアのようなデジタルの森が広がる。その空間は、現実の自然だけでなく、私たちの記憶や想像力の中にも存在する生態系として立ち現れる。

《キメラ》と「カリカチュア」シリーズ、展示風景:「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま」 TOKYO NODE、撮影:木奥 惠三

《キメラ》 2026年、展示風景:「トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま」 TOKYO NODE、撮影:木奥惠三

ギリシャ神話に登場するキメラは、異なる生物の特徴を持つ想像上の存在として知られる。しかし現代では、その名は遺伝子工学や再生医療の分野で、異なる細胞や遺伝子を組み合わせた生命を指す言葉としても用いられている。かつて神話の中だけに存在したキメラは、科学技術の発展によって現実のものとなりつつある。

AIやバイオテクノロジーの進歩によって、人類は生命そのものへ介入し、新たな生命を生み出す技術の入口に立っている。かつて想像の中にあった存在は、現実の技術によって形を与えられ始めている。《キメラ》が描くのは、遠い未来の空想ではない。私たちがすでに直面し始めている現実であり、「創造する」という人間の営みそのものへの問いだ。

夜になるとブラインドが開き、ガラス越しに広がる東京の夜景と《キメラ》の映像や「カリカチュア」のキャラクターたちが重なり合う。その光景について、メディアアートに精通する畠中実は「もう一つのペッパーズ・ゴースト」と表現した。19世紀、人々に幻影を現実として見せた視覚装置は、都市の風景と映像が重なり合う現代の展示空間へと姿を変え、展覧会を通して問い続けられてきた「見ること」「信じること」のテーマを、私たちが生きる現実へと接続していく。

《キメラ》が問いかけるのは、生命そのものへ介入する技術の入口に立つ私たちは、その力とどのように向き合うのかということだ。人間の創造性は、これまで神話や想像力の中で語られてきたものから、現実の技術と結びつき始めている。「見る」「信じる」「理解する」という人間の営みの先で、私たちは何を創造しようとしているのか。《キメラ》を前にすると、それは遠い未来の問題ではなく、すでに始まりつつある現在の話なのだと気づかされる。

技術と霊知のはざまで、私たちは何を見るのか

《スペキュラー》では見ること、《星》では見えないものを信じること、《計り知れないもの》では真実を判断すること、そして《キメラ》では生命そのものを想像し、生み出すことへと問いは広がっていく。

トニー・アウスラーが一貫して見つめているのは、神話や心霊現象といったオカルトそのものではない。人間が見えないものに意味を与え、それを信じ、ときに技術と結びつけながら世界を理解しようとしてきた、その営みだ。

霊媒写真や超能力研究は、かつて最新のメディア技術と結びついていた。そして現在、AIや遺伝子編集といった新たな技術は、私たちの認識や生命そのものを書き換えようとしている。時代は変わっても、人間は未知のものを理解しようとし、想像し、ときには現実へと変えてきた。

本展は、人間が見えないものを理解しようとしてきた歴史をたどりながら、テクノロジーが進化したいま、私たちは何を信じ、何を見て、どのような未来を想像していくのかを静かに問いかけている。技術と霊知のはざまで揺れ動く人間の姿は、いまもなお私たちの中にある。何を見て、何を信じ、どのように世界を理解しようとするのか。その問いは、いまを生きる私たち自身へと返ってくる。

 


 

プロフィール

トニー・アウスラー(Tony Oursler)
1957年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。1979年、カリフォルニア・インスティテュート・オブ・ザ・アーツ学士課程卒業。アメリカ・ニューヨーク在住。1980年代から、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、ポンピドゥ・センターなど国際的な美術館で展覧会を開催。近年の主な個展に、2022年「Tony Oursler: Anomalous」フォト・エリゼ、2021年「Tony Oursler: Black Box」高雄市立美術館、2020年「Hypnose」ナント美術館、2016年「Imponderable」MoMAなど。作品はポンピドゥ・センター、シカゴ現代美術館、MoMA、テート、東京都現代美術館、国立国際美術館、金沢21世紀美術館などに所蔵されている。
Instagram:@tonyoursler

開催情報
トニー・アウスラー:技術と霊知のはざま~魔術、メディア、アート~
会期:2026年7月3日(金)〜9月27日(日)
会場:TOKYO NODE GALLERY A/B/C
住所:東京都港区虎ノ門2-6-2 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー45F
開館時間:10:00〜19:00(金土曜日は20:00まで)
※入場は閉館の30分前まで
※開館時間は変更になる場合あり
主催:TOKYO NODE
企画:椿 玲子(TOKYO NODE)、アリス・ニェン=プー・コー(インデペンデント・キュレーター)
協力:SCAI THE BATHHOUSE、Lisson、Lehmann Maupin
観覧料:一般 2,400円、大学生・専門学校生 1,400円、中学生・高校生 800円
販売場所:ARTPASS(オンライン)およびTOKYO NODE(会場販売・会期中のみ)
お問い合わせ:TOKYO NODE インフォメーション 03-6433-8200(11:00〜18:00)
ウェブサイト:https://www.tokyonode.jp/events/tony-oursler/index.html
Instagram:@tokyonode

  • Text&Edit : Y.O(QUI)

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