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ART/DESIGN

展覧会レポート|東京都現代美術館「デイヴィッド・ホックニー展」

Jul 20, 2023
2023年7月15日(土)から11月5日(日)まで、東京都現代美術館にて「デイヴィッド・ホックニー展」が開催。
いま世界で最も高い人気を誇る画家のひとり、デイヴィッド・ホックニーの大型個展が日本で開催されるのは実に27年ぶり。
今年、最注目の美術展の一つである。

展覧会レポート|東京都現代美術館「デイヴィッド・ホックニー展」

Jul 20, 2023 - ART/DESIGN
2023年7月15日(土)から11月5日(日)まで、東京都現代美術館にて「デイヴィッド・ホックニー展」が開催。
いま世界で最も高い人気を誇る画家のひとり、デイヴィッド・ホックニーの大型個展が日本で開催されるのは実に27年ぶり。
今年、最注目の美術展の一つである。

デイヴィッド・ホックニーとは何者か

1937年イギリス生まれの画家、デイヴィッド・ホックニー。2018年に『芸術家の肖像画―プールと2人の人物―』がクリスティーズオークションで102億円(当時)で落札され、当時「現存する芸術家での過去最高額」を更新するなど、世界的に高い評価を得ているアーティストである。

ホックニーは1937年、イギリスで生まれる。地元の美術学校、ロンドンの王立美術学校で学び、以降の60年間で絵画だけでなく、版画、写真、映像などの作品を世に出してきた。

「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景、東京都現代美術館、2023年 © David Hockney

地元イギリス、アメリカ・ロサンゼルス、フランス・ノルマンディーと、時代によって活動の拠点を移してきたが、特に彼の作品を印象付けたのはアメリカを拠点としていた時期だ。この時代に描かれた「スイミング・プールをモチーフとした作品群」は彼の代表作となった。

西海岸の明るい光、揺れる水面……。当時、まだ比較的新しい画材であった「アクリル絵具」で描かれた作品は、どこか平面的でありつつも高い写実性が特徴だ。

ホックニーはキャリアのほとんどを「具象画」に費やしてきた。モチーフを見たまま、具体的に描く手法だ。画家が目の前の世界をどのように捉えているのか、そしてどう平面に落とし込むのか。まさに具象画は「絵画の根源的な問い」といってもいい。

《2022年6月25日、(額に入った)花を見る》 2022年 フォト・ドローイング/5枚の紙、5枚のディボンドにマウント 299.7 x 518.2cm 作家蔵 © David Hockney

デイヴィッド・ホックニーの「見る力」

ホックニーは目に映る景色に対してひたすら向き合ってきた。そのなかで「線遠近法」への挑戦をしている。線遠近法とは、手前のものを大きく、遠くのものを小さく描き、モチーフは消失点に向かって縮小していくものの見方である。

《四季、ウォルドゲートの木々(春 2011年、夏 2010、秋2010年、冬 2010年)》2010-11年 作家蔵 © David Hockney

彼は伝統的な遠近法をそのまま踏襲するのではなく、「実際に見ている世界」と比較して再構築した。その結果、作品はただの写実画ではなく、どこか不思議さを感じる仕上がりとなっている。

2006年には著作『Secret Knowledge: Rediscovering the lost techniques of the Old Masters(※)』において「1400年代の絵画のなかに光学装置を用いて描かれたものを発見した」という論を展開した。

「見る力」をひたすらに突き詰め、学習し続けたホックニーの研究精神の旺盛さを感じる。感性だけでなく、作品の背景に「理論」があるのも、彼の魅力だ。
※日本語版は「秘密の知識 巨匠も用いた知られざる技術の解明(青幻舎)」

 

デイヴィッド・ホックニーとiPad

彼は2010年からiPadを用いた作品制作をおこなうようになる。当時62歳の彼は発売直後に、すぐ購入したそうだ。

まったく無名の画家であれば、デジタルアートに活路を見出すのはわかる。しかし彼は当時すでにキャリアを築いた画家だ。これまでの自分に固執せず、さらに進化を求める姿勢。まるで晩年に切り絵に移行したマティスのような探求心・好奇心の高さには脱帽してしまう。

《スタジオにて、2017年12月》 2017年 フォト・ドローイング/7枚の紙、7枚のディボンドにマウント 278.1 x 760.1 cm テート © David Hockney

