Tiscar EspadasがLVMHプライズ2026のセミファイナリストに選出、アルプスから生まれた最新章「CAPÍTULO VIII」
LVMHプライズ2026 セミファイナリストに選出
スペイン出身のデザイナー、ティスカー・エスパダスが手がけるブランド<Tiscar Espadas>が、若手デザイナーの登竜門として知られるLVMHプライズ2026のセミファイナリストに選出された。
Photo by Charles Kawamoto Tetsu(QUI)
2026年3月4-5日の二日間にわたり、パリの老舗デパート「サマリテーヌ」でセミファイナリストによるプレゼンテーションイベントが開催された。<Tiscar Espadas>のブースでは、今まで発表した作品に加え、最新作が展示され、多くの来場者や審査関係者の関心を集めた。
「今回の展示では、いくつかの異なる作品をご紹介しました。分野を越えたコラボレーションが、私たちのブランドにとって重要な柱であることもお伝えできたと思います。制作のさまざまな工程で、多くの職人やクリエイターと協働しています。
たとえば、マドリードのジュエリーデザイナー カルラ・ソウト(Carla Souto)、ニットウェアデザイナーのカルメン・ペライタ(Carmen Peraita)、バルセロナの靴職人 アルダノンド&フェルナンデス(Aldanondo & Fdez)、そしてスイスのアクセサリーデザイナー ピエロ・ゼニ(Piero Zeni)など、さまざまなパートナーとの関係の中で、それぞれのプロジェクトが形づくられています。
私たちの衣服はすべて、小規模な工房や熟練した職人たちと密接に連携しながら、一点ずつ制作されています。こうした関係性の積み重ねが、私たちのものづくりを支えているんです。」
右:デザイナーのティスカー・エスパダス、左:ともにブランドを手がけるケヴィン・コーラー
今回のセミファイナリスト選出について、デザイナーのティスカー・エスパダスは次のように語る。
「LVMHプライズ2026のセミファイナルにノミネートされたことは、私たちのブランドにとって大きな節目でした。ブランド創設以来、私たちは精密さと革新性に、文化的・人間的な視点を重ねたクリエイティブディレクションを大切にしてきました。
今回のノミネーションは、これまでの歩みが肯定されたように感じるとともに、国際的なファッションシーンの中で新たな対話や成長の機会が生まれるきっかけにもなるのではないかと思っています。
これまでブランドはとても自然な流れの中で成長してきましたが、今後もできるだけ小さな規模を保っていきたいとも考えています。ファッションブランドを運営するには、経済的にも個人的にも大きな投資が必要になりますが、最終的に大切なのは、プロジェクトそのものが自立して成り立つことだと思います。」
アルプスの風景から生まれた「CAPÍTULO VIII」
<Tiscar Espadas>は、一般的なファッションブランドが採用する「コレクション」という形式ではなく、「章(CAPÍTULO)」として作品を発表している。それぞれの章は独立した提案でありながら、前章と呼応しながら物語のように積み重なっていくのが特徴だ。

今回展示された「CAPÍTULO VIII」は、スイスの山岳風景から着想を得た章。ケヴィンの出身地でもあるスイスの農村地帯に滞在し、土地の地形や村の風景、そこに暮らす人々の姿を観察する中で、素材や色彩、シルエットのアイデアが形作られていったという。
キャンペーンヴィジュアルでは、雲一つない青空と雪が降り積もった地面のコントラストが、冬のアルプスの澄んだ空気を想起させる。その静謐な風景は、プロダクトのムードにも色濃く反映されている。ブラウンやグリーン、チャコール、ザクロ色といった土や自然を想起させるカラーパレットが用いられ、静かながら奥行きのある世界観をつくり出している。
レイヤリングが生み出す造形的なシルエット
今回の章では、レイヤリングが重要なテーマとして据えられている。衣服を重ね、組み合わせ、身体に応じて調整することで、着る人自身がキャラクターを形成していくという考え方だ。
素材には天然繊維を中心に、フランスの小規模な織元による生地や厳選されたデッドストックファブリックを採用。ブランド特有のボリュームの扱いによって、多様なシルエットが生み出されている。
「一見すると未完成のように見える作品もありますが、内部には精密なつくりが施されています。私たちにとって衣服の内側は、デザインの最も重要な要素のひとつです。フレンチシームやバイアスバインディングなど、時間のかかる技術をあえて選び、より高い耐久性とエレガンスを生み出しています。」
「Hiding Shirt」は、薄手ながら密度の高いオーガニックコットンキャンバスを使用したシャツ。縦に長く誇張された襟はコットンストラップで調整でき、みぞおち付近にはネクタイや細いスカーフを通すための開口部が設けられている。
また同じパターンをベースにしたノースリーブの「Apollo Vest」は、濃いザクロ色のイングリッシュ・ワックスドコットンで制作された。
コレクションの核となるのは4種類のスーツ。ブラウンのベルベットコーデュロイを用いたタキシード調の「Barragan Jacket」から、ベージュのワックスドフラックスを使用したアウトドアジャケット「Curiosity Jacket」まで、クラシックな仕立てと機能的な素材が交差する構成となっている。
また、ブロックプリントを施した「Blake Shirt」やレンガ色の「Chimney Pants」が、控えめな柄と色彩のアクセントを加えている。
アクセサリーも衣服と密接な関係のもとで制作されている。ゴートレザーのベルトやキーホルダーはスイスのアクセサリーデザイナー、ピエロ・ゼニとの協働によるもの。
また、ゲートルやガントレットといった防護的な装具はスペイン・エストレマドゥーラ産のメリノウールを使用し、マドリードのニットウェアデザイナー、カルメン・ペライタとともに再解釈された。
「こうした協働は、伝統的な職人技術を守りながら地域のコミュニティを支え、創造性・品質・革新が共存する、人間中心のものづくりを育んでいます。作り手と直接関わること、そして生地がどのように生まれるのかを深く理解することは、私たちの制作プロセスにとって欠かせません。素材の選択は、私たちのデザイン哲学の中心にあります。」
LVMH Prizeを通して広がるブランドの可能性
独自の造形的アプローチとコンセプチュアルな視点で注目を集めてきた<Tiscar Espadas>。今回のLVMHプライズへの参加は、ブランドにとって大きな節目となる。
「私たちの目標は、単にブランドを大きくすることではなく、より強いブランドになることです。意味のあるプロダクトやストーリーを生み出し、最高品質の衣服を作り続けていきたいと考えています。私たちが提案したいのは、自由が存在する世界です。想像する自由、自分自身である自由、作る自由、そして夢を見る自由。衣服が持つオーラが境界を越え、誰かの現実の一部となるような世界を創り出したいと思っています。」
若手デザイナーの国際的な登竜門とも言える同賞。今回のセミファイナリスト選出を機に、<Tiscar Espadas>のクリエイションがさらに大きな注目を集めることになりそうだ。
Tiscar Espadas
Website:https://tiscarespadas.com/
Instagram:@tiscarespadas
LVMH Prize for Young Fashion Designers 2026
Website:https://www.lvmhprize.com/fr
Instagram:@lvmhprize
- Edit & Text : Yukako Musha(QUI)
- Reporting : Charles Kawamoto Tetsu(QUI)











