市川実和子 – 時間ってすごい
市川実和子は、そう笑う。だが、映画『トロフィー』で見せたのは、まぎれもなく作品の中で生きる役者の姿だった。
本作で共演した井浦新との30年来の関係性、自身の俳優観の変化、そして10代の若さへの眼差しなど、彼女が向き合う「時間」に迫った。



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長い間培ってきた空気は演技を超える
― 本作は朝鮮学校を舞台にしていることもあり、センシティブに受け取られる部分もあるかと思います。作品に向かううえで、気負いのようなものはなかったですか?
最初は、とても不安だったんです。私は歴史にも疎いし、何か大事なことが見えていなかったり、誰かが大切にしているものをけがしてしまったりしちゃうんじゃないかと。
でも台本を読んだら、なんて健気で可愛いお話なんだろうって。朝鮮学校は自分からはちょっと遠くて、知らなかった世界だけれども、台本を読み終わるころには、ただただ演じてみたいと思っていました。
― 孫明雅監督自身の物語でもあるので、すごく明確な指針を持って演出してくれそうですよね。
孫監督は、人と人としてまっすぐお話してくださる方で。ご自身が朝鮮学校に通っていたときや現状のお話も、たくさんしてくださいました。小柄でどこか小動物のような雰囲気がありながら、私に対しても、現場で何かが違う時には譲らず、「違う」とちゃんと真っ直ぐに言ってくださったので、安心して監督についていくことができました。

― ミリョンという役を演じる際に、大切にしたことはありますか?
あまり難しく考えず、一生懸命に生きているお母さんを演じられたらなと。それで、(主役のソヒを演じた)恒那ちゃんたちの世界がキラキラと輝いてくれればいいなと思いながら演じていました。
― 恒那さんとの親子の空気感もすごく良かったです。
光栄です。こんなかわいい子が生まれてきたらいいなーとか現場で言ってたので(笑)。
― 恒那さんは本作で映画初主演を果たした新人俳優とのことですが、どんな方でしたか?
あんなに可憐なのに、案外どっしりしているというか、とにかく動じない方で。肝が座っていて、いい意味でおっさんぽいというか(笑)。それが面白くて、大物になりそうだねぇ、とスタッフさんとこっそり話していました。
― 父親のサンジュ役は井浦新さん。市川さんとは夫婦の間柄となりましたが、これまで意外と共演は少ないんですよね。
そうなんです。一度ドラマ(『同窓生〜人は、三度、恋をする〜』(2014))で共演して、そのときも離婚した元夫婦だったんですね。
新くんは10代のころモデルとして一緒にお仕事していました。お互いに、そんなにベラベラ喋るタイプじゃないんですよ。そしたら、週刊誌に今回の撮影風景を撮られて、「ふたりは現場で会話を交わしていない」って書かれちゃって。不仲説(笑)。昔から知っている仲だからだろうかって考察されていたんですけど実際にその通りで、黙っていていい人だからラクでした。
― 井浦さんとお芝居をするなかで、何か感じることはありましたか?
長い間培ってきた空気は、演技を超えるなと思いました。だって30年ですよ。その時間は何にも変えがたいもので、やっぱり、私と新くんにしか出せない空気があるんじゃないかと思っています。時間って、本当にすごい。いいものですよね、年を重ねるって。

みんな間違ってないよって思います
― 本作に限らず、市川さんがお芝居で心がけていることはありますか?
私、役者じゃないんだなーって。
― えっ?
最近、本当に開き直ってしまって。私、どこか役者さんじゃないって思いながら生きているんです。お芝居をやらせていただけることはありがたいんですけど、どうしても役者として居ようとするとうまくできないんですよ。
なので最近は、常に「すみません、私は役者じゃないんですけどいいんですか」って気持ちで現場にいます(笑)。
― そういう心構えになったことで変化はありましたか?
自分を責めなくなりました。
― うまくできなくても、役者じゃないから仕方ないでしょ、と。
うまくなろうとしなくていいかなと。ちゃんと役者にならなきゃとがんばって思っていた時期もあるんですけど……。
モデルの方が上手なんですよ、私。モデルは何も考えなくてもできるんですけど、役者は考えすぎちゃう。
― 何が違うのでしょう? どちらのキャリアも長いですが。
きっと、モデルが天職なんです。ある人からそう言われたことがあって、「そっか、私はモデルなんだ!」と素直に思えて。そのとき初めて自分は役者じゃないんだな、モデルなんだなと。そう自覚したら、すごくラクになりました。
あんまり向いていないんですよ。向いていたら、「役者向いていない」とか、こんなにクヨクヨ考えていないはず(笑)。
― でも何より、こうして長く声がかかり続けているということが、役者として求められていることの客観的な証左に他ならないと思いますけどね。
ありがとうございます。とは言いつつ、もちろん、ぜひやらせていただきたいとは思っています。

― 劇中でソヒは、在日コリアンとしてだけでなく、今どきの10代らしいさまざまな悩みに直面していましたが、市川さん自身の10代を振り返って重なる部分はありましたか?
10代特有の無謀さみたいなものは、似ているかな。大きな声で言えないこともやったりしていました。ソヒもやっぱり向こう見ずな行動をしちゃったりね。
― そういう意味では、いま10代を生きている人、かつて10代を経験した人であれば、国籍も時代も超えて共感できる部分がある作品ですよね。市川さんが10代でもっとやっておけばよかったと思うことはありますか?
もっとまじめに学校に行って、もっとまじめに勉強しておけばよかったなとは思います。
― 同感です。ただ自分の場合は、当時の自分にアドバイスしても聞かなさそうだし、もう一回やり直してもけっきょく勉強しなさそう……。
きっと今がベストなんですよね。みんな間違ってないよって思います。
― では最後に、これから映画『トロフィー』をご覧になる方へのメッセージで締めさせてください。
国や文化の壁を越えて人として身近に感じられる、そんな感情が息づいている作品だと思います。普段はあまり見えてこない世界を知って、歩み寄るためのきっかけになってくれたらうれしいです。

Profile _ 市川実和子(いちかわ・みわこ)
1976年3月19日生まれ、東京都出身。15歳からモデルとして活動し、俳優としてドラマや映画でも活躍。近年の主な出演作に、映画『ちひろさん』『化け猫あんずちゃん』、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』、Amazon Prime Videoドラマ『1122 いいふうふ』、カンテレ・フジテレビ系『僕達はまだその星の校則を知らない』、Amazon Prime Videoドラマ『人間標本』、Netflixシリーズドラマ『地獄に堕ちるわよ』などがある。
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Information
映画『トロフィー』
2026年7月10日(金) より、テアトル新宿 ほか順次公開
出演:恒那、梨里花、原田花埜、禾本珠彩、千就、ちすん、笠松将、ソウジ・アライ、黒田大輔、山中崇、白川和子、YOU、きたろう、市川実和子、井浦新
監督・脚本:孫 明雅
©2026 K2 Pictures
- Photography : Momoka Omote(guilloche)
- Styling : Hiroko Umeyama(KiKi inc.)
- Hair&Make-up : Chinone Hiromi
- Text&Edit : Yusuke Takayama(QUI)