彼はキャリアのすべてで具象画を突き詰めてきた。しかし描き方は油画、アクリル画、iPadでのデジタルアートと、変化し続けている。今回の「デイヴィッド・ホックニー展」では、その変遷を追うことができる。画家がどのように世界を捉え、表現していったのかを考えながら見ていくのも楽しいポイントだろう。

 

デイヴィッド・ホックニー展の見どころ

今回のデイヴィッド・ホックニー展は120点以上の作品で構成される。国内のホックニー展としては過去最大規模だ。150点のホックニー作品を所蔵している東京都現代美術館だからこそ実現できた企画である。

なかでも注目なのは近年の代表作『春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年』。幅10メートル、高さ3.5メートルの油彩画は、まずそのスケール感に圧倒される。また彼の遠近法についての考え方もうかがい知れる作品となっている。

《春の到来 イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》 2011年 油彩/カンヴァス(32枚組 各91.5 x 122 cm) 365.6 x 975.2 cm ポンピドゥー・センター © David Hockney

また『ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作』も巨大だ。複数のキャンバスを組み合わせた戸外制作の作品となっている。

《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》 2007年 油彩/カンヴァス(50枚組、各91.4 x 121.9 cm) 459.0 x 1225.0 cm テート © David Hockney

そのほか、2010年代以降のiPadを用いた作品も見どころの一つ。特に後半に登場する『ノルマンディーの12か月』は、なんと全長90mにもおよぶ超大作だ。彼はコロナ禍のなか、自然溢れる大地で絵日記のようにiPadで風景画を描き続けた。

デジタルならではのエフェクトを駆使して描かれた作品からは、東洋絵画の平面的な表現や、グラフィティアートのような雰囲気も感じる。

(上・下とも)《ノルマンディーの12か月》(部分) 2020-21年 複数のiPad絵画による構成 100 x 9000 cm 作家蔵 © David Hockney

 

「具象画を極めたキャリア」と「若年層への思い」

今個展は1~8章で構成されており、2章からは時系列で進んでいく。本展を企画した東京都現代美術館 学芸員の楠本愛さんは1章について、以下のように語る。

「第1章はラッパスイセンを描いた小さな2点の作品から始まります。エッチングとipadの作品です。このまったく違う時代に描かれた2作品は、この個展を象徴しています。

ホックニーはさまざまな画材技法を使いますが、根底にある考えは『ただ目の前にあるものを絵に置き換えること』。そうしたホックニーの制作を象徴する2点だったので、最初に展示しました。

また、iPadの作品はコロナ禍で描かれたもので、この作品がオンライン上で発表されたときの見出しは『春が来ることを忘れないで』でした。不安のなか、多くの方が作品の鮮やかな色彩に救われたことでしょう。今回の個展は、当初は2021年ごろの開催を予定していたもの。中止の可能性もあったなか、なんとか開催できた。まだまだ暗いニュースが多い日本に希望を届けたいという思いも込めて、最初に展示しました」

(左)《花瓶と花》1969年 東京都現代美術館 (右)《No.1182020316日 「春の到来 ノルマンディー 2020年」より》2020年 作家蔵 © David Hockney

また楠本さんは「27年ぶりの開催ということで、若年層の多くはホックニーの作品を実際に見たことがない。若い方にこそ、特におすすめしたい」と思いを語った。

デイヴィッド・ホックニー展は、7月15日(土)から11月5日(日)まで、東京都現代美術館にて開催中。彼の「見る力」と「バイタリティ」は、現場だからこそ伝わるはずだ。

※掲載している画像は転載禁止です

 


デイヴィッド・ホックニー展
会 期:2023年7月15日(土)〜11月5日(日)
休館日:月曜日(7/17、9/18、10/9は開館)、7/18、9/19、10/10
開館時間:10:00〜18:00(展示室入場は閉館の 30 分前まで)7/21288/4111825の金曜日は21:00まで開館
会場:東京都現代美術館 企画展示室1 F/ 3 F
住所:〒135-0022 東京都江東区三好4丁目1−1
観覧料:一般 2,300 円/大学生・ 65 歳以上 1,600 円/中高生 1,000 円/小学生以下無料
展覧会公式サイトはこちら
展覧会公式ツイッターはこちら

  • ライター : ジュウ・ショ

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